悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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第十九話

 公安に所属していた者達が眠りに就く共同墓地。

悪魔に殺され、魔人に殺され、無念の死を迎えた人達が眠っている。見渡す限り、数え切れないほどの墓標が立てられていた。

 その場所にレックスは立っている。

足元には赤い血溜まりが広がり、地面を赤く染め上げていく。彼の手に持つナイフからは赤い血が滴り落ちていた。

 

「お願いされたので引き受けましたが……」

 

「で、デンジ君、パワーちゃんも……」

 

 彼の足元に倒れて血を流しているのはデンジとパワーだった。

頭部と頸動脈を切り裂かれ、今なお血を流し続けて致命傷と言うのは一目でわかる状態。その前で引き起こされた惨状に姫野は口に手を当てて慄いている。

 

「ご、ゴースト、血を飲ませて」

 

 姫野は幽霊の悪魔に輸血パックを運ばせ、デンジとパワーの口へと血を流し込む。

たとえ致命傷であったとしても不死身のデンジと半不死身のパワーは血を飲ませれば、傷が治って復活するので容赦する必要はなかった。

 

「っ容赦ねぇな兄ちゃん」

 

「あのくそジジィと言い、ふざけおって!」

 

 復活したデンジとパワーは口々に言葉を紡ぐ。

そもそも、なぜ二人とレックスがこのような状態になっているというとデンジがレックスを見つけ、あるお願いをしたことから始まったのだ。

 刀の悪魔との戦いに敗れたデンジはチェンソーの心臓が狙われていることが判明したため、マキマによってパワーと共に一課の岸辺に鍛錬を行われることになった。

何日も鍛錬を繰り返した結果、一定の実力が備わったと判断され、実戦訓練へと移行したのだ。

 

岸辺との鍛錬だけでは経験値が足らないと判断したデンジがレックスを見つけてお願いした。

 

 

"俺とパワーに実戦訓練を行ってほしい"と。

 

 それを開口一番に言われたレックスはしばらく沈黙していた。

しかし、デンジが真剣にそう言っているのがわかったため、そのお願いを引き受けたのだ。岸辺からの伝言も伝えられており、殺す気でやってくれと。

 

「確かに以前、見た時よりは戦えるようになっていると思いますよ」

 

「お世辞は要らねえぜ、兄ちゃん」

 

「はぁ、でははっきりと言います。変身前では対人経験者には勝てないと思います」

 

「なんじゃと!? 嘘じゃ、ワシは最強なんじゃ!」

 

「ではもう一度、戦いましょうか」

 

 嘘偽りない意見を言うレックスに対してパワーは嘘を言うなと騒いでいる。

圧倒的に経験が足らないという見立てで対人戦闘は様々な経験を積まないと現状では勝つのは厳しいと。わからないならもう一度戦うとレックスは構えをとる。

 それを見てデンジとパワーも各々の武器を手に距離をとった。

デンジは血で作られたハンマー、パワーは血で作られた短剣を両手に持っている。姫野はゴクリと唾を飲み込んでその光景を見守っていた。

 

「行くぞ! デンジ!」

 

「おぉ!」

 

 二対一という構図を活かしてデンジとパワーが左右に分かれて同時に仕掛ける。

数の有利を活かして戦う方法は戦法として間違っていない。同時に仕掛ければ、片方を防がれたとしてももう一人が有効打を与えれば意味のある攻撃となるからだ。

 レックスが視線を一瞬だけ左右へと向けると標的を定める。

攻撃のモーションが同じだとしても武器の差によって攻撃スピードは異なっている。攻撃に集中して守りを疎かにするのは悪手、それを証明するように動き始めた。

 

 標的となったのはデンジだった。

振り下ろされるハンマーは腕を掌で真上に弾かれる事で無防備な胴体が露わになる。しかし、自身の攻撃が防がれると察知していたデンジはそのまま身体を突っ込ませレックスの身体へと抱き着いた。

 その際に短剣による刺突を三回もらってしまうが血を吐きながら拘束することに成功する。

真後ろへと回り込んでいるパワーがもらったと言わんばかりに短剣をクロスさせてレックスを切り裂こうと踏み込んで加速する。

 

「っ」

 

「……」

 

「何で攻撃をやめんだ!?」

 

 デンジが拘束している事でレックスの身動きは出来ないはずだ。

殺すつもりで短剣を振り抜こうとした瞬間、レックスとパワーの視線が合わさった。このチャンスを逃せば、次に有効打を与える機会を得られるかわからないのだ。

 時間にすれば一瞬にも満たない時間だった。

それでも全身が悪寒に襲われ、パワーは自分の首を何度も確かめるように触っている。

 

「で、デンジ。ワシの首はついておるか?」

 

「はぁ? 付いてるに決まってんだろ」

 

「無駄口を叩かない。戦っている相手は悠長に待ってくれない」

 

「あ……」

 

 一瞬、デンジの力が緩んだ瞬間にレックスが彼の脳天へとナイフを突き刺した。

目から光が消えたデンジが地面へと横たわり、流れ出す血が地面を赤く染め上げていく。パワーへと向き直ったレックスが口を開いた。

 

「何が見えたのかな?」

 

「も、もしワシがあのまま短剣を振り下ろしていたら首が斬り飛ばされておった。じ、じゃからワシは攻撃を中断したんじゃ!」

 

「正解。あのまま攻撃していたら僕は身体を回転させてデンジ君の拘束を緩めて君の首を斬るつもりだった。だから判断は正しいけど、すぐに次の攻撃に切り替えるべきだった。戦いで思考を止めたら負けだよ」

 

「は?……っがぁ」

 

 パワーの判断は正しいとレックスは告げた。

本能的な危険を感じとって攻撃をやめたところまでは正解だと。だが、そこで思考を中断して次の攻撃を考えなかったことは不正解だと言う。

 一瞬だけ抜かれた刀によってパワーは首を切り裂かれた。

見えない一撃に反応できず、出血したことで斬られた事実に気付いたのだ。首からの血を抑えるために両手で圧迫するが頸動脈を切られているため血が止まらない。

 

そのまま地面へと膝をついて動きを止めた。

 

「それじゃ駄目だよ。どうしてすぐに自分の能力を使って止血しない? 噴き出した血を使った攻撃を行わない? 地面を染める血溜まりを活かした攻撃をしない? 思考の停止は死を招く。常に考えを巡らせなければならない」

 

 常に考えを巡らせろ、思考を止めるなという言葉は岸辺がデンジとパワーに言ったものと同じだった。

戦いにおいて思考停止は死を招くと言うのは決して間違いではない。現に目の前では思考を止めてしまった二人はレックスによって完全な無力化をされてしまっている。

 

「デンジ君は不死身、パワーは半不死身。その特性を活かした方法もありますが、それを好んで行うと常に攻撃を受ける前提で戦略を立てなければならない。一撃を受けたら終わりの相手との戦いがあるかもしれませんし、攻撃を当てることで発動させられる能力があるかもしれない。……だからそんな考え方では駄目です」

 

「ぁが……」

 

「っ……」

 

「ゆっくりと説明を聞いていられる状態ではないか」

 

 レックスは血液の補給係として待機している姫野に視線を向けると彼女はすぐにゴーストを使って二人に血液を摂取させた。

 しばらくすると復活するデンジとパワーだが、すぐにレックスは反省点を述べさせた。

それは客観的に見たものと主観的に見たものの判断の違いと認識を教えるためのものだ。常に思考を巡らせる上で判断力を鍛えるのは有効的な手段でもあった。

復活したら反省としばらくしたら戦闘の繰り返しで、確実に二人に経験値を積ませていく。特にパワーに関しては能力の応用が効くため、悪魔の時よりも能力が劣るとはいえできないことはないと言っているため入念に。

 

「時間は有限。既に先払いで報酬をもらった以上、戦闘がどういうものかを叩き込んであげる」

 

「ひぃぃ!!」

 

「望むところだぜ!」

 

 悲鳴を上げるパワーとは別にデンジは気合が乗った声で返事を返した。

スパルタと言えば、それまでだがレックスのそれは戦いに必要な基礎。今後も対人などの戦闘が行われる場合は必ず必要になって来る技術や判断の取捨。

死なないからと遠慮することなく直接身体へと教え込んでいくのだった。

 

 

 私の仕事の復帰にはまだ時間が掛かる。

対魔特異課が襲撃を受けた際に心臓付近を銃で撃ち抜かれたけど、パワーちゃんとレックス君が迅速に対応して治療してくれたおかげで一命を取りとめていた。

 アキ君に声が掛けられたことで系列の病院へとパワーちゃんとレゼって女の子に運ばれて病院で治療を受けた。

本当に後少しでも治療が遅れていたら死んでいたと言われた時は助かった事実に自然と涙が出てしまった。

 

まだ戦えないけど、出来ることをしたい。

そう言ったら師匠からデンジ君達の特訓に付き添ってやれと言われたんだ。

 

 不死身のデンジ君と半不死身のパワーちゃんに対して行われた師匠の特訓は獲物と狩人という言葉がピッタリだと思った。

死んだり致命傷を負っても血を飲ませたら回復する。それは悪魔が回復する手段と同じ、本当に私達とは違う存在なんだと思っちゃった。

 

 

 師匠も本当に容赦がない、それはデンジ君達を強くするという意味もある。いったい何回デンジ君達が死んだのか数え切れない。本来ならこれくらい死を経験すると精神が壊れて戦えなくなると思うけど、イカれたデビルハンターというのは頭のねじが何本も抜けてる。

そういった意味ではデンジ君は最高にイカれていると思う。

 

「いいだろう、俺からは合格点をやる。次は実戦経験が必要だ」

 

「実戦だ? 今戦ってるのがそうじゃねえのかよ」

 

「そうじゃ! 戦っておるではないか!」

 

「俺だけだと戦い方を変えたところで身体に染み付いたパターンが出て来る。だから別の人間の協力が必要だ」

 

 師匠は別の人間の協力が必要だって言うけど、日本でデビルハンター最強だって言われてる師匠以上に戦闘経験が豊富な人っているの?

純粋な疑問が生まれて首を傾げていると師匠が続きを言っていた。

 

「デンジ、お前は氷の悪魔が行動を共にしている男と面識があるんだろう?」

 

「んあ、兄ちゃんのことか? あるぜ! 久しぶりに会えて嬉しかった。こんな身体に成っちまっても前と一緒の対応してくれて嬉しかったけどな」

 

「可能ならあいつに頼み込んでみるといい。面識があるなら無碍にされることはないだろう。報酬の方は俺が用意しておいてやる」

 

「ほんとか! わかった、今度会った時に頼んでみるぜ!」

 

 パワーちゃんは不満そうな顔をしていたけど、デンジ君は嬉しそうだったのを覚えてる。

それから数日してデンジ君は件の男性であるレックス君と一緒に姿を現した。彼の姿を見たのはまだ数回しかないけど、纏ってる雰囲気が独特なんだよね。

なんて言うんだろう、言葉に出来ないけど不思議な空気感がある。

 

一緒に氷の悪魔が来るんじゃないかってひやひやしたけど、姿が無くてホッとする私が居た。

たぶん、アキ君が目の前で殺されかけたことがトラウマになっているんだと思う。あの時の彼女の眼はまるでその辺りに転がっている石ころを見るような目で感情が宿ってなかった。

ゴーストから聞けば、聞くほど恐怖心が駆り立てられる存在。彼女と戦う事はきっと私はもう出来なくなってしまっているから。

 

「……ってことなんだけど、兄ちゃん。お願いできねえかな?」

 

「……構いませんよ。デンジ君とパワーの二人の対人戦闘について教えれば、良いんですね」

 

「おう!」

 

「なんじゃ! またワシと殺るつもりか!?」

 

 デンジ君からの説明と師匠から渡された手紙を読んでレックス君は了承してくれた。

パワーちゃんがこう言ってるけど、虚言癖があるから本当の事なのか、たまに判断がつかない時がある。実際にほんとかもしれないけど、嘘なのかもしれない。

 殺す気でやらせろと言われていたから互いに持つ武器は本物。

デンジ君&パワーちゃんVSレックス君という二対一の構図が出来上がった。もちろん、彼からも師匠と同じで殺す気でやってもらって構わないと許可を得ていたんだ。

 

私の役目は回復要因ということで大量の輸血パックを持たされている。

見るだけでも勉強にはなると言われたけど、本当にそうなのかな? 戦いの方のスタイルも全然違うと思うんだけど……。

 

「え?」

 

 戦いが始まった瞬間、私は目にゴミが入って何度も瞬きをしていた。

時間にしたら十秒も経っていないはずだけど、目の前の光景に思わず声が出ちゃった。デンジ君とパワーちゃんが血の海に沈んでいる。

急所のある場所に一発ずつ、服の上からでもわかるくらいはっきりと赤い染みが出来上がって二人は地面へと倒れて動かなくなっていた。

 

今の一瞬に何があったの?

というかいつの間に刀を抜いていた? 刀から滴る血が二人への攻撃が終わったことを示している事実。

 

「姫野さん」

 

「は、はい!」

 

「二人に血を飲ませてください」

 

「わ、わかった」

 

 ゴーストの右手を使って輸血パックを運び、二人の口へと血を飲ませる。

しばらくすると復活するけど、先ほどの戦いに関しての意見を述べるとすぐに次の戦いの準備だと休ませる暇を与えず、戦いを繰り返していく。

 刀や短剣、武器なしと様々な手段で戦闘を繰り返しているレックス君。

武器を使わない素手での格闘術は私でも取り入れられる技術も使われていたから勉強になった。ただ複合型の近接格闘術だったと思う。

私の知らない動きとかも使われていたし、様々な国の格闘技術が盛り込まれていると予測した。

 

全ての動きが人の急所を把握した動きだった。たぶん、人体の構造を把握しているんだと思う。不自然に身体を反らせるときもあったし、そうした瞬間にはそこへと二人の攻撃が通過していたからだ。

 

「本当に彼は何者なんだろう?」

 

『余計な詮索はしない方がいい』

 

「ゴースト?」

 

『次はないとあの方から言われたのを忘れるな』

 

「……」

 

『恐ろしい。あの人間は……っ』

 

「ゴースト?」

 

 余計な詮索はするなと告げたゴーストは不意に言葉を止める。

手しか見えていないが息を呑んでいるというのは伝わってきた。二人と戦っているはずの彼がこちらをジッと見つめていたんだ。

その刹那、風が吹いたと思えば私の首が宙を舞って……!?

 

「っ……はぁ……はぁ……」

 

 急激な心拍数の上昇と一緒に私はその場で膝をついて心臓をギュッと抑える。

首に手をやると何もなっていない。今のはいったいなんなの? 確かに今、私の首は宙を舞って斬り飛ばされていた。

まさか幻覚? でもそんな生易しいものじゃなかった。

 

もう一度、彼の方を見るとシーっと指を口元に当てて静かにするようなジェスチャーをしていた。余計な詮索は死を招くということをわからさせられた気分。

 

 

ゴーストの言っていることはきっと間違いじゃない。

彼は普通じゃないんだ。私と同じ物差しで測ること自体が間違いだったんだ。もう私は余計な詮索はやめる、ううん、きっと彼に対してそんなことはできないと思う。

その間にもデンジ君とパワーちゃんは死と復活を繰り返し、身体に直接戦いのノウハウというものを師匠とは違うレックス君にも叩き込まれていく。

 

 

 

 

私は自分の役目に徹するしかできないんだから。

 

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