悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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第二十話

 デンジ君とパワーはこれで最低限の動きは出来るようになったんじゃないかな。

岸辺さんが叩き込んだ基礎と合わせれば、最低限の合格ラインには持って行けたと思う。死なないと言っても何度も頭を貫いたり、心臓を貫いたりと心が痛むような気がする。

 本当ならチェンソーの悪魔になった状態での戦闘も教えてあげたいけど、それは言われてないからな。

ベースとなる通常の状態での戦闘とのことだったから今回はこれで終わり。パワーの方も能力の応用さえできれば、十分に活躍できると思う。

 

「デンジ君、頑張ってね」

 

「おう!」

 

「パワー、君は大丈夫だよね?」

 

「も、も、もちろんじゃ! ウヌを失望させぬ、だからその目はやめっ……」

 

「姫野さんも早く回復することを願っています」

 

「あはは、ありがとね」

 

 きっとこれからデンジ君達は対魔特異課を襲撃した刀の武器人間の人達と戦う事になる。

対人に特化した人達がいない限り大丈夫だと思うけど、問題となるのは最大の戦力と予想される武器人間とリーダーである女性。

 新たな戦力が増員されない限り、デンジ君達が勝てると踏んでいる。

でも、物事に絶対はないし、新たな悪魔と契約して戦力を増やさないとは限らない。彼らが本気で公安という組織を潰そうとしているならだけど……。

 

「では健闘を祈ります」

 

 僕はそう言ってこの場を後にした。

デンジ君は僕が見えなくなるまで手を振っていたから僕も軽く振り返しておく。徒歩で帰っていると急に人の気配がなくなる場所があった。

 まるで人が無意識にその場所を避けているみたいに。

いや、若い女の人だけがその場所へと歩みを進めているようだった。でも、すぐにそこから出てきて何事もなかったみたいに歩いて行く。

 

「?」

 

 特に変わった様子も見られないし、気にする必要もないのかな。

悪魔の気配っぽいものは感じるけど、強いかと言われたらそうではない。無害な感じがするから気にしないことにするのが正解か。

本当に出て来る女の人達から何も嫌な気配も感じないから無害なんだと思うんだ。人に悪影響を与えない悪魔も少なからずいるんだと再認識した。

 

 

 お兄さんの自宅って不思議。

なんていうのかな、外から見た大きさと内側の広さが一致していないような気がする。空間が拡張されているみたいな……?

 地下、一階、二階の建物の構造。

一階と二階はバイトが終わってからすべての扉を開けて部屋の中を確認したことがある。幾つか空き部屋もあったけど、だいたいが書斎とか談話室、資料室みたいに表札があって区分けがされてた。

 

まだ地下だけは行ったことがない。

 

「これが地下の階へと続く階段」

 

 先が見えない暗闇で左右に配置された電灯が唯一の光源。

私はゆっくりと手摺を掴んで階段を下りていくとひんやりとした空気が吹いていた。肌寒く感じるくらいの温度で地下だからだと自分を納得させる。

 一定間隔で黒い全身鎧の騎士が配置されて今にも動きそうに感じた。

扉の一つから目に見える冷気が漏れ、それがこの寒さの原因なのかな? でも、あそこの部屋には入っちゃいけない気がする。

 

「武器……」

 

 私は一番奥にある扉の前に立ち止まり、扉の前に書かれている文字を読んだ。

ここは武器が収められている部屋ってこと? お兄さんの使っている武器が他にもあるのかもしれないと私はドアノブに手をかけた。

 

その時、金属が擦れあうような音が耳に入った。

 

「?」

 

 辺りを見渡しても何も変化がなかった。

何かに当たったのかな? 私は気のせいだと思い、扉を開けて部屋の中へと入っていった。部屋の中にはガラスケースに収められている多種多様な武器が鎮座していた。

 

「日本刀、長剣、双剣、大剣、ショーテル、フランベルジェ、槍、戦鎌……これ全部そうなの?」

 

 これって全部お兄さんが扱える武器? それともただのコレクション?

ガラスケースは取っ手の部分を引けば開く仕組みになってるみたい。そもそもどうして地下にこんな空間があるんだろう?

 ソ連から渡された資料にもレックスという名前以外はすべてが正確な情報じゃなくて不明とされていた。

情報が錯綜していて正確な情報へと辿り着けないと当時の上官入っていたのは覚えてる。その秘密がここにあるとしたら……?

 

「わかったとしても私はお兄さんの情報を誰にも話さない。恩人を売るような真似はしたくないから」

 

 もう一度、部屋を見渡すと一際目を引く武器がガラスケースへと納められていた。

私は引き寄せられるようにその武器の収められている場所へと歩みを進める。刀身が真っ赤に染まっている日本刀、ずっと見ていたら駄目な気がする。

頭に靄が掛かったみたいでまるで魅入られたようにその刀から目を離すことが出来ず、私の手はケースの取っ手へと伸びていく。

 

"私を手に取れ"

 

ケースを開けるとそんな声が聞こえた気がした。

 

 

そして私が刀を手に取ろうとした瞬間。

 

「やめた方が良い」

 

「っ!」

 

 後ろから聞こえた声に私は手を引っ込めて飛び退いた。

そこには本を片手に持ち、私を見つめる氷の悪魔が居たんだ。声を掛けられた事で頭に靄が掛かっていたような感覚がなくなった。

 

「大抵のものは防げるはず。でも……」

 

 彼女は私の首元から掛けられている氷のブローチを手に取って不思議そうに見つめていた。

それは氷の悪魔が私に与えた溶けない氷で出来た造形、さっきの言い方はどういう意味があるのかな。その時、彼女が口を開いた。

 

「その日本刀は強力な呪いを感じる。並大抵の悪魔でも逆に取り込まれるほどの力を感じた」

 

「それってどういう意味なの?」

 

「万物には意志が宿る。一番強いものが触ろうとしていたその刀。あなたが魅入られて手に取ろうとしていたもの」

 

「魅入られていたんだ、私」

 

 魅入られるってああいうことなんだ。

まるで操られたように無意識に身体が動いてしまう。実際に体験すると言葉に出来ない恐怖を少なからず覚える。

本当にレックス君って何者?

 

「その刀は多くの血を吸っている。人、人ならざる者を数え切れないほど」

 

「待ってよ、それじゃあ……お兄さんって」

 

「彼の手は血に染まっている」

 

「知ってたの?」

 

「すべては知らない。私が視たのは断片だけ」

 

 あんな優しそうな笑みを浮かべる温かいお兄さんが?

でも、氷の悪魔の言い回しがおかしい。どうして悪魔じゃなくて人ならざる者と表現したの?

 

「それ以上、踏み込めば戻れなくなる」

 

「戻れなくなる? 私はお兄さんに救われたの、この命だって彼のためなら惜しくないよ」

 

「そう。少しだけ視たらいい」

 

 これ以上、踏み込むなという警告をされるけど私の意思は変わらない。

元よりお兄さんとの出会いが無ければ、今の私はなかったんだ。それに彼のことをもっと知ることが出来るなら本望だよ。

触るなと言っていた赤い刀身の日本刀に触れた彼女は一瞬だけ表情を歪ませていた。

 

「万物には蓄積された記憶が残っている。強い意志が宿るという事はそれだけ鮮明に記憶が残っているもの」

 

「っ……」

 

 その言葉を聞いた直後、私は意識が朦朧とし始めた。

ゆっくりと瞼が閉じられて、徐々に視界が暗くなって意識を失ってしまった。

 

――――

 

 怒号が聞こえる。

あまりにも大きな声に私の意識は覚醒した。目を開くとそこは何処かの砦みたいな場所だった。黒い甲冑の鎧を身に付けた人達が動いている。

 

「……様、敵は自滅覚悟で特攻してきております!」

 

 指示を仰ぐように一人の騎士が頭を垂れていた。

その騎士の視線の向こうには黒い軍服を纏った一人の青年の姿があった。玉座に足を組んで座っているのは……レックス君だった。

 

「嘘……」

 

 氷の悪魔が言っていたのは万物の蓄積された記憶ってこういうことだったの?

お兄さんの腰には鞘に収まった刀が二本ある。その内の一本からあの赤い刀身の刀の強烈な気配を感じていた。これはあの刀に宿っている記憶なんだ。

 

「敵対者は殲滅する。それが祖国からの命令、一方的に破棄された同盟国への配慮は必要ない」

 

「はっ! 殲滅だ! 敵対者は容赦なく殺せ!」

 

"はっ!!"

 

 お兄さんは多くの人達を纏める立場にあった人?

しかも軍属の指揮官で国のために戦う者達。祖国のために敵を殲滅するのはいつでも変わらない文化なんだね。でも、これはいったいどこの国なの?

 

玉座の後ろに掲げられている旗はたぶん、どこかの国の国旗なんだろうけど見たことがない。

 

 

また場面が変わって、今度は戦場のど真ん中に切り替わった。

多くの物言わぬ亡骸が倒れ、地面は血で真っ赤に染まっている。その中央には赤い刀身の刀を持つ無傷のお兄さんと身体が十文字に切り裂かれて口から血を流している綺麗な女性の人がいた。

 

「ば、化け物め……!」

 

「国のために職務を全うしただけ。戦争をしている相手に情けを掛ける必要? それも同盟を一方的に破棄した相手にです」

 

「……」

 

 いつものお兄さんの声じゃない。

感情豊かな温かい感じな声じゃなくて、抑揚がない冷たい印象を受けた。あの女の人の傷口から何かが身体を蝕んでる。

……黒い紋様?

 

「我が国の戦士がどれほど居たと思っている!」

 

「知らない。僕達に必要なのは敵対したという事実だけ。見敵必殺、敵を見つけ次第殺せという指示を与えた」

 

「ふざけ……るな! 貴様らの軍が1万に対して我らは10万、10倍の戦力差があったんだぞ!!」

 

「戦場では弱者は生き残れない。弱肉強食が世の理、弱者は強者の糧になるしかないんですよ」

 

 戦力差が十倍もあった戦争……。

それに倒れてる人には異形の人達もいた。これが氷の悪魔が言っていた人ならざる者ってことなんだ。違う、これは私の知る世界の話じゃない!

 

きっとお兄さんは……。

 

「小娘、我に刻まれた記憶を見るとは」

 

「え……?」

 

 声が聞こえた瞬間、映し出されていた光景が消えて辺りが真っ暗になった。

声の方向を振り返るとそこには赤い刀を持ち、ドレスコートを纏った貴婦人がいた。我に刻まれた記憶っていったよね、今。

 すごく綺麗な人、でも何処か幻想的にも感じた。

ハッとした私は意識をしっかり持って声をかける。

 

「あなたは誰なの?」

 

「おかしなことを言うな? 小娘、人外の力を借りて我が記憶を見たのだろう?」

 

「! まさかあの赤い刀身の刀!?」

 

「然り。この姿は仮初の姿に過ぎぬ、あくまで姿を借りているだけだ」

 

「教えてよ、レックス君はいったい何者なの?」

 

「その身に宿る心臓から人ならざる力を感じるな。難儀なものだ、貴様もまたそういう星の下に生まれたという事か。まぁいい、奴は……だ」

 

「え? 今、なんて……」

 

 人の姿を借りているだけに過ぎないって。

記憶の中だから出来ることで、現実だとただの刀に過ぎないんだ。私が爆弾の悪魔と契約していることも見抜かれてるし、本当にどうなってるの。

 

「む? 聞き取れなかったか、それとも聞くことのできない言語か。否、そんなはずは……」

 

「うっ、頭が痛い」

 

「時間切れか。そちらへと現れたのは奴が望んでいた訳ではない。命を代償にした敵の最後の願いによって引き起こされたこと。奴の正体は小娘の世界で簡単に言うならば……」

 

 頭痛が酷くなって意識が朦朧とし始めた。

時間切れという言葉から推測して、きっとここから私は弾き飛ばされようとしているんだと理解した。最後に彼女がレックス君の正体を口にしようとしている。

 

「「転移者」」

 

 それは氷の悪魔と目の前の女性の言葉が合わさって聞こえた。

どれだけ調べても名前以外がわかるはずないよ、私達とは別の世界からやってきた人間だっていうなら……。

 

 




少しだけレックスの正体が判明しました。
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