悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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第二十一話

 少し前に何か僕の事が知られた気がしたんだ。

いずれは勘づかれると思っていたから別に隠す必要もなかったけど、こんな話をして誰が信じてくれるんだって思ったから黙っていただけ。

 悪魔の居る世界ならおかしなことではないと思うけどさ。

さてデンジ君達と公安襲撃犯達との戦いの火蓋が切って落とされたみたいだ。建物一つに閉じ込めて外に逃がさないようにする作戦か。

 

理に適ってるね、誰が作戦を立てたんだろう?

 

「デンジ君達が無事ならいいけど」

 

 作戦が行われている対面のビルの屋上の椅子から見下ろすように観察している途中だ。

こっちが入手した情報ではゾンビの悪魔、蛇の悪魔が契約されて刀の武器人間が最大戦力とされる相手側。純粋に考えるだけなら特異課の方が有利か。

 

「どう思うフロスト?」

 

「知らない。どちらが勝っても興味ない」

 

「そうですか。僕としてはデンジ君達が無事に作戦を遂行することを祈っていますよ」

 

 相変わらず興味なしか。

まぁ、彼女からすれば今のチェンソーの悪魔は相手するに値しないと前に言い切っていたし、興味が持てないのも当然か。

 それとフロストの右手、そこから身に覚えのある反応がある。

僅かに見える黒い紋様、それが彼女の肌から見えている。う~ん、これは地下にある僕の刀を触ったな。

 

「その右手、僕の持つ赤い刀を触ったんだね、フロスト?」

 

「……触った。極めて強力な呪いが掛かっているのがわかった。爆弾が触ろうとしたから止めた」

 

「あれは僕以外が触れると死に至るレベルのものなんだけどな」

 

「抑え込んでいる。でも、右手の自由が効きにくくなっている」

 

「そうだろうね」

 

 やっぱり、フロストは刀に触れたんだ。

でも、まさかレゼが触ろうとしていたのは意外だったな。もしかすると魅入られて持たされそうになったのかもね。

 右手が動かしにくくなるだけで無事なのはフロストだからだろう。

本来なら僕以外が触るだけでも死を引き寄せるくらいにヤバい呪いが付与されてるから。でもレゼを守ったみたいだし、珍しいこともある。

 

「右手を出して」

 

「ん……」

 

 彼女の手に触れるとひんやりと冷たかった。

氷の悪魔だから人よりも体温が低いから冷たい。黒い紋様の部分を僕が手で軽く撫でると初めからなかったように消える。

 フロストは右手を軽く握ったり、開いたりして自由に動かせるかを確かめている。

何度か同じ動作を繰り返すと問題ないと判断したのか、いつも通りの表情に戻った。

 

「ありがとう。欠損させて回復させても消えなかった」

 

「そういう呪いだからね。外じゃなくて内を呪うものだから本当の意味で死を迎えるまで消えないよ」

 

「わかった。気を付ける。でも、あなたのことがまた一つ理解した」

 

「そうですか」

 

 身体を破壊して回復させても呪いは残る。

外じゃなくて内、つまり魂に直接掛けられる呪いだと言われているもの。それ以上に認められた者が以外が触れても同じ現象が発生する。

 だから僕以外が触れた時点でアウトなんだよ。

まぁ、不死身である武器人間が触れたらどうなってしまうのかは興味があるけど、僕の想定だと一生消えないだろうと思う。

 

「あ、戦況が動いたみたい」

 

 下を見ると戦況が動いたようで、ビルからデンジ君と刀の悪魔が飛び出してきた。

チェンソーと刀がぶつかり合って火花を散らして攻防が繰り広げられている。前見た時よりもどっちも動きがだいぶ良くなってる。

デンジ君は別としても相手の方も僕に斬られた時からだいぶ修練を積んだみたいだ。無駄な時間を過ごさずに有効的な使い方が出来たようだ。

 

「おらぁぁ!!」

 

「なめんなぁぁ!!」

 

 ビルからビルを渡って激しい戦いが繰り広げられている。

どちらも引かない一進一退の攻防だ。でも、少しだけ刀の悪魔の方が有利そうだ。僅かにだけど、デンジ君を押し始めている。

 あちらの方が身体も大きいから一撃一撃の威力はあちらが上だ。

それでも真正面から受けるんじゃなくて斬撃を受け流すように外へと流しているのは戦闘訓練で学んだことが活かされていた。

 

「やっぱり、あの状態での戦闘訓練も積まないと自分をもっと理解できないか」

 

「全然違う。本物はチェンソーがもっと多い」

 

「あの作って見せてくれた氷像が本来のチェンソーの悪魔だったんだよね」

 

「そう」

 

 もっとチェンソーの悪魔を理解しないと駄目だよ、デンジ君。

チェンソーをブンブンと振り回しているだけじゃ応用が出来てない。全盛期を知るフロストが全然違うという事はその力を全く引き出せていないんだろう。

 どうなるかはデンジ君次第なんだけど、僕が何かをしてあげられるわけじゃないし。

今はただ戦いの結末を見守ることしかできないな。ここで手を出して彼を助けるのは良くない気がするから。

 

あ、吹き飛ばされて電車の方へと落ちていった。

 

「僕らのことをジッと見てる天使が居る」

 

「天使の悪魔、かつてのチェンソーマンの眷属。何も覚えていなはず、ただ魂は私を覚えている」

 

「天使なのに悪魔って不思議。覚えてないってことは地獄で死んでこっちで転生したってこと?」

 

「そう。地獄で死んだ悪魔は現世で記憶を失って状態で復活する」

 

「フロストにも眷属っているの?」

 

「秘密」

 

 天使の悪魔が居るなら悪魔の悪魔とかいてもおかしくなさそうだけど、どうなんだろう。

チェンソーマンに眷属って居たんだ。地獄に居た時に何人か眷属が居たってことか、眷属の基準って何なんだろう。

 フロストは秘密というけど、眷属が居ても不思議ではない。

でも、彼女の眷属ってどういうものか想像がつかないのもまた事実。一匹狼のイメージがすごく強いから居ないのかもしれない。

 

秘密を持っているのは誰でも同じか。デンジ君の戦いを見守りながらふとあることを思い出した。

 

「フロストは最近、悪魔と逢っていた?」

 

「なぜ?」

 

「君に少し覚えのない気配が纏わりついていたから。かなり異質な気配だったから覚えてたんだけど……黒い蝶って僕の認識が間違ってなかったら黒死蝶でしょ」

 

「驚いた。私は確かにある悪魔と逢っていた」

 

 死が纏わりつくという言い回しが正しいか、わからないけど出掛けて帰って来た時に死が纏わりついていた。

死んだことがないというフロストにそんな状態になっても死は訪れていない。死が纏わりつくというのは死が迫っている時に使われる言い方。

 逆に言えば、死が纏わりついてもそれを弾ける強さがあれば、ただ纏わりついているだけに過ぎない。

フロストくらいになれば、死の気配を遠のけることも容易だろうね。僕の刀に触れて右手が少し不自由になるくらいで済んでいるんだから。

 

「死の悪魔」

 

「死の悪魔? それって相当強い悪魔じゃないの? 死って誰もが恐れる根源的な恐怖でしょ」

 

「そう。死は生物である限り避けられない運命、生物の最終到達点」

 

 またフロストもすごい悪魔と逢っていたんだね。

死の悪魔って絶対強力な悪魔じゃないか。悪魔は恐れられれば、それだけで強くなる。死なんて誰もが恐れてしまう概念。

 それだけでも強い存在だって言うのは聞いただけでわかる。

フロストの人脈にも驚くと同時にどういう繋がりがあったんだろうと考えてしまった。

 

「まさかとは思うけど、黙示録の四騎士に相当する悪魔が居る?」

 

「!鋭い」

 

「だってマキマさんが支配の悪魔と言っていた。そして今聞いた死の悪魔。この流れからすれば、第一、第二、第三、第四に当て嵌めることが出来る」

 

 黙示録の四騎士。

第一の騎士は"支配"を司る。

第二の騎士は"戦争"を司る。

第三の騎士は"飢餓"を司る。

第四の騎士は"死"を司る。

 

これが黙示録に示されている四騎士と呼ばれるものだ。

マキマさんが支配、そして死の悪魔の存在。ならば必然的に戦争と飢餓の悪魔も存在していなければおかしいということになって来るんだ。

 

「確かにその悪魔達は存在する」

 

「聞かなければよかったよ。なんかまた巻き込まれそうな気がしてきた」

 

「安心して」

 

「安心?」

 

「既に死の悪魔にも興味を持たれているはず」

 

「どこに安心できる要素があるんですか、もう」

 

 いつも思うけど、フロストの安心してという言葉ほど安心できない言葉はない。

死の悪魔に興味を持たれているって? まさか逢った時に僕の話をしたのか、それとも既に知っていたのか。どちらかは知らないけど、間違いなく頭の片隅には置かれたはずだ。

 

その刹那、下の方で大きな音が聞こえた。

ここから覗き込むと電車が脱線して、未だにデンジ君と刀の悪魔が戦っている。互いに無傷というわけじゃなくて両社とも片腕を切られている状態だ。

 

「いい加減にくたばれデンジぃぃ!!」

 

「あぁ! うっせえんだよぉ!! てめぇが死ね!」

 

 意外とすぐに決着がつくと思っていたけど、思った以上に長引いている。

さっき天使の悪魔のほうを見た時に赤い服の女性が捕まっていたからたぶん、残りはあの刀の悪魔の方だけだ。もしかしたらという可能性を考えていたけど、あの女性は準備できなかった。

 居合を受けて再び、両者の残った腕が吹き飛んでいる。

デンジ君は居合を受けると同時に相手の腕をカウンターで斬っているのか。それを無傷で対応するのは無理だから受けることで攻撃を入れる捨て身のカウンターだ。

 

「あ、そういう感じのことも出来るんだ」

 

 残るは互いの頭に残るチェンソーと刀だけだと思った。

けど最後の攻防を繰り広げられたとき、デンジ君は腕にチェンソーを生やした時と同様に足にも生やして刀の悪魔を真っ二つに切り裂いて決着した。

 

「おめでとう、デンジ君。また一つ強くなれたね」

 

「帰るの?」

 

「帰る」

 

「ここに居る意味が……?」

 

 ちょっと待って。今、声が一つ多くなかった?

この場に居るのは僕とフロストだけだ。それ以外には誰も居ないはず。後ろを振り返ると何処かの学校の制服を着ている少女が居た。

 フロストと同じ無表情で感情が欠落しているような印象を受ける少女。

その瞳は同心円状でマキマさんを彷彿とさせるものがある。フロストの方に目を向けるとほらねと言わんばかりの表情をしていた。

 

「誰?」

 

 いや、誰だと口に出してけど僕の中では既に答えは出ている。

この濃厚とも言える死の気配と彼女の周りを飛んでいる黒死蝶。そしてフロストの表情と組み合わせれば、導き出されるのは人しかない。

 

死の悪魔。

 

「私は死の悪魔。しーちゃんって呼んで」

 

 安心できる要素なんてどこにもないじゃないか。

言ったすぐ側からここに現れるなんて思わないよ、ほんとに。今日は厄日になりそうだ。

 

 

 

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