悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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第二十三話

 死の悪魔のしーちゃんは思ったよりも友好的だった。

名前からは非常に凶悪なイメージがあったけど、どちらかと言えば人類を滅ぼさないために能力の制御をしたいという願いは意外だった。

 逆に人類を滅ぼしたいと思っているのかと考えていた。

だって死の悪魔だから多くの死を望んでいると思うのが普通じゃないかな? 名前から想像したら自然とそうなってしまう。

 

「レゼ、いつまで隠れているんですか?」

 

「もう居ないよね?」

 

「帰りましたよ」

 

 扉から顔だけ出して死の悪魔は帰ったのかと尋ねて来たので帰ったと答える。

彼女とレゼがすれ違ってから反応がおかしかったのは記憶に新しい。少し涙目になって怯えている姿は意外でもあった。

安心したのか、奥から出てきてソファーに腰かけた。

 

「彼女ね、すれ違った時……心臓が締め付けられるみたいだった。たぶん、私じゃなくて爆弾の悪魔が覚えているんだと思う」

 

「根源的な恐怖の名を冠している存在ですし」

 

「おかしいよ。死の悪魔だってわかったら平常心を保てないと思う。特に悪魔からすれば、知らないはずがないと思うから」

 

「でも、随分と人類寄りの思考をしていましたよ」

 

「そこなんだよね。私もその存在は知らなかったし、たぶん知らない人の方が多いよ」

 

 まぁ、レゼの言う通りだと思う。

そもそも黙示録の四騎士という単語自体が普通に生きていれば、聞くことは無い言葉。ノストラダムスの大予言なんて一般人からしたら与太話を疑うレベルなんだから。

 国の上層部はそう思っていないだろうけど。

僕が会った感じでは比較的に友好な関係を結べる相手ではないかと思うな。能力の凶悪さを除けばだけどね……。

 

「それもそうですね。あと勝手に地下に入ったら駄目ですよ?」

 

「うぅ、それはごめんなさい」

 

「別に入るなとは言いませんけど、無事では済まされないこともあるので。特にこれとか……ね?」

 

 テーブルに刀を鞘から抜いた状態で置いた。

刀身が真っ赤に染まっている僕が持つ中でも極めて凶悪な能力が宿った刀。しーちゃんは死の悪魔というだけあって一発で力の正体を看破されたけど、初見殺しの呪いが宿る武器だ。

 真っ赤な刀身は見る者を魅了し、己を手に握らせようとする。

無意識に刀を掴ませようと思考を誘導しているという逸話も僕の耳には届いていた。相応しい所有者を探すために行われたものだと言われていたけど、別の理由もある。

 

それは死を求めている。

 

「触ったら駄目ですよ?」

 

「さ、触らないよ?! わ、私は酷い目に合いそうだったんだから」

 

「僕以外が触るのは危険ですから」

 

「あ、そうだ。チェンソーの悪魔の心臓、それを求めて一部の国が刺客を日本へと放ったみたい」

 

 そう言って僕はテーブルの上から刀を手に取って鞘へと納めた。

するとレゼが思い出したかのようにデンジ君を狙った刺客が日本へと来ると告げた。どこからか情報を掴んできたらしい。

 

「前々からソ連に居た時も噂自体があったんだ。本来なら私が担当するはずだったんだけど、お兄さんの存在があったから」

 

「刺客ね、それって僕も対象になってたりする?」

 

「どうだろうね。2チームに分かれて派遣されている可能性は高いと思うよ?」

 

 デンジ君を狙うチームと僕を狙うチームに分かれて放たれた刺客か。

僕に対しては殺さずという限定条件を付けるかもしれないけど、デンジ君に関しては心臓さえ奪えればいいから殺しても問題ないと言ったところかな。

 

「デンジ君の方は自分で頑張ってもらうとして。未だに僕も狙われているのは厄介だなぁ」

 

「それは仕方ないよ。色んな意味で人気者だからね、お兄さん」

 

「嬉しくないな」

 

「私は信じてるよ? 死の悪魔を前にして何も変わらない人が刺客に後れを取るなんて思わない」

 

 これからもっと忙しくなるのかな。

それとも別の方向からのアプローチを仕掛けられるのか、警戒しておいた方がいいかも。僕が知らないだけで色々な存在も居るわけだしね。

 

――――

 

 警戒しておいた方が良いと思った矢先にこれか。

別の敵意を向けられている訳でもないし、何をされている訳でもない。目の前に居るのはよく知るデンジ君なんだけど……。

 

「兄ちゃん、俺! 好きな人が出来たんだ」

 

「デンジ君?」

 

「マキマさんも好き、でも……七詩のことも好きになっちまった」

 

「こんにちは」

 

「こんにちは」

 

 知らない女の人が一緒に居るんだよなぁ。

しかも女の人の前で普通にマキマさんの名前も出してるし、好きなんだったらマナーがなってない。こういう場合は他の女性の名前は出さないものなんだけどね。

 しかし、日本人の女性だけど、なんというか不気味さを感じる。

所作とかを見る限り、どこかのお嬢様と言われても不思議じゃない。話を聞くとデンジ君と出会ったのは悪魔に襲われていたところを助けられて一目惚れしたかららしい。

 

デンジ君の野性的なところが好きになったんだとか……。

 

「両方とも好きでいいのかなぁ?」

 

「それは好きでいること自体は構わないんじゃないですか? 思っているだけなら」

 

「! 俺、頑張る!」

 

「そ、そうですか」

 

 何を頑張るのかは知らないけど、変な方向に進みそうで怖い。

そもそも今までデンジ君って女性の人と付き合ったことあるのかな? 今までの生活を思い起こすと無いと考えた方が妥当だよね。

 

「デンジさん、素敵です」

 

「そ、そうか? 俺って素敵なんだぜ、兄ちゃん!」

 

「まぁ、色々と頑張ってくださいね」

 

「おう! 行こうぜ七詩!」

 

「はい、デンジさん」

 

 女性に褒められてデンジ君はウキウキだ。

腕を絡まされて鼻の下を伸ばしてるし、悪い女の人に騙される典型なような気もする。少し前からチェンソーの心臓を狙って刺客が送り込まれてるって聞いたばかりだから急に好意を持った女性が現れるとそれを警戒してしまうよね。

 う~ん、足運びはやっぱり素人っぽくないなぁ。

なんというかデンジ君と足運びが時折"同じ"に見える。まぁ、僕がどうこうする前にマキマさんの方が先に動くんだろうか。

 

「にゃー」

 

「猫?」

 

 僕の足元で一匹の野良猫が鳴き声をあげた。

抱き上げてみると目が同心円状のものへと変化しているのが確認できる。マキマさんが動物を目として監視の目を光らせているようだ。

 ここ一帯は既に監視の目が張り巡らせている。

小動物を目として見ることが出来ると言うのは本当に便利だな。ということは確かデンジ君が一緒に住んでいるアキ君の家にも猫が一匹いたはず。

 

だからもしかすると常に彼女が監視をしているのかもね。

 

「今日は晴れだし、公園でゆっくりしようかな」

 

 猫を抱えたまま、近くの公園のベンチに腰掛けた。

温かい日差しを浴びて、ゆっくりと過ごせる時間は良い。ここ最近は色々とすることも多くて、ゆっくりすることは難しかったから。

 

「ねぇねぇ、少しいいかな?」

 

「僕に何か用ですか?」

 

 いつの間にか隣のベンチに腰かけている人物から声を掛けられる。

猫を撫でながら声をかけてきた人物の方へと目を向けた。そこに居たのは公安襲撃犯の主犯格である沢渡という女性が捕まえられた時、傍に居た天使の悪魔だ。

 

「君さ、あの悪魔と一緒に居る人間だよね? 僕達のこと、ビルの上から見てたでしょ」

 

「天使の悪魔ですか。仕事をサボるのは駄目だと思いますよ? 今はアキ君とバディを組んでるんでしょう?」

 

「そんなことまで知ってるんだ。マキマさんから言われてね、彼の本来のバディがまだ復帰できないから一時的に組んでほしいってさ」

 

 手に持ったアイスを食べながらダルそうに言葉を紡いでくる。

姫野さんが未だに現場復帰が出来ないため、臨時でバディとして組まされているという情報は既にこちらで掴んでいたので驚きはない。

 何よりもサボり癖が強い悪魔であるということも把握済みだ。

相性的にはアキ君と合わなさそうな感じだけど、実際のところはどうなんだろうね。

 

「それよりさ、上手にサボる方法知らない?」

 

「サボり?」

 

「そう。働くって疲れるんだ。こうやってアイスを食べるのにも体力を使うんだ」

 

「知りません。僕は公安でデビルハンターをやっている訳じゃないので、職場環境も違うから何とも」

 

 なんか生きることに疲れているような感じがする受け答えだ。

上手にサボる方法は僕よりも職場の不真面目な人達に聞いた方がいいと思うけどな。実際、デビルハンターの仕事は悪魔が出現しなければ、それほど激務ではないと聞いたけど違うのか。

それと僕が抱えている猫がジッと天使の悪魔を見つめているから既に彼女には目の前の光景がリアルタイムで伝わっているかもね。

 

「はぁ、死んで楽になりたいなぁ」

 

「また縁起でもないことを言うんですね」

 

「君にはわからないよ。生きるって大変なんだよ?」

 

「そうですか……」

 

 猫をベンチに置いて僕はゆっくりと立ち上がった。

天使の悪魔の前まで歩いていくと僕を不思議そうな顔で見上げている。鞘から刀を抜くことで赤い刀身が姿を現す。

 一瞬、天使の悪魔は目を見開いて驚く様子を見せている。

刀を天使の悪魔に突きつけた状態で僕は口を開いた。

 

「この刀に斬られたら死を迎えることが出来る。ただ楽に死ねるという結末とは正反対の結果が訪れることになるでしょう」

 

「……はは、とんでもない武器を持っているんだね」

 

「死を願うのは特殊な心掛けだと思います。本当に心苦しいですが、ここに死を求める刀と目の前に死を願う人物が居る。だったらすることは一つしかないと思いませんか?」

 

「えっ……ちょっとまっ!」

 

 そのまま刀を真下へと振り下ろした。

ベンチが真っ二つになるが天使の悪魔の姿がそこにはない。真横へと一瞬だけ翼を羽ばたかせて避けたのか、せっかく願いが叶う瞬間だったのに。

 真っ二つになったベンチが斬られた所から黒く染まって消滅する。

人には死を、物質にも死を与える。人を斬った場合と物を斬った場合では少し反応が違うんだよなぁ。物の場合は死というよりも消滅してるし。

 

「あれ? どうして避けたんですか。望みが叶うところだったのに」

 

「ちょっと待って! 死というより消滅してるじゃないか!?」

 

「誤差の範囲ですよ」

 

「確かに死にたいとは言ったよ? でも僕の思ってる死じゃないよ」

 

「そうですか。望まないことを口にしないでください」

 

「あの悪魔と一緒に居るだけあって君も色々とぶっ飛んでるね」

 

 刀を鞘に納めてやれやれっという仕草を見せた。

天使の悪魔の望みを叶えようとしたけど、解釈違いだと言われてしまった。過程が違うだけで辿り着く場所はおそらく同じはずなんだけどな。

苦しみは全く違ったものだけど……。

 

 

 今まで出会ったどの人間よりも危険だと頭の中で警報が鳴ってる。

確かに僕は死んで楽になりたいと言ったけど、いきなり殺そうとしてくるとは思わなかった。それも悪意じゃなくて善意で願いを叶えようとしているから質が悪い。

 マキマから臨時でバディを組んでほしいと言われた時はすごく面倒だと思った。

でも逆らうという気持ちは起こらなかったから言われるままに早川アキのバディとなって、彼のバディが回復するまでの辛抱だと我慢した。

 

悪魔の情報を彼が集めている間、僕はベンチに座ってアイスを食べながらサボっていた。

隣のベンチに座った人物を見た時、ふと言われていた事を思い出したんだ。一目見たらわかるから注意だけはしておくことってさ。

 

「あの武器……」

 

 真っ赤な刀身の刀。

あれは僕が奪った寿命で作る武器よりも遥かに危険度が高い刀だと言うのは一目見ただけでわかってしまった。武器から斬られたものの悍ましい声が聞こえてくるようだ。

 鞘から抜かれた瞬間、錯覚だろうけど空間が歪んだように見えた。

斬られたベンチは残骸になるんじゃなくて黒く浸食された後に"消滅"してた。少なくとも僕が知っている能力にはない力を宿してる。

 

それにあの言い方だ。

刀が死を求めているって、まるで刀に意志が宿っているみたいじゃないか。そんなオカルトみたいなことがあり得るのかな?

 

"死はすぐ傍にある"

 

「女の人の声だった」

 

 確かに僕の耳には聞こえた。

あの声の正体はいったいなんだろう。あの時、僕と彼の二人しか居なかったから周囲の人の声ってことはあり得ない。

 彼が契約している悪魔の声?

いや、もし契約を結んでいる悪魔が居るとしたら僅かに感じとれるくらいの感度は備わっている。でも、その感覚が無かったということは契約悪魔はいないはずだ。

 

 

まさか本当に刀に宿る意志だとでも……?

 

「まさかあり得ないよ」

 

「何があり得ないんだ? サボってないで早くいくぞ。銃の悪魔討伐遠征に参加するには実績が必要なんだ。時間は無駄にできない」

 

「はぁ、身勝手だなぁ」

 

 これじゃあ、ゆっくりとサボることもできないよ。

自分が望まないバディなんて組むもんじゃない。あーあ、早くバディが回復してくれないかなぁ。

 

 

 

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