悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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誤字脱字報告ありがとうございます。
いつも感謝しております!


評価0を頂いたので、作品自体を否定されたような気がしたので続きを書くのか、迷ってました。
それでも多くの方がお気に入り登録して頂いているのでマイペースで続きを書いていこうと思います。


第二十四話

 喫茶店で夕方までバイトをした私は真っすぐとお兄さんの家へと帰宅する。

夕食は当番制で私とお兄さんが交互に料理を作っている。同居人として氷の悪魔も居るけど、彼女は基本的に料理を作ることはしない。

 食べてくれるけど、私の料理を美味しいとは一度も言ってくれたことがない。

決してまずいというわけじゃないけど、お兄さんの料理がプロレベルであることが大きな原因の一つなんだ。和食も洋食も中華もどんな料理でも作ることが出来る人。

 

自信を無くしちゃうよ。

 

「でも、こういうのが私が望んだ普通の生活の一部なんだよね」

 

 きっとお兄さんと出会わなければ、偽りない気持ちでこの生活を送ることは出来なかったと思う。

偽りの仮面を捨てて年相応の素顔を出せるのは私が心の底で望んでいたことなんだ。だから私はレックス君の力になることが今の望み。

 

「……あれはデンジ君?」

 

 公園のベンチに座ってるのは各国が刺客を放って奪い取ろうとしてるチェンソーの悪魔の心臓を持つデンジ君。

その隣に座ってるのは綺麗な女の人だけど、一般人じゃないのは一目でわかった。だって私と同じ裏側の人の気配がしたから。

 腕を抱えられるように抱き着かれて鼻の下を伸ばしてた。

男の人って本当にああいうのが好きなのかな? デンジ君に関して言えば間違いなく女性とまともに話した経験が乏しそうだったから仕方ないかもしれない。

 

「デンジさんって強いですね?」

 

「自分じゃわかんねえよ、そんなこと」

 

「いいえ、デンジさんは強いです。私が悪魔に襲われていた時、迷わずに助けてくれたのはあなただけでした。そんなあなたが弱いはずがありません」

 

「そ、そうか? 俺って強いのか?」

 

「もちろんです。私にとっては誰よりも強い殿方はあなただけですもの」

 

 見てるだけなら普通の恋人同士だと言われたらそう見える。

顔に添えられる手もその仕草も頬が染まっているのもすべてが演技かな。デンジ君にとって心地よく聞こえる声のトーンで耳元で囁かれている。

 私も同じことは出来る。

それが相手を誘惑するうえでもっとも効率的で効果的な手段の一つだから。相手に自分に好意を持っていると思わせるため、こちらの思惑通りに動かすために。

 

まぁ、お兄さんには全て看破されていたんだけど……。

 

「問題なのはどこの国の工作員かってことかぁ」

 

 あの魔女がこの状況を把握していないはずがない。

わざと泳がせているか、それとも魔女の網を掻い潜っているかだけど、把握されている前提で警戒して動いているはずだと思う。

同じ工作員だった立場から言わせてもらうとね。

 

「んふふ」

 

「ふ~ん」

 

 私に気付いて挑発的に笑ってきた。

もしかしてデンジ君の交友関係も事前に調べて調査済みってこと? でも、私はデンジ君と特別仲がいい訳じゃなくて会ったら挨拶して少し話をするくらいの関係。

初めて会ったときの反応を見れば、私を意識していたことは気付いていた。同世代の友達として付き合うなら構わないけど、恋人関係となってくると難しいかも。

 でも、言い渡された任務がお兄さんの件ではなくデンジ君の心臓を奪ってこいって内容だったら私もきっと今の彼女と似たようなアプローチをするかもしれない。

 

挑発されてるみたいで面白くない。少しだけ挑発に乗ってあげる。

 

「デンジ君……?」

 

「え、れ、レゼ?!」

 

「彼女さんかな? とっても仲が良さそうだね」

 

「い、いや、彼女とかじゃなくて……」

 

「デンジさん? 私はお嫌いですか?」

 

「好きぃぃ!!」

 

 私が現れて女の人と一緒に居るところを見られて動揺した表情をしていた。

否定するが強く言わず、女の人に嫌いかと言われると即答で好きだと答えるデンジ君。これは純粋に騙されやすいタイプだとわかる。

 しかも腕から伝わっているであろう大きな胸の感触に意識が向かっているのか、チラチラと女性の胸元に視線が向けられている。

 

「そっか。わかった」

 

「わかった?」

 

「デンジ君、頑張ってね。お兄さんには私から言っておいてあげるから」

 

「兄ちゃんに? 前に相談に乗ってもらったぜ」

 

「それとは少し別件だよ。お仕事も頑張ってね、デンジ君?」

 

 私はデンジ君とその女性にそれだけ言うとその場を後にした。

女性から私に向けられたのは邪魔をするなという警告。時折、デンジ君と一緒の動きをすること以外は特におかしな感じはなかった。

 私の言った頑張っての言葉の意味を理解する頃にはきっとデンジ君は大変なことになっているかも。

私が言えたことじゃないけど、もっと近づいてくる女の人には気を付けた方がいいよ? 一目惚れだと言って近づいてくる人間はこのご時世だと警戒しないと駄目だから。

 

「標的の懐に入り込んで油断を誘うとは、さすがだな同志よ」

 

「!! あなたは!?」

 

 私の真後ろから発せられた声に瞬時に距離をとった。

すぐに振り返って、声の主を確認すると私は目を見開いてしまう。そこに居たのは私と同じ秘密の部屋出身者であり、一度も任務に失敗した事がないと言われている女性だった。

 

「何を逃げる必要があるのです?」

 

「イレーナ……!」

 

 またすぐ後ろから声が聞こえる。

かつての私も彼女から先輩として色々と教えを受けたことはある。任務を遂行するためだけに生まれて来たとまで言われていた存在。

 道具には感情は要らないという言葉を体現した女性なんだ。

上から言われた事をなんの感情も持たずに淡々とこなす姿は人ではなく機械のようだと例えられていた。表情一つ変えず、感情の揺らぎが全く感じられないと。

 

イレーナが派遣されているということはソ連は私の失敗と2ndプランを始動させたことを意味してる。

彼女に関しては契約悪魔すら秘匿されているから上の人間以外は把握すらできていな現状。今まで訓練でも一度も勝てたことがない人だ。

 

「同志、まさか祖国を裏切るつもりですか?」

 

「私は……もう戻れない」

 

「同志には期待していたのに残念です」

 

 問いかけに対して私の答えはyesだった。

既に私の心はソ連にはない。今更元の組織へと戻って今までと同じように無感情に任務を遂行できるとは思えなかった。

 それに戻るという選択をするということはお兄さんを祖国へと引き渡すことを意味してる。

手に入れた幸せを手放すという選択は出来そうにもないから。それに恩を仇で返すようなことはしたくないと心が訴えている。

 

イレーナは残念だと言っているが表情一つ変わらない。

本当に何かを考えているのか、わからなくてひたすら不気味に見えている。

 

「見逃してくれない?」

 

「同志、私がここに居る。それがすべての答えです」

 

「そうだよね」

 

 昔のよしみで見逃してくれないかと訴えても答えは変わらなかった。

わかってたよ、イレーナがここに現れた時点で言っても無駄だってこと。それでも、もしもの可能性に掛けてみたけど結果は見ての通りだった。

私は首元のピンへと指を掛ける。

 

「ぼんっ」

 

「……」

 

 ピンを引く抜くことで慣れた痛みと共に爆弾の悪魔へと姿を変える。

爆炎の中から見えるイレーナは表情一つ変えず、私を見続けていた。本当の意味で彼女と戦うのはこれが初めてだ。

 余計な考えを排除して意識を集中させる。

指を弾くことで赤い閃光と共に飛ばした火花でイレーナの居た場所を爆破した。

 

「……する」

 

「っ!」

 

 その刹那、再び背後で呟く声が聞こえた事で彼女を仕留められていないとわかる。

同時に身体に一気に倦怠感が襲い掛かって、思うように身体を動かすことが出来ない。傍に居るのは危険だと思い、足の裏を爆破させて距離をとる。

 

「同志、無駄なあがきです」

 

「黙って!」

 

 距離を置いたはずなのにまた傍から声が聞こえて来る。

振り向き様に気配を感じる真後ろに向かって手を突き出し、大爆発を引き起こす。出力を上げた事で痛みを伴うけど、それも慣れたものだった。

 確実に当たった手ごたえはあった。

彼女に触れた状態から超至近距離での爆発は回避できる距離じゃない。未だに残る謎の倦怠感に耐えながら私は爆炎の中心地を見つめている。

 

「っまただ」

 

 炎が不自然に揺らいで中から無傷のイレーナが姿を現した。

彼女はいったい何の悪魔と契約を交わしているの? 倦怠感に加えて至近距離で爆発を受けたのに無傷で私の前に佇んでいる。

 その姿はまるでお兄さんを相手にした時の感覚に近いものがあった。

でも彼女とお兄さんの違いは悪魔と契約を交わしていないこと。

 

「同志、私が来た時点で結末は決まっているのですよ」

 

「違う。覚悟があれば未来は変わるんだよ。私はそれを教えられたから……」

 

「はぁ、道具に感情は必要ありません。祖国が求めるのは与えられた命令を遂行できる優秀な駒なのですよ」

 

「勝手なことばかり言わないで。私はもう戻らない! あなたを殺してでも帰る」

 

「愚かな選択です。まだ戻る意志さえあれば、救済措置も与えられたというのに」

 

 深いため息を漏らしたイレーナは私に何を言っても無駄だという事を悟った表情をしてる。

一度目を瞑って再び、開かれると先ほどよりも異質な雰囲気を醸し出している。何かがおかしいと本能が警報を鳴らしているけど、選択肢は一つしかない。

 

回避されるなら回避できない方法をすればいいんだ。

掌を爆破させ、爆風で一気に加速して彼女に抱き着いて拘束する。私は間違いなく彼女の身体に触れて両腕で拘束できている。

これなら攻撃を外すことはないよ!

 

「……する」

 

「えっ……?」

 

 何かを呟いたみたいだけど、小さすぎて聞こえない。

それ以上に目の前で起こった現象に驚く私が居た。イレーナが私の身体をすり抜けて背後に佇んでいる。ううん、一瞬だけ実体を掴めなくなったっていう言い方の方が正しいかもしれない。

 

「さよなら……レゼ」

 

「うぅ……」

 

 振り向くと同時に彼女の腕が私の身体の中に突っ込まれて心臓を鷲掴みにされる。

自分の中に異物が入り込んで心臓を締め付けられている感覚に見舞われていた。イレーナの目的は私の心臓、つまり爆弾の悪魔の心臓の奪取も含まれているんだ。

 

気付いたところで後の祭りか。

徐々に強まる力に比例して胸の痛みも強くなる。このまま心臓を奪われるくらいなら私は――。

 

「興味深い」

 

「!!」

 

「かはっ……」

 

 その刹那、不意に聞こえた聞き覚えのある声と共にイレーナが飛び退いた姿を確認する。

解放された事で息苦しさが消え、大きく酸素を肺に取り込んで息を吐く。両膝をついて私は声の主を見上げていた。

 珍しくイレーナの表情に僅かな焦りが見えている。

姿を現したのは氷の悪魔。祖国が手中に収めようとしている大本命の悪魔であり、恐ろしい存在でもあった。

 

「懐かしい悪魔の気配がした」

 

「これは想定外です。まさか、氷の悪魔が同志を救うために姿を見せるとは」

 

「救う? 確かに天命に逆らったことに興味がある」

 

「天命に逆らうとは?」

 

「知らなくていい。私が来たのは契約された悪魔の気配を感じたから」

 

「私が契約した悪魔を知っているのですか?」

 

「当然」

 

 氷の悪魔はイレーナが契約している悪魔を知ってるの?

身体をすり抜けたり、謎の倦怠感が襲ってたり、そんな能力を持った悪魔なんて想像ができない。彼女はいったい何の悪魔と契約しているんだろう。

 

その刹那、彼女の左右から突然現れた氷の刃に身体を貫かれた。

わき腹を貫通して口から吐血するイレーナは傷口を抑えながらも言葉を発していた。

 

「傷を負った事実を拒絶する」

 

「拒絶……」

 

 事実を拒絶すると確かに彼女はそう口にした。

その瞬間に氷の刃に貫かれていたはずの彼女は無傷の状態で目の前に立っていた。そういうことだったんだ。これがすべての絡繰りだったんだ……。

 

これは事象の拒絶だよね。

まさか本当にそんな事を可能にする悪魔が居るなんて驚きだ。

 

「拒絶の悪魔。こんな事を可能とするのはその悪魔しかいないはず」

 

「……」

 

「でも不可解。あの悪魔は契約条件がとても難しいはず。十全に能力を振るえなくとも一部を借りるだけでも驚きに値する」

 

「語る必要はありません。契約できたという事実があれば、それでいいのです。たとえどんな代償を払う事になろうとも」

 

「そう」

 

 お兄さんと居る時以外は基本的に本を読んでいる彼女が僅かに目を細めていた。

イレーナからの回答に何かを感じとったのかな? でも氷の悪魔はどうして私の居場所が分かったのだろう。そんな事を考えていると胸元に掛かっている氷の造形が目に入る。

あ、これを目印にしたんだ。それにさっきまで襲っていた倦怠感もなくなっている気がする。

 

それにいったいイレーナはどんな代償を払ったっていうの?

 

 

 

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