悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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第二話

 氷の悪魔、または凍結の悪魔と呼ばれている存在がいる。

常に何かの本を読んでおり、知識を求めているのではないかと言われている。何かされない限り自分から人間へと攻撃することはなく、好戦的ではないと判断されていた。

 その姿が日本で確認され、何をするわけでもなく一人の人間と行動を共にしている。

某国が常に行動を監視し、来るべき時に向けてあらゆる方法で己が手にその力を収めようと暗躍していた。今まで彼女が契約したという人間の存在は確認されず、行動原理を把握しきれていなかった。

 

「この悪魔と一緒に居る男は何者だ?」

 

「それが……わからないのです」

 

「わからない? どういうことだ」

 

「レックスという名前以外は正確な情報ではありませんでした。出身地、出生、年齢、すべてが不明確なのです」

 

 レックスの正体を探ろうとした某国は名前以外正確な情報が掴めていない。

某国にとって大事なのはフロストが行動を共にしているという点が大きい。契約する悪魔にその名を出せば、誰もが一度は畏怖の感情を宿したのだ。

多くを語ろうとはせず、悪魔達の間でも知られた存在であるというのは明らかだった。

 

「我が国の諜報員でも掴みきれないと言うのか」

 

「意図的に情報が隠蔽されていると言われた方が納得できるレベルです。氷の悪魔を我が国のものとするためにはこの男を堕とすのが一番手っ取り早いのですが……」

 

「弱みらしいものが見当たらないということか」

 

「その通りです。ですが、見た目の年齢からしても成人して間もないはず。篭絡するという手もあります」

 

「女か……」

 

 氷の悪魔である彼女を手に入れるために一番早いのがレックスを引き入れるという選択だった。

そのために弱みを探ってもそれらしきものが見当たらず、脅すなどという手段は有効ではないと判断されていた。男であるという点を狙って女性の刺客を忍ばせて篭絡しようと提案するが代表者は考え込む仕草を見せる。

 

「確かに有効な手段かもしれんが……」

 

「篭絡が失敗した時の事を考えているんですね? 私は彼女にこの作戦を遂行させるつもりでいます」

 

 そう言って一枚の書面を代表者へと差し出した。

そこに今回の作戦を担当させる人物の情報が書かれており、代表者が確認するとしばらく黙り込む。ゆっくりと息を吐いて渡された書面を机に置いた。

 

「いいだろう。その手の訓練も十二分にさせているし、年も近いはずだ。その作戦を遂行するにあたっては彼女以外に適役はいないだろう」

 

「では……」

 

「ただ、分かっていると思うが失敗したときは……」

 

「心得ております」

 

「ならばいい」

 

「準備が出来次第、現地に派遣します」

 

 一礼して部屋から出ていく姿を確認すると代表者の男は席を立ちあがり、もう一度書面を手に取った。

某国で兵士としての教育と暗殺者としての教育を行い、完成度としては一番高いと言われている一人の少女。人懐っこい顔をしており、懐に入り込むのも得意そうに見えた。

首元にあるチョーカーから見えるピンが特徴的でもある。

 

 

 

名前の欄には"レゼ"と記入されていた。

 

 

 今、何か面倒ごとに巻き込まれそうな予感がした。

この感じは上から見られている? 真上を見上げても青空しか見えないけど、その更に先だ。何処かの国が監視の目を光らせている?

言うまでもなく原因はフロスト、それとも一緒に居る僕か。いずれにしてもすぐに何かをしてくる様子もないみたいだ。

 

「…………」

 

「どうしました?」

 

「視られてる」

 

「誰にです?」

 

「知らない。おかわり」

 

 彼女も感じていたようだが、興味はなさそうだった。

一瞬だけ空色の瞳が周囲を見渡した後、真上をしばらく見ていた。視線の方向からして僕と同じ方向から見られていると感じたようだ。フロストが動かないのであれば、問題ないのかな。

 もぐもぐと頬をリスの様に膨らませてデザートを頬張っていた。

おかわりが欲しいと空の器を僕の方へと差し出す。はいはいっと器を受け取ると冷蔵庫から同じものを取り出して彼女の前に置く。

 

今、食べているの苺を主として作ったパフェだ。

既にフロストはこれが3回目のおかわりで、今渡したので最後。僕は1つだけで十分だったけど、まだ足りなさそうかな?

 

「食べ過ぎじゃないかな?」

 

「デザートは別腹」

 

「今ので最後ですよ」

 

「わかった」

 

 食べるスピードは変わることなく相変わらずもぐもぐとデザートを頬張っている。

表情の変化がほとんどないから無表情で食べ続けて、結構シュールな光景だ。満足したのか、空の器にスプーンを置いて口元を軽く拭った。

 

「面白い話がある」

 

「面白い話?」

 

「地獄にはヒーローが居た。助けてと呼べば、姿を現して助けを求めた悪魔ごと悪魔を殺し回った悪魔」

 

「それ、ヒーローじゃないよね?」

 

 面白い話と言うから聞いていたけど、どう考えても普通に考えるヒーローではない。地獄のヒーローだから概念が違う?

助けを呼んだ悪魔もろとも殺し回るって質の悪い殺戮者にしか聞こえないよ。話にはまだ続きがあるようだから何も言わずに耳を傾ける。

 

「強力な悪魔と激闘で瀕死になって弱くなった。今は地獄にはいない」

 

「その言い方だとフロストも知ってるんだ」

 

「面倒な相手。当時はこんな姿をしてた」

 

 これ絶対に戦ったことがあるやつだ。

え、そんな殺戮者みたいなヒーローと戦うこともあったの君? 僕がそんな事を言っていると等身大のような大きさで氷像が作り上げられた。

頭からチェーンソー生えてるし、両腕にもチェーンソーが生えている氷像。これ本当に等身大ならかなりごついし、大きいな。

 

「今の姿は知らない、興味もない」

 

「そうですか。確かに面白い話?だったのかな」

 

「私の興味はあなた」

 

 彼女が机を軽く指で叩くと生成された氷像が跡形もなく砕け散った。

地獄にそんな悪魔が居たということを知れたのは良かったけど、ますますフロストに関する謎が深まるばかりだ。彼女の興味が僕にあるというのは知っていたし、だからこそ傍で佇んでいる。僕も嫌いではないし、別に悪いことではないと思う。

 

実際に一緒に居た時に悪魔が襲ってきたときは殺しているし。

 

「旨そうな匂いがする」

 

「ワン!」

 

「なぁ、それもう食わないなら俺にくれよ」

 

 その時、後ろから高校生くらいの年齢の金髪で眼帯をしている少年と頭からチェーンソーの刃が突き出している犬?が姿を現した。

犬の形をしているけど、悪魔か。珍しい組み合わせだ。

 フロストが食べる姿とおかわりの対応をしていて自分の分にはほとんど手をつけてなかった。ある程度時間が経過したことでアイスが溶け出して若干ドロドロになりかけている。

 

「それは構わないけど……溶けてますよ?」

 

「貰えるんなら気にしねえぜ」

 

「まぁ、それでもいいならどうぞ」

 

「やりぃ! ありがとな兄ちゃん。俺、デンジってんだ。こっちは相棒のポチタ」

 

 彼が良いというなら構わないと溶けたデザートの入った容器とスプーンを渡した。

うめーと言いながら自分とポチタと呼んだ悪魔に食べさせている姿は互いを信頼しているように見える。……何かの契約が交わされているみたいだけど、強い強制力は感じない。

かなり緩い条件で契約が交わされているみたいだ。それとさっきからフロストがポチタの姿を目を細めて見つめている。

 

「今まで食ったもんで一番旨かったぜ!」

 

「それは良かったです」

 

「俺、これでもデビルハンターなんだぜ。まぁ、ヤクザの所で雇われてる非公式ってやつだ!」

 

「そうですか。まぁ、無理しないで頑張ってくださいとしか僕には言えません。でも、応援していますよデンジ君」

 

「ありがとな! もし悪魔が出たら言ってくれよ。旨いもん食わせてもらった礼はするぜ!」

 

 それだけ言うと彼はポチタを抱えて走っていった。

あの悪魔はジッとフロストを警戒するように見ていたのが印象に残った。あの年で片目とそれに内臓の一部が無くなっているみたいだけど、ヤクザの所だから売ったのかな?

僕を助けてくれるっていうけど、その前に別の悪魔に殺されそうに見えてしまった。失礼だから口に出すようなことはしなかった。

 

「チェーンソーの刃が頭から生えた犬みたいな悪魔とは珍しかったですね」

 

「あれがそう」

 

「ん?」

 

「あの犬がチェンソーマンと呼ばれた地獄のヒーロー」

 

「聞いていた話とたいぶ違いますが?」

 

「私も弱体化した姿を見たのは初めて。私の目と嗅覚は誤魔化せない」

 

 確かにチェンソーが見えたからその可能性についても考えたけど、条件に当て嵌まらなさすぎたよ。

実際に対峙して戦ったことのある彼女が言うのなら間違いはないのだろうね。僕としてはこちらに被害が出ない分には問題ない。

襲い掛かって来るっていうなら話が変わって来るけど、そんな様子はなかった。

 

「ほとんど力が残ってない」

 

「あの状態だったら並みの悪魔に殺される?」

 

「そう」

 

「助けるつもりは?」

 

「必要ない。面倒ごとは嫌い」

 

 そう言って彼女は読書を再開する。

チェンソーマンか、頭の片隅には置いておこうかな。彼らとはまた近いうちに再会しそうな気もするし、切れない繋がりが作られてしまった気がした。

 

 

 

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