悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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少し仕事が忙しくなってきたので更新速度が落ちるかもしれません。


第三十話

 しばらくは平穏が続くと思ってたんだけどなぁ。

フロストが珍味が食べたいと言うからちょうど近くの大型デパートで世界の珍味が味わえるというフェアが開催されていたこともあってデパートへと足を運んでいた。

 もぐもぐと無表情で世界の珍味を味わっているフロストに続くように僕も珍味を口にする。

値段自体はすごく買いやすい価格帯に設定されているから普通のお客さんでも手が出せる良心的な値段での販売に感心していた。

 

「……美味」

 

「すごい企画を考える人も居るんだなぁ、ほんとに」

 

「おかわり」

 

「そんなに勢いよくお代わりするものじゃないんだけど」

 

 空になった皿を僕へと差し出してまだ食べたいというフロストにため息を漏らす。

ビュッフェ形式になっているので、また一通り珍味を更に盛り付けて再び彼女の元へと戻って盛り付けた皿を置く。すぐにフォークとナイフを使って切り分けて口へと運んでいた。

 

「下の階が騒がしいな」

 

「人形がこの建物になだれ込んできた」

 

「人形? それって――悪魔の?」

 

「そう」

 

 先ほどから下の階が騒がしくなってきたと思ってホールから下の階を除くとすごい勢いで人形にされてしまった元人間達が階段を駆け上がっている姿がある。

向かっている先にはデンジ君達一行の姿もあった。ということはサンタクロースがデンジ君の心臓を狙って動き出したということだ。

 

「デンジ君がこの建物に入ったという事はここも騒がしくなるか」

 

「問題ない」

 

"このデパートは危険です! 建物内に居るお客様は直ちに避難をお願いします。繰り返します――"

 

 異変を察知したのか、すぐにデパート内全域に緊急事態による急いで避難してくださいという放送がアナウンスされた。

それを聞いた他のお客さん達は悲鳴を上げながら一斉にこのデパートから脱出するために駆け出していく。下に行く階段は人形で埋め尽くされ、使用できない。

 

残るのは非常口から階段を使って脱出するルートだけだ。

 

「皆が一斉に逃げ出すから重傷者も出ているね、これ」

 

「弱者は逃げ惑う事しかできない。鬱陶しければ蹴散らせばいい」

 

「それが出来ないから逃げるでしょ?」

 

「知らない。おかわり」

 

「はいはい」

 

 出口は限られているからいち早く逃げようとして混乱するのも無理はない。

階段から突き落とされて死んでいる人達も発生しているし、文字通り大混乱とはこのことだ。興味なさげにその姿を見ているフロストは再びおかわりと要求してきたので僕は再び先ほどとは違ったメニューの珍味を盛り付け、彼女の前に置く。

 離れていった足音とは別に多くの足音がこちらへと迫ってきた。

足音に変化がなく一定だからおそらくこの足音の正体は……。

 

「やっぱり、人形か」

 

「邪魔」

 

 現れたのは人形にされた多くの元人間だった。

片腕が刃へと作り変えられており、武器を持った相手にも対応できる形態となっているのが見て分かった。もう片方の腕が普通なのは他の人間を触れて人形へと作り変えるためだろう。

 珍味を口にする前に邪魔だと呟いた瞬間に床から氷の刃が現れ、この階に居る人形がすべて貫かれて串刺しの状態になり身動きが出来ない状態で活動を停止した。

 

「美味」

 

「おわぁぁ!!」

 

「おや、デンジ君も忙しそうですね」

 

「兄ちゃん!? 早く逃げねえとあぶねえぞ!!」

 

「心配してくれるとは優しいですね」

 

 再び階段から駆け上がってきたのはデンジ君達一行で人形を迎撃しながらここまで逃げてきたようだ。

こんな状況下でもこちらを心配してくれるのは彼の美徳だね。出会った時に少しだけ施しを与えてあげた時のことがあるから心配してくれるのかな。

デンジ君、パワー、天使の悪魔、アキ君、それに公安の知らない人達が姿を現した。

 

パワーはフロストの姿を見て怯え、天使の悪魔はジッと見つめ、アキ君も警戒する姿を見せている。それも目の前に広がっている氷の刃に貫かれて活動停止している人形達の惨状を見たからだろう。

 

「何かが近づいてくるね、警戒した方が良いと思いますよ?」

 

 すごい勢いで下に居る大量の人形の首を刎ねながら近づいてくる人影。

階段を駆け上がりながらすれ違う全ての存在の首を刎ね飛ばしているのは一人の眼帯をしている女の人。僕らの居る階まで駆け上がって来るとそのまま近くの公安の人間の首を刎ね、次の得物へと狙いを定めている。

 天使の悪魔にも狙いを定めるがぎりぎりでアキ君が刀を入れた事で防御が間に合ったけど、二人とも吹き飛ばされている。

 

「ふっ」

 

「僕ですか」

 

「お前は……」

 

 素人目から見るとその姿は早くて捉えることが出来ないと言われても仕方がない。

そう、この場に乱入してきた女性の正体は中国からの刺客であるクァンシだった。振るわれた剣に対して短剣を逆手で持ち、刃を合わせることで一撃を防ぐ。

 相手も仕掛けた相手が僕であると認識すると一度距離を取った。

互いに武器を構えたままで動かないが間合いに踏み込めば、仕掛けるつもりであることは明らかだった。

 

フロストが更にナイフを置いた音が響き渡る。

それを合図として僕とクァンシは互いの間合いへと踏み込んだ。超至近距離からの近接戦闘、そこまで強度の高くなかった彼女の剣は何度か合わせるうちに砕けた。

 

「それで止まってくれればよかったのに」

 

「私はこっちの方が好きでな」

 

「そうですか」

 

 女性特有の柔軟な身体の使い方でこちらの攻撃をぎりぎりで躱し、お返しだと言わんばかりにカウンターの一撃を放って来る。

それに合わせてこちらもカウンターの一撃を狙い、常に相手の挙動に対して反撃を狙う形になっていた。蹴りを放たれれば、側面を叩いて受け流し、拳を突き出されれば腕を叩いて軌道をズラす。

 

永遠に続くと思われたが不意に終わりが訪れる。

 

「クァンシ様!」

 

「っ!」

 

「一瞬、目を離しましたね?」

 

「くっ……」

 

 彼女の名前が呼ばれた瞬間、一瞬だけ視線が僕から外れたのだ。

その致命的とも言える隙を見逃さず、彼女の胴体へと回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばした。床に手をついて勢いを殺し、その場で構えた状態を見せるがそれも姿を現した岸辺さんによって中断させられた。

 

彼の両腕には彼女の知り合いと思わしき、魔人が二人拘束された状態で捕まっていたからだ。

岸部さんの目には下手な動きを見せれば、こいつらを殺すぞという意思が見られた。クァンシは降参だと言わんばかりに手を挙げて近くの椅子に座った。

 

「デンジ、パワー、こいつらをしっかりと捕まえておけ。俺は少しクァンシと話がある」

 

「あぁ、わかったぜ。おい、パワーいつまで固まってんだ! 動けよ」

 

「はっ! ワシはビビッてなどおらぬぞ! 弱っている姿を見せて相手を油断させていただけじゃ!!」

 

 デンジ君とパワーに魔人の拘束を任せて岸部さんはクァンシの横の椅子に腰かけて何やら喋りながら筆談を行っている。

筆談しているってことはマキマさんからの監視に気付いているという事か。マキマさんを脅威と思っているのは何も国だけじゃなくて内部にもいるってことかな。

 

公安という組織の中でも敵を作っているマキマさんになんとも言えない気持ちになる。

 

「僕も珍味でも食べよ」

 

「最古のデビルハンターはどうだった?」

 

「強いと思いますよ。純粋な人の領域を超えていると思えるくらいには」

 

 黙々と食べ続けるフロストの傍に戻って食事の続きを食べることにした。

酸味と辛みが同時に口の中で広がっていく珍味を味わっていると彼女が口を開いた。クァンシと対峙した時の事を尋ねられる。

僕は素直にそのままの意見を述べる。おそらくだけど、彼女もまた純粋な人間ではないと思う。どちらかというとデンジ君やレゼ達と似たような存在ではないかと感じたんだ。

 

そうでなければ説明できない事も多々あったからだ。

そんなことを言っていると再び目の前で戦いが繰り広げられていく。岸辺さんとクァンシが近接戦を行い、再び人形達が下の階から上がってき始めたのだ。

岸辺さんの方はすぐに彼がデパートの外へと吹き飛ばされたことで決着した。次なる標的としてデンジ君か、僕かと狙いを定めている時に不意に異変が襲う。

 

「これはなんだ?」

 

「あ、真っ暗になった」

 

「……地獄の門が開かれた。私達は地獄へと招かれる」

 

 周囲が真っ暗になったことを感じたのは僕達だけでなく他の人達も同様に周囲が不自然に暗くなったことを感じていた。

フロストが口を開き、この現象の正体について語る。

誰かが生贄を捧げて地獄の悪魔に願ったことで私達は地獄へと招待されたのだと告げた。僕達を地獄へと落とし、何かを行おうとする存在が居るという事かな。

 

次の瞬間、暗くなった景色が元に戻ると変わった場所へと移動していた。

 

「上に大量の扉が見える。それに近くに居なかった人たちも一緒に居る」

 

 僕は周囲を観察して、瞬時に状況を把握する。

コベニや僕達の近くに居なかった人たちもこの場所へと招かれていることを考えるとデパートに居た存在全てが地獄へと招かれたと考えることが出来る。

それとフロストの姿が無くなっている。地獄へと招かれなかった? それとも地獄だからあの状態でいる必要がなくなったと考えるべきかな?

 

「おい、ここは一時的に休戦した方が良い。魔人達の様子がおかしいのも気になる」

 

「どうして僕に言うんですか? 言うならあちらの公安の人達に言うべきでは?」

 

「この場で一番の脅威がお前だとわからないほど、私は愚かではない」

 

「そう」

 

 クァンシの言葉通り、この地に着いた瞬間に魔人達や天使の悪魔の様子がおかしいのも事実だ。

魔人の様子を見やると"どうしてここに!?"とか"気持ち悪い"という言葉を繰り返したりして動揺しているのは明らかだった。

 

「天使! ここはいったいどこなんだ?」

 

「相棒君、僕達は終わりだよ。ここは……地獄だよ。地獄の匂いがする。信じられないけど、何かの悪魔の力で僕達は地獄へと落とされたんだ」

 

「ロン、ピンツイ、ここからの脱出方法は?」

 

「あう、あう、あうあう」

 

「クァンシ様、頭がおかしくなりそうです。私達は銃の悪魔も比じゃないくらいのヤバい悪魔達に見られてます。わたわ、わたわた私達はおしまいです! 自殺の許可を下さい。それしか道は……」

 

「死なせないさ。私がどうにかする、だから生きることを諦めるな」

 

 彼らの会話に耳を傾けているとこの場所が地獄であることは確定だね。

地獄って上に大量の扉が設置されているとは僕がイメージしていたものはだいぶ異なっている。所詮は勝手に抱いていたイメージだから対して気にする必要はないんだけどね。

確かに先ほどからこちらを見ている気配がある。それも恐らく彼女達が言うようにヤバい気配を持った悪魔なんだろうけど、気配が正面と後ろの二カ所だ。

 

「あ、ああぁぁ‼ 来ちゃった、きちゃったぁぁぁ!!!」

 

「や、闇の悪魔」

 

 上の扉の一つが開き、そこから黒い暗黒が降って来る。

地面へとべちゃっと落ちると徐々に大きくなり、暗闇が地獄を支配する。闇の悪魔の出現と共に宇宙飛行士の上半身と下半身が分かれた死体が地面に現れた。

 それと同時に後ろからパキパキという音と共に絶対零度とも言える気配が姿を現し、闇の世界を侵食するかの如く氷の世界が姿を現す。

 

「そ、そんな……こ、氷の悪魔まで!?」

 

「氷の悪魔だと!?」

 

 アキ君の視線がすぐに僕の方へと向けられるが、傍にフロストの姿が無いことに今になって気付く。

前は闇の世界、後ろは氷の世界が迫り完全に間に挟まれるような形になっているアキ君達。そう言えば、彼女の本体をアキ君達は見たことないからこの気配に覚えがないんだ。

 

「超越者が二人! お、おしまいだぁ」

 

「もう死んじゃうんだぁぁ!!!」

 

"ゲコ"

 

 そんなことを叫んでいる二人を尻目に蛙の鳴き声が聞こえた瞬間、闇の悪魔の腕にブレるのを感じた。

抜刀しようとした瞬間、僕の前には分厚い氷が地面から突き出す。氷に斬撃がぶつかるが砕けるだけ破壊に至らなかったようだ。

僕は無事だったけど、他の人達はそうじゃなかった。全員が両腕を切断され、斬り飛ばされた両腕が宙を舞っている。

 

『地獄はどう?』

 

「どうも何も命の危機ですよ」

 

『思ってもいないことは言わない方がいい』

 

「本心ですよ。さっきも闇の悪魔も腕がブレたから迎撃しようと……」

 

『普通はそれすら認識できない』

 

 知っている気配の正体はやはりフロストだった。

それも地獄に居るため、"本体"の姿で顕現している。呼吸をするだけで吐息が白くなり、肺すらも凍り付きそうなほどの冷気がその場に存在するだけで溢れ出していた。

いや、その場に存在するだけで地獄であろうと温度が低下し続けていた。地面は凍り付き、本当に正面に暗闇が広がり、後ろには絶対零度の氷の世界が広がっている。

どちらも超越者であり、一度も死を経験したことがないと言われる絶対的な存在の悪魔。

 

『視えている?』

 

「闇の悪魔の闇の中ですか?」

 

『そう』

 

「まぁ、視えています。複数の集合体とでも表現した方が正しいのかな」

 

『闇の中では絶対的な強さを持つ。そう、闇の中では――』

 

 あのマントのように見える一際濃い暗闇の中には無数の人の上半身が幾つも視えていた。

どう説明したらいいかわからないけど、同じ顔は一つとしてないから全員が別人であると判断できる。その正体については言及することは僕にはできないかな。

 

「闇の悪魔よ、私は人形の悪魔です。契約通りチェンソーの心臓を連れてきました。契約通り、どうか私にマキマを殺せる力を下さい」

 

「……×××」

 

 どうやら僕達を地獄へと叩き落とした原因は人形の悪魔にあるみたいだ。

デンジ君、チェンソーの心臓を持つ彼を闇の悪魔の元へと連れてくることが契約条件であり、達成すればマキマさんを殺せる力を与えるという契約を交わしていたようだ。

 

つまり、僕達は完全に巻き込まれたわけだ。

 

「デンジ君達に期待しても無理ですよね?」

 

『無理。現状、闇の悪魔に勝てる要素がない』

 

「闇か……。常に動き回らないと無理かぁ」

 

『(闇の悪魔ならレックスの力の根源を引き出せる?)』

 

 フロストの言うように戦力としてまともに機能するのは物理的にデンジ君と僕だけ。

他の人達は両腕を斬り飛ばされているから戦力としてカウントするのは少し厳しい。四肢が欠損している状態で勝てる相手ではないだろうし、そもそも四肢が万全であっても怪しいだろうね。

 

「仕方ないか。この環境ならこの力を顕現させられるかな」

 

 鞘から抜くのは呪われた赤い刀身の刀。

現世ではなく地獄という特異な環境であるなら前回の時のような不完全ではなく完全な状態で顕現させられることも可能だろう。

短剣で指を軽く切って、赤い刀身へと指から滴り落ちる血液を垂らしていく。

 

そして僕は地面へと刀を突き刺した。

使い手である僕の血を対価に時間と共に実体を顕現し始める。黒い髪を靡かせ、ハイライトが消えた瞳の中に見える十字架、黒い衣服を纏った女性。

 

「おはよう」

 

「…………」

 

「そう。あれなんだけど……」

 

「…………?」

 

「そっちじゃなくてあっち。彼女は僕の仲間かな」

 

「……!」

 

 正式な手順を踏めば、前回のようなことにはならないけど一つだけ難点がある。

それは僕にしか彼女の言葉は聞こえないし、他の人達からはずっと無言でいるようにしか見えないこと。正式な名前もあるけど、こっちではたぶん存在しない名前だからね。

死を求めるという意味を込めて死の呪いのが込められ、それがどんどんと強力になって今の状態に落ち着いたわけなんだけど……。

 

この状態のこの子には僕も戦いたいとは思わないなぁ。

 

こくりと頷くとそのまま地面に突き刺さった刀を手に取って彼女は闇の悪魔に向かって刀を一閃する。

 

「……」

 

「………」

 

 闇の悪魔の腕の一本が斬り飛ばされるとその部分から死が侵食する。

しかし、すぐに斬られた場所をあちらも切断して新しい腕を生やして何事もなかったように彼女と対峙していた。何かを喋っているみたいだけど、闇の悪魔の言葉は理解できない。

 

『あれは何?』

 

「言葉で説明するのは難しいかな。フロストの視たままの判断で間違っていないと思うよ」

 

『信じがたい。でも、目の前に存在している』

 

「それじゃあ、僕もあちらに行くので」

 

『わかった』

 

 そう、言葉にして説明するのは少し難しい。

闇の悪魔の注意は完全に彼女へと向けられて、今までよりも他を意識することが少し難しくなっているはずだ。とりあえず、デンジ君の胸元のスターターを引いて彼を回復させることから始めようか。

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