悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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第三十一話

 闇の悪魔との攻防が繰り広げられている中でレックスはデンジの傍へと移動し、胸元のスターターロープを引くことでチェンソーの悪魔へと変身させて負傷した場所を回復させる。

しかし、ここに至るまでに血液を失っていたこともあって不完全の状態となり、いつもの姿ではなく頭から小さなチェンソーが伸びるだけの状態だった。

 

「痛ってぇ!」

 

「デンジ君、静かに」

 

「す、すまねぇ。みんなは無事なのかよ!」

 

「無事とは言い難いかもしれませんね」

 

 見ての通りだとレックスが後ろを指さすとアキも天使の悪魔もコベニもクァンシも含めた全員の両腕が無くなった状態になっている。

命が助かっているという点で言えば、全員が無事と言ってもいいだろう。

 

「魔人達も完全に闇の悪魔とフロストの気配に怯えて使い物に……いや、二人だけまだ折れていない人がいるな」

 

「くそがぁぁ!! 俺が」

 

「デンジ君、冷静になった方が良い。血も足りない、力も足りない、判断力まで失ったら一つの結末しか迎えないよ」

 

「ち、血ならある」

 

 超越者の気配に魔人達が完全に心が折れてしまい、使い物にならないと判断したレックス。

だが、その中でもまだ心の折れていない魔人が二人だけ残っていると向けた視線の先で荒い息をついているサメの魔人ビームと暴力の魔人ガルガリを見ていた。

 レックスとデンジのやり取りを聞いていたビームが血なら提供できると出血し続けている自分の血を示した。

"チェンソー様飲んで"と自身の血をデンジへと提供し、スターターを引くことで赤いチェンソーの悪魔へと姿を変える事に成功する。

 

「チェンソー様、俺達の願いを叶えて――」

 

「ビーム!」

 

「気を失っただけですね。これ以上、動かなければ命は助かるでしょう。それとパワーが使えるなら止血も可能なんですが……完全に心が折れているから駄目ですね」

 

 血の魔人であるパワーの協力があれば、全員の止血も可能となるが肝心の彼女の自身の心が砕けており、文字通り使い物にならない状態だった。

超越者の前では彼らは無力に等しい存在だったのだ。

 

「皆の敵を討つ!!」

 

 チェンソーの刃を回転させ、闇の悪魔との戦いへと身を投じようとデンジは突っ込んでいってしまった。

未だに激しい攻防が続き、とてもではないが彼が介入できるレベルの戦いではない。闇の悪魔も相手に集中しており、ちょうどデンジが飛びかかった場所は死角だった。

 

もらったと言わんばかりに回転するチェンソーを振り下ろしたが……。

 

当たる寸前に何かに防がれ、激しい火花が散って闇の悪魔の蠢く闇の中が火花の明りによって露わになる。そこにはいくつもの白い人の上半身が蠢き、デンジを指さしていた。

 

「ちっ! んだよこれぇぇ!!」

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

 今の一撃によって顔の一つがデンジの方を向き、ガルガリが続くように飛翔し、足の筋肉を増強して踵落としを闇の悪魔へと仕掛けた。

パンと顔の前で手が合わせられるとデンジの身体は捩じ切られ、全身の骨が砕けてその場に力なく落ちてしまう。ガルガリもまた闇の悪魔が何かを呟くと身体に幾つも穴が開けられて完全に無力化されてしまった。

 

しかし、それは闇の悪魔の隙を作り出すには十分なものだった。

 

顕現した彼女の刀の振るう速度は見えないほど神速の域にある。

無拍子と呼ばれる過程を省略するかの如く、振り下ろされた刀は既に振り上げられていた。腕を二つ、斬り飛ばされた闇の悪魔は瞬時に根元から腕を切断し、再び再生する。

 

「嫌だなぁ」

 

「……」

 

 その刹那、闇の悪魔は真後ろから強烈な気配を感じとり振り返った。

そこには既に刀を一閃し、終えたレックスの姿があった。刃には薄っすらと何かの文字が刻まれ、鈍く光っている。

 刃先には闇の悪魔の血液と思わしきものが付着しており、既に斬られた後の光景だった。

闇の中に存在する上半身の一つの首が斬り飛ばされ、地面へと転がった。彼女の傍に並び立つようにレックスは歩みを進め、口では嫌だと言いつつも鋭い視線を闇の悪魔へと向けている。

 

「本体を斬ったつもりだったのに、別の個体の首が跳んだ。闇の中ではこちらにアドバンテージは存在しないのかな」

 

「……?」

 

「そうじゃないかな。あなたに斬られた場所を瞬時に切断していることから見ても効かない訳じゃない。わかっているからこそ斬り飛ばしてる」

 

「……!」

 

「無茶を言うね、君も」

 

 もう一人の超越者であるフロストが自身をジッと見ている事もあり、闇の悪魔はそちらへと警戒を怠ることもできない状況。

そこにレックスともう一人が攻撃を仕掛けているため、同時に三人へと注意を向けなければならない。たとえ、闇の中に幾人もの集合体が居たとしてもすべての指揮系統が統一されている訳でない。

 加えているなら闇の悪魔の攻撃の瞬間にレックスは何かを視て、その場所から素早く移動することですべての攻撃を回避している。

彼女に関して言えば、死の気配とも言えるものを感じとり、その場所から移動し、攻撃の動作に映っており、未だに一撃も攻撃をもらっていない。

 

「××××」

 

チリーンっと鈴の音が響く。

闇の悪魔の頭上には鈴が四つ吊るされた刀が出現する。それを見たレックスが何もない場所に向かって刀を一閃した。

ほぼ同時のタイミングで死を求める者も一閃を放っていた。

 

刀同士が触れ合う音が響き渡り、火花が散り、二人が同時に後ろへと吹き飛ばされる。

両者とも刀が触れた瞬間に後ろへとステップを踏んでおり、ほとんどダメージは無いに等しい。ジッと鈴の付いた刀を見つめている両者は何かに気付いた様子を見せている。

 

「完全に外れくじを引かされた気分ですよ(やはり闇の中では不利か)」

 

 生き残っている全員がここから帰還できる保証はない。

時間を掛ければ、掛けるほど出血の量から見ても生存率は著しく低下していく。戦える戦力としてはフロストを除けば、二人だけしかいない状況だった。

ほかの全員は重傷者と言えるほどの傷を負っており、戦いなどもっとのほかである。戦った所でおとりとしてしか機能できないのは容易に想像できた。

 

「くそっ、俺達は無力か」

 

「興奮するな。私達に出来ることはただ黙っている事だけだ」

 

「後ろには氷の悪魔が居る。逃げることもできないって事か」

 

「いや、奴はあの二人の戦いを見ているだけで危害は加えてこないだろう。こちらが何もしなければ、という条件が付くがな。それにあの極寒とも言える冷気によって僅かだが血が固まってきている。あまり良くはないが最低限の止血には繋がるだろう」

 

 自分達の無力感を呪うアキだが、クァンシに言われて少しだけ冷静になった。

彼女の言う通り、この場を支配する強烈な極寒とも言える冷気のおかげで出血している箇所が急激に冷やされ、出血が鈍り始めている。

 クァンシには何か別の思惑があるのではと疑うアキだったが、現状ではそれが最善の選択であると言わざると得なかったため、黙って従うしかなかった。

 

彼らの視線の先には見えない斬撃と見えない攻撃を掻い潜りながら刀を振るう二人の姿。

闇の悪魔に攻撃を与えることは出来ているが、致命的な一撃を入れることが出来ずに攻めあぐねているようにも見えるが、どこか違和感を感じているアキ。

 

「(何かがおかしい? 圧倒的な力の差を覚える一方であの二人には余裕が見えるのは気のせいか?)」

 

「(何かを探っているな。私達には見えない何かが見えているということか。チッ、とんだ外れくじを私に引かせてくれたものだ)」

 

 クァンシもまたレックス達の動きに闇の悪魔に対して何かを探っていることに気付いていた。

そもそも自分達が理解する前に両腕を斬り飛ばされた一撃はレックスには届いていなかった。両腕が無事であるのがその答えだった。

 たとえ後ろで佇んでいる氷の悪魔が助けたとしても、それをされるだけの関係性を築けている。

彼女が考えている間に戦況が次の段階へと移行していた。

 

 闇に隠れていた白い人型が幾つも視える状態へと移行し、常にチリンと刀に付けられている鈴の音が響いていた。

レックスともう一人が動き回り、闇の悪魔を中心として円を描くように立ち回っており、前と後ろで直線状に繋がるようにしていた。

 

「×××」

 

「…………!」

 

「あと少しかな」

 

 闇の悪魔からの見えない斬撃は二人の目には視えている。

標的を定めるように指を向けられた瞬間には闇の悪魔の間合いへと飛び込み、腕を斬り落とし、確実に闇に潜む人型の数を減らしていく。

 それでも闇の中では圧倒的な力を持つ闇の悪魔に対する有効打になっているかはわからない。

死を求める者の刀による攻撃は危険であることを理解しているが故に斬撃を受けた瞬間、その部分を斬り飛ばしていることからも明らかだ。

 

かといってレックスからの斬撃も無視することは出来なかった。

デンジの攻撃を弾いたような防御も貫いていることからも警戒せざるを得ない状態だ。見えないはずの攻撃を視認できているだけでも脅威であった。

 

「……?」

 

「時間だよ」

 

 そして遂にレックスがぼそりと呟き反撃の準備が完了した合図を出した。

最後のピースが揃ったと地面へと起点となる最後の剣を突き刺す。闇の悪魔を中央として円が描かれ、5つの短剣が地面へと突き刺されており、地面には血で描かれた六芒星。

全てが繋がり、光が溢れだしていた。

 

「効果は一瞬、でも僕らにはそれで十分。闇の中で圧倒的な優位性を保つというなら光が満たせば……」

 

「……!」

 

"×××××!!"

 

 光が闇を打ち払い、一瞬だけ闇の悪魔の闇のベールが完全に無防備な状態となる。

レックス達は一気に踏み込み、刀を一閃して闇の悪魔をX字の斬撃痕を刻み込み、初めて有効だと言える一撃を叩き込んだ。

 闇の悪魔の声にならない悍ましい絶叫を上げた。

光は収まり、再び闇が支配を初め、闇の悪魔に闇のベールが纏われる。自らの首を斬り飛ばし、己の身体を捨て闇が纏わりつくと再び完全体の状態で身体が再生された。

 

『見事。闇の中で闇の悪魔は絶対的な強者』

 

「×××」

 

『闇の悪魔、時間切れ』

 

「……××」

 

 闇の悪魔が再び攻撃を仕掛けようとした瞬間、フロストが介入した。

巨大な氷が壁のように立ち塞がり、氷が砕けるだけで破壊には至らなかった。闇の悪魔と氷の悪魔が会話を交わしているが、片方しか言葉を聞き取れない。

 

『あの女が来る前に帰す。地獄の悪魔、この人形の悪魔の全てを代償として帰せ』

 

 フロストが転がっている人形の悪魔を掴み、こいつの全てを代償としてここに居る者達を現世に帰せと告げる。

それを聞き届けるように巨大な手が現れ、アキ達はこの地獄から現世へと強制送還されて命の危機を脱することに成功するのだった。

それでも彼らが受けた被害は大きく、身体的にも精神的にも失うものは多かったのだ。

 

『レックス、やはり底が見えない』

 

「……?」

 

『興味深いものも見れた』

 

 死を求める者は刀へと姿を戻し、レックスの持つ鞘へと収まった。

フロストは闇の悪魔が闇に紛れて姿を消したことを確認すると踵を返してこの場から去っていく。残るのは凍り付いた地面と近くに潜んでいた弱い悪魔の姿だけだった。

 

 

 

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