悪魔が見つめるその先に 作:偶像崇拝
私が黒服の二人を率いてゾンビの悪魔討伐に向かった時、その場所にはゾンビの悪魔はいなかった。
感染したと思わしき人の亡骸が大量に床に転がっている。また誰かに先を越されたと思ったけど、それは違った。
頭と両腕からチェーンソーを生やした者が佇んでいた。
「生きているのが居ますね。排除しますか」
「待って」
私は手を挙げて彼らを制止して、それに近づいていく。
とても変わった匂いがした。悪魔でも人間でもない、かと魔人でもない。意識はあるみたいだけど、まともに思考は働いていないみたい。
「これは君がやったの?」
「うぁ……」
「おっと」
倒れて来たのを抱きしめるとチェーンソーの部分が液体となって床に消え、ただの人が姿を現す。
この匂い……彼なのかな。でも仮にそうだとしても今の状態では計画を進めるのは無理、もっと真理に迫って核心を得ないと駄目だ。
抱きしめた彼をゆっくりと床に寝かせて尋ねた。
「そうだね、先に自己紹介をしようか。私はマキマ、ゾンビの悪魔を討伐しに来た公安のデビルハンターなんだ」
「デンジっす」
「そう、デンジ君って言うんだ。君には二つの選択肢がある、悪魔として私に殺されるか、それとも人として私に飼われるか。私としては後者をおすすめするよ」
「飯はちゃんともらえるんすか?」
「三食しっかり食べさせてあげる。私に飼われるならね」
「飼われます、俺!」
「賢明な選択だね」
もっと考えるべきだと思うけど、この子はそこまで賢くないのかな。
でもそっちの方が扱いやすくはあるから助かる。了承を得たし、ゾンビの悪魔の討伐も終わっている以上、ここに長居する必要はない。
車に一緒に乗り込んで移動しているとデンジ君のお腹がずっと鳴っていた。私達も朝食はまだだし、近くのサービスエリアで朝食をとろうか。
「マキマさん、俺一つだけお願いがあるんす」
「無理ないことなら聞いてあげるよ?」
「俺、こうなる前に旨いデザートを食わせてもらったんす。そいつらに悪魔が出たら助けてやるって言ったんだ。だから何かあった時は――」
「助けたいってことかな?」
「そうっす」
「私達、公安も万能じゃない。もちろん、民間人に被害が極力出ないように動いてるつもり。でもね、すべてを救えている訳じゃないんだ。その人達を優先することはできないよ。一応どんな人か、特徴を教えてくれるかな?」
「男と女な二人組だったんですけど……」
お願いって言うから何かと思えば、ご飯のお礼に悪魔に襲われていたら助けてあげたいという願い。
その特徴を教えてもらった時、私は一瞬だけ目を見開いた。その特徴を持つ女性は一人しか心当たりがなかった。
氷の悪魔フロスト、まさかこの子が接触していたと思わなかった。
それに一緒に居た男は間違いなく私が一度面と向かって話してみたいと思っていた人物。この機会を活かさない手はない。
「デンジ君、もし公安で仕事しているときにまた会ったら私にも教えてね。ぜひ、挨拶をしたいから」
「わかったっす」
この子は一度アキ君と一緒に行動させてみようか。
私達が保護した血の魔人のパワーちゃんの件もあるし、何かの相乗効果が生まれるかもしれない。
◆
あぁ、外出するたびに悪魔に襲われるのは何なんだろう?
しかも妙に大きいし、もしかして呪われてたりするのかな。地面に横たわっているのはバッタの悪魔、胴体から足を全部切断したから身動きすることもできない状態だ。
「戦うのってあまり好きじゃないのに」
「悪魔の気配が中にもう一つある」
「もう一つ? 確かにお腹の所に何かあるみたいだけど……」
血の付いた刀を一閃してバッタの悪魔の胴体を真っ二つに切断する。
既に虫の息だったからすぐに絶命してしまった。それでお腹の所にあったものは……弾薬、いや肉片かな。なんか微妙に脈打ってるし。
「銃の悪魔の肉片」
「これが銃の悪魔の……。でもどうしてこの悪魔に?」
「知らない。ただ銃の悪魔の肉片は取り込めば強くなれる」
「だからこんなに大きかったのか。肉片はどうしようか」
銃の悪魔の肉片にはそんな効果もあったんだ。
恐怖で強くなる悪魔は概念じゃなくて個体そのものが強くなれば、人々から恐れられてより強大になれる。だから肉片を見つければ取り込むっていうサイクルが起こるのか。
「持っていれば良い。退屈しない日々が送れる」
「嫌だ。それって悪魔が寄って来るってことでしょ?」
「銃の悪魔の肉片は引き合う性質を持つ。あなたが持たなくても私が持てば一緒」
悪魔が寄って来る可能性が高まる肉片なんて誰が持ちたいと思うのか。
そういうのは悪魔討伐を心掛ける組織に渡せばいいじゃないか。そんな事を言っている間に彼女は銃の悪魔の肉片に糸を通してネックレスの様にしていた。
こちらで所持する気満々じゃないですか、不用意に捨てて関係ない人達を巻き込むのも気が引けるし……。
「わかりましたよ、僕が持ちます」
「それでいい。来た」
「おい、その肉片を寄越しな」
ドンっと大きなものが地面へと着地して風圧で土埃が舞い上がった。
両腕に大きな鎌を持った虫の悪魔、カマキリの悪魔だ。言っている傍から早速、悪魔がくるってどれだけ肉片を欲しがっているのだろう。
大きな鎌を僕達に向けながら言葉を紡ぐ。
「死にたくなかったらそれを寄越せ。渡さなければ、こうなるぞ?」
大きな鎌を持つ腕を真横に一閃したカマキリの悪魔。
木々が真っ二つに切り裂かれ、かまいたちが発生している。あんなの普通の人が触れた時点で真っ二つか、切り裂かれて身体がバラバラになるよ。
「ほら、こうなるのがわかったでしょ」
「たまには刺激も必要」
「本もゆっくり読めなくなるよ」
「……読んでるときじゃなければいい」
「無視してるんじゃねぇ!!」
「……うるさいよ、君」
あんな大きな体で叫ばれたんじゃ、うるさくて耳が痛くなる。
あくまで僕にこいつを処理させるつもりだな、フロスト。誰が好き好んで戦いを求めるっていうんですか、せっかくゆっくりと出来ると思ったのに。
僕は振り下ろされた鎌に対して鞘から抜いた刀を一閃する。
「がっ……な、んだ……と」
「さよなら、カマキリの悪魔」
鎌ごと悪魔の身体を真っ二つに切り裂いた。
信じられないという顔をしながら地面に倒れ伏した。さっきのバッタの悪魔と違って生命力は少し強いみたいだ。身動きの取れないカマキリの悪魔の顔を十字に切り裂き絶命させた。
「さすがに怒りますよ」
「私は何もしてない」
「そもそもどうして僕ばかり狙われるのかな?」
「私のせい。光を屈折させて姿を見えなくしてる。氷の薄い膜で調整できる。それをしていない時は相手にも私の姿が見える」
本当に怒りたい、それはもう本気で。
通りで悪魔が僕の方ばかり狙うわけだよ、だって二人いても僕しか見えてないんだから。しかもご丁寧に気配まで殺してるから余計に気付かない。
持たされた銃の悪魔の肉片が反応しているからこの悪魔も取り込んでいるのかな?
あったね、やっぱり。
銃の悪魔の肉片だ。
「一つ見つけたらまたすぐにもう一つか」
「集まった肉片が大きくなれば、いずれ本体があるとされる方向へと動き出す」
「そんなに集めないし、要りません」
「力を存分に使いたいとは思わない?」
「……質問の意味がわからない」
刀に付着した血を振り払って鞘に納める。
フロストが呟いた言葉に僕は一瞬だけ動きを止めて彼女を見た。僕から視線を外さず、こちらも彼女の目を見つめる。
しばしの沈黙が流れ、静寂が場を支配する。
「答えたくないならいい」
「そうですか」
「いずれあなたの口から聞く」
薄々感じてはいたけど、フロストには視えている。
彼女の目が特別なのか、それとも別の理由で気付いているのかは知らない。けれど今の問いはどこか核心めいたものを感じさせた。
フロストはそう言い、踵を返してこの場を後にした。