悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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第四話

 今日は珍しくフロストが傍にいない。

数日中に戻ると言って外出していった。その際に保存食とお弁当を作ってと言われた時は目を丸くしたのが記憶に新しい。いったいどこへ行っているのやら……。

 

「一人で散策するのも久しぶりな感じがする」

 

 本当にほとんど傍で過ごしていたから少し寂しさを覚える。

カフェテリアで軽食を食べていると生臭い匂いがした。その方向へと視線を向けると駅の方にナマコみたいな悪魔が居る。

電話ボックスで何処かへと電話している民間のデビルハンターが居た。公安の場合は指定の制服があるからそれ以外だと民間と判断してもいいだろうね。

 

「お、お客様! に、逃げないと危ないですよ!?」

 

「でもここは封鎖エリア外だから大丈夫だと思うけど?」

 

 食後のコーヒーを飲みながらその悪魔の方を見ていると店員の女性が慌てて警告してくれた。

危険が迫るとお客様の安全のために危ないと言って避難させようとしてくれるのは接客のお手本のような存在だ。僕が経営陣ならお給料UP間違いなし。

 

「いや、封鎖エリア外と言ってもそのすぐ側ですよ!?」

 

「デビルハンターの人がここは安全だと判断しているから大丈夫」

 

「周りをよく見てください! お客様以外逃げて誰も居ないんですよ!!」

 

 まぁ、確かに僕以外は誰も残ってない。

残っているのは僕とこの店員さんの二人だけ、いや、もう1人居たか。しかもずっとこっちを見てるし、これは良くないなぁ。

 

「僕は大丈夫なので店員さんは逃げてもらっていいですよ。あ、これ代金です」

 

「確かに受け取りました! それではお客様も逃げてくださいね!!」

 

 店員さんは僕から受け取ったお金をレジに入金したら店から出て行った。

僕はというとコーヒーを飲んで後ろから近づいてくる足音に耳を澄ませる。視線はナマコの悪魔の方を見ているけど、民間の人は単独討伐ってあまりしないのか。

 

「こんにちは」

 

「こんにちは、公安の方がこんな所で何をしているんですか?」

 

「休憩時間なんだ」

 

 ピンクチェリーの髪を三つ編みにし、特徴的な同心円状の瞳をした女性が僕の正面の席に座る。

休憩時間というのはおそらく本当ではないだろうし、ここではそれはそんなに重要な問題じゃない。個人的にあまり接触したくなかったという理由が大きい。

 

「私は公安で働いているデビルハンターなんだ。名前はマキマっていうんだ。君の名前は?」

 

「レックスと言います」

 

「そう、レックス君っていうんだ」

 

 僕の名前を知れたことで彼女は僅かに口角を釣り上げた。

まるで僕の事を観察しているようで視線が全く外れないし、瞬きすらしていない。フロストと同じ人型の悪魔だし、実際に対峙すると違うなぁ。

 

「それで公安のマキマさんが僕にどのような御用ですか」

 

「本当はいつも君と一緒に居る人にも聞きたいことがあったんだけど、本命は君だ」

 

「僕は公安の皆さんに聞きたいことはありませんけど」

 

「そんなに素っ気なくしないでほしいな。単刀直入に言おうかな」

 

 やはりフロストにも聞きたいことがあったのか。

それよりもこの人、表情自体は僅かに微笑んでいるように見えているけど、目は全く笑っていない。獲物を逃がさないと言わんばかりだ。

 

「これは命令です。私と行動を共にすると言いなさい」

 

 これは言葉に強制力を感じる。フロストの言う物事を掌握する能力ってやつか。

普通な人ならこの言葉にはおそらく逆らえないんだろうな。たぶんだけど何かの基準が存在するはずだけど、これだけじゃわからないな。

これで"はい"と言えば、強制的に契約が成立したことになってしまうのかな。

 

「嫌です」

 

「!」

 

 僕が否定の言葉を言えると思っていなかったのか僅かに目を見開いている。

一般人という枠組みで判断するなら僕はそうでもないし、マキマさんほど驚くようなことはない。……たぶん、他の悪魔には普通に使えていた力なんだろうな。

彼女の瞳の奥に潜むのは驚きと僅かな歓喜?この二つの感情が一緒に見てとれるのは珍しい気がする。もしかすると彼女自身が望む何かを僕に見たのかもね。

 

「あまり命令されるのは好きじゃないので」

 

「ふふっ、面白いね君。もっと君の事が知りたくなりました」

 

「僕は遠慮したいですね」

 

「それに君でしょ? 血の魔人になっているパワーちゃんの事を匿名で公安へと連絡してきたの」

 

「……黙秘します」

 

「答えたくないならいいよ。私が把握できていればいいから」

 

 完全に興味を持たれてしまった。

しかも匿名で連絡入れた事もバレているし、女性の勘ってやつか。それとも何かの能力を使って状況を把握していたかの二択だけど、どっちも正解っぽい。

どうして面倒なタイプに興味を持たれてしまうのだろうか。いや、フロストに関して言えば観察していると言った方が正しいか。

 

「一匹狼の彼女がどうして君と一緒に居るのかが分かった気がする」

 

「近くないですか?」

 

「そうかな?」

 

 さっきまで1mくらい離れていたのに目と鼻の先にマキマさんの顔がある。

手を被せるようにおいて、僕がこの場から離れることを阻止している。命令を否定してから距離の詰め方がおかしい。

その時、僕の視界の端でナマコの悪魔がビルの上から巨大な赤いハンマーを振り下ろされて叩き潰されている光景が目に入る。

 

これを利用しようか。

 

「ここでいつまでも休憩していて大丈夫ですか?」

 

「どうしてかな」

 

「あれ、公安のデビルハンターでしょ? 僕の記憶が正しければ、あそこを封鎖して討伐の準備をしていたのは民間のデビルハンターだったと思いますが」

 

「……はぁ、困ったな。規則は覚えてって伝えたのに」

 

「早く対処しないと大変ですよ。あそこに居るのは魔人でしょ?」

 

 あえてパワーの事は知らない方向で貫き通しておく。

先に手を付けた方が悪魔の対処をするのが規則になっているはず。だから今の状況は後から手を出して討伐してしまったことで業務妨害ということになる。

 

「また今度ゆっくりとお話をしよう」

 

「僕としては警察のお世話になりたくないので結構です」

 

「ふふっ、個人的になら問題ないのかな?」

 

「さぁ、どうでしょうね」

 

「……逃がさないから」

 

 やっとこの場から離れていくと軽く息を吐くと彼女は踵を返してナマコの悪魔が討伐された現場へと足を進めていった。

関係各所に連絡を入れて、戦闘跡の処理や手回しなどを行っているのだろう。それにしても本当に厄介な人物に興味を持たれてしまったかもしれない。

 

支配の悪魔か、フロストとはまた違ったタイプだった。

直接話してみてわかったけど、嘘と真実が入り混じった話し方をする人だ。話し方もうまいからそれに気付けない人も多いんじゃないかな。

 

「何か特殊な契約をどこかの誰かと交わしている感じだね、あれ」

 

 なんて言っていいのか、わからないけど彼女は死から遠い感じがする。

説明のしようがないな。う~ん、死んでしまった場合でも何かに置き換えられるというのが言葉としては正しい?

とにかく、かなり特殊な条件で結ばれている契約だと思った。

 

 

 氷の悪魔である彼女が一緒に行動する人物が居ると情報が入ってきたとき、最初は冗談と思った。

一匹狼である彼女が地獄でもここでも誰かと一緒に行動している姿は一度も見たことがなかったから。強いが故に孤高でもあった。

 そんな彼女が行動を共にしていたのは悪魔でも魔人でもなく人間だ。

私が知らない契約が二人の間で結ばれているのかもしれないけど、彼女が今まで誰とも契約を交わしたことはないからその可能性は低いはず。

 

偶然の機会を利用して彼と直接話すことが出来た。確かに何か普通の人間とは違ったものを感じだんだ。

 

「あの二人の関係は"対等"なんだ」

 

 能力を使っても彼は私の言葉を否定した。

それはつまり私の支配から自分の意思で逃れるだけの強さがあるってこと。能力を使った状態で弾かれたのは人間ではほとんどいない。

匂いも他とは違うし、忘れることはないだろうね。

 

恐怖による支配じゃなく、私が望む対等という関係性を結べる人間なんだ。

 

「逃がさないよ、レックス君」

 

 もう少し時間があれば、ゆっくりと彼と話すことが出来たかもしれないのに。

あの二人には少しお話をしないと駄目だね。公安という組織に所属している以上はルールの中で動いてもらわないと後々困るんだ。

私が各所に連絡を終えて現場に到着するとパワーちゃんとデンジ君を見つけた。パワーちゃんは浮かれて喜んでいる。

 

「パワーちゃん、デンジ君」

 

「ワシはやったぞ!ワシが殺したんじゃぁ!」

 

「あ、マキマさん!」

 

「二人ともこっちにおいで」

 

 私は呼んで歩道のベンチに座る。

素直についてきた二人にそこで話を聞くようにと言葉を続けていく。自分達が規則を破っていることに気付いていないみたい。

 

「一度、説明したと思うけどルールは守らないといけないよ。民間が手を付けた悪魔を公安が討伐することは業務妨害に当たるから注意しないと駄目。最悪、逮捕されても文句は言えないの」

 

「じゃ、じゃが悪魔を早く討伐すれば……」

 

「それも時と場合によるんだ。民間で対処できないレベルだって瞬時に判断できる状況ならそれが正解だよ? でも今回の場合はそうじゃない。明らかに脅威度は低い悪魔だったはずだよ」

 

「こ、こいつに命令されたんじゃ!」

 

 今回の悪魔は民間でも対処できるレベル悪魔だってことはわかるはず。

この子達の初の仕事でそれを求めるのは酷かもしれないけど、それくらいの判断は公安に居る以上は出来ないと駄目なんだ。

組織の中で生きるってことをこの二人はまだ理解していない。目の前で言い訳をする二人に少しだけ苛立ちが募る。

 

こんな些細な事で邪魔をされたと思ってしまうとね。

 

「二人とも……少し静かに出来る?」

 

「で、出来る」

 

「偉いね、パワーちゃん。私は二人には期待してるんだ、私に活躍見せられそう?」

 

「み、み、見せる。じゃ、じゃからその目で見ないで……くれ」

 

「俺も活躍しまぁす!」

 

「期待してるよ」

 

 パワーちゃんは一応、本心からそう言ってくれてるみたいだね。

デンジ君は状況をいまいち理解できていなさそうだけど、同じことを続ければどうなってしまうかというのは想像できるはずだ。

彼女を保護した時、すごく怯えられたし、特殊な暗示が掛けられた状態だった。記憶障害が起こっているせいで連絡を入れてきた人物が誰かわからなかった。

 でも、痕跡はあった。前と同じ、溶けない氷の欠片が落ちていたの。

彼女がわざわざ匿名で連絡するなんてありえないから答えは一つしか残っていなかった。直接会ったことでパワーちゃんに残っていた匂いと同じだったから確証も得られた。

 

「私は仕事が残ってるからもう行くね」

 

 もうさっきの場所に彼の気配は消えていなくなっている。

また機会があれば、本当にゆっくりとお話をしたいな、レックス君。

 

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