悪魔が見つめるその先に   作:偶像崇拝

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第六話

 興味本位で行動することは時に後悔することもある。

冷静な判断、直感、長年の経験など合理的な判断を下したとしても後悔する選択をしてしまうことは起こり得る。それが目の前で起こっている現実だ。

 

「っ……」

 

「アキ君!?」

 

「……」

 

 また公安に所属する人だよ。

フロストが煩わしそうにアキと呼ばれた青年の首を片手で持ち上げ、握り潰さんばかりの勢いだ。それを見て顔色を青くして悲鳴を上げる眼帯の女性の人。

 女性の方は自身の契約している悪魔が指示通りに動いてくれないと先ほどから混乱している。

確かゴーストと言っていたから幽霊の悪魔か、何かと契約しているのだろう。

 

 事の始まりはこの二人が僕らの方に尋ねてきたことから始まる。

僕らと言っているけど、正確には僕の方が正しい。彼らが手に持っていたのは銃の悪魔の肉片、肉片同士が惹きつけ合う性質がある。

だから僕の所持しているものに反応してここへと二人を導いたのだろう。

 

「はぁ、なんでこうもまた」

 

 最初は当然、気配も姿も気薄にするフロストに気付かない。

銃の悪魔の肉片を持つことが確認されて渡してほしいと言われたんだけど、彼女がそれを良しとするはずもない。それに運が悪いことに彼女は読書中だった。

 

「ゴースト! どうしてなの!?」

 

『恐ろしい、恐ろしいのだ。目の前の存在は私如きが敵う存在ではない』

 

 読書を邪魔されることを嫌う彼女の前で肉片を渡せと熱くなっていけば、当然彼女も反応する。

このアキって青年は特に銃の悪魔に対しての憎しみが強いのか、徐々に声が荒げられていった。僕がやんわりと断っても危険だからこちらで預かると言って退いてくれる気もないし。

 

「だったらっ……!」

 

「ん?」

 

「お願い、アキ君を離すように言って!!」

 

「っっ……」

 

 公安の女の人が僕に向かってフロストにやめさせてと叫ぶ。

彼女の存在は国の上層部や一部が把握できていても下の方まで情報伝達が行われているわけじゃないんだ。契約している悪魔の方は彼女を視認できれば正体がわかる。

でも契約している人の方はそうじゃない。知らなければ、悪魔の気配を消しているフロストを悪魔だとわからないんだ。

 

青年を締め付けるフロストの力が強まっている。

 

「ゴースト!!」

 

『嫌だ。契約者をみすみす殺すような真似はできない』

 

「幽霊の悪魔」

 

 その時、不意に彼女が公安の女性デビルハンターの契約悪魔の名を呼ぶ。

やっぱり、そのままでよかったんだ。ゴーストって呼んでたからどうかと思ったけど、幽霊そのままだったんだね。

 

「私は自分の時間を邪魔されるのは嫌い。賢い選択をした方が良い」

 

『契約は切れない。だから許せ、契約者』

 

「ゴースト何をして?!」

 

 彼女の言葉にほとんど抑揚がなくなっている。

強めの警告に近いな、これ。これ以上、フロストを苛立たせるとあの青年が殺されるかもしれない。すると複数現れた白い手が女性を拘束する。

 

『これも契約者を守るため』

 

「私の全てを差し出すから!アキ君を守って‼」

 

「フロスト」

 

「無駄な時間を過ごした」

 

「ごほっごほっ……」

 

「アキ君!!」

 

 僕が彼女の名前を呼んだ瞬間、手を放してアキと呼ばれた青年を解放する。

咳き込むとすぐに新鮮な空気を取り込むために大きく呼吸して肺へと酸素を供給している。それと同時に幽霊の悪魔が女性の拘束を解除した。

最後の全てを差し出すという事は対象が解放されたことで実行されずに済んだみたい。

 

「大丈夫なの!?」

 

「大丈夫です、姫野先輩」

 

『契約者、お前は目の前の存在が誰か知らないのか』

 

「どういうこと、ゴースト?」

 

『氷の悪魔と呼ばれる悪魔だ。不用意に手を出す相手じゃない。その気になれば我々の命は存在しない』

 

 言っていることは間違いじゃない。

もし、彼女がその気なら目の前の公安の二人と悪魔の命は消えていると思う。消すという選択をした場合の事を考えて発生する事態を想定してその判断を下さなかったんだろう。

 幽霊の悪魔が改めてフロストの事を二人に簡潔に説明した。

その名を聞いた瞬間、少し顔色が青ざめている。姿は見たことなくても名前は聞いたことがあったんだね、やっぱり。

 

「フロストは基本的に人に危害を加えることはほとんどありません。今回の場合はアキ君でしたか、君が必要以上に僕の持つ銃の悪魔の肉片を回収しようとした事が原因かな」

 

「だがそいつは民間人が持っていていいものじゃない」

 

「銃の悪魔が憎いのはわかりますけど、肉片を集め続けて何を求めるのですか?」

 

「そいつが本体に動き出したら銃の悪魔を殺す」

 

 憎しみの視線で人が殺せそうなくらい強い思いを持っているアキ君。

銃の悪魔は世界各地で甚大な被害を齎した悪魔だし、デビルハンターになった大多数の人達は銃の悪魔に対して憎しみを持っている。

瞬間的な被害では銃の悪魔の出した被害者の数を超える悪魔は確認されていないと言われるほどだから目の当たりにした人達からしたら恐怖の象徴だ。

 

もし、銃の悪魔の肉片を集めて本体まで辿り着けたとしても倒せる保証がないはず。

世界に甚大な被害を与えた悪魔はデビルハンターが一人二人集まってくらいでは倒せるはずがない。そもそも大きさが違い過ぎるみたいだし。

 

「倒せる手段でもあると?」

 

「それは……」

 

「でも全員が協力すれば!」

 

 倒せる算段もなく思いばかり先行している感じか。

少しばかり楽観的に考え過ぎじゃないかな。銃の悪魔の脅威を知る者ならもっと慎重に行動をするべきだと思うけど、言っても止まらないんだろうな。

 

「あまり楽観的に考えない方が良いと思いますよ」

 

「死に急ぎたければ好きにするといい」

 

 アキ君と姫野さんをフロストは無感情な瞳で見降ろしている。

僕の手から銃の肉片を受け取ると彼らに投げ渡していた。もうこちらに肉片が必要なくなったという事かな。肉片同士が合わさり、少しだけ大きな塊となる。

 

「銃の悪魔の肉片の提供感謝する。だが、悪魔である以上、見過ごすことはできない」

 

「アキ君、冷静になって! 私達は見逃されている状態なんだよ!」

 

「それに悪魔と一緒に行動しているこいつも怪しい」

 

「それは私も否定しないけど、でも冷静になった方がいいよ。今のアキ君は頭に血が上って冷静な判断が出来てないの」

 

「……」

 

 肉片を渡したのに今度はフロストを見逃すことが出来ないって?

もうどうなっても知らないよ、ほんとに。公安の人達ってこんなに頭が固い人達ばっかりなのかな。それとも彼がそういう人種だってこと?もっと先輩の言葉に耳を傾けた方が良いと思う。

 その次の瞬間、急激に周囲の温度が下がり始めフロストの足元から地面が凍り付き始めた。

吐かれる息が白くなり、急激な気温の変化に彼らの身体が震えている。それを認識する前に二人の逃げる足は奪われていた。

 

「足が!」

 

「足が凍ってる!」

 

 既に二人の膝くらいまで凍り付いており、その場から動くことが出来なくなっている。

彼女が歩くたびに地面の氷が砕け、再び凍るの繰り返しだ。ゆっくりと二人の元へと近づいていき、ちょうど二人の間で歩みを止める。

 

「私は忠告した。同じことを言うのは嫌い」

 

「お前ら、何してる」

 

 アキ君と姫野さんに手を伸ばし、触れようとした瞬間だった。

背後から男性の声が聞こえ、振り向くとそこには公安の制服を纏った初老の男性が居た。口元の縫い跡が目を引くけど、構えに隙がない人。

油断しているように見えて隙を見せない人だ。今まで見た公安の人の中では頭一つ二つ飛び抜けているんじゃないかな?

 

「岸辺さん!」

 

「師匠!」

 

「岸辺? 実に久しい」

 

 岸辺、その名前はフロストから聞いたことがある。

公安に所属している凄腕のデビルハンターなんだとか。僕と出会う前のフロストが何年か前に戦ったことがある人物と聞く。

彼の名を聞いたフロストが伸ばしていた手を下げ、岸辺さんの方へと振り向いた。

 

「っ氷の悪魔、お前がなぜここに居る」

 

「答える必要は無い」

 

「まさか、こいつらがお前に手を出したのか。それとも……」

 

 彼の視線が僕の方へと向けられ、顔に手を当てて天を仰ぐような姿を見せる。

この感じは組織の上の方から僕らの事を聞いているみたいだ。手に持っているスキットルから酒を飲むと深く息を吐いた。

 

「俺に免じてこの場は許してくれないか」

 

「彼女次第ですよ」

 

「教育不足」

 

「お前の存在は各国上層部、悪魔を除けば一部の奴等しか知らない。こいつ等が知らないのも無理はない」

 

「レックスがこの場に居ないなら迷いなく殺していた」

 

 岸部さんが頼むと軽く頭を下げて願い出たことでフロストの怒りが僅かに収まったみたいだ。

僕としては無駄に争う事もしたくないし、丸く収まるならそれが一番いい。それと最後に恐ろしいことを言わないでほしい。

せっかく穏便に収まりそうなのに。

 

「僕達は彼らが要求したものを渡したので帰っても?」

 

「あぁ、すまない」

 

「次はない」

 

 彼女が指を弾くと彼らの凍り付いた足の氷が砕けて拘束が解かれる。

無事に終わったみたいで何よりだね。後でフロストから美味しいものを食べさせてほしいとか言われるんだろうな。

僕はフロストと共にこの場を後にするのだった。

 

 

 拘束から解放されたアキと姫野の二人は岸辺に詰め寄る。

二人の口から放たれる言葉は助かったという言葉とどうして悪魔を見逃したのかという言葉だった。

 

「お前ら、死ぬとこだったぞ」

 

「師匠はあの悪魔を知ってるの?」

 

「あぁ、知ってる。俺は一度、奴と戦ったことがある。本体ではなかったがな。氷の悪魔、奴は基本的に自分からは手を出さない。だから基本は放置で問題ないとされている」

 

「でもさっき俺達は殺されかけましたよ」

 

 もし自分が現れなければ二人は死んでいたという告げられる。

岸辺が氷の悪魔であるフロストの特徴を簡単に説明し、放置しても問題ない存在であると二人に教えていた。それでも納得できないとアキは自分達が殺されかけた事実を告げる。

 

「それはお前らが刺激したからだ。銃の悪魔の肉片を渡すように迫ったようだな」

 

「民間人が所持していい代物じゃないでしょ、あれは」

 

「それだ。お前には本当に一緒に居た人間が民間人に見えたのか」

 

「私も民間人だと思ったんですけど」

 

「氷の悪魔が普通の人間と一緒に居るはずがない。俺は奴を初めて見た時、同じ人間とは思いたくなかったくらいだ」

 

 アキと姫野の目にはレックスが普通の人間に見えたのかと問いかける。

その問いにはyesと答えられ、岸辺は目じりを手で押さえながら酒を口へと運ぶ。もっと観察眼を磨けと言わんばかりにため息を吐く。

 

「まぁいい。お前達、数年前に米国の一部に永久凍土が出来た話は知ってるか?」

 

「え、そりゃニュースにもなりましたし、知ってますよ。なんでもその氷は決して溶けず、破壊する事も出来ないほど頑丈だって」

 

「あれをやったのは氷の悪魔だ。氷の悪魔を手中に収めることが出来たなら各国に対して優位性を保つことが出来ると言われている。だが奴の怒りを買った米国は聞いての通りだ。不幸中の幸いか、それともわざとか知らないがその場所には人間が居なかったそうだ」

 

「……」

 

「お前らが手を出したのはそういう存在だ。下手に刺激し過ぎると日本も同じ目にあってもおかしくはない。だから不用意に手を出すな」

 

 米国で発生した異常現象の正体がフロストの手によるものであると告げる岸辺。

基本的には何もしないが、怒りを買えば割に合わない甚大な被害を与えらえる可能性が高いため刺激するなときつめにアキと姫野に警告した。

それを言われてしまえば二人も不用意に彼女に手を出すことはしないだろう。

 

「各国のスパイが常に奴らの動向を気にしている。お前らも十分に気を付けろ。俺はもう行く、もし本気で奴を討伐しようと考えるならもっと強くならなければ話にならんぞ」

 

 岸部は二人にそう告げるとこの場から去っていった。

残されたアキと姫野は自分達はまだまだ弱いんだと再認識し、強くなりたいと決意を固めるのだった。

 

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