悪魔が見つめるその先に 作:偶像崇拝
いつもありがとうございます!
レックスが喫茶店でレゼと対面していた頃。
ホテルにてデンジ達、公安対魔特異課一行はそこを住処にしている悪魔の罠に嵌められ、現実と切り離された異空間に閉じ込められていた。
時間が同じ場所でループし、上の階にも下の階にも進むことが出来ない状態だった。
脱出する手段が現時点で見当たらず、永遠に囚われている。方法を模索するも悪魔から提案された方法しか見つからない。
その悪魔が要求したのはデンジを食わせろという契約。
死体でも構わないと告げる悪魔に彼らは選択を迫られていた。彼を差し出せば、この空間から他の者達は脱出させることを約束すると。
「デンジは殺させない。それが俺の決断だ」
「私も賛成!」
「しかし! 先輩もわかっているはずです。今この状況を脱出できる手段はこの悪魔と契約する他にないって!」
「そ、そうです。デンジを食わせれば、ここから脱出できて応援を呼ぶことも!」
「ワシも殺すに一票じゃ!」
契約を結ぶが2票、結ばないが3票。
悪魔にとって契約は絶対だ。それを守らなければ、死が訪れるため結んだ以上は絶対に守られる。だからここでデンジを差し出せば、他の全員が脱出できるというのは間違いない。
「俺も一つ提案があるぜ」
「なんだ?」
「さっき、本体がここにはないって言ったろ? 本体は無くても痛みは感じてんだ。だったらよぉ、自分から自害したくなるくらいに痛めつけりゃ解決だろ!」
ここで黙っていたデンジが提案をした。
永遠の悪魔の本体はこの場に無くとも痛覚自体は通っているなら痛みを与え続けて自害するまで追い込めばいいというのだ。
確かにその方法が通用するならデンジを差し出す必要はなくなるため、一番いい選択という事になる。しかし、それが成功する確証がない以上、即決することはできない。
「確かにそれが成功するなら一番いいだろうな。だが確実な方法とは言えない。それに俺なら確実な方法を一つ用意できる」
「アキ君、それは駄目。それだけは絶対に私が許さないから」
「何じゃ? 他に方法があるなら試せばいいのじゃ! 出し惜しみをするでないわ!」
「パワーちゃん、それ以上言うなら私がまた黙らせるよ?」
「っ……」
アキが言う確実な方法と言うのは背中に背負っている特殊な形状の刀を使用するというもの。
それは寿命を代償に刀を3回突き刺した相手を呪い殺すことが可能な初見殺しの力を宿しているもので呪いの悪魔と契約したことで使用できる。
契約者によって設定される条件も変わっているため、アキの場合は寿命が代償となっているのだ。
しかし、銃の悪魔を討伐するためにはここで寿命を支払って使わせたくないというのが姫野の強い思いだった。それ以外にこれ以上、自分の相棒が死ぬのは見たくないという思いもある。
だからこそ、この案を却下していたのだ。
幽霊の悪魔の力で拘束してでもやめさせるつもりでいる。
「だったら俺がやるしかねえだろうが! 俺はこんな所で止まってる場合じゃねぇんだ!!」
デンジがごちゃごちゃ考えても何も変わらないと自身の提案を皆の意見を聞かずに遂行する。
胸元のスターターを引いてチェンソーの心臓を稼働させて、頭部全体が鋭い牙の生えたチェンソー、両腕からも腕を貫くようにチェンソーが生える。
笑い声をあげて、永遠の悪魔へと突っ込み巨大化している悪魔を切り刻む。
「悪魔?」
「あれがデンジじゃ。初めて見たら驚くのも無理ないじゃろうの。胸元のスターターを引けば、あの姿になって何度でも蘇るんじゃ。ただあの状態は血を流し続けておるからの。貧血になってしまえば、あの状態を保つことが出来ん」
初めてチェンソーの悪魔の姿になったデンジを見た者は驚き、畏怖、興奮と様々な感情を宿した。
狂ったように永遠の悪魔を切り刻み続けているデンジの姿に狂気すら感じ始めている。しかし、パワーが説明したように貧血状態に陥り、腕のチェンソーが出なくなってしまう。
「血を与えれば、あの状態を保ち続けることが出来るってこと?」
「そうじゃ。おそらく血であれば人間のものでなくとも大丈夫のはずじゃ!」
姫野は目の前の光景に興奮を覚え、デンジほど狂っているデビルハンターなら銃の悪魔を討伐することも叶うかもしれないという思いと同時に脳裏に浮かんだのは氷の悪魔であるフロストの存在。
師匠である岸辺が現れなければ、自分達を殺していたかもしれない悪魔である。あの後、契約を交わしている幽霊の悪魔から聞かされたフロストの話に恐怖を覚えた。
恐怖は悪魔を強くするということを理解しているため、畏怖の感情は抱かないようにしている。それでも目の前で殺されそうになった存在に恐怖の感情を抱かないというのは無理だった。
「デンジ! 切り裂いた悪魔から出ている血を飲め!」
「あぁ? 血、そういうことかよぉ!」
パワーの言葉を聞いたアキは戦い続けるデンジに助言を与える。
それを聞いたことで永遠の悪魔から噴き出す血を飲み、再び腕にチェンソーを出現させて切り付け始めた。永遠の悪魔も反撃を試みるが血を飲んで回復するデンジに畏怖を抱き始める。
1日、2日と悪魔を斬り続ける光景に一人、また一人と疲労が合わさったこともあってホテルのベットに倒れていく。
不意に異空間から冷気が漏れ始める。
「不完全」
「あぁ?」
「な、なんでこんなところに……!」
デンジの耳に突如、聞き覚えのない声が聞こえた。
その声と姿に永遠の悪魔は目の前のデンジの時よりも怯えた声で姿を見せた存在に目を見開いている。デンジが振り返るとそこには見たことのある人物の姿があった。
「あんときに兄ちゃんと一緒に居た女だよな?」
「……」
「無視すんなよ。あんたもここに閉じ込められたのか? もうすぐ俺が……」
デンジの記憶にあるレックスと一緒に居たフロストの姿がそこにあった。
声を掛けても無視する彼女に少しだけ苛立ちを見せたが、それでも何かあった時に助けるという約束を果たすために永遠の悪魔をチェンソーで斬りつけようとする。
しかし、身体が動かなかったのだ。
先ほどから永遠の悪魔も言葉を発しておらず、何かがおかしいと気付いた時には凍えるほどの寒さと白い世界が空間を支配していた。
「あんた悪魔だったのかよ」
「観察眼を鍛えた方がいい」
「わからねえよ、そんなもん」
「チェンソーの悪魔は死を恐れない。死ぬのは怖い?」
フロストが能力を行使したことでデンジは彼女が悪魔であることにようやく気付く。
忠告を受けてもそんなものは備えてないと告げる彼にフロストは視線を外す。凍結されている永遠の悪魔を見ながら質問をしていた。
死は怖いかという問いだ。
「この命は俺一人の命じゃねえんだ。死ぬわけにはいかねえ」
「質問の答えになってない」
「死ぬつもりはないってことだ」
「その思考、いずれ後悔する時が訪れる。絶望を味わってなお、同じことを言えるなら私は君の名を覚えてもいい」
「難しくてよくわかんねぇけどよ、俺は絶望しねぇ!」
デンジの身体は不死身だ。
血さえ十二分に確保できる手段があれば、胸元のスターターを引くことで何度でも蘇ることが出来るため死という概念からは遠い存在になっている。
それはあくまで死なない存在になっただけで無力化できないわけではない。
だからこそ、フロストは忠告する。そのままの考えでは後悔と絶望がデンジを蝕む時がやってくると。
「私の目的は果たされた。だからここに居る必要もない」
「目的?」
「知らなくてもいい。永遠の悪魔は心臓の鼓動を止める」
フロストは目的をデンジに伝えないが既に達成されているとだけ教えた。
彼女が指を弾くと永遠の悪魔ごと氷が砕け散り、永遠の悪魔が形成していた空間が解除されて永遠に続くループは終わりを迎える。
デンジが時計を見ると時計の針を前に進み始め、時間を刻み始めていた。
「すげーんだな、あんたって」
「私の事は他の人には喋らない方がいい」
「なんでだ?」
「君が討伐したと告げた方が好きな人は喜ぶ」
「マキマさんが喜んでくれるなら俺は嬉しいし、あんたにも迷惑が掛からない?」
「そう」
「だったら俺はあんたと会わなかったことにした方が良いのか?」
「知らない。決めるのはあなた」
悪魔は討伐するというのは常識だ。
公安に所属しているなら例外を除いて基本的に悪魔は討伐対象となっている。しかし、ここで例外的な処置を取られている悪魔の一人が氷の悪魔である彼女だ。
討伐するリスクとリターンが釣り合わないのだ。
デンジにそれを考える頭はまだないため、彼にとっては約束を守るためにどういう選択をすべきかという点でのみ判断を下す。
彼は永遠の悪魔を討伐する事に成功した事だけを起きた全員へと告げた。
無限にループする空間の中にフロストが姿を現したことは誰にも教えなかった。それが正しいと信じ、後悔しない選択をしたのだった。
「デンジ君、私達が眠っている間ずっと永遠の悪魔を切り続けていたの?」
「ん、あぁ、俺が切って噴き出した血を飲む、それで俺が回復。永久機関の完成で、最後には心臓を差し出して殺してくれって言ってたぜ」
「(嘘だ、デンジは嘘ついてる)」
コベニはデンジが嘘を言っていることに気付いていた。
全員が疲労と精神が疲弊して眠りに就いていた時、実はコベニが起きていた。人一倍臆病である彼女は常に周りを気にした様子を見せており、気配に敏感でもあった。
凍てつくような寒さと全身を襲う悪寒に襲われていた。
扉を少しだけ開け、その隙間から恐る恐る視線を向けていたのだ。そこから見えたのは凍り付いた氷の世界、デンジの動きを止めた女性が永遠の悪魔を殺した姿も確認している。
彼女はその事を大きな声で言う事が出来ないでいた。
その原因はフロストが去る寸前にコベニに対して視線を合わせていたことにあった。心臓の鼓動が早くなり、冷たい何かに心臓を握られているように呼吸を上手くすることが出来なかったのだ。
視界からフロストが消えたかと思えば、耳元で抑揚が感じられない声が聞こえていた。
「臆病であることは死を遠ざける」
「ひっ」
「その感覚は大事。生への執着は人間のリミッターを外すこともある」
振り向けば、真後ろにフロストが佇みコベニの超至近距離に居た。
ゆっくりと手が伸ばされ、殺されると思ったコベニは目を瞑るが痛みは襲ってこない。顎に指が添えられ、強制的にフロストの方へと顔を向かされて瞳を覗き込まれる。
「死ぬのは怖い?」
「こ、怖い。わ、私はし、死にたくない」
「あなたから人一倍死への恐怖と生への執着を感じた」
死を人一倍恐れ、生への執着がとても強いコベニにフロストが僅かに興味を抱いていた。
レックスに抱く興味とは別方向の興味であり、本人と直接話してみたいと思ったようだ。
「み、みんなはどうして起きないの?」
「凍結された時間の中では私の許可が無ければ認識できない。あなた以外の時間は凍結された」
「じ、時間を凍結させる? 何を言って……そんな馬鹿なこと」
通常ならこの距離で話しているのだからベッドで眠っているにしても気付いて動くはずだとコベニは思う。
しかし、本当に時間が止まっているかのようにアキも姫野もパワーも他の人達も身動ぎ一つしないのだ。フロストの口から語られた言葉を馬鹿げていると否定できなかった。
もし、本当にそんなことを可能とする存在から目を付けられたらと思うと恐怖が津波の様に押し寄せて来る。
「チェンソーの悪魔にも言った。ここで私を見たことは――」
「い、言いません。わ、わ、私は何も見てない! ここには私達以外、い、居なかった」
「賢い選択」
それだけ言うとフロストはコベニの顔から手を離した。
彼女の姿が見えなくなると同時に世界が色を取り戻し、コベニは自分の胸元を強く握ってその場に座り込んだ。そんなやり取りが交わされていたため、デンジの言葉を否定することはできなかった。
永遠の悪魔を殺したのはデンジではなく別の人物である。
彼女にその言葉を紡ぐ勇気はなかった。もし、その言葉を言ってしまえば自分の死を引き寄せてしまうからだ。
こうしてデンジ達は銃の悪魔の肉片を取り込んでいた永遠の悪魔の討伐に成功したことになる。
真実を知るのはデンジとコベニの二人だけだが、フロストの規格外の力を目の当たりにしたのはコベニだけだった。
フロストの力を垣間見えました。