秋空の夕食時、彼は洋食屋ユメノを訪れ、注文をする。

※今作はVtuber白兎ねむりのネタを多用しております。直接的表現をせず、ボカシて表現しておりますので、お楽しみください。

用語解説
しらと耳:白兎ねむり様の兎耳
シラート:白兎ねむり様の脂です、そう、脂


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第1話

 夏と言う空気も過ぎ去り、秋の心地いい空が広がるある日の事、暑さで疲弊していた胃袋も秋の匂いを嗅ぎつけたのか、食欲も少しずつ回復してきた気がする。

 

 秋の味覚と言えばサンマだろうか、アレは良い、内臓そのまま丸ごと焼いた秋のサンマは内臓に蓄えられた脂が焼くことによって全体に行き渡り、肉厚な身に脂が加わる。内臓があるから苦いとか、そう言うのはお呼びじゃない。

 

 しかし、時刻は昼時、夜に一杯やりながら旬のサンマを突くのであればともかく、昼に、と言うのは気分じゃない。

 

 だから彼はレトロな外観の店へと足を踏み入れた。

 

 洋食屋ユメノ、そんな名前の古めかしい店、定食屋や中華料理屋などはある程度古い物から新しい物まで想像できるのだが、どういう訳か、洋食屋と聞くと昭和なイメージが頭から離れない。

 

 しかし、良いじゃないか。レトロな門構え、アンティーク調な店内、オレンジ色の照明は温かみがあるし、古めかしさの中にも趣がある。

 

 テーブルに案内され、メニューを開く。

 

 数々のメニューを見て、ふむ、と考える。

 

 王道なハンバーグにエビフライ、そういえば最近食べていないな、なんて思ってしまうメンチカツ、わんぱくなナポリタン、オムライスとあるが、パカッと割るタイプのオムライスなのだろうか、などと遊園地のアトラクション一覧でも見るかのような高揚感を感じながら、あるメニューが目に留まる。

 

 カツレツ、トンカツではなくカツレツだ。

 

 牛のカツだろうか、鳥のカツだろうか、トンカツであればトンカツソースにからしの組み合わせがベストマッチングなのだろうが、他のカツはどうなのだろうか、普通にトンカツソースなのか、それともデミグラスソースなのだろうか。

 

 そこで冒険がてら、カツレツを注文してみることにした。

 

 昨今、分厚いトンカツが流行している。低温調理で火を通した豚肉に衣をまとわせて揚げるという工程を踏んでいるが、肉の厚みと衣のバランスが釣り合っていないのではないか、などと思ってしまう。

 

 ちなみに、トンカツとカツレツは違う。カツレツは薄切りで揚げ焼き、トンカツは分厚くたっぷりの油で揚げている。早い話、カツレツが日本に入ってきて進化してトンカツになった。

 

 そのことも考えると、レトロな趣がより一層味わい深くなるという物だ。

 

 運ばれてきたのは平皿に盛られたライス、小皿にサラダ、そしてカツレツが乗せられた平皿だ。

 

 カツレツの皿はなんというか、予想と違った。

 

 カツの上に茶色いソースが掛かった物を想像していたが、運ばれてきたのはオレンジ色のソースの上にカツレツが載った姿だった。

 

 フレンチでは絵を描くようにソースを塗るイメージはあるが、トマトベースのソースなのだろうか、皿に丸く塗るようにして広げられたソースが土台としてあり、そこにカラリと揚がったカツレツに、付け合わせのくし切りのフライドポテトとサラダ豆、そしてパセリが飾られている。

 

 一目でわかる、オシャレだ。

 

 てっきり、デミグラスソースだとか、トンカツソースやウスターソースが掛かった絵面を想像して身からすれば、とんでもなくオシャレな料理に見えてくる。

 

 もちろん、ナイフとフォークで頂く。

 

 お茶碗に箸で米を食う民族としては、平皿に米を持ってフォークで食べるというこれじゃないかんを毎回味わってこそいるが、ご飯という食べ物ではなく、ライスという食べ物として捉えれば、意外と許せるものだ。

 

 一体何の肉を使ったカツレツなのだろうか、思ったよりも細長い印象を受ける。鶏肉を開いたものならもっと幅広な気もするし、牛肉ならここまで細長くなることもないだろう。

 

 カツレツはナイフとフォークで簡単に切り分けることが出来た。そして皿のソースを付けて口に運ぶ。

 

 サクリとした軽い触感の衣、そして薄いカツレツからは想像もできないような旨味と肉汁があふれ出し、ソースと混然一体となって押し寄せてくる。噛めば噛むほど旨味が出てくるとはこのことなのだろうか。

 

 美味しい、きっといい油を使っているのだろう。

 

 トンカツを挙げる際にラードを使うという話も聞いたことがあるし、きっとこのカツレツもそれに準じて専用の油を、いや、脂を使っているのだろう。

 

 ヒレか何かの肉を使っているのだろうか、肉自体の旨味が段違いだ。

 

 そしてソース、トマトやニンジン、玉ねぎをペーストにしてブイヨンで伸ばしたものなのか、そこにウスターソースで深みを加えているのだろう、手間が掛かった美味しいソースになっている。

 

 カツと言えば衣と肉のコンビネーションこそが本領、それを考えると、揚げる油にまでこだわり、丁寧に作られたソースと一緒に頂くというのは手間暇を考えればとても贅沢な事だ。

 

 そして何より、この均一に揚げられたカツレツ、揚げ焼きとなるとどうしても温度にムラができやすいはずなのに、綺麗に揚がっている。

 

 これはもうライスも進む、ポテトにソースをつけて食べるのも楽しいし、ソースと一緒に煮たと思われるサラダ豆も美味しい。

 

 古き良きレトロなカツレツと言うのだろうか、現代のカツレツとは別種の美味しさ、楽しさがある。

 

 気づけば一皿をぺろりと平らげていた。

 

 満足感に包まれながら会計を済ませ、店を出た彼だったが、ふと疑問に思った。

 

 アレは結局、何の肉だったのだろうか、と。


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