青春を開拓する銀河打者   作:現代の弁慶

11 / 24
【イッテ青穹!〜アビドス編・第1話「暁のホルス、眠れる委員長」】

Mr.ミミ作(ナレーション口調)
「暁のホルス……かつてそう呼ばれた異名は、アビドスの栄光と共に、今や見る影もない。」
(映像:砂に埋もれたアビドス校舎、窓から差し込む陽光)
Mr.ミミ作「校舎でお日様の光に当たりながら眠る少女――
その眠りは身体的な疲れからか、それとも……」
(カメラがズームしてホシノが机に突っ伏して寝ている姿)
Mr.ミミ作「本日の主役は――アビドス高等学校三年、
アビドス対策委員会委員長の小鳥遊ホシノさんだ!!」

Mr.ミミ作「そして、今日のゲストさんは――!」

シロコ「ん、ホシノ先輩の最大の理解者……砂狼シロコ。誰にもこの称号は渡さない。」
セリカ(慌てて)
「ちょっとシロコ先輩!?変なこと言わないでくれない!?
……あっ、黒見セリカよ!」

Mr.ミミ作(少し汗をかきながら)
「あはは……ユーモアに溢れる子たちで、番組を盛り上げてくれるに違いない……」
シロコ「ん、当然。」
セリカ「(呆れながら)どこがユーモアなのよ……。」

Mr.ミミ作「さて、ホシノさんといえば“アビドスの顔”としても有名だが――」
セリカ(真剣な目で)
「ちょっと待って。カイザーの職員であるアンタのこと、私はまだ信用してないから。
もしホシノ先輩やアビドスの悪口でも言おうものなら――」
シロコ「焼き鳥にする?」

Mr.ミミ作(即座に羽をバタバタさせながら)
「やめてくれぇ〜!!私はまだ独身なんだぁぁぁ!!」

Mr.ミミ作(涙目で)
「いつも通り、ちゃんと説明するから!焼き鳥は勘弁してくれ!!」
シロコ(バーベキュー台の前で)
「ん、分かった。」
Mr.ミミ作「バーベキューの準備をしながら言わないでくれないか!?」
(セリカが頭を抱える)
「……本当にこの撮影、大丈夫なのかしら……。」

Mr.ミミ作「小鳥遊ホシノ――彼女は、存護の運命を歩む、撃種は“貫通”、装備は重装鋼のストライカーだ!」

Mr.ミミ作「彼女は折りたたみ式の大型盾と、ポンプショットガンを主に使って戦う。
この盾で、彼女は何度もアビドスを危機から護ってきたんだ。」
(映像:ホシノが盾を展開しながら銃撃を受け止めるスローモーション)
シロコ「ん、実際に役に立ってる。とても頑丈で、過去に私も壊そうとしたことがあったけど……無理だった。」

セリカ「ちょっとシロコ先輩!? 
さっきの話初めて聞いたんだけど!? どういうこと!?」
シロコ「実験。興味本位。」
Mr.ミミ作(汗をかきながら)
「わ、私の私物は壊さないでくれ……!」

 ️Mr.ミミ作「EXスキル“戦術的鎮圧”!では自身の盾を展開し、ゆっくりとターゲットに向かって前進。扇状に5回発砲し、敵に攻撃力の697%分の貫通ダメージを与える!!」

セリカ「うんうん! あれやられると大抵の奴らはみんな気絶しちゃうのよ!
だから後がすっごく楽になるの!」
シロコ「でも、ホシノ先輩自身も気絶とか妨害に弱い。
だから、指示を出すタイミングには注意が必要。」
Mr.ミミ作「なるほど……戦略的視点があってこその防衛、というわけか。」
 ️Mr.ミミ作「続いて――ノーマルスキル“応急処置”!」
(映像:ホシノが膝をつきながらも自動的に回復エフェクトが発動)
Mr.ミミ作「自身の体力が30%未満になると、自身の治癒力119%分だけ持続的に回復する!」

セリカ「まさに“難攻不落”ってやつね!」
シロコ「いつもは“睡眠必落”だけど。」
Mr.ミミ作「いや、寝落ち方面の耐性は低そうだな……」

 ️Mr.ミミ作「そして――パッシブスキル“対策委員会の委員長”では、自身の防御力を26.6%増加!
さらにサブスキル“鎮圧のベテラン”発動中は、EXスキル使用時に治癒力の205%分のシールドを自身に付与するんだ!」

Mr.ミミ作(やや興奮気味に)
「このタフネス!この防御性能!
まさにアビドスの守護者、と言えるだろう!!」
セリカ「……こうして見ると改めてホシノ先輩の凄さを感じるわね。」
(砂漠の街角、ホシノの姿が映る)
Mr.ミミ作「おっと、巡回中のホシノさん――
カイザーのオートマターに囲まれてしまったようだ!」

Mr.ミミ作「だが、彼女にとっては些細な出来事!!
すぐさまポンプショットガンを構え――ドォンッ!! 二体のオートマターを撃破!!」

Mr.ミミ作「敵も危険を感じたのか、応援を呼び集中砲火を開始!!
流石のホシノ先輩も、たまらず体力がどんどん減らされていく――!!」
シロコ(腕を組みながら)
「ん、卑怯。でも残念。
こんな簡単にやられるなら、アビドスはもう生き残ってない。」
Mr.ミミ作「その通り!!
ノーマルスキル《応急処置》を発動!! 体勢を立て直した彼女は――もう容赦しないッ!!」

Mr.ミミ作「すぐに盾を展開し、自身にバリアを付与!!
迫り来るオートマターの弾丸を防ぎながら接近――そして至近距離から銃弾の雨ッ!!」

Mr.ミミ作「敵、全滅! 状況終了――お疲れ様!!」

Mr.ミミ作「隠れたところでもアビドスを護っている……彼女には改めて感謝しないとなぁ……」

シロコ「ん。でもさっき倒されたオートマター……カイザーの所属機だったけど、カイザーの社員としてそれは大丈夫なの?」

Mr.ミミ作「問題ない!
カイザーの連中はきな臭い奴らばっかりだ!
そんなのに職場を満たされたくないね!!
それに――上層部がうちの部の経費を全然上げてくれないんだ!」

Mr.ミミ作「これぐらいなんとも――」
 ピロロロロ!ピロロロロ! 
Mr.ミミ作「失礼、はいもしもし!……ゲッ!? カイザーPMC!?はいはい、えーっと……え、えぇ!?さ、先ほどの発言で……部署の活動費と給料を70%カットぉぉぉ!?!?」

Mr.ミミ作「ちょっ、ちょっと待ってくれ!? これは取材だぞぉぉ!!って切れてる……」

セリカ(苦笑いしながら)
「あ、あのー……よかったら後で“柴崎ラーメン”に来なさいよ。
一杯なら奢ってあげるから……」

Mr.ミミ作(涙目でカメラに)
「ホシノ先輩!私の財布も……守ってくれェェェェェ!!!」



Ver1.3  強きに恐れず前へ向く過去の誓い

アコの号令と同時に、黒い制服の群れが一斉に銃を構える。

 刃のように揃った動作――訓練された動きだ。

 だが、こっちも素人じゃない。

 ムツキが、肩をぐるりと回して笑う。

 「はいは〜い、花火が咲くよ〜♡」

 ノノミもその隣でにっこり。

 「うんうん、準備完了⭐︎」

 おいおい、またロクでもないこと考えてるな――と思う間もなく、ムツキがバックを敵陣に向けて放り投げた。

 軽い金属音と共に宙を舞うバッグ。

 その中身が何なのか、俺はもう知っている。

 ――爆弾。

 ノノミが構えたリトルマシンガンを前方に向けて連射。

 放たれた弾丸が、まるで導火線のように火花を散らして、次の瞬間――

 ドォンッ!!

 爆風が地面をえぐり、風紀委員たちをまるごと吹き飛ばした。

 爆煙の中で黒い制服が次々と宙を舞い、あたりに散る。

 前方の部隊は一瞬で瓦解。

 だけど、問題はそこからだった。

 左右、そして背後――

 新たな敵影が建物の影から次々と現れる。

 カヨコがひとつ、深いため息をついた。

 「はぁ……少々、調子に乗りすぎだよ」

 そう言って、片手に持った「デモンズロア」を真上に掲げ、引き金を引く。

 ガァンッ!!

 空気が割れるような音とともに轟音が響き渡り、周囲の敵の足が止まる。

 恐怖。

 それを理解する本能的な静止。

 「社長、これで狙いやすくなったでしょ?」

 カヨコの淡々とした声に、アルが頷く。

 「ナイスよ、カヨコ!」

 アルは片手でスナイパーライフルを構え、静かにトリガーを引いた。

 バシィンッ――

 風紀委員のヘルメットが一つ、また一つと砕けていく。

 セリカはというと、まるで別人のようだった。

 突進し、愛銃を振り回し、撃ち、蹴り、殴り――

 あれはもう、銃というより打撃武器だ。

 撃つたびに硝煙と怒りが混ざり合って、戦場に火を点けていく。

 ハルカは……もう言葉にならなかった。

 「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」

 弾を受けても怯まず、狂気のまま銃を撃ち続ける。

 その姿は、まさにバーサーカー

 

 後方のアヤネがホログラム越しに通信を送ってくる。

 『医療物資、再投下します! 支援ドローンを展開しますね!』

 画面越しでも、その声には焦りよりも信頼があった。

 このチームなら、やれる。

 そして――

 次の出番は、俺とシロコだ。

 「いくよ、銀河打者」

 「――ああ!」

 シロコがドローンを起動。

 四機の機体が唸りを上げ、空を切るように飛び立つ。

 自動追尾システムが作動し、レーザーの雨が敵を穿ち始めた。

 俺は、その背中を見て笑う。

 ほんと、頼りになるやつだ。

 シロコが俺に向かってグレネードを投げた。

 俺はバットを構える。

 重力の感覚が指先に伝わる。

 カキィン!

 弾丸じゃない――爆弾だ。

 次々と打ち返す。

 飛んでいくたび、空が一瞬光り、地面が揺れる。

 打球音と爆音が交錯して、戦場が音楽みたいに鳴っていた。

 俺の鼓動はもうリズムになっていた。

 この混沌を、ひとつの“試合”みたいに感じている。

 ゾクゾクする。

 生きている感覚が全身を駆け巡る。

 「このままでも十分終わらせられる……けど、せっかくだ」

 俺はバットを戻し、槍を手に取った。

 柄を握ると、炎が咲く。

 赤く、燃えるように、そして狂おしいほど美しく。

 槍を地面に突き立てる。

 瞬間、炎が地を這い、周囲へ広がっていく。

 熱気が頬を撫で、爆ぜる音が鼓膜を打つ。

 俺の視界が、赤と金色で染まる。

 「――特大の花火を上げてやる!!」

 火柱が空を裂くように立ち上がり、爆炎が風紀委員の隊列を飲み込んだ。

―戦場は、沈黙に似た轟音で満ちていた。

 銃声も爆風も、もう耳が慣れすぎて、ただの環境音のように聞こえる。

 だがその裏で、確実に“崩壊”の気配が漂っていた。

 アコの背後では通信の声が途切れず鳴り響いている。

 「第一中隊、三個小隊行動不能! 退却します!」

 「第三中隊、負傷者多数! 戦闘続行不可能です!」

 断末魔に似た報告が次々と重なり、通信の光が点滅するたび、アコの顔色が僅かに曇っていく。

 ――そりゃそうだ。

 数で押しても、士気が砕けりゃ意味がない。

 俺の仲間たちはまだ誰一人、膝をついていない。

 『………成程、大体把握出来ました、先生の持つ能力というものを』

 アコが息を吐くように呟いた。

 俺のほうへ向けるその瞳は、興味と畏怖のあいだを揺れている。

 『予想を遥かに上回っています、素晴らしい、決して甘く見ていたつもりはありませんが、もっと慎重に事を進めるべきだったかもしれません』

 穏やかな声色のくせに、悔しさを押し殺すような抑揚だった。

 俺は鼻で笑ってやる。

 「なんだ?今さら気づいたのか?」

 軽く肩を回しながら、槍の柄で瓦礫をどける。

 「今なら謝罪を受け入れてやるぞ。ゲヘナのゴミ一年分の献上、あと――お前が好きそうなわんわんプレイを全国放送で流しながらキヴォトス中をまわってもらう!」

 口をついて出るのは、いつもの調子。

 戦場の空気が重くなるたびに、つい茶化してしまう――それが俺の癖だ。

 ムツキが吹き出す。

 「わんわんプレイ!?いいね〜♡ それ私も首輪買って引っ張ってみようかなぁ」

 アルが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 「ちょっと!?なんで私の方を見るのよ!!」

 シロコは無表情のまま、ぽつりと呟く。

 「わんわんプレイ……」

 セリカがため息をつく。

 「こんなところまで来て恥かかせるの、やめてくれない?」

 緊張がほぐれる。

 ほんの一瞬でも、笑いが混じると戦場の息苦しさが消えるんだ。

 アコは笑みを貼り付けたまま、淡々とした声で返す。

 「フッ、何を勘違いなされているのか分かりませんが、私は謝る気はありませんよ」

 「今すぐにでも第八――」

 腕を振り下ろそうとした、その瞬間。

 不意に、空気が震えた。

 ――ピピピピッ。

 アコのタブレットから通信音。

 その顔に、初めて明確な“焦り”が滲んだ。

 何かを隠していた奴ほど、こういうときの反応は分かりやすい。

 ホログラムが展開される。

 白髪、角、背丈に見合わない機関銃。

 そして、凍りついたような無表情。

 『――アコ』

 その一言で、戦場の空気が一変した。

 アコが跳ねるように背筋を伸ばし、青ざめた顔で叫ぶ。

 『ひ、ヒナ委員長!?』

 俺たちも思わず動きを止めた。

 風紀委員会の“委員長”。

 つまり、あのヨコチチの上司だ。

 セリカが小さく息を呑む。

 「委員長って……ゲヘナ風紀委員会のトップ!?」

 その制服の袖に刻まれた『風紀』の文字が、やけに冷たく光って見えた。

 アコは必死に取り繕おうとしていた。

 『げ、ゲヘナ郊外の市内を、風紀委員メンバーとパトロール中でして――!』

 必死の笑顔、しかし声は裏返っている。

 なるほどな。

 やっぱり、あのヨコチチの独断行動だったか。

 俺はすかさず声を張った。

 「スイマセーン! そこの痴女が勝手に俺たちに向けて砲弾を放ってきたんだ!!」

 アコが叫ぶ。

 「ちょっ、黙っててください!!」

 「突然の攻撃で対応できなくてさ〜、おかげで全身粉砕骨折してるんだよ!」

 「アレだけ暴れ回っておきながら何をーー!」

 『アコ?』

 ヒナの静かな声が響く。

 たった一言で、アコは直立不動になった。

 「す、すいません……!」

 俺は追い打ちをかける。

 「それでなんだが、慰謝料として金のゴミ箱をくれないか?」

 『金の……ゴミ……?』

 ヒナの眉がわずかに動いた。

 セリカが小声で呟く。

 「やりとりが完全にヤンキーのそれなんだけど……」

 アヤネの声が後方から飛ぶ。

 『銀河打者さん!委員長も困っています!状況の報告だけにしてください!!』

 アコは冷や汗を垂らしながら、震える声で口を開いた。

 『そ、そのぅ……今すぐ迅速に処理しなくてはならない案件がありまして、後ほど――』

 だが、その嘘は、もう通用しなかった。

 ヒナの声が、冷たく降る。

 『他の学園の自治区で、風紀委員を独断で運用しなければならない様な事が?』

 ――その声が、ホログラム越しではなく、すぐ“傍”から聞こえた。

 全員の動きが止まる。

 音が消える。

 視線が一斉に、声の方へ向いた。

 そこに――いた。

 風紀委員の列の中、ひとりだけ“圧”が違う存在。

 長物の銃を肩に担ぎ、風に揺れるロングコートの袖に『風紀』の文字。

 その眼差しは、まるで全てを見透かしているようで。

 イオリが悲鳴に近い声を上げた。

 「い、委員長ぉ!? 一体いつから!?」

 俺は、吹き出しそうになるのを必死に堪えた。

 まるで幽霊でも見たかのような顔だ。

 ――けど、確かに理解した。

 この場の“空気”が、一気に別の段階へと変わったことを。

 風が止み、焦げた匂いの中で、俺は思わず口角を上げた。

俺の視線と、彼女――風紀委員長・空崎ヒナの視線がぶつかった。

 一瞬だった。

 でも、その“一瞬”が妙に長い。

 互いの距離は遠く、顔の輪郭が霞むほど離れているのに、まるで至近距離で睨み合っているような錯覚に陥った。

 ヒナの瞳は、氷みたいに静かだった。

 研ぎ澄まされた理性の奥に、ほんのわずかに――炎がある。

 冷たいのに、焼けるような視線。

 その矛盾に、胸の奥がざらついた。

 ……が、同時に俺の脳裏をよぎったのは、別の感想だった。

 ――頭、モップだな。

 もじゃもじゃの白髪が光を反射して、まるで掃除用具。

 「あれがあれば、相当ゴミ集めが捗りそうだ」

 そんなくだらない考えが浮かんでしまった自分に、少しだけ苦笑する。

 でも、そのどうしようもない思考の軽さが、逆に助けてくれた。

 心が凍りつきそうな緊張の中で、俺は俺でいられた。

 互いに視線を交わしたのは、ほんの一瞬。

 それだけで十分だった。

 ヒナは俺を見て、何かを測るようにほんの僅かに目を細め、それから冷たく切り捨てるように声を発した。

 「――アコ。この状況、説明して……一から十まで、全部」

 その声音に、風が止まった気がした。

 空気が固まる。

 あのアコですら、まるで氷の上に立つような硬直を見せている。

 アヤネの報告が聞こえた。

 「ゲヘナ風紀委員長――空崎ヒナ……! 外見情報も一致します、間違いなく本人です!」

 カヨコが息を詰めるように呟く。

 「――ちょっと、これは……まずいね」

 ヒナ。

 ゲヘナ自治区をまとめ上げる風紀委員会のトップ。

 自由と混沌の街を“秩序”で縛る存在。

 その名を聞くだけで、誰もが背筋を伸ばす。

 目の前の彼女から放たれる気配は、静かな殺気にも似ていた。

 戦う前から“勝てない”と悟らせる圧。

 カヨコの顔にも、それがはっきりと出ている。

 「ゲヘナにおいてトップの戦闘力……この状況で向こうに味方されたら、勝ち目が完全になくなる」

 その言葉は、理屈じゃなく“本能”の声だった。

 だが――ムツキが呑気に首を傾げる。

 「でも、なんか向こうの雰囲気悪くな~い?」

 ノノミも頷きながら言う。

 「そうですね、少し静観しましょう、もしかしたら――」

 確かに、その通りだった。

 ヒナの周囲だけ、空気がまるで別世界みたいに冷えている。

 並んだ風紀委員たちは、まるで葬式みたいな顔で整列していた。

 ピシッと背筋を伸ばしてはいるが、その背中には滝のような冷汗が流れている。

 ヒナの声が、氷柱のように落ちた。

 「便利屋68の事? それにしては少々大勢いる様に見えるけれど、シャーレにアビドス――何故、彼女達と戦闘状態になっているの? そもそも、私はこの作戦行動を認知していない。自治区を越えた作戦行動には、事前に私の認可が必要な筈」

 ああ、もう完全に詰んでるな。

 声のトーンが違う。

 あれは“怒ってる”というより、“処刑を決めた”音だ。

 アコがしどろもどろに言い訳を重ねる。

 『え、えっと……委員長、全て説明いたしますので、どうか――』

 だが、ヒナはその言葉を最後まで聞かない。

 「――………いや、もう良い。大体把握した」

 その一言が、アコの喉を完全に塞いだ。

 ヒナの目が動く。

 整列した中隊、瓦礫の上の俺たち、シャーレの通信端末。

 その全てをわずかに見渡すだけで、彼女は全貌を理解していた。

 「察するに、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういう政治的な活動の一環ってところね」

 冷静な声が、空気を切る。

 「でもアコ。私達は風紀委員会であって、生徒会じゃない。――シャーレ、ティーパーティー、それに失踪した連邦生徒会長。そういうのは【万魔殿】パンデモニウム・ソサエティのタヌキ達にでも任せておけば良い。この行動は、私達風紀委員会の領分を越えている」

 その理屈は、鋭くて正しい。

 でも、同時に――恐ろしく冷たい。

 アコは言葉を飲み込み、肩を落とした。

 まるで巨大な刃の前で、自分の首を差し出すように。

 「……詳しい話は帰ってから。この場で弁明は聞かない。通信を切って、校舎で謹慎していなさい」

 その“命令”には、どんな感情もなかった。

 怒りも、悲しみも、憐れみも。

 ただ、“秩序”という名の冷徹な意志だけがあった。

 『――はい、了解しました……』

 アコの声が震えた瞬間、通信が途切れる。

 ヒナはもう、興味を失ったように視線を外した。

 沈黙が、戻る。

 戦場の残骸の中で、誰もが息を潜めていた。

 風が吹く。瓦礫の上の灰を舞い上げ、遠くの陽炎が揺れる。

 ……俺はそんな中で、ふとヒナを見た。

 静かに立つその姿。

 規律の化身のようで、けれど――

 どこか、人間味の欠片すら見せないほどに美しかった。

 そして、心の奥で思う。

 ――ああ、やっぱりモップだな。

 でも、多分あの髪、ネット民からしたらめっちゃ高級なやつだ。

ふざけた考えと裏腹に戦場に残った硝煙がまだ地面を撫でていた。焦げたアスファルトの匂いと、微かに残る火薬の残り香。

 その中で、ヒナはひとり静かに立っていた。

 周囲の騒めきを、まるで無音に変えてしまうような存在感だった。

 「……この場に、交渉を担当する生徒は?」

 低く、けれど澄んだ声。

 命令でも威圧でもない。ただ言葉そのものに重みがあった。

 空気が一瞬、張り詰める。

 アヤネが一歩前に出た。

 「――こちらアビドス対策委員会所属、奥空アヤネです。風紀委員長のヒナさん、で宜しいでしょうか」

 「えぇ、そう」

 ヒナの返答は短い。だが、その一言で周囲の風が止んだ気がした。

 「……現状は把握されていますか?」

 「事前通達なしでの他校自治区に於ける無断兵力運用、及び他校生徒との衝突。――今回の件、風紀委員会を代表して謝罪する」

 謝罪。

 その言葉が出た瞬間、俺は思わず眉を上げた。

 あの氷のような女が、頭を下げた。

 まるで機械みたいに完璧な動作で。

 “謝る”というより、“処理する”といった方が正しいかもしれない。

 「今すぐにでも兵を撤退させるから」

 静かな声に、アヤネも少し拍子抜けしたように瞬きをする。

 『は、はぁ……すぐに謝罪していただき、私たちとしてもこれ以上望むことはありません』

 ああ、終わる――そう思った、その時。

 ヒナがふと、視線をこちらに向けた。

 「……ひとつ頼んでもいい?」

 アヤネが小さく頷く。「はい、なんでしょうか」

 「小鳥遊ホシノはどこ?」

 ――その名を聞いた瞬間、空気がわずかに動いた。

 アヤネの眉がぴくりと跳ねる。

 『ホ、ホシノ先輩ですか? ホシノ先輩は休日で……呼んでも来なくて。あの……お知り合いですか?』

 「そういうわけじゃない。在校生名簿を来る前に確認したら、いたから。……そう、今はいないの」

 その声には、ほんの少しだけ“感情”の影が混ざっていた。

 驚きでも、懐かしさでもなく――何か確かめたいという“興味”。

 俺が口を開こうとしたその瞬間だった。

 「――あ、噂をすれば」

 足音。

 みんなが一斉に振り返る。

 瓦礫の向こうから、いつものだらしない歩調が聞こえてくる。

 ホシノだった。

 さっきまで走っていたのだろう。頬にかかった髪を手で払い、皆の視線を感じ取ると、わざとらしく肩をすくめてゆっくり歩いてきた。

 どんな状況でも“マイペース”を貫くその姿は、いつ見ても不思議な安心感と、同時に少しの呆れを呼ぶ。

 ヒナの瞳がわずかに揺れた。

 それは、機械がわずかにノイズを走らせたみたいな、一瞬の乱れだった。

 ホシノ「うへー……遅刻しちゃったー? ごめんねー。お昼寝が気持ちよくてさー」

 ――お昼寝。

 この修羅場で寝てたのか。

 次からはバットで叩き起こしてやろう。

 セリカが肩を怒らせる。「昼寝ぇ!? こっちは色々大変だったのに!?」

 シロコは淡々と付け加える。「ん。でも大体片付いてる」

 アヤネが肩を落とした。「これから大変になりそうですが……」

 ホシノは肩をすくめた。

 「……そうみたいだねー。制服からしてゲヘナの風紀委員会でしょ? アルちゃんたちでも追ってきたの?」

 ヒナは答えない。

 ただ、静かに彼女を見つめる。

 その無言の視線の重さが、見ているこっちにまで刺さってくる。

 ホシノも、微笑を浮かべたまま、視線を返す。

 互いの眼差しが交差する。

 ――この瞬間、何かが軋んだ。

 「……なんでもいいけどさー。対策委員会はこれで勢揃いだけど。やり合う? ゲヘナの風紀委員長ちゃん」

 ヒナの眉がわずかに動く。

 「……一年生の時とは随分変わった」

 「ありゃ、会ったことあったっけ?」

 「いいえ。ただ、ゲヘナでは調べ物をすることが多かったから。……アビドスの事件も知ってる」

 空気が、凍る。

 その言葉を聞いた瞬間、ホシノの笑みが少しだけ硬くなった。

 「……あの事件の後、アビドスを去ったと思っていたのだけど」

 ホシノが顔を上げる。

 その瞳の奥に、わずかな影が揺れた。

 「――悪いけれど、あまり掘り下げないで欲しいな」

 声は穏やかだったが、そこにあるのは拒絶だった。

 「私の『記憶』は、私だけのものだよ」

 その瞬間、ヒナの視線がわずかに柔らぐ。

 何かを理解したように、小さく頷き――そして再び冷徹な表情に戻った。

 「……便利屋68達は、こっちでもかなりの問題行動を起こしていて。――今すぐにでも捕まえてゲヘナに持って帰りたいんだけど」

 「ひゃ、ひゃあぁあ!?」

 アルが情けない悲鳴を上げ、後ずさる。セリカも構えを取る。ノノミの指がトリガーにかかる。

 俺は、その前に立った。

 反射的に。

 体が勝手に動いた。

 「……そうさせてはくれなさそうね」

 ヒナが僅かに目を細める。

 「……」

 俺は何も言わずに彼女を見返した。

 彼女の冷たい瞳の奥に映るのは、俺たちの影。

 恐れも迷いもない――ただ、守る覚悟だけがそこにあった。

 火薬の匂いがまだ鼻を刺している。

 この空気を裂くように、風が吹いた。

空気が、まるで針のように張り詰めていた。

 砂埃が一つ、光の中を漂い、それすらも動きをためらうようにゆっくりと沈んでいく。

 その静寂を破ったのは、ヒナの低い声だった。

 「……シャーレ。そうまでして、便利屋達を守るのはなぜ?」

 静かな声。だが、そこに宿る圧力は尋常じゃなかった。

 この女――風紀委員長ヒナ。

 言葉の一つひとつが、まるでナイフみたいに鋭い。

 俺はチラと背後を見た。

 アルは震えながら俺の背中に隠れ、ムツキはカメラの電源を入れてふざけ、カヨコは呆れ顔をしている。

 どう見ても“守る価値があるのか疑わしい連中”だが……それでも。

 ――言うまでもない。

 俺は、彼女たちを仲間だと認識している。

 それだけは、誰にも否定させない。

 「俺は、銀河を回って“開拓”する開拓者だ。俺は彼女たちを仲間だと思っている」

 ヒナの眉が僅かに動いた。

 「……開拓?」

 「人生に“後退”の文字がないように、“開拓”の道に仲間を見捨てるという選択肢はない!」

 その瞬間、周囲がざわつくのがわかった。

 誰かが息を呑み、誰かが呆れたようにため息をつく。

 でも、俺は構わなかった。

 ヒナは少し俯いた後、視線を鋭く上げてくる。

 ――来るな、と思った。

 次の言葉が。

 「さっき、うちの大部隊に攻撃をしたそうだけど……こうは考えなかったの? 相手が、自分よりも強かったらって」

 その瞳の奥には、怒りじゃない。警告でもない。

 ただ、“現実”を突きつけるような冷静さがあった。

 「貴方はこの世界のことをまだ知らないから、そんな事が言えるのだと思う」

 「この世界には、私よりも厄介な存在や、面倒くさい連中がたくさんいる」

 ――それは、たぶん事実だ。

 俺はまだ、この世界を全部知らない。

 けれど。

 「それらが立ちはだかった時、貴方はどうするの? その相手が……私だったら?」

 バサッ――!!

 風が吹き荒れた。

 ヒナが翼を広げた瞬間、あたりの空気が震える。

 まるで巨大な鳥が今にも襲いかかってくるような圧。

 アビドスの生徒たちも、風紀委員会の兵たちでさえ冷や汗を流していた。

 けれど――俺は、そこまで恐ろしくはなかった。

 むしろその姿を見て、どこか懐かしさを覚えた。

 “力”で押し潰そうとする誰かに、立ち向かったことが何度もあったからだ。

 「確かに、俺はこの世界のことをあまり知らない。俺より強い奴がいるかもしれない……もしかしたら!」

 「なんでそこだけ強調するんですか!?」と、アヤネの困惑した声が飛んできたが、俺は続けた。

 「だが逆に問う――お前は“外の世界”について何か知っているのか?」

 ヒナが目を細める。「……外の世界?」

 「俺は外の世界で何度も宇宙の危機を救ってきた。命懸けの戦いも、何度もしてきた」

 「自分より強い敵が現れたら? そんなの、仲間と共に戦えばいい」

 「一人でダメなら二人。二人でダメなら三人」

 「どんな強大な敵にも屈さず、“悪”と戦う。その『開拓』の道において――仲間を見捨てる奴に仲間はできない!」

 声が自然と大きくなる。

 熱が、胸の奥からせり上がってくる。

 「だから俺たちは、彼女たちを渡さない!」

 ――宣戦布告。

 そう言っても差し支えないほどの言葉だった。

 ヒナはしばらく無言のまま俺を見つめ、それから――わずかに笑った。

 その笑みには、あきれと、少しの感心が混ざっていた。

 「……撤収準備。帰るよ」

 イオリが戸惑いながら「で、でも――」と口を開くが、ヒナが静かに睨む。

 「聞こえなかった?」

 イオリはぴたりと口を閉じ、「……分かった」とだけ呟いた。

 ヒナがふいに俺の背中を覗き込むようにして言う。

 「便利屋68」

 「ひぃっ!」と、アルが悲鳴を上げて完全に石像化した。

 ヒナの視線は冷たく、それでいて挑戦的だった。

 「ゲヘナ自治区に足を踏み入れる時は、覚悟すると良い」

 「ひぃ……!」

 アルの白目がまた見えた。ムツキが嬉々としてスマホを取り出す。

 「アルちゃんまた白目剥いちゃった~。写真撮っとこ」

 「そんなの撮ってどうするのさ……」とカヨコが呆れる。

 「ん~額縁に入れて飾るとか?」

 「それなら、私にも一枚……」とハルカが遠慮がちに手を挙げる。

 「じゃあ俺は写真集にして出したいからたくさんくれ」

 「ただの嫌がらせだよ、それ」

 ――この空気の落差よ。

 さっきまで戦争一歩手前だったのに、今はもう漫才だ。

 でも、この緩さがきっと、アビドスという街の“生きる力”なんだと思う。

 ヒナは小さく息を吐き、風紀委員会の撤収を見守りながら、ふと俺に近づいてきた。

 距離はわずか二歩。

 互いの息が混じるくらいの距離で、囁く。

 「――シャーレ。いや、開拓者」

 「アビドス校の問題についてだけれど、少し話しておきたいことがある」

 「なんだ? 金のゴミ箱の話か?」

 ヒナは一瞬だけ面食らったように瞬きをした。

 「……それについては知らない」

 「アビドスの“棄てられた砂漠”。あそこで、カイザーコーポレーションが何かを企んでいる」

 「……この情報は、万魔殿もティーパーティーも掴んでいないはずよ」

 俺は少しだけ笑って返した。

 「さすがモップ。ゴミだけじゃなくて、情報収集もできるんだな」

 ヒナは肩をすくめた。

 「……頼もしいのか、そうじゃないのか、よく分からない人ね」

 その言葉に、俺は胸を張る。

 「まぁ良い。伝えるには伝えたから……私達はもう行く。またね、開拓者」

 「ああ」

 ヒナが背を向けた時、ふと思い出したように振り返る。

 「そうだ、最後に一つ」

 「……?」

 「アコに、“次会ったらわんわんプレイを所望する”って伝えておいて」

 「え!? いいのか!? やって!」

 「……で、金のゴミ箱は?」

 ヒナは無言で、心底呆れたようにため息をつき、

 翼をたたんで歩き出した。

 砂塵が舞い、彼女の後ろ姿を包み込む。

 その背中は――まるで一枚の羽のように、静かで、強く、美しかった。

ヒナたちが去ったあとも、俺の頭の中には彼女の最後の言葉が引っかかっていた――“アビドスの棄てられた砂漠”。

 その名前が、やけに胸の奥をざわつかせる。

 あの夢の中で見た光景。燃える砂と、崩れ落ちる都市の影。まるでそれが現実の延長線にあるような、そんな嫌な予感がしてならなかった。

 そんな中、不意にセリカが声をかけてきた。

 「ねぇ、さっき何を話してたの?」

 俺は腕を組み、少し得意げに顎を上げる。

 「――あぁ、あのヨコチチに“わんわんプレイ”をしていいってことを話してたんだ。」

 瞬間、セリカの眉がピクンと跳ね上がった。

 「何よそれ!? もっとまともな会話はできないの!?」

 その反応があまりにもテンプレすぎて、逆に笑ってしまいそうになる。

 だが俺は肩をすくめ、もう一つ思い出したように言葉を足した。

 「あとついでに、アビドス砂漠でカイザーが何かを探してるって言ってたな」

 『なんでそれが“ついで”なんですか!? それが本題でしょう!』

 アヤネのホログラム越しのツッコミが飛んできた。声は冷静なのに、額には明らかに怒りマークが浮かんでいる。

 俺は苦笑しつつ頭をかく。

 するとノノミが両手をぱんと叩いた。

 「まぁまぁ、暇があるなら行ってみませんか? アビドス砂漠に!」

 その瞳は、どこか探検前の子どものように輝いていた。

 「ん、賛成」

 と、短く言葉を添えたのはシロコ。

 その静かな声に、全員の視線が自然と集まる。

 シロコは風に靡く白髪を指で押さえながら、まっすぐ俺を見る。

 「ホシノ先輩も、いいよね?」

 その問いに、ホシノは少しだけ目を細めた。

 さっきまでの陽気さが影を潜め、どこか遠くを見るような視線。

 「…………」

 沈黙が一瞬、場を支配する。

 やがて彼女は小さく息を吐いて――笑った。

 「いいよ、みんなが行くなら」

 その笑顔は、いつもの気だるげなものとは違っていた。

 どこか、覚悟のようなものが滲んでいた。

 ――なんだ?

 あの時のヒナの反応といい、ホシノも何か知っている……いや、“隠している”のか?

 彼女の視線の奥に一瞬だけ見えた“影”が、どうしても気になって仕方がなかった。

 「……決まりだね」

 シロコの言葉が、砂塵の中で小さく響く。

 俺は深く頷いた。

 胸の中に、またひとつ火が灯る。

 「行こう。――アビドス砂漠へ」

 その言葉と同時に、遠くで風が鳴った。

 砂が渦を巻き、地平線の彼方へと流れていく。

 まるでその先に、まだ見ぬ“真実”が待っているかのように。

ーーーーーーーーーー

 

「あっ柴大将のお見舞いをしてからだからね!」

 

 




続く

今回の開拓の旅はひとまずここまで、次回をお楽しみに

Mr.ミミ作のコーナーの今後

  • 新キャラの方がいい
  • ストーリーに関係するキャラがいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。