TS愛され悪役トリックスターになって背後から胸を貫いてみんなを驚かせるやつやりつつ鬱原作をハピエンにしたい! 作:覚絵テネ
「心配無用です、我が師よ。元より.....船の予約などしておりませんので。」
「なっ!?」
ぐさり、と男は自分の胸から生えた短剣を数秒見つめ、ようやく事態を把握したようだった。
自らの弟子に後ろから刺されたのだ。
「図ったな、下郎め.....!」
男は倒れ込み、裏切った弟子を最後の力で睨みつける。
弟子の顔は愉悦に染まっていた。
_____________________
「かっけぇ......。俺もこれやりてえ.....できれば手刀でさあ!」
寝る前に俺はスマホでアニメのクリップを何回も再生していた。
暗い微笑みを浮かべ、背後から一撃で重要人物を仕留める――
不意の一撃で重要人物が死に、事態は急変、主人公をはじめとした誰もが慌てふためき、額に汗を浮かべる。その中で一突きをした本人だけが涼しげに笑みを浮かべる。
そんなトリックスターに俺はなりたいぜ!
…とはいえ、現実の俺はただの冴えないおっさんだ。刺す理由も相手もいないし、刺したら普通に逮捕される。
だから、いつものように明日の仕事に備えてスマホを切り、眠りについた。 だが、目が覚めると――
「草、転生したじゃん。」
鏡に映る自分は美少女だし胸を触るともちもちおっぱいがついているし股間には相棒がない。
異世界転生って本当にあるんだなすげー。ん、適応が早い?転生モノ読み込んでたからね。
さて、転生したからにはやることが山積みだ。
やることといえば、そう.......ええとそう、つまり.......そう、いっぱいある。
「いっぱいありすぎて逆に思いつかねえな。てか独り言呟くにしても、前世だとただの不気味なおっさんだけど、この美少女ボディーでやれば普通に可愛い。最高か?」
あ、そうそう、まずは外見チェックだろ。
肌や髪がサラサラぷにぷになのは言うまでもないだろう。TS美少女が完璧美少女なのは世界の理なのだから。よく『ブスがTSしてもブスのままだろ』とかいう奴がいるけどバカじゃねーのと思う。
鏡に映る姿を確認する。
うん、まず顔面は最強。線が細くてお上品な感じ。
次に特徴的なのは腰まで届く銀髪。そして血のように大きく紅い瞳だ。ていうか、何だこの紅。血のような不気味な色。
「ん、この顔どっかで見たことあんな...あっ。げっ、フェイカーだ。これ原作付き転生ってやつか?」
フェイカー。
魔法少女と魔人の戦いを描く現代ファンタジー『トーキョーマジカルデストロイ(略称トーデス、既刊29巻)』に、敵である魔人として登場するキャラクターだ。
公式プロフィールは「夜を支配する吸血鬼型魔人。人間を憎む他の魔人たちとは何か別の目的を持っているようだ。飄々としてつかみどころがなく、敵味方問わず心を惹きつける魔性の持ち主」。
物語のキーパーソンで、重要な局面には必ず絡んでくる人気キャラ…と思いきや、実は「トーデス」でダントツに嫌われているキャラだ。
理由はいくらでもある。
シリアスなシーンにヘラヘラしながら現れ、他キャラを嗤いながら見せ場を奪っていく。仕掛ける計略はガバガバなのに必ずうまくいく。善行を重ね続けてきた主人公より大衆に愛される。基本的に他のキャラを下げる形で株を上げる。フェイカーと関わると登場人物のIQが下がる。
挙句、無辜の民を虐殺したり、人気キャラを背後から『胸ズド』して退場させたり。などなど悪行を重ね続けた挙句、最後は「ただ普通の女の子として生きてみたかった.....。」みたいなことを言いながら死んでいく。
戦っていた主人公たちは涙して「本当に殺してよかったのか」と葛藤を始めるが、読者は「え、壮大な目的とか何もなく悦楽のためだけに殺しまくってたんですか?」と困惑した。
作者の寵愛を一身に受け、キャラクターたちからも何をしても肯定されるうすっっっぺらい超絶ご都合主義キャラ。
それがフェイカーだ。
そして、それが俺の転生先のようだ。
うお、最悪。
ちなみに俺もフェイカーのことが嫌いである。こいつのせいで推しが死んだからね。
「はーーーーーーーっ」
ため息を吐いていると、コンコンコン、とノックの音がした。
ううん、来客か。
というか今更ながらここはどこだ?
内装からしてフェイカーの私室かな?となるとフェイカー.....今の俺に敵対的な人物ではないはず。
「入っていーよ。」
キイ、と軽く軋む音と共にドアが開く。
「おや、もうお目覚めでしたか?」
その鈴の鳴るような声を耳にした瞬間、俺の心臓が高鳴った。
入ってきたのはミニスカメイド服に長い黒髪をツインテにした少女。紅い瞳と八重歯が吸血鬼であることを示している。彼女の名はそう___アスターだ。
原作開始前にフェイカーに血を吸われ、眷属になった少女である。忠誠に厚く、奔放な主人を文句言わず支える良い子である。別名部下にいて欲しいランキングぶっちぎり一位。
しかし『トーデス』15巻で主人公たちと対決。敗れ、情報を携えて戻るも「役立たずはどこまで行っても役立たずですねえ」と殺される。
その時のアスターが魔人になる前の回想がほんとに悲惨なんだよな。
「うおおおおごめんねえっアスターちゃん!?!?!?」
「きゃっ!?け、フェイカー様、どうされたのです...?」
「好きだった!君が死んだ時マジでもうトーデス追うのやめようかと思った!ありがとう、生きててくれてありがとう,,,!」
「は、はあ...?」
「絶対死なせないからな...!」
「あ、ありがとうございます。」
あ、まずい。
推しに会えたショックで舞い上がってしまった。
どうすんだこれ。アスターちゃん顔を真っ赤にしてるよ。この顔色、前世でじーちゃんが盆栽を割られた時にしてた色だ。多分ガチギレ寸前である。まあ俺みたいなキモいのにいきなり抱きつかれたらそうだよな。ここが魔王城じゃなければセクハラで訴えられるだろう。
急いでとりなそう。
「あ、ごめんごめん。その、悪い夢を見てしまってね。錯乱していたんだよねえ。」
フェイカーの口調をうろ覚えで再現する。多分こんな感じか?フェイカーが登場するコマだけ指で隠しながら読んでたからあんまり覚えてないや。
「そ、そうですか......。あの、私は、その頼っていただけるならその方が...」
アスターが小声で何か喋っている。
多分小声にならざるを得ないくらいひっでー怒りのセリフを吐いているのだろう。
さっさと話題を変えねば。
「それでアスターちゃん。」
「え、お名前で私を呼んでくださるのですか...?」
え、名前で呼ぶのすらダメなの?くっそー。この体が悪いよこの体がー。
「え、ええと。何の用なのかな?」
「あ、はい。魔人会議が始まって30分経ちましたので、起こしにまいりました...。」
「魔人会議...あー。」
漫画でよくある敵の幹部が集って会議するやつである。
俺ことフェイカーの役職は四天王の一角・『道化師』。唯一トップである魔王にタメ口を聞くことを許されている。
「ちなみにさ、それ多分絶対に遅れちゃダメなやつじゃない?10分前集合じゃ遅くて、30分前には席に座ってるのが望ましいやつじゃない?」
「え、ええ。しかしフェイカー様は毎回始まって30分経ってから身支度を始められますよね?」
「えっ?」
マジかよ。原作で描写されなかった部分だけど......フェイカー社会を舐めすぎだろ。よくこんなんで許されてるな。
一応言っておくと魔王軍はアットホームな職場ではなく、ミスをした部下にはしょっちゅう流血を伴う制裁がマストなブラック職場である。時にはちゃんとした理由もなく魔王様の一存で粛清されることもある。そんな職場で飄々としているフェイカーかっこい〜、という作者の思惑が見える見える。
うーん、胃が痛え。
俺の前世はいくらでも替えが効く底辺サラリーマン。ある朝起きたら遅刻確定しててパニックになり救急車を呼んだという逸話がある。あ、やべ思い出すだけで胃が若干痛くなってきた。
これからどうしよう。土下座しながら会議に参加するか?それとも腹が痛くなり動けませんってアスターに伝えてもらうか?
どうしようどうしよう......。
「本日の朝食.....と言ってももう14時ですが。ポーチドサーモンの柚子風味ディルソース添えとルッコラのサラダを用意しております。付け合わせはカンパーニュでよろしいですか?」
「......え?今私たち魔人会議の話をしてなかったかな?」
「え、ええ。」
なら、今考えるべきは朝食ではなくどうやって上司の怒りを買わないかでは?
「しかしフェイカー様は優雅に朝食を堪能しながら怒号飛び交う会議の様子を盗聴され、結論が出そうになったタイミングで茶々を出し、収拾がつかなくなると帰ってくるのが趣味ではありませんか。」
「しないよっ!?!?!?どういう悪魔かなソレ!?」
え、何それ???
会議をサボって私欲を優先し、荒らして帰るって…マジで害悪すぎる! リアリティがある分なまじきつい。
残された奴らは何時間残業すんだよ?
「......い、今すぐ会議に行くよ!」
「え、そのまま出かけられるのですか?二度寝は?香水は.....?」
「な、何でもいいから最速で行くよう!」
会議をサボって惰眠を貪るなんて俺の心臓では無理だ。
それに今がもし、一巻時点なら......急がないといけない。
もしTSしたら(めちゃくちゃ美少女美少年、特殊能力とかはついてこない)
-
戻りたい
-
戻りたくない
-
もうTSしている