それは、王都滞在中の出来事だった。
「ん、ユウカ。こんなところにいた」
練兵場にてナイフを使って的当てをしていた優花に声が掛けられた。それは彼女の名を呼んでおり、振り返るとそこには金髪のビスクドールのような美少女がいた。
「ユエちゃん、だよね?」
「ん、そう。大事な話があるから来てほしい」
「大事な話?」
「ん、とりあえず来て」
「まあ、特に用事もないからいいけど」
優花はユエに連れられ、とある一室に通される。そこで待っていたのはクラスメイトの一人にして聖女の香織だった。
「いらっしゃい、園部さん」
「え、白崎さん?」
香織は微笑み、優花を手招きする。そこにあったテーブルには様々なお菓子やお茶が用意されていた。
「園部さんとお話したいことがあるの。さあ、そこに座って。ちょっとした女子会だと思ってもらえればいいからさ」
「う、うん」
そして、優花は席に着く。ユエも別の席に座り、優花にとって思いがけない女子会が始まった。
しばらくの間、お菓子やお茶を楽しみながら他愛もない話が続く。これだけならただの女子会であるのだが、香織が本題を切り出す。
「多分、園部さんも察していると思うんだけど、ハジメくんについて聞きたいことがあるの」
「南雲について?」
「そう。園部さんはハジメくんのこと、どう思っているの?」
香織は、ハジメと長く行動していたシアを通して、優花がハジメに対して好意を持っているかもしれないという情報を得ていた。
「南雲は……私にとって命の恩人ということもあるんだけど、その……とても、カッコいい人だと思ってる。まるで兄のように尊敬もしてる」
優花の頬が僅かに赤く染まる。彼女の脳裏には、初めてのオルクス大迷宮でハジメによって命を救われた記憶が蘇ってきていた。
「だよね、カッコいいよね。私はその瞬間を見ていないけれど、ハジメくんに助けられてどうだった?」
「少し安心した。南雲の雄姿と、かけてくれた言葉で勇気付けられた……」
「ん、お父様は希望の象徴」
あの時、ベヒモスと多数の骸骨に挟み撃ちにされ、クラスメイト一同が危機に陥った際、優花は命を落としかけた。それを救ったのがハジメなのだが、彼の行動はそれだけに留まらない。
ハジメは優花の手をとって立ち上がらせると、彼女の肩に手を置いて頼み事をする。戦える生徒達をまとめて抵抗を続けることを頼み、状況を打開するための時間稼ぎをお願いしたのだ。無論、いきなり言われて頷けるはずもなかったが……
『大丈夫だ、君ならできる』
優花はハジメの言葉で勇気付けられ、戦える生徒達や騎士をまとめて抵抗を続ける。彼女達の活躍がなければ、ハジメが光輝を後方へと送り出すことすらできなかっただろう。
「でも、南雲がいなくなった時は怖かった……もう、南雲が守ってくれることはないんだって……」
「私も怖かった……生存は信じていたけれど、もしも本当に死んでしまったかと思うと……」
当時、救われた命を無駄にしないために優花は愛子のために護衛隊を結成した。彼女自身も強くなるために努力し、無理をし過ぎて本当に死にかけたことだってあった。
「南雲が再び目の前に現れてくれたとき、とても嬉しかったし安心した……あんな装備を持っていたことへの驚きも凄かったけどね」
「そういえば、ウルでの戦いが終わった後、お父様と二人きりで会っていたような……」
「それは初耳なんだけど……その話、詳しく!」
それは、ウルの町に来襲した魔物の軍団や、妨害してきたパイレーツを倒し、檜山を撃退した後のことだ。優花は自分や愛子を助けてくれたことのお礼をするため、ハジメを呼び出した。
「私は南雲にお礼したくて、得意な料理でおもてなしすることにしたんだ」
「何を作ったの?」
「オムライス。完全に本物ではないからモドキにはなるけどね。南雲に絶品と言ってもらえて嬉しかったな……」
「それは羨ましいね。今度、私に料理を教えてほしいな。ユエちゃんとシアちゃんも入れて勉強会だね」
「まあ、私で良ければ……」
実は、香織がハジメに料理を作ったことはない。バレンタインのチョコレートといったお菓子くらいのものだ。彼女はユエやシアを巻き込み、優花から料理を教わることを強引に決めた。
「南雲にご馳走した後、私はきちんとお礼を言うことができたんだ。一対一は恥ずかしかったけど、色々と胸の内を明かしたよ」
死への恐怖、ハジメが帰還したことによる安心感、もう我慢して強がり続ける必要はないという事実。ハジメを前にして感情が溢れ出し、頭を優しく撫でられたことで完全に決壊した。
「南雲によしよししてもらったら、涙が溢れてきちゃって……南雲はそんな私に寄り添ってくれて……戦闘力だけじゃなくて、その優しさも含めてカッコいいって思った」
「園部さんも、ユエちゃんやシアちゃん、私と同じようにハジメくんに救われたんだね……」
「うん、南雲はヒーローだよ」
「良かったよ。ハジメくんに対して好意を持ってくれている人がここにもいて……」
「好意って……べ、別にそんなんじゃなくて……!」
優花は慌てる。一応、ハジメに対して好意がないわけではないのだが、香織やシアといった魅力的な女性達が側にいることから、自身が彼の側にいることを考えないようにしていた。
「園部さん、貴女はハジメくんのことが好きだよね?」
「好きなのはそうだけど……私なんかじゃ南雲には釣り合わないから……南雲の側には白崎さんやシアさんみたいな美人がいるし……」
「ん、でもユウカも綺麗な人だと思う」
「だよね。私は思うんだ、ハジメくんのことを好きでいてくれる人に上下はないって。園部さん、ハジメくんのことを私達と一緒に支えてみない?」
それは、ハーレムへの誘いだった。当然、ハジメには無許可であり、勝手に外堀を埋めようとしているのだが、ハジメなら受け入れてくれるだろうと信頼していた。そして、優花の回答は……
「少し、考えさせて」
「まあ、園部さんに強制するつもりはないし、ゆっくり考えていいからさ」
「あ、ありがとう……」
その後、女子会はお開きとなった。優花は自身のハジメへ対する好意の存在が明確なものとなり、しばらくは思い悩むことになるだろう。