協力要請
『報告:ハジメ様、フェアベルゲンより緊急回線で連絡が入っています』
「何だって?すぐに繋いでくれ」
それは、東に向けてスターシップを飛ばしている最中のことだった。突然、フェアベルゲンから緊急で連絡が来た。ユエとシアが滞在している場所であるため、すぐに繋がせた。
目の前に空中ディスプレイが投影され、そこに映し出されたのは画面一杯に埋め尽くすドアップのシアの顔であり、大音量がコックピット内に響き渡った。
『ハジメさん!!カオリさん!!見えてますかーー!?聞こえてますかーー!?』
「うぉ!?」
「ちょっ!?」
「な、何ですか!?」
シアの元気一杯の声は音響兵器にも引けを取らない。遺伝子移植の影響で感覚が強化されたことで、シャレにならないレベルだ。一般人のリリアーナですら頭を抱えていた。
『シア、声が大きすぎ……これだとお父様とお母様の耳がやられる……というかやられてるみたい』
『すいませんユエさん……ハジメさんとカオリさんと久しぶりに話せるって嬉しくなっちゃいまして……』
『ん、久しぶりって……一週間と数日くらいだけど?』
『その……ほら……ウサギは寂しがり屋っていうじゃないですか……』
何やら言い訳しているが、ハジメが分かりやすく咳払いしたことで本題へと入る。
『ハジメさん、実はフェアベルゲンが二度の襲撃を受けました。一回目は魔人族、二回目は帝国です』
「また襲われたか……状況は?」
どうやら、フェアベルゲンはパイレーツに引き続き二回の襲撃を受けたらしい。パイレーツ侵攻時のことを思い浮かべながら、ハジメは状況を確認する。
『ん、数人の怪我人がいるくらいでほぼ無傷。対魔人族の戦いでは私とシアが参戦して蹴散らしておいた』
「そうか、良かった」
フェアベルゲンの軍備は増強されている。常にハウリアが常駐しているだけではなく、エルダーバードの手でチョウゾギアの製造・配備が進み、低コストのバトルスーツと合わせてハイローミックスの運用だ。
「魔人族の狙いは、やはり樹海の大迷宮か?」
『そうみたいです。尋問したところ、フェアベルゲンを脅して大迷宮の位置を探ろうとしていました。もっとも、教えたとしても亜人族を皆殺しにする予定だったみたいです』
人間族から亜人族に対してもそうだが、魔人族も例外なく亜人族に対して差別意識を持っている。獣が国を作っているなど許せないと考えているらしく、少し脅して迷宮の位置を吐かせた後、全滅させようとしていた。
しかし、彼らの予想を遥かに超えてフェアベルゲンは強化されており、真正面からの攻撃はチョウゾギアの隊列に阻まれ、樹上に潜むハウリアが某プ◯デターよろしく奇襲を仕掛けてきたので、地獄を見ることになった。
『それと、帝国は魔人族との戦いで疲弊したところに攻め入って奴隷を拐うことが目的だったようです』
今回の被害者パート2だ。帝国としても今回は大きな誤算だった。フェアベルゲンは全く疲弊せずに戦力と防衛態勢を残しており、魔人族以上に手酷くやられて撤退に追い込まれた。
『ハジメさん、今後の対応について父様達が説明したいことがあるようなので、真っ直ぐフェアベルゲンに来てくれませんか?私もハジメさん成分を早く摂取したいですし』
「分かった……すぐに向かう。ユエ、シア、良い子で待っているんだ」
『はいですぅ!』
『ん、お父様、お母様……気をつけて来て』
通信は終了する。そして、ハジメは同行者であるリリアーナに対して一時的にフェアベルゲンへ向かうと断りを入れた。
「リリアーナ王女、今ので大体分かったと思うが寄り道させてもらう。構わないか?」
「ええ、私共は便乗している立場ですので反対はできませんわ」
リリアーナの承諾も得られたので、ハジメはスターシップの進路をフェアベルゲンに変更した。
数分後、スターシップはフェアベルゲンの格納庫に入った。皆、休憩のために降りていくのだが、ハジメはリリアーナに声をかけた。
「ここから先は亜人族の国だが、どうする?格納庫の中で待っているか?」
「いえ、私も行きます。フェアベルゲンに興味がありますので。一応、近衛騎士には残ってもらいますわ」
リリアーナはフェアベルゲンに入ることを希望した。なお、近衛騎士の中には亜人族に対して差別意識がある者もいるため、格納庫で待機となった。
「久しぶりです!ハジメさぁーーん!!」
そして、出口から飛び込んでくるウサミミがいた。シアはハジメに飛びつくと密着し、激しくクンカクンカしてきた。
「あぁ……ハジメしゃんのいい匂いですぅ……」
「おい、シア……」
「あっ、ズルい!私も!」
香織もシアに対抗するように参戦し、ハジメは二人から匂いを嗅がれるという事態に陥る。クラスメイト達は見て見ぬふりだが、それを間近で見ることになったリリアーナは困惑していた。
それから解放されるまで、実に五分を要した。ハジメは香織とシア、リリアーナ、クラスメイト達を連れて格納庫から外に出ると、昇降機で地上へと向かった。
「随分と変わったな……」
フェアベルゲンの様子は変化していた。大木が乱立し、幹に居住スペースが作られている点は同じだが、木々の間を通り抜けるモノレールが建設され、鳥人族の形をした戦闘用メカノイドやチョウゾギアを纏った兵士が闊歩していたのだ。なお、ロマンの塊に男性陣は大喜びである。
「あれがフェアベルゲンの戦力……」
リリアーナは圧倒されていた。フェアベルゲンの戦力はハジメの装備によく似ており、その強さもかなりのものと予想できる。魔人族や帝国の侵攻も返り討ちにしたというのだから、彼女には王国が彼らに勝てるビジョンが見えなかった。
ちなみに、リリアーナが入国することは事前にフェアベルゲン側から許可が出ていた。王国の上層部の人間に力を見せつけ、樹海に手を出させないための抑止力にする目的だ。
「お父様、やっと来た。カムが呼んでる」
「遅くなったな、ユエ。すぐに向かう。香織達のことは頼んだ」
「ん、任せて。フェアベルゲンを案内しておく」
フェアベルゲンが初めての者をユエに任せ、ハジメは長老衆が会議を行う建物へと向かう。その途中、とある人物と出会った。
「ハジメお兄様、お久しぶりですわ」
「おお、ハジメ殿ではないか」
それは、アルテナとアリアだ。今回の襲撃では母娘ともに無事だったらしく、ハジメは安心した。
「久しぶりだな。怪我はなかったか?」
「ええ、大丈夫でしたわ。母上も此度の戦では元気に暴れ回っていました」
「肩慣らしには丁度よかった。ハジメ殿、迷宮攻略前に一戦だけ模擬戦を申し込みたい」
アリアは前からハジメとの模擬戦を望んでいた。ハジメがフェアベルゲンにやって来る数少ない機会なので、ここぞとばかりに申し込んできたのだ。
「それはいいな。良い刺激になりそうだ」
「その時を楽しみにしているぞ」
「では、お兄様。またお会いしましょう」
やがて、二人と別れたハジメは目的地に辿り着く。木製の扉を潜り、建物の中へと足を踏み入れた。
「む、貴様は……ハジメ・ナグモ」
「熊人族のジン・バートンだったな。頭は冷えたか?」
建物に入って早々、ハジメが出くわしたのは熊人族の長老であるジンだった。以前、シアに取り押さえられる醜態を見せた人物である。
「まだ抵抗感はある……だが、あの時シア・ハウリアがいなければ俺の家族は死んでいた。魔力持ちを否定はできん……」
「異質なものを受け入れるのは難しい。それが簡単なら、今頃の世界は平和だろう」
どうやら、シアはパイレーツとの戦いの最中にジンの家族を助けていたらしい。シアにその気はなさそうだが、彼女は自らの行動で信頼を勝ち取ったのだ。
やがて、ハジメはジンと共に建物の二階にある会議室へと入る。席にはすでに長老衆が着いており、その中にはハウリア族のカムもいた。
「ハジメ殿、王都での作戦以来ですな」
「あぁ。ところで、重要な話があるとシアから聞いたのだが……」
「ええ、亜人族の未来を決める重要な話です。ささ、こちらの席に……」
ハジメは案内されて席に着く。これで全員が揃ったらしく、ここで森人族のアルフレリックが口を開いた。
「ハジメ殿……我々はこの度、方針を転換することを決定した。樹海に引き籠もるのでなく、我らが二度と異種族を恐れることのないように行動を起こすことにしたのだ。それは……」
アルフレリックが語ったのは、全世界の亜人族の運命を左右する一世一代の大勝負とでもいうべき、重要な作戦計画だった。
「奴隷解放作戦……だと?大きく出たな」
帝国では樹海より連れ去られた多くの亜人族が奴隷として過酷な状況下で労働させられている。長老衆とハウリアが決定したのは、そんな彼らを奴隷から解放する計画だ。
「この作戦を実行できるのは、ハジメ殿がフェアベルゲンを守ってくださったお陰だ」
「そうだな。ハウリアがあの時に戦えたのもハジメ殿の存在あってこそ……」
亜人族はハジメに大きな恩義を感じている。ハジメがハウリアを助けて戦士として鍛え上げ、パイレーツの侵攻を打ち砕いたことで今のフェアベルゲンがあり、二度の侵攻を防ぐことができたのだから。
「既に恩義を受けている身ではあるが、恥を承知でお願いしたい。今一度、我らに力を貸していただきたい……」
カムと長老衆はハジメに頭を下げた。彼らは現フェアベルゲンの重鎮と呼べる存在であり、簡単に頭を下げるべきではない彼らがこれをするというのは、相当な覚悟の上ということだ。ハジメは少し考えた後、返答した。
「……完全に肩入れをするのは難しい。だが、帝都の中枢に潜入するための手引きはできる。丁度、帝都まで送り届ける客がいるからな」
「いえ、それだけでもありがたい……ハジメ殿、我らハウリアは全身全霊で戦い、目標を達成してみせましょう」
今回、ハウリア族を中心とした部隊が帝都の各地や皇帝のいる帝城に潜入し、破壊工作や皇帝の身柄を抑えて要求を飲ませる計画がある。リリアーナのこともあるので、ハジメとしては直接的な関与は避け、手引きに留めた。
「あぁ、少しだけ準備の時間をくれないか?それだけあれば、手引きは可能だ……」
数時間後、スターシップにハジメ達が乗り込んでいく。リリアーナには自分達も皇帝に謁見することにしたと説明し、迷宮攻略組が同行する。浮遊したスターシップはとある地点にあった謎のコンテナを回収すると、帝都に向けて飛び去った。
なお、リリアーナは途中で回収したコンテナを不審に思ったが、乗せてもらっている身ということもあって詮索はできず、ある瞬間まで中身を知ることはなかった。