なお、switch2を買う必要がある模様…
謁見が終わった後、パーティーが始まるまでの間は自由時間だった。客室にいることも、城内を散策することも許されていた。
「おい、ここは立ち入り禁止だぞ」
ハジメは帝城の一角を歩いていた。立ち入り禁止エリアがあるらしく、いたるところに衛兵が立っている。
「すまない、迷ってしまってな。トイレがどこにあるか分かるか?」
「それなら、そこの角を右に曲がればあるはずだ」
「そうか、次からは気をつけよう」
ハジメは衛兵に案内されて立ち入り禁止エリアから退散する。そして、球状の小さな物体がその場に残されていた。それは独りでに動き出し、壁や天井を転がって何処かに消えていくのであった。
「まぁ、素敵ですわ、リリアーナ様!」
「本当に……まるで花の妖精のようです」
「きっと、殿下もお喜びになりますわ!」
桃色のドレスを纏ったリリアーナが姿見の前でくるりと回り、周囲の侍女達がうっとりと頬を染めてお世辞抜きの賛辞を送る。彼女は今、婚約パーティーの準備をしているのだ。
「そう、ね。これにしましょうか。後は、アクセサリーだけど……」
リリアーナは政略結婚を受け入れていた。皇太子であるバイアス・D・ヘルシャーが極度の女好きで、過去に顔を合わせた際は幼い彼女に対して品定めするような視線を向けてきたとしても、実力が半端なく騎士を稽古と称して嬲るような人間であってもだ。王国の将来のため、どんな夫であっても支えるつもりだった。
それ故、パートナーとして相手に恥をかかせないためにも彼女は最大限に着飾る。彼女だって女の子なので、白馬の王子様やラブストーリーを妄想したこともあったが、そんな夢が叶わぬのは分かりきっていた。
これは、王族に生まれた者に課せられた使命だ。国の将来のために身を捧げる義務があるのだ。相手が誰であろうと立派な妻になろうという気持ちは本当であり、パーティーも立派に務め上げようと決意していた。
その時、部屋の外が騒がしくなったかと思えば、ノックもなしに扉が明け放たれ、近衛騎士の制止すら無視して大柄の男がズカズカと踏み込んできた。
「ほぉ、今夜のドレスか……まぁまぁだな」
「……バイアス様。いきなり淑女の部屋に押し入るというのは感心致しませんわ」
「あぁ? 俺は、お前の夫だぞ? 何、口答えしてんだ?」
「……」
返す言葉が見つからない。その男こそがバイアス・D・ヘルシャーなのだが、粗野で横暴な雰囲気は数年前から全く変わっておらず、リリアーナを舐めるように隅々まで見てくる。彼女の背筋に悪寒が走る程だ。
「おい、お前ら全員出ていけ」
やがて、口元を歪めて気持ち悪い笑みを浮かべたバイアスは侍女や近衛騎士を追い出そうとする。彼が恫喝するように再び命令すれば、侍女は慌てて部屋から出ていってしまう。近衛騎士は渋ったものの、彼らが嬲られることを危惧したリリアーナによって下げられた。
「ふん、飼い犬の躾くらい、しっかりやっておけ」
「……飼い犬ではありません。大切な臣下ですわ」
「……相変わらず反抗的だな?まだ十にも届かないガキの分際で俺を睨んだだけのことはある。あの時からな、いつか俺のものにしてやろうと思っていたんだ。へへ、どんなもんだか見てやるよ」
「っ!?いやぁ!痛っ!」
次の瞬間、バイアスは気丈に振る舞っていたリリアーナの小ぶりな胸を鷲掴みにした。相手への配慮など全くなく、その苦痛から彼女に悲鳴を上げさせた。
「それなりに育ってんな。まだまだ足りねぇが、それなりに美味そうだ」
「や、やめっ」
リリアーナの表情が苦痛に歪み、それを見て興奮したらしいバイアスの行動はエスカレートする。彼女はそのまま押し倒され、さらに悲鳴を上げた。なお、騎士達が気付く様子はない。
「いくらでも泣き叫んでいいぞ?この部屋は防音になっていて、外には絶体に音が漏れない。まぁ、仮に飼い犬共が入ってきても、皇太子である俺に何が出来るわけでもないからな。くっ、はははっ!」
「どうして……こんな……」
リリアーナは自身がこれからされるであろうことを想像して顔を青ざめながらも、気丈にバイアスを睨みつけた。
「その眼だ。反抗的なその眼を、苦痛に、絶望に、快楽に染め上げてやりたいのさ。俺はな、自分に盾突く奴を屈服させるのが大好きなんだ。リリアーナ、品定めする俺を気丈に睨み返してきた時から、いつか滅茶苦茶にしてやりたいと思っていたんだ。ずっとなぁ!」
「あなたという人はっ……」
「なぁ、リリアーナ。結婚どころか、婚約パーティーの前に純潔を散らしたお前は、どんな顔でパーティーに出るんだ?あぁ、楽しみで仕方ない……」
リリアーナは裏切られたような気分だった。嫌悪感を抱くような相手だろうと妻として支え、諌めていけば立派な皇帝になってくれると思っていたのだから。しかし、現実は非情である。彼女は助けを求めることすらできず、悪意に屈してしまうのだ。
「まずは、その邪魔なドレスからだ。知ってるか?相手を屈服させる手段の一つは、服を剥ぎ取ってやることだってなぁ!!」
やがて、パートナーに恥をかかせないために選んだドレスが、最低最悪なパートナーによって乱暴にも引き千切られていく。
「嫌っ!!だ、誰か!?」
「へへ、誰も来やしねえよ。その肌を堪能させてもらうぜ?」
「やめて……ください……」
弱気になったリリアーナの頬を、ホロリと涙が伝う。世間に伝わるおとぎ話であれば、プリンセスの涙に英雄が駆けつけるのだろうが、そんなことはあり得ないという現実を突き付けられ、絶望した。その時だった。
「ぐあっ!?」
突然、天井裏から舞い降りた誰かが、リリアーナに馬乗りになるバイアスを蹴飛ばしたのだ。
「えっ?えっ?」
フードを被ったその人物は、唐突の出来事に困惑しているリリアーナに近付くと屈み、彼女と目線の高さを合わせてフードを取った。
「か、カオリ!?ど、どうして?」
「リリィ、大丈夫……ではなさそうだね。危なそうだったから助けに来たよ」
その人物の正体は香織だった。彼女はハジメが仕掛けていた球状の自走式カメラを通してリリアーナの窮地を知り、天井裏を通って駆けつけてきたのだ。
「い、痛ってぇじゃねえか……クソがッ………て、誰かと思えば神の使徒……それも聖女かよ」
やがて、バイアスが起き上がってきて、香織の存在やその正体を認識する。
「ちょうどいい、ずっと前から聖女の身体も堪能したいと思っていたところだ……ヘッへッヘッ」
バイアスは相手が神の使徒であろうと、女であれば何でもいいらしい。彼は下劣な表情を浮かべ、香織に近づいてきた。
「この……女の敵!」
しかし、香織は反撃する。反撃されるなんて予想していなかったのか無防備で、強化された脚力で振り上げられた脚がバイアスの股間にクリーンヒットした。
「ふんぎゃぁぁぁぁっ!?!!」
バイアスは股間を抑えて崩れ落ちる。彼の股間にある息子の中身は完全にぐしゃぐしゃとなり、男として完全に終了である。
激痛に身悶えるバイアスに、香織は接近する。彼は怯えたような表情で香織を見上げ、彼女の背後に般若の姿を幻視した。
「では、皇太子様……私と取引しませんか?」
「ヒッ!?何でもする……何でもするから命だけは!?う、うわぁぁぁぁぁ!?」
バイアスの情けない悲鳴が部屋に響き渡る。しかし、その声が外に聞こえることはない。結局、彼を助けてくれる者はいなかった。
数時間後、婚約パーティーが始まった。広い会場は煌びやかに飾り付けられ、あちらこちらに豪華絢爛な装飾が施されている。
パーティーは立食形式であり、純白のテーブルクロスで覆われたテーブルの上に何百種類以上の料理が並べられ、給仕達が絶えず動き回っていた。
参加者は帝国のお偉方だ。文官と武官で様相は全く異なっており、軍事国家というお国柄か武官は偉ぶり、文官はどこか遠慮がちだった。
そして、武官達からハジメや幸利は積極的に声を掛けられている。何せ、神の使徒にして勇者一行なのだ。オルクス大迷宮の深部まで潜った強者として認識されており、帝国の軍人として興味があるのだろう。勿論、個人的な繋がりや女性陣への興味という下心もあったりする。
『HQ、こちらアルファ。H4ポイント制圧完了』
『HQ、こちらブラボー。全Jポイント制圧完了』
『HQ、こちらチャーリー。全兵舎への睡眠薬散布完了』
『HQ、こちらエコー。皇子、皇太孫並びに皇女二名確保。なお、トレイシー・D・ヘルシャーは遠征に出ており不在の模様』
しかし、彼らは知らない。自分達に対応しているハジメ達の耳には、裏で活動を続けるハウリア達の通信が次々と入ってきていることを。
ハウリア族は現在、事前に投下していたコンテナ型司令部からの指示を受け、作戦行動を開始している。帝国の要人が集まる今夜こそ、作戦決行の時なのだ。
ハジメと幸利は武官達と会話を交わし、ハウリア族の状況を確認しつつ、とある方向を見る。そこには香織たち女性陣が集まっていた。皆、綺麗なドレスに身を包んでいて、婚約パーティーの主役を食ってしまうほどだ。
恋人のいる香織とシア、雫はワインレッドの豪奢なドレスだ。帝国の文化において、鮮烈な赤は闘争と帝国を象徴しており、花嫁のカラーなのだとか。地球のウェディングドレスとは真逆である。
一方、ユエは純白のドレスを纏っていた。光沢のある生地で、肩口が露出しており、裾はフリルが何段も重ねられ大きく広がっている。髪はポニーテールで白い花の飾りがついていた。白は純粋無垢の証であり、基本的に子供用なので帝国の大人でそれを着る者はいない。ユエは年齢的に大人だが、容姿が幼いので違和感なしだ。
「それにしても、ナグモ殿やシミズ殿のお連れは美しい方ばかりですな」
「全くだ。このあとのダンスでは是非一曲お相手願いたいものだ」
『HQ、こちらデルタ。全ポイント爆破準備完了』
『HQ、こちらインディア。Mポイント制圧完了』
やがて、会場の入り口が騒がしくなる。パーティーの主役であるリリアーナ姫とバイアス殿下の登場であり、司会の男が大声でその登場を伝えた。
二人を出迎えるのは盛大な拍手だ。しかし、扉から現れたリリアーナの姿に、会場の人々は困惑と驚きの混じった声を上げてしまう。
リリアーナは漆黒のドレスを身に着けていた。本来なら明るい色のドレスが相応しいのだが、彼女は敢えてこれを選んだのだ。パートナーに対して愛想を尽かしたことの意思表示であり、常に澄まし顔で表情が変わることがなく、バイアスとの間に一線が引かれているように見えた。
バイアスは苦虫を噛み潰したような表情だ。この状況が不本意かのような様子で、到底これから結婚するような雰囲気ではない。それもそのはずだ、彼は脅されているのだから。
あの時、香織はバイアスに取引を持ちかけた。これ以上リリアーナに暴行しなければ、感覚の無くなった息子を復活させてやるのだと。世継ぎが作れなければ皇族としておしまいなので、彼は仕方なく従ったのだ。それを聞いたハジメは、思わず股間を抑えてしまった。
ちなみに、香織はブチギレていたこともあり、取引の過程でバイアスの指を何本かへし折っている。リリアーナの苦しみを彼にも味あわせると同時に再生魔法の実演をする目的だ。リリアーナもドン引きである。
パーティーは困惑を残したまま進む。ガハルドの挨拶が終わると挨拶回りを兼ねたダンスタイムとなり、音楽隊により会場に音楽が流れ始めた。
会場の中央で踊る男女に混じり、リリアーナとバイアスも踊り始めるのだが、動きが随分と機械的だ。どこか二人に距離があるようにも見えた。そうこうして一曲が終われば挨拶回りに向かい、バイアスは不満そうにしながらもパートナーに追従していった。
『HQ、こちらロメオ。Pポイント制圧完了』
『HQ、こちらタンゴ。Rポイント制圧完了』
「ハジメくん、どうやら脅しは効いているみたいだね」
「そのようだな……まさか、拷問紛いのことをするなんて想定外だったが……」
「リリィを襲った報いは受けてもらわないとね。私の言うことを聞くまで再生と骨折を繰り返させてもらったよ」
「そうか……」
ハジメは命の危険を感じた。この聖女を怒らせてしまったら自分であっても危ないと思わせる程に。
「ハジメくん、私達も踊らない?」
「それもそうだな」
香織はハジメの手を引っ張り、ダンスホールへと連行する。タキシードを纏った長身の男と美しい聖女の姿が注目を集めた。
二人とも鳥人族の遺伝子により身体能力が向上しており、それはダンスにも反映されている。二人ともダンスは少し練習した程度なのだが、身体能力で押し切る構えだ。
常人には不可能な動きが織り交ぜられ、時折パートナーを放り投げるなど、フィギュアスケートのペアのようにアクロバティックなダンスが人々の目を奪った。
微妙な空気を変えるために必死だった音楽隊も、ハジメと香織のパフォーマンスに気分が乗ってきたのか楽しげな雰囲気で演奏し始める。今や、会場の主役は二人だった。
やがて演奏が終わると、二人は微笑みながら軽くキスを交わし、帝国貴族達から盛大な拍手が贈られる。令嬢達もうっとりした様子だ。
その後、ハジメは交代でシアやユエと踊った。幸利は雫と踊っていたし、光輝は令嬢と、鈴は年上のお偉いさんと踊り、それぞれ必死な様子だ。なお、龍太郎だけはひたすら料理を食べているだけだった。
『HQ、こちらズールー。Zポイント制圧完了
『全隊へ通達。こちらHQ、全ての配置が完了した。カウントダウンを開始します』
しばらくの時間が経過した頃、ハウリアの動きが最終段階に入る。その通信を受け、ハジメ達の表情が僅かに強張った。さらに、そのタイミングでガハルドのスピーチが始まる。
「さて、まずは、リリアーナ姫の訪問と息子との婚約を祝うパーティーに集まってもらったことに感謝させてもらおう。色々とサプライズがあって実に面白い催しとなった」
『こちらアルファワン。これより我等は、数百年に及ぶ迫害に終止符を打ち、この世界の歴史に名を刻む。この場所は運命の交差点。我ら亜人族の興廃、この一戦にあり。遠慮は一切無用。さぁ、最弱の爪牙がどれほどのものか見せてやろう』
「パーティーはまだまだ始まったばかりだ。今宵は、大いに食べ、大いに飲み、大いに踊って心ゆくまで楽しんでくれ。それが、息子と義理の娘の門出に対する何よりの祝福となる。さぁ、杯を掲げろ!」
ガハルドは知らない。その裏でこれまで虐げられてきた者達が牙と爪を研いで待っており、これから襲い来ることを。
「この婚姻により人間族の結束はより強固となった!恐れるものなど何もない!我等、人間族に栄光あれ!」
皆がグラスを掲げ、「栄光あれ!」と叫ぶ。その時だった、その場にある全ての光が消え失せ、会場が闇に呑み込まれたのは。
さあ、