メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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戦士、父となる

 スピードブースターの入手後、ハジメは再び大迷宮の探索を開始した。現時点で最初の階層から四十五層は降りているのだが、突破にはパワードスーツが必須な場面が多かった。

 

 例えば、生身を晒せば即死するような超高温の階層が存在していた。その温度はゼーベスの高温地帯であるノルフェア並みであり、ノーマルスーツでは完全に防ぐことができず、スーツは持続ダメージを受け続け、肉体にも負荷がかかっていた。バリアスーツがあればダメージ無しで通過できるのだが、無い物ねだりはできない。

 

 超高温の階層では、いかに速く通過するかが重要だった。この階層には超高温に適応した魔物が生息し、その熱耐性によってビームに対する耐性も高かった。この地獄を速く抜け出すため、ハジメは無駄な交戦を避け、道を塞ぐものだけを排除するしかなかった。

 

 その際、スピードブースターが大いに役立った。使用は助走できる空間がある場合に限られるが、高速ダッシュを可能とするこのアビリティは、突破するまでのタイムを大幅に短縮することに貢献した。

 

 エネルギーを纏った高速ダッシュで進路上の障害物を破壊し、接触した敵を問答無用で粉砕していくその姿は、魔物からしたら恐ろしいものだったに違いない。

 

 また、地下にも関わらず湿地帯が広がる階層もあった。ぬかるんでいる上に足元はかなり悪く、所々に生身なら即死する毒液で満たされた池があるなど、生身で来たい場所ではない。

 

 それすらも突破した先で、ハジメは新たなアビリティを入手していた。

 

『スペイザーを入手しました』

 

『三列に並んだビームを同時に発射します。三発同時の発射によって攻撃範囲が広がるだけでなく、ビームの出力の方も強化されています』

 

 それはスペイザーだ。通常はビームは一発ずつしか発射することはできないが、これをオンラインにすることで三発に増加し、より多くの敵に対処できるようになるのだ。

 

 そして、現在のハジメがいるのは高温多湿の密林地帯のような階層だ。

 

(奇襲されたら厄介だ……)

 

 全方位に木や草が生い茂っていて、視界は最悪だ。どこに敵が潜んでいるのかは分からず、現実の戦争ならばゲリラ戦が行われているだろう。一つの気配も見逃さないように細心の注意を払い、ハジメは警戒しながら進む。いつでもアームキャノンを発砲できる体勢であり、何かを察知したら即座に攻撃が行われる。

 

 その時だった。

 

カサカサッ!!!

 

「っ!?」

 

 森林の中で何かが動く。小さな影が素早く動くのが見えたので、ハジメは攻撃を開始する。

 

『スペイザー、オンライン』

 

 まるでゲリラを掃討するかの如く、スペイザービームによって何かがいた一面を薙ぎ払う。三発同時発射の制圧力は凄まじく、焼け野原に変わっていくのだが……

 

バシュバシュバシュ!!!

 

 それらは、現在進行形で薙ぎ払っている一面とは別の様々な方向から放たれた。粘着力のある白い糸の群れがハジメに絡み付き、その動きを阻害する。鋼鉄のように頑丈で、引きちぎることもできない。

 

(気配を感じなかった!?)

 

 高い気配感知能力を持っているハジメですら、その奇襲を察知できなかった。おそらく相手は気配を遮断でき、他の個体を囮にしてハジメを釘付けにし、残りで一斉に糸を放って拘束したのだろう。

 

 四方八方より現れたのは、赤く輝いている八つの複眼を持つ蜘蛛のような魔物だ。黒い毛に包まれていてフサフサで人気が出そうなものだが、サイズが大型犬に迫る上に鋭い牙を剥き出しにしてきているので可愛さなどない。

 

 彼らはハジメを拘束したのを確認し、木々や草むらの中から一斉に出現すると、ハジメ目掛けて次々と飛び込んでくる。ちなみに、その牙からは絶えず溶解液が滴っており、パワードスーツにもダメージを与えられるものだ。流石の彼も万事休すかと思われた。

 

 しかし、ここで倒れるハジメではない。

 

『ウインドクロウ、オンライン』

 

 エーテルアビリティ〈ウインドクロウ〉を使用して左腕や両足の鉤爪に風の刃を纏い、自身を拘束している頑丈な糸を容易に断ち切る。

 

 そのまま、次々と飛び込んでくる蜘蛛軍団を流れ作業のように風爪でバラバラにする。風爪には制限時間があるが、その三十秒の間に全てを切り捨てた。

 

「これで終わり……というわけには行かなそうだな……」

 

 その直後、気配など感じなくとも目視できる程の大きさの影が密林の奥から出てくる。それは、ブルドーザー程のサイズの巨大な蜘蛛。彼らの親玉だろう。

 

 攻撃手段はそこまで変わらない。ハジメに向けて先ほどよりも太く頑丈な糸を大量に射出し、雁字搦めにしようとするが……

 

「甘い」

 

 再び風爪を発動し、迫る糸を切り裂きながらも巨大蜘蛛へと接近する。迎撃に出された前足の鎌を飛び越え、空中で体を捻ってオーバヘッドキックを頭部に叩きつけた。

 

 当然、脚部にも風爪は纏われており、巨大蜘蛛は八つの複眼の半数近くを切り裂かれて視界が狭くなり、激痛に悶える。ハジメは奴の背中に飛び乗ると、頭部と腹部を繋ぐ関節部分にアームキャノンを突き立て……

 

「悪く思うな」

 

 至近距離から最大チャージビームを炸裂させ、そのまま巨大蜘蛛をバラバラにしてしまった。

 

 

 

 

 

 やがて、ハジメは五十階層に到達していた。五十階層を探索していると、明らかに後付けされている異質な場所を発見する。その開けた空間には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉があり、扉の両脇の壁には、地球の神話に登場する単眼の巨人であるサイクロプスのような彫刻がそれぞれ一体ずつ埋め込まれていた。

 

 この扉の向こう側には状況を変える何かがある。ハジメはそんな予感を感じると同時に、危険な何かと直面する予感も感じていた。

 

(一体、何が潜んでいるのだろうか?)

 

 ハジメは構えたアームキャノンに左手を添え、油断せずに扉に近づいていく。“気配感知”はもちろん発動させているし、全ての感覚を研ぎ澄ましていた。

 

 特に何も起こらず、ハジメは扉の目の前に立つ。扉をよく見ると装飾が施されており、中央には二つの窪みのある魔法陣があった。

 

(見たことのない魔法陣だ……)

 

 ハジメは魔法に対する理解を深めるため、魔法陣についても徹底的な調査を行っていた。だが、目の前にある魔法陣はいずれにも該当せず、式を読み取ることができなかった。おそらく、相当古い形式の魔法陣なのだろう。

 

(錬成なら開けられるか?)

 

 そう思いながら、おもむろに魔法陣へと左腕を伸ばすハジメ。もう少しで左手が魔法陣に触れるのではないかと思われた瞬間、扉から放たれた赤い放電によってハジメの手は弾き飛ばされてしまった。スーツのエネルギーシールドが若干削られたようだ。

 

 その直後、異変が起こった。

 

「「オォォオオオオオオ!!」」

 

 突然、雄叫びが部屋全体に響き渡る。ハジメは咄嗟にバックステップで扉から離れると、アームキャノンを扉の方向に照準し、構えた。

 

「なるほど、お前達は門番というわけか」

 

 扉の両脇に埋め込まれてあった二体のサイクロプスが、周囲の壁を破壊して現れる。最初は壁と同化するため体色は灰色だったが、少しずつ暗緑色に変化していく。サイクロプスは近くの壁から全長四メートル程の大剣を取り出すと、侵入者に対処しようと接近してきた。

 

 最初に接近してきたのは、ハジメから見て右側のサイクロプスだった。雄叫びを上げながら大剣を高く掲げると、ハジメに向かって勢いよく振り下ろしてくる。

 

 位置エネルギーと大剣の重み、サイクロプス自身のパワーも合わさった一撃であり、まともに受ければ無事ではすまない。だが、ハジメは避けなかった。

 

 次の瞬間、ガキンッ!という金属同士がぶつかり合う音が響き渡り、サイクロプスの大剣が半ばからへし折られる。分離した刀身が回転しながら宙を舞い、ハジメの背後に突き刺さった。

 

 これはメレーカウンター。頑丈なアームキャノンを勢いよく振り上げて敵や攻撃を弾き、反撃に繋げる戦闘技術である。

 

 アームキャノンとぶつかり、半ばからへし折られた自慢の得物を見て、困惑するサイクロプス。だが、ハジメは容赦なくミサイルを放ち、その頭を粉砕してしまった。満を持して登場したと思ったら、この有り様である。これを哀れと言わずしてなんと言うのか。

 

(悪く思わないでくれ……)

 

 そう思いつつも、ハジメは左のサイクロプスにアームキャノンの砲口を向け、次のミサイルを発射する。ミサイルは哀れな獲物の命を刈り取るのかと思われたが、サイクロプスの体が直撃の寸前に発光し、ミサイルに耐えてしまった。

 

(固有魔法……防御力を上げたのか……)

 

 これはサイクロプスの固有魔法、“金剛”である。魔力を使って金剛の如く防御力を向上させる魔法なのだが、このサイクロプスの場合はノーマルミサイルに耐える程の強化が可能らしい。

 

「オォォオオオ!!」

 

 ミサイルに耐えたサイクロプスは雄叫びを上げてハジメに突進すると、振り下ろしでは弾かれると思ったのか大剣を横薙ぎに振るう。ハジメは咄嗟にモーフボールに変形して回避すると、サイクロプスの足元に置き土産のボムを複数配置して退避した。

 

 数秒後、ボムが一斉に起爆する。ボムを武器だと思っておらず、油断していたサイクロプスは爆風に足を取られて仰向けに転倒するのだが、その視界には自分の頭に向けられたアームキャノンの砲口が映る。

 

「終わりだ」

 

 発射されたチャージビームがサイクロプスの眼球に吸い込まれる。眼球は一瞬で蒸発し、増幅されたビームのエネルギーによって内側から膨れ上がった頭部が風船のように破裂した。この時、サイクロプスは“金剛”を使用していたが、その効果は眼球に及ばなかったようだ。

 

 直後、ハジメが倒した二体のサイクロプスの体が粉末状に崩れ落ち、それぞれが倒れていた場所には拳大の魔石が残されていた。

 

(この形、まさか……)

 

 ハジメは二つの魔石を回収すると、扉にある窪みに嵌め込む。すると、赤黒い光が魔法陣に走り、魔力が供給される。何かが割れるような音の後、少し扉が開いた。

 

 扉の隙間から中を覗き込むと、そこは光源の無い暗黒の世界だった。そこで、ハジメは“夜目”を発動して暗闇に適応する。

 

 その中は大理石のように艶やかな石造りになっており、幾本もの太い柱が規則正しく二列になって並んでいる。その部屋の中央にあるのは、光沢のある巨大な立方体の石が置かれていた。ズームして石をよく見ると、ハジメはその石の中央から人間の上半身が生えていることに気が付いた。

 

(人間……!?)

 

「……だれ?」

 

 弱々しい女の子の声が聞こえてくる。

 

 声の主は下半身と両手が立方体の中に埋められており、長い金髪が垂れ下がっている。その髪の隙間から覗いているのは、低高度の月を思わせる紅の瞳。年齢はおそらく十二、三歳くらいだろう。そして、美しい容姿をしていた。

 

「君は……何者だ?」

 

 ハジメは右腕のアームキャノンを構えたまま、目の前の女の子に問いかけた。相手は迷宮の奥に封印されており、危険な存在の可能性もあったため、当然の対応だった。

 

「何故、こんなところに封印されているんだ?」

 

 彼女が封印されている理由によっては、ハジメの対応は大きく変わるだろう。金髪の女の子は、枯れた喉に鞭打って自らの境遇を話し始めた。

 

「私……先祖返りの吸血鬼……王として国のために頑張った……でも、信頼してたおじ様に裏切られた……お前はもう必要ない……これからは自分が王になるって……私、それでもよかった……でも、私、すごい力があるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

 語られた彼女の境遇には、ハジメも同情した。彼女が嘘を言っているようには見えず、しまいにはアームキャノンを下ろしている。

 

「吸血鬼族の王族か……記録だと三百年前に滅んだようだったな……しかし、凄い力というのは?」

「自動再生……首を落とされても魔力があれば復活できる。それと、魔力の直接操作もある……全属性の最上級魔法も簡単に出せる」

「たしかに、それは凄い力だ……」

 

 実質不死身であり、魔力の直接操作によって詠唱も魔法陣もなしに魔法を繰り出せる。それも、全属性への適性ときた。ハジメはスーツが無ければ魔力の直接操作はできないが、彼女はそれを生身でやってしまうのだ。おそらく、彼女は戦場でその力を行使したのだろう。

 

(裏切られた……俺と同じだな)

 

 信頼していた者に裏切られるという経験は、ハジメもしている。マザーブレインの裏切りだ。ハジメはマザーのことを鳥人族と同様に家族のような存在と認識しており、彼女が裏切った時は強いショックを受けていた。

 

 ハジメも女の子も同じ経験をしているが、境遇の重さは彼女の方に軍配が上がるだろう。吸血鬼族は三百年前に滅びていることから、彼女が暗闇に幽閉されていたのは三百年以上の長い間だと思われる。

 

 拘束されたまま暗闇の中に囚われ、数百年も閉じ込められれば、間違いなく発狂する。もしかすると、自動再生の効果は精神にも及び、発狂しても元の精神状態に戻されるのかもしれない。話していた彼女は常に無表情であり、感情を出すこともない。自害もできず、狂うことすら許されない状態で長い時が経ち、徐々に感情を失っていったのだろう。

 

(かつて、俺はレイヴンに助けられた。なら、今度は俺が誰かを助けよう……)

 

 ハジメはスペースパイレーツに誘拐された時、檻に閉じ込められて船倉の暗闇に放置された。一寸先は闇であり、幼いハジメは怯えるだけだった。だが、そこに一筋の光が差し込んだ。それは鳥人族の戦士達であり、それを率いるレイヴンビークだった。

 

 ハジメは自らが一筋の光となり、レイヴンビークと同じく彼女を暗闇から救いたいと思った。

 

「助けて……お願い……」

 

 彼女はハジメに懇願する。明らかに目の前にいるのはパワードスーツを身につけた得体の知れない人物なのだが、助けてもらえれば誰でもいいらしい。

 

「分かった。俺に任せろ……」

 

 ハジメは女の子の目の前に移動すると、ヘルメットのみを解除して彼女の紅い目を見る。彼女は驚いていたが、パワードスーツ姿のハジメを人間だと思っていなかったらしい。

 

「“錬成”」

 

 ハジメは立方体に左手を当て、錬成によって形を変えようと試みる。だが、立方体はハジメの魔力に抵抗し、錬成を弾いてしまう。立方体の素材は魔力を弾く性質を持っているらしく、錬成の効果は少しずつしか現れない。

 

(生半可ではダメか……ならば、全力で!)

 

 ハジメは更に錬成を続け、魔力をつぎ込んでいく。その魔力量は詠唱に換算すると六節分に相当する。ようやく魔力が抵抗を上回り、ハジメの赤い魔力光が部屋全体を照らす。七節分……八節分……と魔力をつぎ込むうちに、立方体が震え出す。

 

(よし、これなら……!)

 

 そして、九節分に差し掛かったところで立方体が溶け始める。ハジメ自身の魔力はお世辞にも多いとは言えないのだが、パワードスーツそのものが多量の魔力を蓄えていたため、問題ない。

 

 十節分に突入したところで赤い光の輝きは最高潮に達する。その直後、ついに立方体は完全に融解し、解放された彼女はペタリと地面に座り込む。身に付けているものはボロ布一枚のみであり、裸同然の格好である。立つ力は今のところ無いようだ。ハジメは、そんな彼女に左手を差し出した。

 

 ハジメの手に反応し、彼女も手を伸ばす。その手は、生まれたての小鹿のように弱々しく、震えている。やがて、彼女の手はハジメの手を握った。ハジメの手には、スーツ越しに熱が伝わってきた。

 

「ありがとう……」

「別に礼はいい。助けたくて助けただけだ」

 

(体が弱っているな……生体エネルギーを譲渡する必要がある……)

 

 ハジメは女の子の手を握る左手に意識を向け、生体エネルギーを集中させる。そして、左手を通して彼女にエネルギーを流し込んだ。

 

「……!?」

 

 今まで無表情だった女の子だが、いきなり活力が湧いてきたことに驚きの表情へと変わる。

 

「驚かせてすまない。生体エネルギーを譲渡させてもらった。栄養までは回復しないが、動くだけなら可能なはずだ」

「体が動く……」

 

 ハジメの手を支えにしつつも、女の子は立ち上がる。そして、ハジメの手をさらに強く握った。

 

「……名前、なに?」

 

 女の子が小さな声で尋ねる。まだ、お互いに名前を名乗っていなかったことをハジメは思い出し、返答する。

 

「俺はハジメだ……南雲ハジメ。君は?」

「名前……覚えていない」

 

 女の子は名前を覚えていなかった。信頼していた者に裏切られたショックに加え、暗闇に幽閉されたことで心的外傷に陥り、記憶喪失になったのだろう。

 

「名前……つけてほしい」

「名前か……そうだな……」

 

 それが、彼女のアイデンティティとなるのなら。ハジメは彼女の名前を考え始めた。

 

 彼女の金髪や紅い目から連想されるのは夜空に輝く月。“月”を意味する単語や関係する単語がハジメの脳内に溢れ出てくる。ハジメはその中から一つを掴み取ると、それを彼女に告げる。

 

「君の名前はユエだ」

「ゆ……ユエ?」

 

 ユエ……それは、中国語における“月”の発音である。ルナという名前の案もあったが、それは安直過ぎるので却下された。

 

「ん……今日から私はユエ。ありがとう、ハジメお父様」

 

 ユエはハジメをお父様と呼んだ。

 

「お……お父様だと!?」

「ん……ハジメは私の名付けの親。だから、お父様と呼んだ。今日からハジメは私のお父様……異論は認めない」

 

 彼女の“お父様”発言に、流石のハジメも度肝を抜かれる。ある意味、ユエは危険な存在だったらしい。

 

「ふっ……しょうがないな。今日からユエの父親をやらせてもらう。よろしく頼む」

「よろしく、ハジメお父様……」

 

 度肝を抜かれていたハジメだったが、すぐに気を取り直して保護者となることを了承する。今後の迷宮攻略に同行してもらう以上、良好な関係を築いておかない理由は存在しないからだ。

 

「ユエ、これからのことだが……っ?!」

 

 ユエにこれからのことを相談しようとするハジメ。だが、急に部屋がぼんやりと明るくなり、“気配感知”に引っ掛かる反応が頭上へ現れたため、ユエを抱えて退避する。

 

(チッ……いつの間に!?)

 

 退避したハジメが振り返ると、先程までいた場所にズドンッと地響きを立てながら何かが姿を現した。

 

 その魔物はサソリに近い見た目だった。体長五メートル、巨大なハサミを持つ四本の腕。八本の足をわしゃわしゃと動かし、先端に鋭い針のある二本の尾を有している。名付けるならばサソリモドキだろう。

 

 部屋に入ってから今まで、“気配感知”に引っ掛かる反応はなかった。ユエを解放した直後に現れたということは、サイクロプスと同様にユエを逃がさないための仕掛けなのだろう。少なくとも、ユエを置いていけばハジメだけなら逃げられる可能性はある。だが……

 

(一度助けると決めた以上、ユエを見捨てるわけにはいかない……)

 

 ハジメとしては目の前のサソリモドキに背を向けて逃げるつもりはなかった。

 

「ユエ……」

 

 ハジメは腕に抱かれているユエを見る。彼女の紅い目はハジメの目を真っ直ぐと見つめており、自分の命運をハジメに託す覚悟を決めていた。かつて裏切られた彼女が、再び誰かを信用しようというのだ。父親となった者として、彼女の覚悟に答えない理由はない。

 

「任せろ……ここから出してやる」

 

 ハジメは再びヘルメットを形成し、右腕のアームキャノンの先をサソリモドキに向ける。そして、バイザーを赤に発光させて臨戦態勢へと移行する。

 

「ユエ、しっかりと俺に掴まっていろ」

 

 決して全開とはいえる状態ではないが、手足に力が戻ってきたユエは自身を抱えているハジメの左腕にしがみついた。

 

「いくぞ……」

 

 ギチギチと音を立ててにじり寄ってくるサソリモドキ。ハジメは静かながらもはっきりとした声で戦闘の開始を告げた。

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