『ノーマルミサイル、オンライン』
武装はミサイルを選択。通常視界のバイザーであるコンバットバイザーによってサソリモドキの姿が捉えられ、ピピッ!という音と共にロックオンされる。
サソリモドキに向けられたアームキャノンの砲口が変形し、そこからミサイルの赤い弾頭が露出する。ミサイルはそのまま、サソリモドキに向けて発射された。
ドォンッ!
後部から炎を吹き出して高速で飛翔したミサイルがサソリモドキの頭部に着弾し、起爆する。
「凄い爆発……上級魔法に匹敵してる……それを、魔法以外で……」
ユエはミサイルの威力に驚き、思わず心の声を漏らす。だが、ハジメはそれに反応せず、サソリモドキの方にアームキャノンを構え続けていた。何故なら、サソリモドキは健在だったからだ。
あの時、サソリモドキはミサイルの運動エネルギーと爆発に殴られ、その衝撃を受けて少しばかり後退していた。しかし、肝心のダメージは強固な外殻に阻まれて通らなかったようだ。
(ミサイルは効かないか……)
今度はサソリモドキの攻撃が始まる。片方の尻尾の先から紫色の液体を噴射する。間違いなく、普通の液体ではない。ハジメは咄嗟に飛び退き、高速で飛来した液体を回避する。着弾した液体は溶解液だったらしく、ジュワーという音を立てて床を溶かしていく。
(溶解液……それだけは勘弁だ……)
ハジメのパワードスーツの弱点は溶解液である。特に、最低限の防護性能しか持たないノーマルスーツでは大ダメージとなり、運が悪ければ死に至る可能性もあった。
ハジメの視線の先で、もう片方の尻尾が動きを見せる。その尻尾はハジメに照準され、先端が肥大化した直後に大きな杭のような針を射出する。ハジメは避けようとしたが、針は空中で破裂して大量の針を一帯に降り注がせる。まるで、フレシェット弾のようだ。
(この針……ユエを狙って?!)
少なくとも、溶解液とは異なりパワードスーツの防御を抜くことは不可能だ。だが、生身のユエだけはそうはいかない。
『ウインドクロウ、オンライン』
ハジメは一時的にユエを地面に降ろすと、左腕を振るって針の嵐を迎撃する。瞬く間に降り注ぐ針を木端微塵にしてユエを完璧に守った。
(これなら抜けるか?)
ハジメは反撃に移る。アームキャノンの内部でエネルギーを増幅して放つのだが、スペイザーの効果で三発の最大チャージビームが同時発射される。威力も強化された三発は目標へと向かい、同じタイミングで着弾した。
爆煙に包まれるサソリモドキ。現在のハジメが持つ飛び道具の中で最も威力の高い攻撃であり、これなら効くのではないかとハジメは考えていた。だが、サソリモドキは絶叫を上げて煙の中から飛び出てきた。それも無傷で。
「キシャァァァァア!!!」
(なんという防御力だ……)
サソリモドキは八本の脚を激しく動かすと、ハジメに向かって突進する。そして、四本の大きなハサミを使って近接攻撃を仕掛けてきた。その速度は凄まじく、風を唸らせてハジメに迫る。ハジメは咄嗟にユエを抱えて回避行動を開始した。
一本目はメレーカウンターで軌道を逸らし、二本目は後方宙返りで回避。三本目を蹴り流して姿勢を崩したハジメを四本目が襲うが、センスムーブで緊急回避する。激しい動きであり、左腕のユエが必死に堪えていた。
(至近距離ならば……)
ハジメは襲ってきたハサミを踏み台とし、サソリモドキの背中に飛び乗ると、アームキャノンを押し当てて最大チャージビームを撃ち放つ。
ドガッ!!
その衝撃でサソリモドキの胴体が地面に叩き付けられるが、その甲殻に僅かに傷を付けただけだ。奴はハジメを排除しようと自身の背中へと散弾針を放った。
咄嗟に奴の背中から飛び退き、ハサミの攻撃範囲から逃れるべくサソリモドキから距離を取る。地面に着地した直後、奴は絶叫した。
「キィィィィィイイ!!!」
嫌な予感がしてその場から退避しようとするが、既に遅かった。周囲の地面が波打ち、ハジメの下半身を拘束してしまったのだ。
(これは!?)
ハジメはサソリモドキの固有魔法である“地形操作”に驚きながらも、スーツのパワーで地面を砕いて脱出する。しかし、それは大きな隙を作る結果となってしまった。
「はっ?!」
ハジメが視線を少し上に向けると、紫色の液体の塊が目前に迫っていた。どうやら、ハジメを拘束している間に溶解液を放ったらしい。もはや避けることは不可能。ハジメは、咄嗟にユエを後方に放り投げた。
「お父様!?」
ユエが溶解液の影響を受けない地点まで到達した直後、溶解液はハジメに直撃した。
「がぁぁああ!?!?」
溶解液は強力であり、エネルギーシールドを貫通してパワードスーツを侵食する。スーツと一体化している体に激痛が走り、戦闘中は滅多に声を発しないハジメも悲鳴を上げた。ハジメは数発のミサイルをサソリモドキの顔面に叩き込みながら地面に倒れる。
「お父様!」
大ダメージを受けたハジメに駆け寄るユエ。パワードスーツは無残な姿となっており、侵食が酷い部位からは煙が出ている。さらに、バイザーには亀裂が入っていた。
「ユエ……俺には触れるな。溶解液にやられる……」
自身にユエが触れないように、左手で制するハジメ。サソリモドキは顔面へのミサイルで怯んだのか、はたまた爆煙で視界を塞がれているのか、こちらに向かってくる気配はない。
「こうなったら、顔面を集中攻撃するしかなさそうだ。近接攻撃でもいい。被弾の確率は上がるが、仕方ないか……」
ハジメはボロボロになりながらも、立ち上がる。戦意は全く衰えておらず、何としてもサソリモドキを倒す構えだ。
「……どうして」
「ん?」
「どうして逃げないの?」
自分を置いて逃げれば助かる。それを理解しているはずだと遠回しに訴えるユエ。それに対して、ハジメは自身の信念を語る。
「一度助けると決めた者を見捨てたりはしない。どんなに不利な状況であっても、一縷の望みに懸けて戦う。それが俺の戦士としての信念だ。きっと、彼らだってそうする……」
ハジメは自身を鍛えてくれた人々の姿を思い起こす。彼らは一縷の望みさえあれば、それに全てを懸けて行動する。たとえ、それを今代で成し遂げられなくとも、後へ続く者達へ託してきた。
ハジメも託された者の一人だ。彼らの後を継ぎ、銀河の平和を守る戦士となる者として、こんなところで倒れるわけにはいなかった。
そんなハジメの背中を見て、ユエは本当にハジメのことを信用し、全てを託すことにした。
「お父様、最上級魔法ならあの外殻を無力化できると思う。でも、放てるだけの魔力がない……」
「……魔力なら、ここにある」
ユエの提案に対して、ハジメは左手でパワードスーツの胸部を叩きながら返答する。パワードスーツの本体は魔力を蓄えており、ギリギリだが最上級を放てるだけの魔力がまだ残っていた。
「だが、その前に……」
ハジメが視線を戻すと、サソリモドキが突進してきていた。ハジメは“豪脚”で脚力を強化すると、ジェット噴射しながら地面を蹴り、サソリモドキに突進する。
「“豪腕”」
両者が最接近した刹那、ハジメはアームキャノンでサソリモドキを殴る。サソリモドキは四本のハサミを重ねて頭部を守るが、勢いを殺せずに後方へ吹き飛ばされ、壁に激突して地面に落下すると、その場でもがき苦しむ。
「今だ」
ハジメはユエの側に戻ると、魔力操作を行って左手に魔力を集中させる。そして、掌に赤く輝く魔力の塊が出現し、ユエの体に入っていく。
「ありがとう、お父様」
次の瞬間、その華奢な体から黄金に輝く魔力光が発生し、周囲を照らす。そして、魔力光と同じ黄金の髪をなびかせ、片手を掲げながら、これから発動する魔法名を呟く。その目線の先では、サソリモドキが既に立ち直っていた。
「“蒼天”」
サソリモドキの頭上に出現したのは、直径六、七メートルはある青白い炎の球体。そこから発される強力な熱からサソリモドキは逃げようとするが、吸血姫はそれを許さない。
ピンっと伸ばされた綺麗な人差し指がタクトのように振られ、それに従って青白い炎の球体はサソリモドキを追いかける。そして、サソリモドキに着弾した。
「グゥギィヤァァァアアア!!!」
青白い炎の球体に飲み込まれたサソリモドキが苦悶の悲鳴を上げ、部屋全体を響かせる。やがて、魔法の効果時間が終わって球体は消滅するのだが、そこには外殻が赤熱化して表面がドロリと融解し、悶え苦しみながら体を上下させるサソリモドキの姿があった。尻尾は完全に蒸発しており、敵の飛び道具も無効化されている。
ミサイルもチャージビームも無効化していた外殻を一瞬で溶かしたユエの魔法。今のハジメでは出せない火力であり、それを放ったユエを称賛すべきだろう。
その直後、後方でトサリと物音がする。ハジメが振り返ると、そこには魔力が枯渇したのか座り込んで肩で息をするユエの姿があった。
「ユエ、大丈夫か?」
「ん……流石に疲れる」
「そうか……後は任せておけ」
ハジメはアームキャノンにエネルギーをチャージしながら、地面を蹴って瞬時にサソリモドキと距離を詰める。ハジメに対して残っていたハサミが振るわれるが、跳躍で回避して背中に飛び乗る。そして、融解した背中の外殻に右腕を突き刺すと、エネルギーを解放した。
「消え失せろ……!」
直後、サソリモドキの体内に直接叩き込まれたチャージビームが炸裂し、ドォンという音が響く。体内に広がった衝撃波でサソリモドキの体が一瞬で膨張し、そのまま破裂した。
サソリモドキだったものの中でハジメが立ち上がる。ユエにサムズアップすると、ハジメはユエの所へ戻った。
「ユエ、勝ったな」
「ん……私達の勝利……」
ハジメはユエを抱えて部屋を後にしようとするが、部屋の中央からガチャという音が聞こえ、直後に床が割れて中から箱が出現する。
「ん……あの箱は?」
「分からない。確認しよう」
ハジメは何時でもユエの盾になれるように備えながらも、共に箱へ近づく。スキャンバイザーとエーテルバイザーで確認するが、物理的なトラップも魔法のトラップも仕込まれていなかった。
「これは……何かあるな」
蓋をこじ開け、箱の中を覗き込むハジメ。中に何か入っていたため、ハジメはそれを取り出す。それは、小さなサイズのドレスのような形状の黒い衣装だった。
「ドレス……」
「このサイズ、ユエが着られそうだな」
「ん……本当だ」
ユエが早速着てみようとするが、念のためスキャンをしておく。すると……
「これは……簡易的なアーマーになっているのか……素材はパワードスーツと同じバイオ素材……防御力は騎士の鎧を遥かに越えている……」
ドレスを着用したユエの姿は、完全にお嬢様だった。ドレスは黒一色という地味なものだが、彼女の金髪との組み合わせは見事なものだ。また、ドレスとはいっても動きやすそうな造りとなっており、防御力も高いので戦闘時の足枷にはならなそうだ。
「ん……でも、どうしてドレスがこんな所に?」
「分からないが、使えるものは持っておいて損はないだろう?」
「まぁ、それはそう。お父様、行こう?」
「あぁ、そうだな」
ハジメはユエを抱えると、今度こそ封印部屋を後にした。