「ハジメ殿、パワードスーツの解析が完了しました。あなたが発動したというハイパーモードに関しても、色々と判明したことがございます」
解放者の意思を継いだ翌日、ハジメが真っ先に頼んだことはパワードスーツの解析だった。ヒュドラとの戦いで発現したハイパーモードについて調べるためだ。
ハジメはパワードスーツの姿のままベッドに寝かされ、全身にケーブルを接続されている状態だ。その状態でエルダーによる解析が続けられ、ようやく完了したところだ。
「まず、ハイパーモードの発動はハジメ殿の精神と密接に関連しているようです。感情の昂りが発動条件であり、ユエ殿の危機が発動の要因であったと言えるでしょう」
「ん。お父様は私のことを大事に思ってくれているということ」
実際、あの手この手でハイパーモードを起動できないか試してみたが、全てが失敗に終わっていた。やはり、考えられるのはそれだけなのだ。
「そして、ハイパーモードはパワードスーツの外骨格と武装、装着者のステータスを大幅に強化しています。ですが……」
「発動条件がシビアすぎるな」
発動が感情に左右されるなんて、不安定の極みである。その状態では、ハイパーモードを戦闘に組み込んでいくなど困難で、命を賭ける戦いにおいて任意のタイミングで出さなければ意味がないのだ。
「その反動もかなり大きなものです。勝手に発動されるようなことがあれば、その後の戦闘に支障も出るでしょうな」
「そうだな。ハイパーモードを任意のタイミングで発動し、その反動を抑える術を探す必要がある」
感情に左右されて発動し、その後は急激に強化された反動で動けなくなる。戦闘を生業とする戦士としては致命的なものであり、長時間の戦闘には向かないだろう。
「やはり、ハイパーモードに関しては外付けの機器による制御が必要であると存じます」
「その機器の開発、頼めるだろうか?必要なことがあれば協力はする」
「ええ、お任せください」
そこで、考え出されたのは外付けの機器によるハイパーモードの完全制御だ。人為的に刺激を与えて発動状態に移行させ、発動後の制限時間を設けて強制切断する。それにより、任意での発動と反動の軽減を実現しようというのだ。
しかし、それは簡単なことではない。パワードスーツのデータを常に取り、調整に調整を重ねてハジメに適合するようにしなければならない。
ハジメはしばらくの間、できる限りは計測機器をパワードスーツに装着した上で過ごし、戦闘訓練なども行うことにした。
「ん、“火球”」
『エーテルバイザー、オンライン』
ユエが放ってきた火の玉を前にして、ハジメはエーテルバイザーを起動させる。視界が瞬く間に変化し、飛来する魔法の中心にコアのようなものが視認できた。
「そこだ」
そして、咄嗟に指向されたアームキャノンより放たれたビームによってコアが破壊され、基礎を失った魔法は消滅する。
現在、ハジメはユエを相手にして対魔法用の戦闘訓練を行っていた。最近になって判明したことだが、魔法には核となっている部分が存在しており、破壊することで魔法を崩壊させられるらしい。
通常の視界では魔法の核を捕捉することは不可能だが、魔力の流れを見ることのできるエーテルバイザーなら話は別だ。それにより核の位置を正確に把握し、ハジメの正確な射撃で撃ち抜けば強力な魔法であっても一瞬で無力化できる。
その後もユエの魔法は続く。大量の魔法がハジメに対して投射され、その中には上級魔法の“緋槍”も含まれている。だが、ハジメはそれら全ての核を次々と撃ち抜き、最後まで無傷であった。
「推奨:そろそろお昼になります。準備はできていますので、お戻りください」
「もう、そんな時間か」
「ん、魔法の撃ち過ぎでお腹がすいてきた」
この日は朝から訓練を開始しており、時間を忘れて二人でやり合っている間にお昼の時間になったようだ。
二人はイヴに呼ばれ、館へと戻る。すでにエルダーバードが待っており、イヴが用意してくれていた料理が並んでいる。
イヴの随行支援ユニットには二本のアームが存在しており、人間には敵わないが器用に動かせる。彼女は支援ユニットを複数同時に操作し、料理を作ってくれたのだ。
「提案:お召し上がりください」
「では、いただきます」
「ん、いただきます」
メニューは栄養バランスが考えられたものになっており、パンとサラダ、ステーキの存在が見受けられる。人工的に合成したステーキ以外は原材料をここで栽培しているものだ。
ハジメ達は談笑しながらも、料理を口に運んでいく。
「ん、たまには血ではなく料理を食べるのもいい……でも、どうしてこんなに美味しいの?」
「ユエ殿、食事は単なる栄養補給ではございません。そして、皆で一緒に楽しく食べると美味しさが倍増するのです」
「そういえば、これまで誰かと楽しく食事をしたことがなかったかも……」
ユエはかつて、神に祝福された存在として畏敬の念を向けられていた。それは両親も例外ではなく、欲しいものは全て用意してくれたが、対等に接してもらえたことはない。食事の時も常に一人で、誰かと食べる楽しみを知ることはなかったのだ。
「でも、今はお父様達がいる。誰かに対等に接してもらえたのは初めてだった……」
ハジメはユエの能力を知っても、畏怖するようなことはなく、対等な家族として迎え入れた。ユエにとって、ハジメは初めて対等に接してくれた人物だった。
「ところでエルダー、ハイパーモードの制御装置のことだが……」
「順調でございます。原型はすでに完成しておりまして、実戦のデータさえ十分であれば数カ月で運用が可能となるでしょう」
「もう、そこまで行ったのか?一週間でかなり進んだな。流石はエーテルアビリティの開発者といったところか……」
「褒めても何も出ませんぞ?」
エーテルアビリティの開発者はエルダーバードである。ハイパーモードとエーテルアビリティはよく似ており、魔法と科学の融合を得意とする彼からしたら、制御装置を作ることなど問題なかった。
隠れ家における彼らの日常は今日も流れていく。しかし、いつかは旅立つ時が来る。その日に備え、ハジメ達は準備に勤しむのだ。
隠れ家への滞在中、ハジメ達は様々な装備を得ていた。その一つが“宝物庫”と呼ばれる宝石のようなアーティファクトだ。
オスカーが残していたもので、見た目は単なる小さな紅い宝石なのだが、その中にはその大きさからは想像できないほどの広さの空間が広がっており、大きな装甲車すら格納してしまう性能があった。
空間に関する神代魔法を生成魔法で付与したものと考えられ、この世の商人や将軍が存在を知れば、何としても入手しようとするだろう。
もう一つは、鳥人族のアイテムだった。その名はグラップリングビームといい、光のロープのようなビームを発射するアビリティである。入手時には、次のような表示がバイザーにあった。
『グラップリングビームを入手しました』
『左手と一体化したデバイスから発射される、ロープのようなビームです。天井に打ち込んでぶら下がる、敵の武器を奪う、障害物を排除するなど、様々な使い方が可能です』
グラップリングビームは攻撃用のアビリティではないが、探索から戦闘の補助までこなしてくれる多用途なものとなっている。大迷宮の攻略においても、役に立ってくれることだろう。
さらに、オルクス大迷宮の攻略の証となっている指輪を手に入れた。オルクスの隠れ家にある魔法陣の部屋へと転移することが可能なワープデバイスになっている。隠れ家を出た後も、設備を使うためにいつでも戻ることが可能だ。
他にも色々と装備はあるが、それは後に語らせていただく。
現時点で隠れ家に来てから一ヶ月が経過している。全ての準備は完了しており、今まさに旅立ちの時を迎えようとしていた。
二人の場所は館の三階だ。神代魔法の魔法陣とは別に存在する転移魔法陣の前であり、エルダーが見送りに来ている。
ハジメは赤いパイロットスーツを着込み、その上に銀色のジャケットを羽織っていた。腰にはブラスターを収めたホルスターと短縮された槍がある。そして、ジェットブーツを履くことによってスーツの未着用時の機動力低下を補っている。
ユエは金のラインと赤い宝石のような装飾品が特徴的な黒いドレスに身を包んでいる。これまで来ていたドレスがハジメとエルダーによって改造されたものである。
赤い装飾品は全てエーテルタンクとなっており、魔力が枯渇した際はそこから取り出して使用する。両腕にはパワードスーツと同じ素材である漆黒のガントレットが装備され、近接攻撃をした際の怪我を防止することになっている。
通常はネックレスに格納されており、手に持って念じることにより、瞬時に漆黒の戦闘服が展開される。明らかに目立つ服装なので、人里に行く際はネックレス形態にするつもりだ。
「この先、どうかお気をつけくだされ。無慈悲な神の尖兵と
旅立つハジメ達に対してエルダーは警告する。彼の予言によると、神の尖兵以外にも行く手を阻もうとする存在がいるようだ。
「それと、ハジメ殿の支援のために随行支援ユニットを同行させましょう。必ずお役に立てるでしょう」
今回、旅にはイヴが遠隔操作する随行支援ユニットが同行する。乗り物の操縦から偵察、戦闘支援までこなす優れものである。
そして、転移魔法陣へと入る直前、ハジメはユエに対して静かな声で告げた。
「ユエ、俺達の力はこの世界では異端だ。教会や各国が黙っていることはないだろう。当然、俺達を排除するか力を戦争に利用しようとするだろうが、この力を渡すわけにはいかない……」
「ん……」
「俺達はどの国家にも属さないし、媚びへつらうようなこともしない。彼らの私利私欲のために力を振るうようなこともだ……」
「ん……」
「だが、困っている人を助けることまでは否定しない。神を倒したところで、人々が救われていなければ意味がないからだ。あくまでも、俺達が救うのは国家ではなく人だ……」
ハジメはこの世界で行動する際の心構えをユエに伝えた。国家や勢力ではなく人を助けるというものであり、ハジメはトータスを完全に見捨てたわけではない。本来守るべき世界ではないが、罪なき人々を見捨てるほど非情ではなかった。
「各勢力どころか、世界を敵に回すかもしれない危険な旅路だ。命がいくつあっても足りないくらいだろうな……」
「それは覚悟の上……」
覚悟はすでに決まっている。
「障害は実力をもって排除し、突破口を開く。全て乗り越え、目的を果たすぞ。異論はないな?」
「ん……異論はない。お父様と共に全て乗り越える……」
そして、二人は手を繋いで魔法陣に飛び込み、閃光と共にその姿を消した。