「ここは……?」
ミノタウロスと交戦した部屋を出た後、しばらく歩いた先にあった階段を登りきると、広大な空間が広がっていた。歪な形をした球状の空間であり、直径は間違いなく三キロ以上だろう。
地面の殆どがマグマの海に覆われ、所々から飛び出している岩石が僅かな足場となって点在している程度。空中では無数のマグマの川が交差し、下方のマグマの海へと注いでいた。
何よりも目につくのは、マグマの海の中央に浮かぶ小さな島だ。マグマから十メートル程の高さにせり出ており、その上をマグマのドームが覆っている。
「あれが今回の終着点か……」
「ん。でも、解放者のことだから一筋縄であそこに行かせてくれないと思う」
周囲を警戒しつつ、ハジメが先行する形で足場を飛び移って島へと接近していく。すると、マグマの海からマシンガンのような勢いで大量の火炎弾が飛来してきた。
「嫌な予感は当たったな」
アイスビームで火炎弾を迎撃し、瞬く間に消し止める。ユエの方は真空刃を伴った竜巻を発生させ、その中心に入ることで身を守っている。
迎撃しつつも、ハジメは島との距離を詰めていく。しかし、足場から足場へと飛び移ろうと飛び出した瞬間、下方から迫る存在がいた。
「ゴォアアアアア!!!」
それは、身体がマグマだけで構成されている大蛇。重厚な咆哮を響かせ、大口を開いて噛みつこうとしてきたのだ。
「ッ!?」
咄嗟に空中で身を捻ると、先程までいた場所をマグマ蛇が大口を勢いよく閉じながら通過する。反転しつつアイスビームを撃ち放ち、氷漬けにしてしまった。
絶対零度に晒されたマグマの肉体は、急激な温度変化に耐えられずに崩壊する。岩石の破片か撒き散らされ、砕け散った魔石の残骸がキラキラとしているのも確認できた。
その後もマグマ蛇が襲い来る。相手はマグマの肉体なので触れるわけにはいかず、足場を飛び移って後退しつつ、アイスビームを放って瞬殺していく。離脱するまでの間に二十体は屠っていた。
「お父様、大丈夫?」
「あぁ、何とかな。こいつらを倒さなければ、あの島には行けないようだ」
二人は合流する。いつの間にか火炎弾は止んでおり、その代わりにマグマの中から多数のマグマ蛇が次々と出現し、こちらを完全に包囲してきた。その数は二十体。先程、ハジメが後退しながら倒した数と完全に一致している。
「ん。一人で十体やればいける」
「そうだな」
すると、マグマ蛇たちが太陽から吹き上がるプロミネンスのように動き出し、襲いかかってきたので、散開して対処する。
『シーカーミサイル、オンライン』
早速、小型ミサイルによって五体のマグマ蛇が狙われる。着弾と同時に爆発が起こり、その衝撃でマグマごと魔石を砕かれて消滅した。
『スペイザー、オンライン』
さらに、元よりオンラインにしていたアイスビームにスペイザーを重ね掛けし、絶対零度の嵐をお見舞いしてやる。
「“砲皇”」
ユエは風属性中級魔法“砲皇”を発動し、真空の刃を伴う竜巻をマグマ蛇の群れに向かわせる。五体が竜巻に巻き込まれ、グルグルと振り回されながら真空刃でズタズタに切り刻まれていった。
生き残りが飛び込んでくるが、“瞬凍”で三体を連続で凍結させていき、体当たりを仕掛けてきた一体には真正面から金色に輝く掌底を繰り出して衝撃波を叩き込み、撃破していた。
二人の攻撃により、マグマ蛇は瞬く間に数を減らしていく。この場に現れた全ての個体が撃破されたのだが、しばらくして同じ数で再出現した。
「後どれくらい倒せばいいの?」
「ユエ、島の岸壁を見てみろ」
すると、中央の島の岸壁に拳大の鉱石が規則正しく埋め込まれているのが見え、その数は百体に達している。そのうちの四十個がオレンジ色の光を放っており、倒した数に対応していた。
「後、六十体……やれる」
「早速だが、新しいアビリティを試してみるか」
『ライトニングアーマー、オンライン』
次の瞬間、ハジメの全身が緑色に輝く電撃のフォースフィールドに包まれる。三十秒限定だが攻撃を無効化するライトニングアーマーだ。
「これならば、近接攻撃が使えるはずだ」
フォースフィールドに包まれていれば、触れただけでダメージを受けるマグマで肉体を構成するマグマ蛇との接触を恐れる必要はない。
「ゴォアアアアア!!!」
真正面から飛び込んでくるマグマ蛇がいたので、右腕を弓を引き絞るように後方へ下げ、一気に突き出してアームキャノンを叩きつける。
ハジメの放った鉄拳の威力は凄まじく、衝撃波すら発生させてマグマ蛇の肉体を崩壊に追いやり、魔石までも粉砕した。
ライトニングアーマーにより、ハジメ本体がダメージを受けずにマグマ蛇を近接攻撃かアイスビームで片付けている。三十秒が経過してからも魔力を注入し、持続時間を延ばしていた。
「“雷砲”」
ユエは雷属性の上級魔法“雷砲”を発動し、薙ぎ払うように雷の砲撃を放つことで十体を一掃。素早い身のこなしで体当たりを回避しつつ、すれ違いざまに魔闘術を使用した張り手を見舞って撃破する。
二人でマグマ蛇の群れを蹴散らすこと数分。すでに追加で四十体は屠っており、残りは二十体。その身に纏うライトニングアーマーの方も肩代わりしたダメージの蓄積で赤く変色している。
「ユエ、最後は任せてくれ」
そして、ハジメは最後に現れた二十体のマグマ蛇の目の前に立ちはだかると、赤いライトニングアーマーを左手に集束させる。今まで受けたダメージが衝撃波に変換され、増幅されていた。
一斉に突撃してくるマグマ蛇。左手を連中に向け、赤い輝きが一層激しくなったかと思えば、そこから前方へと強烈な衝撃波が放出された。
ガガガガガァッ!!
轟音と共に空気が震える。マグマ蛇の群れは衝撃波に飲み込まれ、為す術もなく粉砕される。それと同時に残りの鉱石全てに光が灯り、中央の島にあったマグマドームが消失。漆黒の建造物が出現した。
「この先に二つ目の神代魔法が……」
「ん……私と相性がいい魔法だといいけど……」
試練を突破した後、二人は体力の回復を待ってから中央の島に足を踏み入れた。島には漆黒の建造物が存在しており、形状は長方体になっていた。
壁の一部には七大迷宮を示す紋章が刻まれており、その前に立つと自動ドアのように壁がスライドする。二人が中に入ると、壁は再びスライドして閉じられた。
「ここが、解放者の一人……ナイズ・グリューエンの隠れ家か」
「ん……それにしては殺風景……」
目の前に広がっていたのは、生活感が全くない殺風景な部屋だった。オルクスの隠れ家と異なり、生活に必要なものが一切配置されていない。あるものと言えば、神代魔法を覚えるための魔法陣のみ。
「オスカーの情報によると、ナイズ・グリューエンは寡黙な人物だったらしいな」
そして、二人は魔方陣に踏み込む。脳内にある迷宮攻略の記憶がスキャンされ、迷宮の攻略が認められたことで新たな神代魔法が脳内に刻まれた。
「ん……空間魔法……瞬間移動とかできる。私と相性が良いみたい」
新しい神代魔法に適性があったことに、ユエはどことなく嬉しそうだ。
「それは良かったな。俺には適性が無いみたいだが……しかし、人でありながら空間に干渉できるようになるとは……流石は神代魔法だ」
新たに手に入れた神代魔法は“空間魔法”だった。空間魔法を習得し、魔法陣の輝きが収まっていくと同時に音を立てて壁の一部が開き、更に正面の壁に文字が浮き出てきた。
“人の未来が 自由な意思のもとにあらんことを切に願う”
“ナイズ・グリューエン”
「どうやら、彼が残したのは神代魔法だけではないらしい。シンプルだが、ここには彼の願いも残されていた。ナイズ・グリューエン、あんたの願いは俺達が叶えよう……」
「ん……神の意志ではなく、人の意志による未来を勝ち取ってみせる……」
彼の願いを前にして、神を倒すという意志を再確認した二人は、開いた壁の一部から攻略の証を取り出す。それは、サークル状のペンダントだった。
「とりあえず、帰るとするか」
「ん……」
ハジメはユエと共に建造物の外に出ると、攻略の証であるペンダントを天井に掲げる。すると、天井に亀裂が入って左右に開いていく。開いた穴の先には扉が何重にも配置されており、次々と開いて頂上まで通じた。
ハジメは地上へショートカットできる穴を見て、とあることに気付いた。
「この穴……ちょうどスターシップが通れる広さになっているな……」
「ん……確かに」
ハジメはアームキャノンを操作することで信号を送り、スターシップを呼び出す。ハジメ達の直上にシップが駆けつけ、中央の島の付近にまで降りてくるのに一分もかからなかった。
「お迎えに上がりました、お二方」
「イヴ、何事も無かったか?」
「勿論ですとも。全パーツ満足です」
二人は近くでホバリングしているスターシップの搭乗口に飛び移る形で乗り込む。シップは垂直に真っ直ぐ上昇し、頂上まで出ると東の方角に機首を向け、大火山を囲む砂嵐に突入して姿を消した。
「実を言うと、お二人には向かっていただきたい場所があるのです」
その後、ハジメ達はオルクスの隠れ家に戻ってきていた。一日だけ休息し、再び出発しようとするとエルダーから行き先を指示された。
「それはフェアベルゲンです。そこの地下には我らの施設とアイテムが残されております」
それは、ハルツィナ樹海の中に存在する亜人族の国家のことである。それも、解放者とも関わりがあった場所だ。
「亜人族……人間を嫌っていると聞いていたが」
「ご安心ください。我が友の一人、リューティリス・ハルツィナが私と共に伝えた、“鳥人族の後継者”の予言があります。そのパワードスーツを着ていれば、あなたに敵対する可能性は低いはずです」
鳥人族の後継者という存在が現れることはフェアベルゲンにも伝わっているらしい。それならば、人間族であるハジメが行っても大丈夫だろう。
「万が一、向こうが信用してくれない場合はイヴを通して私が話しましょう。長命の森人族ならば、当時の者も残っているはずです」
「分かった、もしもの時は頼む」
次の目的地はフェアベルゲンに決まった。二人は地上へと戻っていく。その先に、新たな出会いと因縁との遭遇があるなんて、この時はまだ思いもよらなかった。
グリューエン大火山だとアイスビームが無法すぎる