ライセン大峡谷を東へと進む一台のビークルがあった。それは、六輪のタイヤを備えた大型装甲車両だ。
全長十メートル、全幅五メートルはあるこの装甲車はジャガーノートといい、ハジメが製作した地上移動用ビークルである。
金属製のタイヤには生成魔法によって錬成が付与されており、悪路を整地しながらの走行が可能だ。オレンジ色の車体には頑丈なアザンチウムを採用し、装甲化された車体には鳥人族の文字が刻まれている。
エネルギーシールドは当然ながら標準装備だ。また、驚きの機能としてホバリング機能も存在しており、車体の下部に装備されているブースターを噴射することで限定的だが宙に浮くことができる。
積載能力としては、操縦者一名以外に八名の乗客を乗せることができるスペースが存在する。現時点では乗客がユエしかいないので、空いているスペースは荷物置場と化すだろう。
ハジメは操縦席に座っており、球状の操作デバイスとハンドルを操ってジャガーノートを走らせていた。
しかし、疑問に思うはずだ。スターシップという便利な乗り物がすでにあり、フェアベルゲンに乗り付けるだけなら態々地上を行く必要はないのではないかと。
無論、理由はある。それは、ライセン大峡谷の何処かにあると噂されている大迷宮の一つを捜索するためだ。
空を行くのでは僅かな手がかりを見逃す可能性があり、大峡谷はフェアベルゲンのあるハルツェナ樹海の近郊まで向かう通り道なので、一石二鳥だと判断したのだ。
ハジメの操縦でライセン大峡谷の一本道を進んでいくジャガーノート。道とはいっても整備されていないため、中々の悪路である。
だが、この車両なら心配ご無用だ。多少のデコボコであれば六輪のタイヤで簡単に乗り越え、大きな段差もタイヤに付与された錬成による整地で緩やかな道に変えられるのだから。
しばらくの間、急に飛び出てきた魔物を轢き殺しながら大峡谷を順調に進んでいたハジメ達。しかし、ジャガーノートは急に足を止めた。
「お父様、どうかした?」
「この先に何かの気配が。イヴ、操縦を代わってくれ。俺が見てくる」
「了解」
大峡谷は単なる一本道ではなく、曲がりくねっているような箇所も多いので前方が見通せないこともある。ハジメはジャガーノートから降りると先行していった。
「あ、あれは……!?」
岩の影から覗き込むと、そこにいたのは五体の人型だった。昆虫のような容姿であり、右腕にはアームキャノン、左腕にはブレードを装備している。彼らはウサ耳の少女を追いかけていた。
「スペースパイレーツ……!!」
その瞬間、ハジメから濃密な殺気が放出される。それもそのはずだ、彼らの正体は最も憎むべき宿敵であるスペースパイレーツの戦闘員なのだから。
惑星ゼーベスを襲い、ゼーベスの名を勝手に使っている連中とは別集団ではあるが、スペースパイレーツであることに変わりはない。
パイレーツはウサ耳の少女を追いかけ、アームキャノンからビームを発射して少女の足元に撃ち込んでいる。彼女は必死に逃げており、半泣きの状態だ。その目的は、殺すことよりも嘲笑うことにあるのだろう。
(奴らによる犠牲者を出すわけにはいかない。何としても助けなければ……)
すでに、ハジメはウサミミ少女をパイレーツから助けることに決めていた。どうして奴らがトータスにいるのか、こんな所にいるウサ耳少女は追放された犯罪者なのではないか。そんな考えが浮上するが、そんなことは重要ではない。
「覚悟しろ……」
そして、ハジメは駆け出した。
「うわっ?!」
五体のパイレーツから逃げていたウサミミ少女。彼女は段差に足を引っ掛けてしまい、ドサッ!という音と共に盛大に転倒した。
「もう走れないですぅ……」
体力の限界なのか、少女は立ち上がることができない。だが、パイレーツはそれを嘲笑うかのようにビームを放ち、彼女の周囲に撃ち込んでいく。
「ひっ?!」
ウサミミ少女に為す術はない。ただ怯えるだけであり、踞ることしかできない。やがて、連中はビームを撃つのに飽きたのか、ブレードを振り回して風切り音を鳴らしながら接近してくる。直接、危害を加えるつもりなのだ。
「まだ、ここで死ぬわけにはいかないんです……ここで死んだら家族はみんな……」
ウサミミ少女は地面を這いずり、懸命に生き延びようとするが、そんなものは一秒に満たない程度の時間稼ぎにしかならない。しかし、それでも諦めない希望が彼女にはあった。
「この先に……家族を助けてくれる存在がいるはずなんです……え?」
なお、その希望はすぐ近くにあった。彼女が上を見上げると、そこには異様な存在が立っている。それは、全身を金属のようなもので包んだ人型であり、肩のアーマーと右腕の筒が特徴的だった。
「見た通りの光景ですぅ……よかった、これで家族のことも……」
その姿を見たウサミミ少女とパイレーツの反応は対照的だった。少女が希望と出会えたことを喜ぶ一方、パイレーツは少し狼狽するような素振りを見せる。
お分かりだろうが、希望の正体はバリアスーツを装備した南雲ハジメである。パイレーツは多くの同胞を倒してきた戦士の姿を見て動揺していた。
「君は隠れていろ。事情は後で聞かせてもらう」
「は、はい……」
ウサミミ少女に対して隠れるように指示した後、ハジメは再びパイレーツの方に向き直る。
「スペースパイレーツ……お前達は存在してはけない生き物だ。お引き取り願おう……!」
ハジメはパイレーツの一体を照準の中央に捉えると、アームキャノンを唸らせてエネルギーを増幅し、それを一気に解放する。最大威力のチャージビームはパイレーツに直撃し、上半身を吹き飛ばしてしまった。
同胞の一人が殺られたことで、ようやく我に返ったパイレーツ達がビームを一斉に放ってくるが、ハジメは軽々と跳躍して回避すると、一人の上に飛び乗って至近距離からチャージビームをお見舞いして頭部を消し飛ばす。
ブレードによる白兵戦を挑んできたパイレーツもいたが、その全てを最小限の動きで回避し、貫手を首筋にある甲殻の隙間に差し込み、そのまま首を捩じ切ってしまった。
「どうする、まだ俺とやり合うか?」
三体のパイレーツを一瞬で屠ったところで、ハジメは生き残りに対して問いかける。二体のパイレーツからの返答は、ビームの発射で行われた。
「だろうな」
ビームを素早く回避し、ハジメは肉薄する。顔面に左腕でジャブを叩き込み、怯んだところにアームキャノンを振り下ろして撲殺する。
もう一体に対しては足元にミサイルを放ち、爆風で吹き飛ばす。地面に叩きつけられたパイレーツは命こそ落とさなかったが、爆風で両足が潰れる結果となった。
「聞かせてもらおうか、どうしてトータスにスペースパイレーツが来ているのか……」
早撃ちで武装だけを破壊し、アームキャノンを構えてパイレーツの生き残りを尋問する。パイレーツは片言で命乞いをしてくるが……
「待ッテクレ、殺サナイデ……」
「そんなことを言える立場か?早く答えろ、言えばこの場だけでも見逃してやっていい」
「分カッタ、話ス……!」
しかし、奴が話すことはなかった。
「キィィィィ!!!」
突然、響き渡ったのは甲高い鳴き声。ハジメはそれに聞き覚えがあった。
「この声は、まさか……」
そして、声の主がハジメの目の前に飛び出してくる。それは浮遊しており、まるでクラゲのような姿をしている。緑色の半透明な外皮に、内部に浮かぶ赤黒い三つの細胞球。下部に四本の鋭い牙を備えた奴の名は……
「メトロイド……!? SR388から持ち出されたのか?」
それは、鳥人族が生み出した負の遺産。その特性から軍事利用を目論む連中が絶えず、銀河を滅亡させかねない存在であり、必ず殲滅しなければならないターゲットだ。本来よりも全体的に肥大化しているように見えるが、今はあまり重要ではない。
そのメトロイドが目の前にいる。奴は驚いているハジメなど無視し、一直線に生き残りのパイレーツへと向かうと、その頭部に覆いかぶさって牙を突き立てた。
「タ、助ケテクレッ!! 死ニタクナッ……」
メトロイドはエネルギー吸収能力を持っている。覆いかぶさった相手に牙を突き立て、底面の口から生体エネルギーを吸収するのだ。
「口封じか……」
メトロイドに生命エネルギーを吸い尽くされたパイレーツの肉体はミイラのように干からび、メトロイドが離れた直後に風が吹くと崩壊してしまった。これが、メトロイドによる犠牲者の末路である。
「キィィィィ!!」
「キィィィィ!!」
さらに、二体のメトロイドが追加で出現する。彼らはハジメとウサミミ少女を認識すると、牙のある口を開いて突進してきた。
『アイスビーム、オンライン』
メトロイドに食いつかれたら、エネルギーシールドごと生体エネルギーを吸収されてしまう。自分に向かってきた個体はミサイルで後退させ、少女に向かった方を優先してアイスビームで凍結させた。
メトロイドの外皮は通常兵器では破れない程に頑丈であり、エネルギー吸収能力も合わさって奴らの脅威度は高い。しかし、鳥人族は弱点を設定してくれていた。
それは冷気エネルギーである。メトロイドは寒冷な環境において活動が鈍り、アイスビーム等の冷凍武器を受けると凍結し、外皮の耐性が大幅に低下する。
ハジメは凍結させた個体をミサイルで破砕し、続けてもう一体にもアイスビームを照射し、同様の末路を辿らせた。そして、パイレーツを襲った個体はというと……
「あ、あれ……!」
ウサミミ少女が指をさした先に奴はいた。半透明で緑色の外皮は色を失って濁り、ひび割れている。その中では何かが蠢いていた。
パキパキ……パキパキ……ズバッ!!
やがて、外皮を突き破って現れたのはアンモナイトのようなシルエットの化け物。頭部には一対の赤い目と、三つの牙に囲まれた口腔があり、腹部には先程の名残と思われる緑色の外皮に包まれた一つの細胞球が残り、緑色の甲殻を追加で背負っている。
それは、SR388産メトロイドの第一進化形態であるアルファメトロイドと非常に酷似していた。
「アルファメトロイド? 馬鹿な、SR388以外の環境でメトロイドが進化するはずが……」
本来、メトロイドは惑星SR388の環境下でのみ進化する。しかし、ここは異世界トータスだ。彼らの生息地とは全く異なる環境のはずなのだ。
『スキャンバイザー、オンライン』
『体内から高濃度の魔力を検知しました。魔力を人為的に注入し、メトロイドの進化を再現したものと思われます』
『体内で電気エネルギーを生成する能力を確認。遠距離攻撃手段を獲得している可能性があるため、注意してください』
「なるほど……トータスメトロイドとでも呼ぶべきか……」
そういえば、クラゲのような幼生体だった時点で本来のサイズよりも全体的に肥大化していた。今思えば、それは高濃度の魔力を注入されたことによるものだったのだろう。
惑星SR388以外の環境かつ人為的に変異した以上、新たな名称で呼ぶべきだ。そう思ったハジメは、異世界トータスの名を冠して彼らをトータスメトロイドと呼称した。
「ギュィィィィッ!!」
トータスメトロイドアルファが突進してくる。牙を大きく開いており、噛みついてエネルギーを吸収しようというのだろう。
「はっ!」
だが、その目論見はメレーカウンターによって阻止される。口腔の下部から突き上げるような一撃を受けたことで甲殻のない腹部と真正面から対峙することになり、すかさずそこにミサイルを連射した。
メトロイドは進化すると冷気への耐性が上がるが、通常兵器であってもダメージ自体は通るようになる。腹部にミサイルを受けたアルファは、怯んでハジメから距離を取った。
「ギュィィッ!!」
すると、アルファの腹部内に電撃が迸り、牙に囲まれた口腔の両側からイカの触腕のようなエネルギーが射出される。
(なにっ!?)
本来、SR388産のメトロイドから進化したアルファメトロイドはこのような攻撃をしてくることはない。奴は魔力によって独自の進化を遂げたのだ。
ハジメは咄嗟にサイドステップで回避するが、エネルギーの触手は通り過ぎて後方へと向かう。奴はウサミミ少女を狙っていた。
「ひぃっ!?」
「まずい!」
それに気づいたハジメの行動は速かった。大地を踏みしめると超人的な速度で移動し、悲鳴を上げて蹲るウサミミ少女と触手の間に割り込む。
「ぐうっ!!」
ウサミミ少女の代わりにハジメが触手で拘束され、感電した上にエネルギーを吸収されてしまう。だが、そのまま黙ってやられるつもりはない。
アームキャノンをアルファの腹部に向け、チャージアイスビームをぶちかます。腹部が瞬く間に凍結し、低温に晒されて奴の身体機能が鈍る。電気エネルギーの生成も阻害し、拘束から逃れることができた。
『シーカーミサイル、オンライン』
そして、氷に閉ざされた腹部に近距離から小型ミサイルを斉射し、続けてミサイルを何発も連射することでアルファを怯ませた。緑色だった甲殻は赤く変色しつつあり、大きなダメージが入っているようだ。
続いて、飛び上がると浮遊しているアルファの頭部を掴み、ぶら下がった状態でビームを最大チャージすると奴の口腔内にアームキャノンを突っ込む。
「思う存分食べるといい」
そして、エネルギーが解放されてアルファの体内に拡散する。ハジメが離脱し、体内で小爆発が起きた直後、奴は全身から電撃を放射しながら消滅した。
トータスにおけるスペースパイレーツとの初戦闘は、ハジメの勝利に終わった。しかし、どうしてパイレーツがトータスに来ているのかは不明なままだ。
(問題はパイレーツの規模だな……流石にゼーベスの主力部隊は来ていないだろうが……)
ハジメが思い浮かべるのは、今もゼーベスを占拠していると思われるマザーブレインやリドリー率いるパイレーツ本隊の存在。だが、ゼーベスから離れる必要などないため、おそらく別の惑星系の連中が来ているのだろう。
そんなことを考えていると、先程のウサミミ少女が話しかけてきた。
「助けていただき、ありがとうございました!私は兎人族ハウリアの一人、シアと言います。あの時、私を庇って攻撃を……」
「心配はいらない。溶解液を受けたときと比べたら何倍もマシな方だ」
「よ、溶解液!? 今まで、どんな死線を潜って来たんですか?」
「話は後だ。まずは、君の事情を知りたい」
トータスに現れたスペースパイレーツとメトロイド、何故か危険な大峡谷にいて奴らに追われている亜人族といい、短時間で色々とあり過ぎた。情報を整理するためにも、ハジメは彼女から話を聞くことにした。
ようやく敵としてメトロイドを出せたのでタイトル回収ですね
パイレーツの容姿はオリジナルですが、武装の方はプライムシリーズ系列のものと統一してます