メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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前作では殆ど焦点の当たらなかった二人のクラスメイトの話です。原作と比べて強化が入ってます


クラスメイトside5

 恩人のため、強くなろうとする少女がいた。

 

「集え、迷える霊よ。この意に応じて我に仕えよ “操霊”」

 

 本の形をした漆黒のアーティファクトを開き、彼女が発動したのは、降霊術に属する霊を使役する魔法。その練度によっては格の高い霊すら使役可能なものだ。

 

 彼女は降霊術師の中村恵里。かつてハジメによって救われた者だ。恵理の周囲には姿こそ見えないが何体かの霊が浮遊しており、彼女により使役されていた。たった今、使役している霊が増えたところだ。

 

 恵里は数体の幽霊を従えたまま、先へと進む。ここはオルクス大迷宮の中であり、出てくる魔物もそこまで強くない浅層だ。彼女は鍛錬のため、単独で訪れていた。

 

「お、ようやく出てきた」

 

 恵里の目の前に現れたのは、前にも戦ったことのあるラットマンの群れだ。彼女は攻撃魔法を発動するのではなく、降霊術に属する魔法を使用する。

 

「眠りし亡霊よ、再びこの世に顕現し、怨霊より我らを護りたまえ “霊現”」

 

 すると、使役していた霊の一体が水色の光を放ちながら実体化し、輪郭はぼやけて半透明だが鎧を着込んだ騎士のシルエットとなる。彼は両手で保持するサイズの戦斧を担いでいた。

 

 この魔法は、“操霊”で使役している霊を一時的に実体化させるものだ。その難易度は闇系魔法の中でも高いもので、使える人間は一握りだけだ。

 

「もっと早く使えるようになっていたら良かったんだけどね……」

 

 恵里がこれを使えるようになったのは、ベヒモスを撃破した後だ。王国が彼女のために招集した王国最高の降霊術師によれば、その習得の速度は他に類を見ないものだったらしい。

 

 恵里の努力と降霊術師という天職によるバフで早く習得できたわけだが、それでも彼女からしたら遅く感じていた。当初の予定では、ベヒモスとの再戦で使うつもりだったのだから。

 

「やっちゃえ、フレデリク」

 

 ちなみに、騎士の霊は王宮内で発見したものだ。生前の名前すら忘れたらしいので、恵里が勝手に命名している。

 

 フレデリクは任せろとでも言わんばかりに斧をぶん回すと、ラットマンの群れへと斬り込んでいく。彼が戦斧を振り回す度に奴らは吹っ飛び、真っ二つにされていた。

 

 その戦闘技術は、白兵戦の素人である恵里からしてもメルド団長にも並ぶように見える。生前は戦士として活躍していたのだろう。

 

 やがて、ラットマンを殲滅した彼は戻ってくると恵里の目の前で跪き、まるで主君に対する騎士のような態度を示す。

 

「やあ、お疲れさん。やっぱり君は英雄か何かだったのかな?」

 

 なお、彼には記憶がない。その戦闘技術だけを覚えている状態であり、新たに恵里を主君として仰ぐようになっていた。

 

「フレデリク、もう少しだけ行ってみようか」

 

 彼は無言で頷くと、恵里を守るように先行する。自らに仕える亡霊騎士の存在に頼もしさを覚えながら、恵里は先に進んだ。

 

 

 

 

 

 勇者パーティが活躍する一方、畑山愛子は各地を巡って農地の改良に勤しんでいた。いつしか“豊穣の女神”と呼ばれるようになり、勇者パーティとは別の方向で名声を集めている。

 

 今や、彼女は人間族の中でも勇者や聖女と並んで重要度の高い要人だ。その護衛には教会に仕える神殿騎士や王国近衛騎士が付けられているが、それとは別に護衛隊を志願した生徒達がいた。

 

「はぁっ!」

 

シュッ!シュッ!

 

 炎を纏う二本のナイフが立て続けに投擲され、離れた場所にいる魔物を切り裂くとブーメランのように戻ってくる。それを手にし、接近してきた魔物を斬りつけたのは護衛隊リーダーの園部優花だった。

 

 彼女の天職は“投術師”といい、投げる武器に特化している戦闘職だ。彼女の投げた武器は軌道をある程度操ることができ、先程のナイフのように再び手元に戻すことも可能である。

 

(南雲みたいにはなれないけど……私、きちんと戦えてる……!)

 

 護衛隊をやろうと最初に言い出したのは優花だ。オルクスで危機に陥った際にハジメに救われた経験から、自分もまた誰かを助けたいと思ったからだ。そこに彼女と同じくハジメに恩を感じている生徒が男女問わず集まり、護衛隊が結成された。

 

 ちなみに、護衛の騎士は全員がハニトラ目的でイケメン揃いであり、彼らから愛子を守ることも目的にある。だが、安心してほしい。イケメン騎士はハニトラを仕掛けるどころか、愛子に惚れて忠誠を誓うほどになっていた。

 

 現在、愛子とその護衛隊は次の目的地を目指して馬車を走らせていたのだが、明らかに彼らを狙うようにして魔物が配置されており、戦闘を繰り返しているところ。先ほど、斬りつけたのが最後の魔物だった。

 

 最も魔物を撃破しているのは、精鋭の騎士ではなく優花だ。あの時はトラウムソルジャーに接近されて危なかったが、今では特訓を積んでナイフによる接近戦に対処できるようになっている。

 

 変化はそれだけではない。当初、優花の武器は二本で一式の投げナイフ型アーティファクトだったのだが、今ではそれ以外にも複数の投擲武器を携行するようになった。

 

 これまでラフだった服装も、革鎧などを身に着けて様変わりしており、背中には投槍を背負い、腰には予備のナイフと投斧を下げ、完全武装している。もはや、投擲武器専門のコ◯ンドーである。

 

「優花っち、かなり変わっちゃったね」

「やっぱり南雲くんのことかな……」

 

 魔物の死体が転がる中に立っている優花。彼女の友人である“操鞭師”の菅原妙子と“氷術師”の宮崎奈々はそれを見て、少し心配そうにしていた。

 

 二人は優花の内面を見抜いている。優花が強そうに振る舞っているのは、命の恩人であるハジメの死によって感じている恐怖を誤魔化すためだ。彼女は隠しているつもりだが、親しい友人にはバレバレだった。

 

「皆さん、お疲れ様です!少しだけ休みませんか?戦いが何度も続けていましたし」

 

 やがて、護衛対象である馬車の中から愛子の姿が現れると、先ほどまで戦っていた護衛隊や騎士の面々を労い、休息を促す。

 

 これまで何度も戦いをしていたので、比較的チートスペックの護衛隊であっても疲れはたまるもの。あまり時間は取れないが、彼らは休息に入ることにした。だが……

 

「あれ、優花っちは休まないの?」

「大丈夫大丈夫。私はまだ動けるし、周囲は見張っておくから心配しないで」

 

 優花はいつもの鋭い目つきを緩めてニコッと笑うと、馬車から離れていく。その後ろ姿には近寄りがたいものがあり、彼女に声を掛けられる者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

「はぁ、ホントにしつこい……!」

 

 優花は愛子達に接近しようとする魔物の群れと遭遇していた。背中の投槍に手を掛け、そのまま勢いよく投擲し、一体を串刺しにする。

 

「愛ちゃん先生に、妙子と奈々にも近づかせない……」

 

 炎を纏わせた二本のナイフを前方に向けて放ち、敵を撃破しつつ撹乱すると、腰にあるトマホークのような手斧を叩きつけて目の前の魔物の頭をかち割る。

 

 さらに、その手斧を投げて他の魔物の頭部に直撃させ、入れ替わりで戻ってきた二本のナイフを手に取ると、その刃先を魔物の首筋に差し込んで致命傷を負わせる。

 

(血が……気持ち悪い……でも……!)

 

 優花は至近距離から返り血を浴びてしまうが、我慢して突き進む。再びナイフを投げ、魔物を踏み台にして飛び、最初に投げた槍の場所までたどり着くと、引き抜いて背後の魔物を貫いた。

 

「はあ……はあ……」

 

 様々な武器を駆使して魔物を屠る優花だったが、休息を取らなかったことが災いし、ついに膝をついてしまう。息は荒くなり、体力の限界が近づいているようだ。

 

(やばい……このままじゃ……)

 

 接近してきた魔物を予備のナイフで刺し殺すも、また別の魔物に体当たりを受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「ガァァァァ!!!」

 

 咆哮を聞いて優花が顔を上げると、そこには鋭い爪のある腕を振り下ろそうとするワーウルフのような魔物の姿があった。

 

(南雲、やっぱり私なんて……)

 

 命の危機を感じるが、優花には避ける気力もない。ハジメのことを思い、自分の力不足を感じた彼女は諦め……

 

「優花っち!伏せて!」

 

(え?)

 

 突然、聞こえてきた友人の声を聞いて優花は現実に引き戻される。そして、それに従って姿勢を低くすると、ワーウルフモドキの肉体が凍り付き、高速の鞭の一撃を受けて砕かれた。

 

「妙子……奈々……!」

 

 見れば、二人の友人が駆けつけていた。それだけではなく、護衛隊の男子達や騎士も加勢として現れ、魔物を打ち倒していく。その後、魔物の群れは数分足らずで殲滅された。

 

 

 

「愛ちゃん先生、ごめんなさい……」

 

 優花は愛子に頭を下げて謝罪した。

 

「園部さんが無事で良かったです。もう、一人で突っ走らないようにしてくださいね。何か悩みがあるのなら、先生が聞きますから」

「愛ちゃん先生……」

 

 愛子は女神のように優しく語りかけてくれる。それにより優花の心は解され、自然と悩みを打ち明けることができた。

 

「そうですか……それで園部さんは苦しんでいたんですね。気持ちは分かります……ですが、貴方のことを大切に思ってくれる友人がいます。そのことを忘れないでください。ほら、二人が来てますよ」

 

 愛子に言われて振り返れば、大切な二人の友人が駆け寄って来ている。

 

「優花っち、ごめん……」

「私達、優花が悩んでいたことに気付いてたのに、何も言ってあげられなかった。本当にごめん」

「べつに謝らなくてもいいのに……でも、ありがと……」

 

 菅原妙子と宮崎奈々の二人に謝罪され、優花は困り顔になる。そして、少しだけ顔を赤くして小声で呟いた。

 

「優花っち、もしかして恥ずかしくなっちゃた?」

「ほんとだ、顔が赤くなってるよ」

「そそそ、そんなんじゃないから!」

 

 今日も優花は二人の友人とワチャワチャする。日本にいた頃から続くありふれた日常の一幕であり、トータスでもそれは変わらない。これからも、彼女は大切な友人と共に歩んでいくのだろう。

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