「そうですか、ライセン大峡谷に派遣した先遣隊及びメトロイドが全滅しましたか」
ハジメによりスペースパイレーツ戦闘部隊が殲滅されたことは、MBの知る所となっていた。
「ハジメ・ナグモ、あなたですか」
部隊と連絡が途絶える直前、MBはハジメらしき存在が現れた報告を受けており、ハジメが地上に帰還したことを認知した。
スペースパイレーツ戦闘部隊がライセン大峡谷に展開していたのは、第二の基地を設置するためだ。例外もあるが大峡谷に人間が来ることはまずないため、基地の場所として選ばれたのだ。
ちなみに、第一の基地はシュネー雪原の地下にある。寒冷な気候であり、それを弱点とするメトロイドの活動が沈静化するため、実験が行いやすいからだ。
「やはり生きていましたか。意志持たぬ神の人形など当てになりませんね」
MBもマザーブレインの人形に過ぎないのだが、独立した意思を持って独自の行動を起こすことができる高性能なAIであり、神の使徒を見下していた。
「しかし、あれだけの強化を彼だけでできるとは到底思えません。やはり、鳥人族の遺産がこの世界に……?」
彼女の知識にあるハジメと比べ、部隊からの報告ではパワードスーツが明らかに強化されていた。バリアスーツやアイスビーム、シーカーミサイルがその筆頭であり、ハジメ単独でできる強化ではなかった。
「トータスメトロイドのさらなる進化……特殊部隊の育成……そして、対ハジメに檜山大介を投入することも視野に入れなくてはなりませんね」
彼女は、ライセン大峡谷への基地の設置計画を止めるつもりはない。ハジメを仕留めるため、戦力の増強をパイレーツの各部隊へと通達した。
ハウリア族を鍛えるため、ハジメは拠点を用意した。場所はハルツェナ樹海の外縁部であり、ライセン大峡谷の入り口も近くに位置している。
拠点は小さめの砦のようになっており、全自動のビームタレットが外壁に設置されている。クローキング装置も存在し、かなり接近しなければ外部から露見することはないだろう。
育成する期間は数週間を想定している。何故ならば、短期間で戦闘技術が身についても精神面がそれに追いつかないからだ。
今まで戦いとは無縁だった者が強い力を手に入れ、それに溺れるようなことがあれば、それは只のならず者だ。ハジメはそのような例を実際に見ているため、精神面の教育は不可欠だと考えていた。
「これより武器を配布するが、少し振るだけでも命を奪うことのできる代物だ。それは力であると同時に責任でもある」
武器とは責任なのだ。力だけを見ていては、敵だけではなく自分自身や仲間を傷つけてしまうことに繋がりかねない。
「使い方次第では無差別に全てを傷つける刃にも、仲間や家族を守る盾にもなりうる。扱いには細心の注意を払え」
ハウリア族はハジメの言葉に耳を傾け、意を決して武器を受け取っていく。配られたのは黒いコンバットナイフ。錬成の派生技能である“精密錬成”の技能によって極薄に整形されており、切れ味は抜群だ。
「武器……これが……」
手にしたナイフを見て、ハウリアの一人が呟く。彼らはまともに武器を持ったことがないのだ。命を奪う形をしているそれを見て、緊張感が漂っていた。
このナイフは、タウル鉱石というアザンチウム鉱石ほどではないが硬い鉱石を圧縮して製作しており、簡単に破損することはないだろう。
なお、コンバットナイフを大量に生産している内に、“複製錬成”という派生技能が出現した。ある物の構造を記憶して、全く同じ構造の物を錬成することができる技能である。
最初は格闘術やナイフの扱いを教え、戦いの基本を身に着けてもらう。急に高度な装備を与えたとしても扱い切れるはずがないため、基礎をしっかりと固めていく方針だ。
「兎人族の強みは高度な気配遮断と索敵能力だ。そして、家族の絆も深い。その長所を活かし、奇襲と連携に特化した部隊となってもらうつもりだ」
兎人族は亜人の中でも最弱だ。力が弱いため、危険を察知して逃げ、気配を消して隠れることしかしてこなかった。フェアベルゲンではその他の屈強な種族の庇護下に入り、立場もかなり低い。
それが何百年と続いてきた結果、自分達は何もできない弱者で守られるだけの存在という固定観念に支配された。それ故、自らの長所を戦闘に転用するという考えが無かったのだ。
「我々にも、強くなれる素質はあるのですね……」
「そうだ。やり方次第で格上すら打ち倒せるようになる。そのためにも、まずは武器に慣れて体の一部としなければならない。俺もこの武器に慣れるまで、訓練を積み重ねてきた」
ハジメはアームキャノンを掲げる。物理的にも精神的にも体の一部となっている相棒で、慣熟するまでに多くの訓練を重ねてきた。その努力の積み重ねがハジメを確実に強くしたのだ。
「なら、我らも努力しなくては。ハジメ殿、どうかよろしくお願いします」
「あぁ。では、訓練を始めよう」
そして、ハジメブートキャンプが始まった。
最初の一週間は武器に慣れることに重点が置かれた。ハジメの身に染み付いた実戦の動きを教え、戦闘訓練用のホログラムを標的として繰り返させた。
この段階では魔力持ちであるシアも家族に混じって訓練を行う。今後、一般的な亜人である家族との戦力差はかなりのものになると考えられ、足並みを揃えられるようにするためだ。
「いいか、必ず急所を狙うんだ。確実に息の根を止めなければ、次の瞬間に自分の命はないと思え」
奇襲に特化する以上、暗殺者のように確実にターゲットを仕留める必要がある。反撃を許してしまえば、仕留められるのはこちらの方なのだから。
ハジメの指導に従い、ハウリアは急所を狙う練習を行う。単独だけではなく、数人で同時に攻撃するなど、格上に対抗するための術を身に着けていく。
そして、魔物を相手に実戦訓練を開始したのは、それから一週間後のことだった。彼らは樹海や大峡谷に派遣され、決められた数だけを仕留めて帰ってくる。その繰り返しだ。
最初は生きている存在を殺すことに抵抗があったようだが、危機に陥った家族を守るために魔物を殺したことから、少しずつ慣れていったようだ。
その一方、シアは家族から離れて特別授業を受けている。ユエには魔力操作による身体強化を教わり、ハジメとマンツーマンで組み手をしていた。
「シア、次の一回で今日の訓練は終わりだ」
「はい、師匠! 次こそ師匠に一撃加えてやりますよ!」
ライセン大峡谷の出口付近……ハジメとスペースパイレーツが交戦していた場所にて、ハジメとシアが向かい合っている。
シアは服装こそ変わっていないが、魔力操作の練習を重ねたことで、身体強化によりステータスが平均で約八千を叩き出せるようになり、生身のハジメを凌駕することも可能になった。ただ、最大値を長時間維持するのは難しいようだ。
現在、シアは生身のハジメを相手に訓練しているが、身体強化の細かい調整の訓練を兼ねており、身体能力をハジメと同等にしていた。
「いきます!」
シアは地面を蹴り込み、拳をハジメに向かって放つ。高速の拳が迫るが、ハジメは冷静に右の裏拳で弾き、お返しに左ジャブを放つ。
シアはジャブを屈んで回避し、そのままハジメの懐に潜り込むと、腹部目掛けて拳を突き上げた。
「動きは悪くない」
「うわっ?!」
無論、ハジメも黙って直撃を受けるつもりはない。前蹴りを放ってシアを吹き飛ばす。宙に浮いたシアは地面に叩きつけられそうになるが、咄嗟に手を着いて側転の要領で綺麗に着地する。だが、すぐ側に迫っていたハジメの猛攻が始まった。
「くっ!」
シアは次々と放たれる拳や手刀、蹴りを何とか捌き続ける。反撃に転じようにも捌くので精一杯であり、徐々に追い込まれていく。
「前より強くなっているな、シア」
「そう……でしょうか……!」
捌くので精一杯とはいえ、以前のシアであれば数発すら対処できていなかったので、成長した方である。やがて、シアは腹部に一撃をもらって怯み、そこにハジメが回し蹴りを繰り出した。
「うわっ!」
シアは両腕を盾にして回し蹴りを受け止めるが、怯んでいたことから衝撃に備える余裕がなく、そのまま吹き飛ばされて近くの木に激突する。今日の訓練は終了した。
「結局、師匠には勝てませんでした……」
悔しそうに呟くシア。地面に仰向けで倒れており、その視界は空で埋め尽くされていたが、そこにハジメの顔がぬっと現れる。
「シア、悲観することはない。君は確実に強くなっている。それに、今のは俺がハンデをもらっていたようなものだ。本気で身体強化をされたら、生身の俺では負けていたからな」
ハジメはシアを見下ろしながら言う。純粋な戦闘技術であればハジメが上であるが、相手の身体能力がかなりの格上となれば、技量の面で差を埋めることは不可能。対抗するには、パワードスーツといった外付けの強化装備が必要となる。
「とはいっても、私としては生身の師匠と同等の身体能力で勝ちたかったです」
「シアにはまだ早い。戦闘技術をもっと向上させてから出直してくれ。ところで、木に強くぶつかったようだが……体に異常はないか?」
そういえば木に激突したことを思い出し、ハジメはシアの体を心配する。
「大丈夫です。ぶつかる直前に身体強化を上げているので、心配はいりませんよ」
「それならよかった。早く戻ろうか、みんなが待っている」
「はい、師匠!」
差し出された手を掴み、シアは立ち上がる。先を行くハジメの背を追いかける足取りは軽く、顔には笑顔が咲いていた。
それは訓練が三週目に入った頃だった。
「そうか、ハイベリアを……どのように仕留めた?」
ハジメの目の前には、シアを除く全てのハウリアが整列し、ワイバーンのような魔物であるハイベリアの死体が横たわっている。これはハウリア族が仕留めたものだ。
「ハジメ殿に教わったことを忠実に実行しただけです」
「ハジメお兄ちゃん、僕が囮になったんだよ!」
カムによると、ハイベリアが囮を追いかけて地上に降りたタイミングで、気配を消して隠れていた仲間が襲いかかり、一斉に急所や関節部をナイフで貫いたらしい。
囮になったのは、ハウリア族で最年少のパルくん十一歳だ。子供なのでハジメも訓練をさせるつもりはなかったのだが、志願してきたので武器を与えた。試しにボウガンを持たせてみたら高い能力を発揮したので、今後は狙撃兵となるだろう。
彼は子供で小柄であり、強そうには見えないので囮にはピッタリだ。ハイベリアを仕留める際には、自ら囮として立候補していたりする。
ハウリアは隠密と連携を駆使して、本来なら敵うはずのない格上の魔物を仕留めたのだ。まさにジャイアントキリングであり、ハジメの教えを実行した結果だ。
「ここまで来たのなら、新しい武器を配ってもいいだろう」
「新しい武器……ですか。我らにはすでにこのナイフがありますが……」
「それはあくまでも武器という存在に慣れるためのものだ。手数を増やすためにも、新たな武器は必要だろう」
ハジメはここで新しい武器をハウリアに配ることにした。宝物庫に魔力を流すと、光と共に多数の装備が出現した。全てエルダー製である。
「カム、見本としてこれを装備してくれ」
「ええ、分かりました」
そして、カムが装備したのは光沢のある鈍色のガントレットだ。両腕をそれに通すのだが、その瞬間に肉体と一体化する感覚があった。
「この感覚は……」
「このガントレットは俺のパワードスーツと同じ技術を使っている。肉体と一体化するのはそのためだ」
ちなみに、着脱自体は装着者の意思で可能であるため、脱げなくなる心配はない。
「そして、こいつにはリストブレイドという武装が内蔵されている。展開の方法は何となく分かっているはずだ」
「ええ、やってみます」
人間は手足を動かすとき、意識しなくとも自由自在に関節を操ることができる。ガントレットが肉体と一体化したことで、体の一部のように扱えるのだ。
そして、カムはリストブレイドを展開する。その名の通り、手首の辺りから出現したのは二枚の鋭い漆黒の刃だった。
二枚の刃は振動刃となっており、切れ味は最初に渡したコンバットナイフよりも上だ。スペースパイレーツに対しても効果が見込めるだろう。
「おお、これは……ナイフよりも直感的に扱えそうですな」
リストブレイドは手首に接続されているので、腕の延長線上として扱いやすいものとなっている。通常はガントレット内部に隠蔽されているので、奇襲にも向いていた。
なお、リストブレイドは某筋肉モリモリマッチョマンの映画に出てくる宇宙人が持っていた武器が参考だったりする。
ハジメはこれ以外にもいくつかの武器を与え、ハウリア族に対してさらなる実戦訓練を行うように指示をした。