メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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残酷な描写に注意


クラスメイトside6

 その日は特に霧が濃かった。だが、ヘルシャー帝国軍の国境警備隊に休みなどはなく、霧が立ちこめる中をいつも通りにパトロールしていた。

 

 ここは、魔人族と武力衝突を繰り返している戦場の最後方に位置しており、敗北するようなことがあれば瞬く間に最前線となる危険地帯だ。しかし、ここ最近は戦闘が全く行われておらず、そのような意識は抜けつつあった。

 

「なあ、隊長が巡回しろしろって言ってきて煩くないか?」

「一応、仕事だからさ。でもよ、うちの持ち場がやられるわけねーよな」

「一度も襲われたことないし……適当に一回りして戻ろうぜ」

 

 国境警備隊の兵士達は完全に油断している。自分達のところに敵なんか来るわけがない。そんな無気力なムードが蔓延していた。

 

 だが、彼らは知らなかった。自分達をはるか上方から見下ろしている青き光がいることを……

 

……シャァァァァ!!!

 

「なんだ!?」

 

 それは突然だった。青き光が風を切って急降下し、前方を歩いていた仲間の上から降ってきたのだ。咄嗟に上方を見上げた仲間の姿が地響きとともに見えなくなり、霧のベールの向こう側に青い光が妖しく輝いている光景だけが見える。

 

「ハハハハハッ!!!」

 

 霧を裂き、高笑いしながら現れたのは漆黒の装甲で身を包んだ二、三メートルはあるような異形だった。顔らしき部分や全身には青く発光するラインが通っていて、仲間の頭部を踏みつけていた。

 

「た、助け……」

 

グシャァッ!!

 

 直後、助けを求めるような目を向ける仲間の顔が完全に踏み潰されて一瞬で肉と骨の入り混じったミンチへと変わる。大量の血が胴体側から溢れ出し、無惨な死を遂げた。

 

「この、化け物がぁぁ!」

 

 相手の正体は不明だ。魔物なのか、魔人族の新兵器なのか、様々な憶測が飛び交うが、敵であることに間違いはない。

 

「全てを切り裂く至上の一閃 “絶断”!」

 

 剣を引き抜き、勇猛果敢に斬りかかっていく帝国兵がいた。咄嗟に魔法で剣の切れ味を強化しており、警備隊の中でも練度は高い方なのだろう。そのまま、彼は剣を振り下ろそうとする。

 

 刃を一閃。宙を舞ったのは剣を持っていた帝国兵の腕だった。見れば、異形はいつの間にかその身に似合うようなサイズのショートソードを振り抜いていた。

 

「俺の腕が!?腕がぁぁぁ!!!」

 

 隻腕となった帝国兵は切断面から血を吹き出しながら取り乱す。腕は剣士の命であり、剣士としての生命が終わってしまうのだ。しかし、その心配はいらないだろう。人間としての生命が終わる方が早いのだから。

 

 残っていた片腕も瞬く間に斬り飛ばされ、流れるように首も物理的に飛ぶ。三箇所から勢いよく血が溢れ、地面に倒れた。

 

「あ、あぁ……」

 

 帝国兵の一人が残酷な光景を目にして後ずさると、そのまま逃げ出す。

 

ズガァァァンッ!

 

 雷鳴のような音が木霊し、逃げ出した帝国兵の頭部が弾け飛ぶ。異形の手にはこの世界にあるはずのない巨大なリボルバーが握られていて、銃口から煙が立ち上っている。

 

 その瞬間、帝国兵は理解した。この場から自分達が逃げることは許されないということを。全員が各々の武器を構え、魔法の援護射撃を受けながら異形へと一斉に突撃した。

 

 それが、虐殺の始まりだった。虫を潰すかのような感覚で帝国兵が処理され、人間としての尊厳すら与えられずに死に絶える。もはや、戦いですらない。

 

 静寂がその場を支配した後、普通の人間なら吐き気を催すような惨状の中に一人立っていたのは漆黒の異形のみだ。

 

「あぁ、気分がいい……これが、俺の手に入れた力……!」

 

 両手を広げてゆっくりと回りながら、異形はそんなことを言う。精神性はマトモではないだろう。

 

「フェイゾン……それは俺を自由にしてくれる素晴らしい光!フェイゾンの光のお導きあれ!ハッハッハッハッ!!」

 

 異形はヘルメットを取り去る。そこにあったのは異世界召喚されたクラスメイトの一人、檜山大介の顔だった。

 

 

 

 

 

 ヘルシャー帝国の皇帝陛下一行が王国を訪れ、光輝とトレイシー皇女による模擬戦が行われてから一か月後、勇者一行は迷宮攻略を中断して辺境へと遠征に出ていた。

 

 辺境への遠征が決まったのは、教会の内部において人間族の救世主である勇者の存在を辺境にも知らしめるべきだという意見が出たからである。

 

 ただし、理由はそれだけではない。最近、王国の辺境において本来ならいないはずの魔物の群れの目撃例が相次いでおり、魔人族が人為的に持ち込んだ可能性が高いとされたこともあった。

 

 こうしたこともあって教会は勇者一行を辺境に派遣し、勇者の存在と神の威光を示すと共に事態を解決することを図った。

 

 勇者一行は王国騎士団を伴って王都を出発し、一週間後には辺境の村……その名もハテノ村に入る。村長をはじめとする村人達に歓迎され、村の付近に現れた魔物の説明を受けると、翌日に村の守りを騎士団に任せて勇者一行は単独で討伐に向かった。

 

「刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け “光刃”!」

 

 光の刃を纏ってビームサーベルのようになった聖剣を振り下ろし、オークのような魔物であるブルタールを両断する。ブルタールは岩塊をそのまま打撃部位にしたようなメイスを装備しており、それを盾にしていたようだが、光輝の一撃はメイスごと敵を切り裂いていた。

 

 ブルタールは本来、大陸の北方にある山脈地帯に生息する魔物なのだが、勇者一行がやって来たのは王国領内でも南の方面であり、本来ならいるはずがなかった。

 

 光輝の付近にはパーティーのメンバーもおり、各々が自分らしい方法でブルタールを倒していっている。

 

「はぁっ!」

 

 俊敏のステータスが優れている雫は、素早い動きでブルタールを翻弄し、ヒットアンドアウェイで死角から鋭い斬撃を何度も食らわせて倒していく。

 

「おりゃあ!」

 

 龍太郎は筋力のステータスが優れており、メイスの一撃を拳で弾くと、がら空きになったブルタールの胴体に正拳突きを叩き込む。ブルタールの体は脂肪で守られており、打撃系の技は効果が薄いのだが、それは純粋な現地人の場合だ。彼のステータスであれば、吸収しきれない程の衝撃を与えるのは容易く、ブルタールの胴体は爆発四散していた。

 

「やったぜ!」

 

 内心どころか実際にガッツポーズする龍太郎。なお、その背後から別個体がメイスを振り下ろそうとしているが、彼は気づかない。しかし、振り下ろされたメイスは光の壁によって受け止められ、直後に頭部を光の矢で撃ち抜かれて絶命した。

 

「うおぉ!?」

 

 龍太郎はメイスと障壁が衝突した際の音で背後から敵が迫っていたことに気付き、驚きの声を上げる。そして、自分を助けてくれた者達の方を見て感謝を伝えた。

 

「わりぃ! 助かった!」

「もぉ、龍くん……大事な所で油断しちゃダメだよ」

 

 龍太郎のことを親しげに呼ぶのは、クラスのマスコット的存在である谷口鈴。この二人は意外にも仲がよく、周囲からは凸凹コンビと呼ばれていたりする。

 

「ふふっ……龍太郎くんには鈴ちゃんが必要みたいだね」

 

 鈴の隣には香織が立っており、二人の様子を微笑ましく見ながらも、聖弓を構えている。先程、ブルタールの頭を撃ち抜いたのは香織だった。

 

 恵里が指揮する後衛組からライトアローだけではなく多種多様な魔法が飛来して敵を屠っていき、場合によっては結界師の鈴が発動した結界や、恵里の使役する亡霊騎士が守ってくれる。前衛と後衛の連携で、ブルタールの群れは瞬く間に蹴散らされていった。

 

「よし、討伐完了だ! 後片付けをして村に戻るぞ!」

 

 光輝の指揮の下、ブルタールの死体を片付ける一行。死体を野外に放置すると異臭が出るだけでなく、その肉を食べる他の魔物が集まってしまうため、死体を焼却する必要があった。死体は一ヶ所に集められた後、結界で圧縮した上で火属性上級魔法で灰へと変えられた。

 

(これで、村人達も救われる。この調子で強くなれば、いつかは人間族だって救えるはずだ……)

 

 光輝は遠征について非常に満足していた。何故なら、迷宮の中と違って直接的に現地の人間を魔物の脅威から守れるのだから。村人に大歓迎されたこともあり、自分は人間族を救う“勇者”であるという認識が強くなっていた。

 

 やがて、勇者一行は村への帰路に就いた。その様子を遠くから眺めている存在がいることに気付かずに……

 

「情報通りに来やがったか……素晴らしいフェイゾンの光を宿した俺の力、見せてやるよ」

 

 漆黒のアーマースーツを着用した存在……檜山大介は一行の後ろ姿を見た後、俊敏な動きで何処かへと姿を消した。

 

 

 

 

 

 勇者一行が村に戻ると、村人達とメルド団長が出迎えてくれた。

 

「お前ら、よく戻った! 誰も欠けていないな?」

「メルドさん。大丈夫です、誰一人欠けていませんし、怪我人もいません」

「そうか、それなら良かった。もう、俺達が側にいなくとも、お前らだけで行動できるようになったんだな……」

 

 メルド団長は光輝達の成長を喜んでいた。ある日、戦いを知らない平和な国からやって来た若者達を使い物にするという任務を与えられ、文化の異なる彼らとどのように接し、導いていくのかと思い悩みながら、数か月の時を共に過ごしてきた。彼らの立派な姿を見て、メルドは涙が出そうだった。

 

「勇者様、あなた方には深く感謝しております。おかげさまで、この村は以前のような活気を取り戻すことができました」

「いえ、俺は勇者ですから。困っている人達を助けるのは当たり前です」

 

 村長のお礼に対して、光輝は絵に描いた勇者のような台詞を言う。

 

「聖女様にも感謝しております。聖女様のおかげで、重い怪我を負った村人が以前のように暮らせるようになりました」

 

 村長は香織だけ名指しでお礼を言う。というのも、いきなり現れたブルタールに襲われた何人かの村人が重傷を負って再起不能となっており、寝たきりになってしまうのではないかと言われていた。

 

 しかし、勇者一行が訪れたことで状況は一変する。聖女であり、弛まぬ努力によって回復魔法の腕を磨いた香織が治療に当たり、再起不能と言われていた村人達が復活したのだ。ブルタールの方も一行によって倒されたため、村人達は勇者一行に感謝していた。

 

 村の中では香織が最も人気だった。それも、彼女を崇める新興宗教が生まれてしまいそうな程に。彼女によって立ち直った村人からの支持がある他、軽い怪我を治してあげた小さな子供達から人気であり、勇者を差し置いて目立っていた。

 

「わ、私は出来ることをしただけですから。皆さんが元気になったようで、私は嬉しいです」

「せ、聖女様……」

 

 微笑む香織。彼女の笑顔は多くの男を惚れさせる性能を備えており、年寄りの村長すらも顔を赤らめる。

 

 その後、一行は村人達と交流を深めるのだが、最も人だかりが出来ていたのは香織の周辺だった。特に、小さな子供達が集まっている。

 

「ねえ、聖女のお姉ちゃんは好きな人っているの?」

 

 香織に対して様々な質問が飛び交うのだが、最も多いのはこの質問だ。

 

「好きな人?うん、いるよ。今はここにいないけれど、また会いたいと思っているの」

「それって、どんな人なの?」

 

 香織が思い浮かべる人物はハジメだ。大量のハジメの姿が脳のキャパシティを圧迫し、顔を真っ赤に染めながらも質問に答えていく。

 

「優しくて、強くて、私のことを大切に思ってくれている人……かな」

 

(ハジメくん、会いたいな……)

 

 香織の中ではハジメと再会したいという感情が盛り上がっている。それは、あの日から時が流れるにつれて、少しずつ強くなっていた。

 

「その人、何処にいるの?」

「ううん、実は分からないの。でもね、今も何処かで戦い続けているって信じているんだ」

 

 香織は微笑んだ。ハジメが生きている根拠など全くないが、生存を信じることが彼女の精神を支えている。何かを察した子供達は、これ以上の質問を止めた。




檜山についてはメトロイドプライム新作で話題のサイラックスを意識している部分があります。そこにダークサムス配下パイレーツの狂気を混ぜた感じです
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