メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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ブルックの町 後編

 ハジメ達がオバチャン特製の地図の中から選んだ宿は、“マサカの宿”という宿屋だった。もはやガイドブックと呼んでも差し支えないその地図によると、料理が美味く防犯がしっかりしている上にお風呂に入れるらしい。その分少し割高となっているが、金はあるので問題ない。

 

 宿屋の一階は食堂になっており、食事を取っている男の冒険者達がいた。ハジメ達が足を踏み入れると、ギルドの時と同様にユエとシアに視線が集まる。

 

 そのような視線にはギルドで慣れていたため、無視して宿のカウンターに向かう。すると、十五歳くらいの女の子が元気な挨拶と共に現れた。

 

「いらっしゃいませー、ようこそ“マサカの宿”へ! 本日は宿泊ですか? それとも、お食事だけですか?」 

「宿泊だ。この地図を見て来たのだが、記載されている通りでいいか?」

 

 ハジメはオバチャンに貰った地図を見せる。女の子はそれを見て理解したのか、大きく頷いた。

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

 

 女の子は仕事に慣れているらしく、すぐさまテキパキと宿泊の手続きを始める。なお、ハジメはオバチャンがキャサリンという名前だったことに内心驚いていた。

 

「一泊で頼む。食事と風呂付きで」

「はい。お風呂は十五分で百ルタです。今のところ、この時間帯が空いていますよ」

 

 女の子が時間帯表を見せる。日本人といえばお風呂の文化であるが、ハジメは長いこと鳥人文明に身を置いており、そこまでお風呂に思い入れがあるわけではない。そのため、ハジメはお風呂の時間を長く確保しなかった。

 

 確保した時間は三十分。ハジメで十五分、ユエとシアが一緒に入って十五分という内訳である。

 

「お部屋はどうされますか?二つ部屋と三人部屋が空いてますが…」 

「二人部屋を二つで頼む」

 

 ハジメの考えとしては、ユエとシアで一部屋、自分は別室にするつもりであり、男女で分けることは当然だと思っていた。だが、ここでユエとシアが意見した。

 

「ん……三人部屋がいい。お父様とシアと私で同じ部屋で寝たい」 

「わ、私もユエさんと同意見です!」

 

 二人の発言に、男の冒険者達はザワッとなった。そして、嫉妬の表情を浮かべてハジメを見る。美少女二人と同室なんて妬ましいと思ったのだろう。

 

 ハジメは、三人部屋を希望する娘と弟子の説得を試みようとする。

 

「ユエ、シア……たまには二人だけで過ごしてみるのもいいんじゃないか? 男女で同室になることに抵抗がなさすぎるのも問題だと思う。それに、俺がいると話しづらいこともあるだろう?」

 

 そういえば、今までハジメ達が行動する時は、単独や三人だったり、ハジメとユエの親子コンビだったり、ハジメとシアの師弟コンビだったりと、ユエとシアの二人で行動することは殆どなかった。

 

 一応、ハジメの説得は通じた。その後、宿の美味しい食事に舌鼓を打ち、お風呂に入り、それぞれの部屋に別れた。

 

「ハジメお父様のこと、シアはどう思う?」

 

 ユエとシアは同じベッドの中で身を寄せあっていた。二人は会話していたのだが、ユエはハジメについてどう思っているのかシアに質問した。

 

「そうですね。師匠……ハジメさんは尊敬する人です。戦い方や戦士としての心構えを教えてくれましたから」

 

 シアは、師匠としてのハジメについて語る。だが、それはユエの聞きたいことではなかった。

 

「ん……私が聞きたいのは、師匠としてではなく男としてのハジメお父様についてどう思うか」

「男として……ですか」

 

 シアは言葉に詰まる。彼女は弟子になってからハジメのことを師匠としか呼んでおらず、気付けば異性として見ることが無くなっていた。改めて、彼女はハジメのことを異性の視点から見つめ直す。

 

「ハジメさんは理想的な男の人だと思います。生身でも強いのは勿論ですけど、優しさも兼ね備えてます。恋人にするならありですね。ですが……」

「ん?」

「ハジメさんには既にカオリさんという方がいます。私はその関係の邪魔をするつもりはないですし、ハジメさんのことは兄のように思ってますから……」

 

 シアはハジメに対して恋愛的感情がない訳ではないが、師匠と弟子という関係で過ごしてきたため、兄妹のような感覚となっている。香織の存在も聞いていたため、今の状態を崩すつもりはなかった。

 

「もし、二人目にしてもらえるとしたら?」

「私は構いませんが、師匠は誠実な人です。複数の恋人を作ることを好まないと思うんですよ」

「ん……それはそうかも。お父様ならあり得る」

 

 その後、ハジメの前ではできないような会話が数時間繰り広げられ、話すのに疲れた二人は同じベッドの中でぐっすりと眠った。

 

 

 

 

 

「これで必需品は全て揃いましたね、師匠」

 

 宿で十分に休息を取った翌日、ハジメ達は買い出しに出掛けていた。購入したものは食料と調味料、薬であり、道具に関してはハジメが作るので問題なかった。

 

「あぁ。必要な買い物は終わったから、後はお昼くらいまで観光でもするか。二人共、行きたい所はあるか?」

「そうですね……服を買いに行きたいです」

「服?今、着ているものがあると思うが……」

「ん、これで十分」

 

 服を買いに行きたいというシアの意見に対して、ハジメとユエは首を傾げる。

 

「二人共、分かってないですね。年頃の女の子というものはですね、いつもファッションを気にしているんですよ?」

「ん……そうなの?」

「そういえば、白崎さんもファッションに気を使っていたな……そうだな、シアも女の子だったな……」

 

 こうして、ハジメ達は服を扱っている店に向かうことになった。オバチャンの地図にはオススメの店が記載されていて、きちんと普段着用の店、高級な礼服等の専門店、冒険者や旅人用の店と分けられているため、店選びはスムーズに進んだ。

 

 選ばれたのは、冒険者向けの衣服を扱っている店だった。ある程度の普段着も買えるという点が決め手である。しかし、その店にはとんでもない奴がいた。某捕食者や未来から来た抹殺者すら裸足で逃げ出すような化け物が。

 

「あら〜ん、いらっしゃい♥️可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♥️」

 

 それは、筋肉モリモリマッチョマンの変態だった。全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている。

 

 奴は、ハジメのことすら可愛い子達に含めてきた。肉密度1000%でタフネス設計のそいつは、はち切れそうな露出度の高いメイド服を着ており、多くのリボンやフリルで重武装している人間武器庫だ。

 

 クリーチャーを見慣れているハジメは大丈夫だったが、ユエは硬直してしまい、シアに至っては意識が飛びかけている。ハジメはその化け物の姿にゼーベスのとある原生生物の姿を重ね、思わずその名を呟いてしまった。

 

「く、クレイド……?」

 

 その瞬間、化け物は激昂した。

 

「だぁ~れが、地底の奥深くに生息している、全長29フィートの目覚めた巨獣生物だゴラァァアア!!」

「す、すまない……」

 

 ハジメがすぐに謝ったので事なきを得たが、このまま奴が暴れだしたらパワードスーツを持ち出して口内にミサイルを何発もぶち込む事態になっていたかもしれない。そして、化け物は笑顔を取り戻して接客に勤しむ。

 

「いいのよ〜ん。それでぇ? 今日は、どんな商品をお求めかしらぁ~ん?」

「連れの服を見繕ってほしい」

「いいわよぉ、おねぇさんに任せてぇ~ん」

 

 お前はどう見ても男だろう?とか指摘してはいけない。あの化け物は漢女という新人類であり、下手なことを言ったら強制的に同族にされるからだ。

 

「俺は別の店を見てくる。終わったら、この店の前で待っててくれ」

「ん……分かった。新しい服、楽しみにしてて」

「ちょ……師匠、何処に行くんですか!?」

 

 ハジメは二人にお小遣いを渡した後、ボス部屋から脱出する。ユエは普通に見送っていたが、シアの方はまるで見捨てられたかのような絶望的な表情になっていた。

 

 なお、クレイド……ではなくクリスタベル店長はユエとシアの服を見事なセンスで見立ててくれた。購入した服に着替えた後、二人は店から出た。

 

 

 

「ユエちゃんとシアちゃんで名前あってるよな?」

 

 店の前で、二人は数十人の男達に取り囲まれていた。男達は冒険者が大半だが、中にはどこかの店のエプロンをしている者もいる。その中の一人が進み出て、問いかけてきたのだ。

 

「ん、そうだけど」

 

 ユエの返答を聞いた男達は、事前に示し合わせていたのか、二人の前に進み出る。そして……

 

「「「「「「ユエちゃん、俺と付き合ってください!!」」」」」」

「「「「「「シアちゃん! 俺の奴隷になれ!!」」」」」」

 

 つまり、男達の目的はそういうことである。二人は美少女だ。彼らがその見た目に一目惚れしないはずがないのだ。

 

 そんな男連中への返事は当然……

 

「「断る(ります)」」

 

 眼中にないと言わんばかりの返事に、男達は崩れ落ちる。だが、それでも諦められない者達が暴走を始めた。 

 

「なら、力づくでも俺のものにしてやるぅ!」

 

 暴走男の一人が野獣のような雄叫びを上げ、諦めていた者達もそれに釣られて二人を包囲する。そして、雄叫びを上げた暴走男がユエの小さな体に掴みかかろうとした。だが、その男の肩が誰かに掴まれたことで、目論見は阻止された。

 

 肩を掴まれた男が殺気を感じて振り返ると、そこには笑顔だが目が笑っていない長身の男の顔があった。

 

「俺の娘と弟子に何か用でも?」

 

 長身の男の正体はハジメである。ハジメは店の前に戻ってきたところ、二人が男達に絡まれているのを目撃していた。ハジメは彼らが二人に手を出そうとしたことにキレており、割と強めに殺気を暴走男に叩きつけていた。男はハジメの殺気に身震いしながらも、何とか声を発する。

 

「ユ、ユエちゃんのお、お父さん、この俺にユエちゃんをください……!」

 

 だが、それは彼の寿命を縮める結果となる。

 

「俺の可愛い娘に手を出すとは、度胸があるな。面白い奴だ、気に入った。お前を殺すのは最後にしてやる」

 

 そして、ハジメは挑発する。二人に手を出すならば、俺を倒してからにしろと。

 

「相手は一人だ! やっちまえ!」

 

 男達は一斉にハジメに襲いかかる。前にも見た光景だ。彼らは喧嘩を売る相手を間違ってしまった。何故なら、相手は厳しい修行を積んできた超人だからである。

 

「たまには丁度いい」

 

 先頭の冒険者をボールのように蹴り飛ばし、その後方より迫る男達を纏めて倒す。勇敢にも肉切り包丁を振り下ろしてきた肉屋の男は手首を掴んでその場で投げ、回転させながら地面に叩きつけた。

 

 ハジメは様々な格闘や投げ技を次々と繰り出し、男達をバッタバッタと薙ぎ倒していく。気絶した肉屋の男を武器として振り回し、大立ち回りする場面もあった。

 

「うぉぉぉっ!!」

 

 いつの間に参戦してきたのか、三メートルはあるような巨漢の冒険者が突進してくる。が、ハジメは冷静に前蹴りを繰り出し、容赦なく男の息子に一撃を与えた。

 

「アッーーー!」

 

 巨漢はその一撃で悶絶する。ハジメも男なのであまり使いたくない手だったが、見せしめとしてスマッシュしてやったのだ。

 

「お前は最後に殺すと約束したな?」

 

 男達が倒れ伏す中、最初の暴走男はハジメに首を掴まれた状態で持ち上げられていた。

 

「そ、そうだ……お義父さん…た、助けて…」

「ぶっ飛べ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 暴走男の命乞いも虚しく、彼はハジメによってどこかへと放り投げられた。そして、ハジメはユエ達の方へ向く。

 

「面倒事に巻き込まれたみたいだな」

「ん、馬鹿な男達……」

「し、死んでないですよね?」

 

 襲われたというのに、シアは男達の命を心配する。念のため言っておくが、男達は一人たりとも死んではいない。ある意味殺されたような奴もいるが、ノーカウントである。

 

「ユエ、シア、時間的にもちょうどいい、お昼を食べに行くぞ」

「ん……肉が食べたい」

「肉ですか、いいですねユエさん!」

「分かった、肉だな。美味そうな店なら見つけてある、行こうか」

 

 ユエとシアがクリスタベルのお店にいる間、ハジメはお昼ご飯を食べる場所をリサーチしていた。そのため、ユエの要望に応えることが出来たのだ。

 

 どのような状況であれ、食事を欠かすわけにはいかない。食欲は三大欲求の一つであり、精神状態に直結する。また、栄養という燃料が無ければ肉体は動いてくれない。 

 

 食事という行為は精神と肉体に影響を及ぼす行為なのだ。緊急時に最大のコンディションを発揮するためにも食事が必要だった。三人は腹ごしらえのため、町に繰り出していった。

 

 なお、その後も男達はユエとシアを自分のものにしようと徒党を組んで何度も暴力的な手段に出てきたが、その全てがハジメによって一方的にボコボコにされる結果となり、恐れられることになった。

 

 ユエとシアに手を出せばハジメによる制裁を受けるということがブルックの男連中の共通認識であり、後に冒険者ギルドを通して王都にまでその異名が轟いたというが、それはまた別の話だ。

 

 余談ではあるが、店の前で倒された男達の一部はクリスタベル店長によって回収され、彼女?から教育を受けて漢女軍団が誕生し、ハジメと同様に恐れられる存在になったとか。

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