メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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そういえば、ちいかわ8巻が届きました。島編は特に気合が入っていて面白いのでオススメです


Danger Zone

 ライセン大迷宮は厄介な場所だった。

 

 まず、大峡谷以上の効力を持つ魔力分解作用が働いている。そのため高い殲滅力を誇る上級魔法が封じられ、中級魔法に至っても射程が極端に短い。五メートルも効果を出せれば御の字という状況だ。魔力を外部に出すような技は使用不能であり、魔力を体内で使用する身体強化が重要になってくる。

 

 この迷宮を厄介であると言わしめるもう一つの特性は、エネルギーシールド・力場の弱体化である。エネルギーシールドは勿論のこと、シアのフィールドウォールやハジメのライトニングアーマーが本来の効果を発揮できなくなるのだ。

 

「ユエ、シア、気を付けろ。ここではエネルギーシールドが弱体化する。敵の攻撃やトラップは可能な限り回避するんだ」

「ん……かなり厳しい状況」

「防御という選択肢が取れないのは困りますね」

 

 少しでも攻撃の直撃を受ければ、エネルギーシールドが消失しかけるような状態だ。今までならばエネルギーシールドを信じて攻撃の雨の中に突っ込むこともできた。だが、今は冷静に状況を見極め、脅威を回避することが求められている。

 

「それにしても、随分と入り組んだ迷宮ですね。これじゃ、迷子になっちゃいます」

「迷宮だからな」

 

 ライセン大迷宮の内部では、階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくごちゃごちゃにつながり合っており、まるでランダム生成されたような感じである。

 

 一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっていたり、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がっていたり、階段を登った先が何もないただの壁であったりと、迷宮という言葉に相応しい迷宮だった。

 

「一応、俺のパワードスーツには自動マッピング機能があるから、進み続ければ正しい道も分かるだろうな」

「ん……根気強く進む以外に道はない」

 

 ハジメのパワードスーツはその戦闘力や防御力が注目されがちだが、自動マッピング機能やグラップリングビーム、各種のバイザーのような探索を補助してくれる機能も満載だったりする。

 

 ハジメ達は一度も通っていなかった右脇の通路を探索するため、歩みを進める。周囲を警戒しながら通路を行くのだが、突然……

 

ガコンッ

 

 という音を響かせてハジメの足が床のブロックの一つを踏み抜く。すると、左右の壁のブロックとブロックの隙間から高速回転・振動する円形でノコギリ状の巨大な刃が飛び出してきた。右からは首の高さで、左からは腰の高さで前方から薙ぐように飛び出してきており、殺意が高い。

 

「回避!」

 

 ハジメは飛び込みながらの前転で隙間を抜け、元々小さいユエはしゃがんで回避する。シアに関しては、マトリッ○スの主人公のように後ろに倒れ込む形で二本の凶刃を回避するのだが、彼女の厚い胸部装甲に刃が掠りそうになっていた。

 

 二枚の殺意が高い刃はハジメ達を通り過ぎ、壁の中に消えていく。しばらく周囲を警戒し、何事も起こらなかったので安堵したハジメだったが、急にシアが警告を発した。

 

「上から来ます!」

 

 シアの警告を疑うことなく、全員が即座に退避する。直後、天井に複数の赤い光点とエネルギー反応が現れ、そこから複数の赤いレーザーの柱が降り立った。その場にいた場合、レーザーで串刺しにされていただろう。

 

「助かった、シア」

「ん……お手柄」

 

 シアが危険に気付けたのは、彼女の固有魔法である“未来視”の自動発動のお陰だ。ハジメとユエは彼女の“未来視”を信頼しており、故に彼女の警告には即座に従うようにしていた。

 

「隙を生じぬ二段構え……悪意しか感じられないです」

 

 凶刃を回避した後、しばらく何事も起こらなかったことで警戒を解いたところをレーザーで串刺しにする算段だったと思われる。だが、未来予知格闘ウサギのシアがいたことで串刺しは未遂に終わった。

 

「このようなトラップは今後もあるはずだ。一度回避したとしても、気を緩めないようにしよう」

「ん……」

 

 自動発動であっても“未来視”は少なくない魔力を消費する。何度もそれに頼ってばかりでは、シアの身体強化にも影響が出てしまうため、トラップを可能な限り各自の感覚で察知する必要があった。

 

 ハジメ達は今まで以上にトラップを警戒して更に奥へと進む。

 

 この迷宮ではまだ魔物とは遭遇していない。元からそういう仕様の迷宮の可能性もあるが、トラップとして魔物が奇襲してきてもおかしくないだろう。

 

 やがて、通路の先にある空間に出た。その部屋には三つの奥へと続く道がある。マッピングを継続しつつ、階下へと続く階段がある一番左の通路を選んだ。

 

「何だか嫌な予感がする……」

「お父様、それはフラグ」

「そうですよ。本当に何か起こ『ガコンッ!』」

 

 階段の中程まで進んだところで、ハジメがフラグを立ててしまう。そして、そのフラグは一瞬で回収された。

 

 嫌な音が響いたかと思うと、いきなり階段から段差が消える。かなり急勾配の下り階段だったのだが、その段差が引っ込んだことによってスロープに変化したのだ。しかも、地面に空いた無数の穴からよく滑る液体が溢れ出すオマケ付きである。

 

「今日は厄日ですぅ!」

 

 為す術なく滑落していくハジメ達。その先には道がなくなっており、その果てに何処かへと放り出されるのは確定である。

 

「ユエ、シア、俺に掴まれ!」

「ん!」

「はい!」

 

 ハジメにしがみつく二人。直後、スロープが終わりを迎え、ハジメ達は空中へと投げ出された。

 

『グラップリングビーム、オンライン』

 

 ハジメは左腕を天井に向かって掲げ、手首付近のデバイスからグラップリングビームを発射して天井にぶら下がる。そして、全員が何気なく下を見たのだが、そのことを後悔することになった。

 

 何故なら、その下の空間ではおびただしい数のサソリがカサカサと音を立てて蠢いていたからだ。体長は十センチ程度なのだが、生理的な嫌悪感がヤバい。パワードスーツを装着しているハジメなら落ちても大丈夫だが、ユエとシアに関してはそうはいかない。二人共、自分が落下した場合を想像して嫌そうな顔をしている。

 

「ん……気持ち悪い」

「こんなのに全身を這い回られるなんて嫌です」

 

 やがて、目線をサソリプールから天井に移すのだが、グラップリングビームを打ち込んだ箇所の付近に発光する文字があることに気がついた。

 

“彼等に致死性の毒はありません”

“でも麻痺はします”

“存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!!”

 

「なんて趣味の悪さだ……」

 

 これが、自分が必ず汚名をそそぐと決意した解放者の一人の姿なのだろうかと、ハジメは嫌悪感を露にしていた。

 

「お父様、あれ……」

 

 その時、ユエが何かに気がついて下方を指差す。そこには、人が通れる大きさの横穴が空いていた。

 

「横穴か……上に戻っても行く場所はない。あそこに降りるぞ」

 

 ハジメはグラップリングビームを伸ばして横穴のすぐ近くに降下すると、振り子のように勢いを付けて横穴に飛んだ。

 

 横穴を進んだ後も殺意の高い罠が満載だった。溶解液で満たされた落とし穴、こちらをサイコロステーキに変えようと後方から迫る格子状のレーザー、床が液状化して中央に巨大なワームが待ち受けている部屋などだ。そして、今はというと……

 

「師匠、天井が!」

 

 シアが“未来視”で罠の発動を察知した。天井が落ちてくるのだろう。三人は即座に部屋の出口へと駆け出すのだが、それと同時に天井が落ちてくる。ユエを抱えたシアと共にハジメはスタートダッシュを切り、天井に潰されるギリギリで出口に飛び込んだ。

 

「ふぅ……今のは焦りました……ん?」

 

 そして、シアは発見してしまった。本日何度目か分からないウザい文を。

 

“ぷぷー、焦ってやんの~、ダサ~い”

 

 これまで、罠を回避した先には見た人を必ず逆撫でするようなウザい文が存在しており、十回目以降は数えていなかった。

 

 そんなものを十回以上も見させられてきたシアの反応はというと……

 

「ふざけやがってぇぇ!!」

 

 某筋肉モリモリマッチョマンの変態のように叫ぶシア。彼女の精神はハジメやユエほど強くはない。そのため、幾度となく直面してきた命の危機とウザい文によって彼女のストレスはマッハだった。

 

「シア、落ち着け。それではミレディの思うつぼだ」

「シア、大丈夫?」

「師匠、ユエさん……すいません、つい……」

 

 そんなことがありながらも全てのトラップを突破した一行は幅が六、七メートルはある大きな通路に出る。急なスロープのような地形であり、緩やかに右カーブしていた。このような場所にトラップが無い方がおかしい。

 

 案の定、「ガコンッ!」という音が響いて罠が作動する。ハジメ達が警戒していると、上方に位置するカーブの向こう側から巨大な岩石の球体がゴロゴロと転がってきた。おそらく、逃げた先にはウザい文が添えられているだろう。

 

 ユエは退避しようとするが、すぐに立ち止まる。何故なら、ハジメとシアが球体に向かい合って動かないどころか、球体に向かって歩みを進め始めたからだ。

 

「ん、二人とも?」

「シア、俺が何をしたいか分かるな?」

「はい、分かりますよ師匠。迎え撃つんですよね?」

 

 大岩を前に並び立つ二人。ハジメが左、シアが右であり、それぞれ右腕と左腕を限界まで後方へと引き絞っている。

 

「「やられっぱなしでたまるか!」」

 

 ガントレットから変形するような音が鳴り、ブースターが展開されて噴射を開始する。直後、前方に突き出されたハジメとシアの鉄拳が同時に大岩へと炸裂。それを木っ端微塵に粉砕してしまった。

 

「やりましたね!」

「あぁ。スッキリした」

 

 ハジメもミレディのトラップとウザい文には耐えかねており、弟子と一緒になって大岩粉砕に加わっていた。バイザーに隠れて表情は見えないが、爽やかな顔をしているのは間違いない。シアとハイタッチもしていたりする。

 

「これでこの道をゆっくり行けそうだ」

「師匠、それは多分無理です。また、ゴロゴロという音が聞こえてきました」

「ん……ここも二段構えだった?」

 

 他の亜人と比べて耳が発達している兎人族は、この世界で最も聴力が高い種族であり、シアは真っ先に音に気付くことができた。

 

「だが、また粉砕すれば……前言撤回、あれは無理だ」

 

 また粉砕しようと考えたハジメだったが、転がってきた球体の姿を見て考えを改める。なんと、目の前に現れた球体は黒光りした金属製であり、その表面に空いた無数の穴から溶解液を撒き散らしていたのだ。実際、液体が付着した部分が溶けはじめているのが確認できている。

 

「溶解液なんて御免だ。逃げるぞ」

「合点承知です!」

「ん……また溶解液」

 

 ハジメは溶解液に対して良い思い出がない。オルクス大迷宮におけるパワードスーツの被ダメージは、ヒュドラのブレスを除けば溶解液によるものが最大だったりする。サソリモドキが尾から放った溶解液がその最たる例だ。

 

 三人は踵を返して球体から逃げるが、背後からは球体が速度を徐々に上げて迫ってくる。スロープを急いで駆け降りていくと、通路の出口が見えてきた。

 

「飛ぶぞ!」

「んっ!」

「は、はいっ!」

 

 出口には床がなく、そこに空いている大穴には真っ暗な奈落が広がっている。そして、奈落の向こう側には通路が見えた。ハジメ達はスロープの終着点ギリギリの部分で地面を蹴り、空中へと飛び出す。

 

 宙に浮くハジメ達。ユエはシアによって抱えられた状態だ。対岸との距離が縮まる度、重力によって高度が下がっていく。次の瞬間、彼らが踏んだのは虚空ではなく、対岸の地面だった。何とか、穴を飛び越えることに成功したのだ。

 

「ユエ、シア、無事か?」

「ん……生きた心地がしない」

「はい、何とか生きてます」

 

 安否を確認するハジメ。その耳には二人の声と同時に、金属製の球体が激しい音と共に溶けていく音が入ってくる。奈落の下は溶解液だったのだろう。

 

「少し休もう」

 

 ハジメ達はしばらく休憩した後、通路を進む。長い道を抜けた先には部屋があり、四つの紋章でロックがかけられた金属製のゲートが存在していた。ハジメがゲートをスキャンすると、次のように表示された。

 

『スキャニング完了』

 

『高硬度の金属で構成されたゲートです。表面に四つのルーニックシンボルを確認。部屋内のシンボルマークと連動しており、全てスキャンすることで開くようです』

 

 どうやら、一部の者にしか開けられないような仕組みになっているようだ。

 

「ロックの解除には部屋内のシンボルマークのスキャンが必要らしいが……」

「でも、何処にあるんでしょうか」

「ん……もしかして、あの奥かも」

 

 よく見ると壁の一部に直径が一メートル程の丸い穴が空いており、壁の奥まで続くトンネルになっていた。

 

「俺が行く」

「師匠、それは冗談ですよね?」

「いや、大真面目だ」

 

 率先してトンネルに入ろうとするハジメに対してシアがツッコミを入れる。ゴツいパワードスーツの姿で通れるはずがないと思ったのだ。

 

 だが、シアは知らなかった……

 

『モーフボール、オンライン』

 

 ハジメはモーフボールの機能を使い、銀色の球体へとトランスフォームする。その大きさはトンネルに合っており、スムーズに通り抜けてしまった。

 

「ちょっと、何やってるんですか!?」

「何って、球状に変形して狭い通路を通り抜けただけだが?」

「シア、そういうことだから受け入れて」

「は、はぁ……」

 

 それはさておき、トンネルの向こう側には小部屋があった。見渡してみると、先ほどのゲートにあったものと同じ紋章が壁に埋め込まれている。

 

 ハジメは地面に埋め込まれた四つのシンボルをスキャンしていく。スキャン直後に地面の紋章が白色に発光し、それに連動してゲートの紋章も全てが白色に発光。全てのシンボルがアクティブになったことで、向こう側で重い音を立ててゲートが開いた。

 

「ん、開いた……」

「そのようだな」

「師匠も戻ってきてください!」

「それだが、合流は無理そうだ……」

 

 壁越しにハジメは二人と言葉を交わす。ハジメの目の前では壁に隠蔽されていた新たな道が開かれており、通ってきたトンネルは塞がれてしまっていた。

 

「どうやら、俺だけを分断するように作られているらしい……」

 

 モーフボールを使用して狭い通路を進み、あの仕掛けを作動させられるのは鳥人族の遺産を受け継ぐハジメだけだ。最初からこのつもりで作ったのだろう。

 

「俺は大丈夫だ。ユエ、シア、また会おう」

「ん……お父様、気を付けて」

「はい、師匠!」

 

 壁越しに最後の言葉を告げ、彼らは二手に別れる。ここから先は単独でのミッションだが、ハジメに恐れはない。何故なら、これまで一人で戦ってきたのだから。

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