それは、ハジメがメカノイドの蠢くエリアを進んでいた頃。別行動となったユエとシアは新たな局面を迎えていた。
二人がやって来たのは長方形型の奥行きのある広めの部屋だった。両側の壁には多数の窪みが存在し、その中には身長二メートル程の騎士甲冑が立ったまま格納されており、その全てが大剣と盾を装備している。
部屋の奥に目をやると大きな階段が見え、そこを登った先には祭壇のような場所があり、奥の壁には巨大な扉がある。そして、祭壇には菱形の黄色の水晶が置いてあった。
「ユエさん、この騎士甲冑……いきなり動き出して襲いかかってくる気がします」
「ん……お約束は守られる」
やがて、二人は部屋の中央まで進むのだが、やっぱりお約束は守られる。トラップが作動する時の例の音が響き、周囲の騎士甲冑に変化が起こった。
「ですよね……」
騎士達の兜の隙間から見えている目のような部分に光が灯り、ガシャガシャと音を立てながら窪みから騎士甲冑が出撃していく。その数、総勢四十体。騎士達は盾を前面に押し出し、大剣を突きの型で構えた状態で二人を包囲した。
「ん……動く前に壊しておけばよかった」
「とにかく、この場を切り抜けないとダメですね。やりましょう、ユエさん」
「ん……命を持たないゴーレムなんかに負けるつもりはない」
敵の数は二十倍であるが、二人はその物量に対して物怖じせずに対峙する。フェアベルゲンで多数のパイレーツと戦った経験が二人の自信となっていた。
「かかってこいやぁ! ですぅ!」
シアは拳を構えて騎士達を睨み付け、挑発する。それに反応したのかは知らないが、それを皮切りにゴーレム騎士達は一斉に侵入者達を切り裂かんと襲いかかってきた。
その巨体にも関わらず、ゴーレム騎士達の動きは俊敏だった。動く度にガシャンガシャンと騒音を発生させながら迫ってくるのだが、その眼光も相まって迫力が凄い。
そんなゴーレム騎士達に対して最初に攻撃したのはユエだった。手にはウォーターガンが握られており、それを構えて照準すると、トリガーを引くのではなく魔法名を呟く。
「“破断”」
その瞬間、銃口から飛び出したのは細いレーザーのような水流であり、鋭いウォーターカッターがゴーレム騎士達を容易に両断していく。盾を構えていたとしても、盾ごと真っ二つにされる結末だ。そして、それによって隊列が乱れた所に突っ込んでいく橙色の人影が一つ……
「でぇやぁああ!!」
それはシアだ。彼女は跳躍すると右腕を高く掲げ、落下しながら真下のゴーレム騎士に対して拳を勢いよく振り下ろす。彼女の限界まで強化した身体能力と位置エネルギーが合わさった問答無用の一撃であり、咄嗟に頭上へ構えていた盾ごとゴーレム騎士をペチャンコに押し潰した。
叩き付けられたシアの腕は地面にめり込んでおり、亀裂を生じさせている。完全に無防備な瞬間を狙って傍らの騎士が大剣を振りかぶっているが、シアはその程度でやられるような戦士ではない。
『ヒートハンド、オンライン』
騎士の動きはシアも横目で確認していた。左腕を赤熱化させて手刀を作ると、今まさに大剣を振り下ろそうとしている騎士の脇腹部分に叩きつけ、まるでバターのように溶断してしまった。
ヒートハンドは鋼鉄さえも溶かす熱量を秘めている。金属や氷で構成された相手に対する特効となるだけでなく、出力の調整次第では火を起こしたり溶接も可能となるなど、かなり万能である。
「行きます!」
先ほどの騎士が持っていた大剣が落下してくるのをキャッチし、迫り来る騎士に向かって全力で投げつける。盾で弾かれるが、その隙を逃さず踏み込んで貫手を放った。
超高温の貫手は盾を貫通して胴体まで通り、そのまま振り上げて頭部まで蹂躙する。上半身が融解しかけている騎士を蹴り飛ばして砲弾に変え、後続を巻き込んでひしゃげさせてしまった。
シアは超高温の殴打でゴーレム騎士に穴を開け、金属製のボディーを融解させて破壊していく。手刀で手足を切断し、貫手を放って突き刺すような容赦ない攻撃が続き、騎士達を蹴散らしていた。
このようにシアが大暴れしているわけだが、一人でこんなに突出していては包囲されてしまうだろう。しかし、そんなシアの背中を守る存在がいるので心配はいらない。騎士がいきなり盾を投げつけてくるが、ユエの放った水流によって軌道を逸らされ、背後のゴーレム騎士に激突する。
「すいません、ユエさん!」
「シア、背中は気にしないでいい。好きに暴れて」
ユエの援護により、シアは安心して暴れることができる。暴れるシアの背後に回ろうとする騎士がいれば、すかさずウォーターカッターが飛来して切り刻んでいく。シアの近接戦闘能力と、その死角をカバーするように放たれるユエの水刃によって翻弄された騎士達は、次々と駆逐されていく。
だが、ここで二人はとあることに気がついた。
「ユエさん、なんかゴーレム騎士が再生してませんか?」
「ん……そうみたい。これだとキリがない」
よく見ると、最初の方に倒したゴーレム騎士の残骸が綺麗さっぱりと消えている。なんと、彼らは破壊されたとしても再生し、再び戦列に加わっているのだ。
「ゴーレムなら核があるはず。それさえ壊せば再生は止まるかも」
「ユエさん、それが出来たらよかったんですけど……こいつらは核を持ってないみたいですぅ」
シアは風穴の空いたゴーレム騎士の胴体の断面をユエに見せる。その中には簡単な骨格があるだけでそれ以外は空洞となっていた。
「一応、魔力自体はあるみたい。もしかすると、何か特殊な金属で構成されている?」
ユエの知識では、ゴーレムは魔石を加工して作られる核という動力が無ければ作動しないものだ。だが、核の無いゴーレムが動くという異常な事態が目の前で起こっている。そこでユエは思った。このゴーレムは特殊な金属で作られているのではないかと。
「お父様がいれば何か分かりそうだけど……」
錬成師であるハジメならば、“鉱石系鑑定”によって鉱石の名称と特性を知ることができるが、今はここにいないので不可能となっている。
「とにもかくにも、このままではジリ貧ですよ」
「ん……立ち止まっていては何も変わらない。強行突破しよう」
二人の視線はゴーレム騎士の隊列を越えたその先にある祭壇と扉に向けられる。再生を止める手段がない以上、ここに長居するのは危険だと判断したのだ。
ユエがウォーターガンで数体のゴーレム騎士を切り裂き、それによって隊列に空いた穴へと飛び込むシア。彼女は姿勢を低くすると周囲を薙ぎ払うように足払いを繰り出して蹴散らしていく。
技を出した後、硬直したシアに対して大剣や盾を投げつけようとするゴーレム騎士もいたが、ユエの放つ“破断”が飛来して切り裂かれる。
「シア、しゃがんで」
「はい!」
ユエはシアと合流した後、彼女に姿勢を低くさせると両手にウォーターガンを持って左右に“破断”を放ちながら回転し、半径数メートル以内のゴーレム騎士の上半身を斬り落としてしまう。
その隙に包囲網を突破した二人。階段を登ると祭壇を無視して出口と思われる扉の前に出るが……
「ユエさん!扉は!?」
「ん……だめ、封印されてる」
「やっぱりですか……」
「おそらく、この祭壇にある水晶が鍵になってると思う。何とか解除してみる」
「分かりました! 私はそれまで敵を食い止めておきます!」
シアは踵を返して階段を登ってくるゴーレム騎士と対峙する。やがて、先頭の個体が最上段に足を踏み入れるが、シアによって蹴り飛ばされ、階段を登っている途中の集団を巻き込みながら転げ落ちていく。
「地の利はこちらにあります!」
低い場所と高い場所では後者にいる方が有利である。シアは階段の上という有利な位置取りを活用し、敵が登ってきたら即座に蹴り落とし、落下に多くの敵を巻き込むことで時間を稼いでいた。
一方、ユエは扉の封印と格闘していた。祭壇に置いてあった水晶は複数の立体ブロックで構成された黄色の正八面体だ。これを分解し、扉の窪みに嵌まる形に作り変えることがユエのミッションだったのだが、扉に何か彫られてあった。それは……
“とっけるかなぁ~、とっけるかなぁ~”
“早くしないと死んじゃうよぉ~”
“まぁ、解けなくても仕方ないよぉ! 私と違って君は凡人なんだから!”
“大丈夫! 頭が悪くても生きて……いけないねぇ! ざんねぇ~ん! プギャアー!”
例に漏れずウザい文があった。こちらを逆撫でするような文のオンパレードにイラっとしたユエだったが、集中を乱されてなるものかと視界から外し、解読に専念する。
「よし、できた……」
しばらくして、扉の窪みに嵌まる形に組み換えることができた。完成した鍵を手に取り、窪みに嵌めてみると扉が開く。
「シア、扉が開いた! 下がって!」
「流石はユエさんですぅ!」
シアは背後から迫るゴーレム騎士を裏拳で倒し、ユエの方へと駆ける。ユエの援護射撃で追っ手はすぐに倒され、無事に扉の前に辿り着く。
「行きましょう、ユエさん!」
「んっ!」
扉の向こう側へと飛び込む二人。ユエが薙ぎ払うように放ったウォーターカッターで追っ手をまとめて始末した隙に、シアが扉を閉めた。
「そうか、それは大変だったな」
結果的に三人は合流することができた。お互いが突破してきた道のりについて情報を交換し、今後のことを考えながら進んでいた。
「それにしても、核を持たない上に何度も再生するゴーレムか……次に遭遇するようなことがあれば、その材質を調べたいものだ」
「師匠の火力さえあれば、ゴーレムとの戦いはかなり楽になりそうですね」
「ん、それは同感」
こうしてしばらく進んだ先にあったのは、扉でもアイテムでも道でもなく、袋小路だった。そして、行き止まりの部分の壁だけ色が異なっていた。
「なんで行き止まりなんですか!おのれミレディ!」
「ん……ミレディは必ず潰す」
「落ち着け、二人共。少し調べてみるから待ってろ」
『スキャンバイザー、オンライン』
スキャンバイザーを起動させ、目の前の壁をスキャンするハジメ。その結果はすぐにバイザーへと表示された。
『材質:コルダイト』
『高レベルの強度を持つ特殊な合金です。劣化したとしても一定の耐久性を維持するため、通常の兵器で破壊することは困難です。スーパーミサイルの使用を推奨します』
「新たなアビリティを使って壁を破る。強力な爆風が拡散するから、かなり後ろに下がってくれ」
「たしか、スーパーミサイルでしたっけ?」
情報交換の時点でスーパーミサイルの存在についても共有されている。今後も、使用時に味方を巻き込みかねないアビリティについては最優先で情報を共有する方針である。
『スーパーミサイル、オンライン』
二人が避難したのを見届けた後、ハジメは砲口周辺のパーツを展開させたアームキャノンを構え、ビームを最大までチャージする。その最大チャージビームにノーマルミサイル五発を合成するとスーパーミサイルが完成し、砲口から緑色の弾頭が露出した。
直後、アームキャノンから飛び出したのは、緑色の弾頭を持つ極太のミサイル。発射直後に後部のブースターが点火し、通常のミサイル以上のスピードで壁に激突すると大爆発を起こした。
ズガァァァンッ!!!
耳をつんざくような爆音が通路に響き渡り、スーパーミサイルによってコルダイト製の壁が粉砕される。それと同時に発生した強烈な爆風と共に大小の破片が拡散し、最も爆心地に近い位置にいたハジメに降りかかった。
しばらくして視界が回復する。ハジメは健在であり、壁にぽっかりと空いた大穴を前にして、パワードスーツの表面に付着した塵や小さな破片を手で払い落としていた。そして、退避していた二人がハジメのところに戻ってきた。
「いやぁ、凄い音でしたね……耳を塞いでいなかったらウサミミが大惨事になるところでしたよ」
「ん……でも、スーパーミサイルの威力は頼りになる。通常のミサイルは上級魔法クラスだけど、あれは最上級魔法と同等かそれ以上だった」
「とりあえず、突破口は開けた。先に進むぞ」
この先に何が待っているのかは不明だ。ハジメ達は鬼でも悪魔でもパイレーツでも何でも来いと思いながら大穴を潜り抜けた。
そこは……
「この部屋、見覚えがあるな」
「ん……たしかに見覚えがある」
「そうですね。特に、あの石板なんか見覚えがあり過ぎるんですけど……」
大穴を潜った先には別の部屋があった。その部屋は十メートル四方であり、その中央に石板が立っている。見覚えがあるはずだ。なぜなら、その部屋は……
「最初の部屋……みたいですね?」
全員の思っていたことをシアが代弁する。最初に入ったウザイ文が彫り込まれた石板のある部屋なのは確かだった。単なるよく似た部屋ではない。それは、扉を開いて数秒後に部屋の床に浮き出た文字が証明してくれた。
“ねぇ、今、どんな気持ち?”
“苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?”
“ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ”
「「「……」」」
その場を沈黙が支配する。皆、能面のような無表情のまま、石像のように一ミリも動かない状態になり、無言で文字を見つめていた。すると、更に文字が浮き出てくる。
“あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します”
“いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです”
“嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!”
“ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です”
“ひょっとして作っちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー!!”
「は、ははは」
「フフフフ」
「フヒ、フヒヒヒ」
三者三様の壊れた笑い声が辺りに響く。ハジメに至っては現実逃避のつもりなのか、モーフボールに変形して周囲をコロコロと転がりはじめた。
その後も色々と大変だった。ミレディの言葉通り、最初の通路を抜けた先では階段や回廊の位置、構造が前に見たのとは大幅に変わっており、ハジメすら怨嗟の声を上げる事態だ。大量の罠も相変わらずであり、大抵の場合はこれまで通りにやられっぱなしである。
唯一、溶解液を散布してくる黒い金属製の大玉に関してはスーパーミサイルで粉砕できたが、溶解液が飛び散ったので大慌てする始末だった。
コルダイトはメトロイドプライムに出てくる物質で、スーパーミサイルを使わないと破れない強度になってます