チョウゾには武闘派がいる。それはマオキン族といい、猛禽類を彷彿とさせる鳥人で構成されている。その長の名はレイヴンビークといった。
マオキンの族長であるレイヴンビークは最強の鳥人族の戦士である。鳥人族が失った翼を未だに保持している程の古参であり、老体ながらも鍛え上げられた肉体を重厚なパワードスーツで包み、巨大なアームキャノンで武装していた。
アームキャノンの火力だけではなく、その高い身体能力から繰り出される近接攻撃は右に並ぶ者がいない程の威力を誇る。パワードスーツにはエイオンアビリティという特殊能力が搭載され、その強さに拍車をかけている。
武闘派の長として常に最強でなければならず、舐められたら終わりである。そのため、レイヴンビークは時に冷酷な判断を下すことすらあり、同胞にすら恐れられている存在だった。
だが、そんな彼に転機が訪れる。なんと、レイヴンビークに血の繋がらない異種族の息子ができたのだ。
それは、レイヴンビークとその配下の戦士団がパイレーツのフリゲート艦を制圧した時の話のこと。彼らは艦内にて一人の男の子を発見したのだ。それこそが、六歳の南雲ハジメである。
「族長、スキャンバイザーでハッキングしたところ、このパイレーツ艦は銀河連邦の勢力範囲外から来たようです」
「ほう、そうか」
チョウゾの技術力ならばハッキングなど造作もないことだ。パイレーツ艦からあらゆる情報を吸い上げ、優秀な配下が報告を上げてくれる。
「そして、例の少年ですが……銀河連邦が接触禁止としている惑星からパイレーツ偵察隊が連れ去ったとの記録が確認されました」
「なんだと?」
銀河連邦は様々な惑星や種族が加入している銀河規模の巨大な組織であるのだが、技術レベルの差や接触による文明への悪影響から、その存在を認めながらも接触を禁止している文明が存在している。その一つが地球だった。
「我らの姿を見られた以上、そのまま帰すわけにはいかないだろう」
「では、排除いたしますか?」
「馬鹿者が。戦士の誉れを忘れたか?弱き者を手に掛けるなど愚か者のすることだ」
レイヴンビークは部下を一喝する。時に冷酷な判断を下す彼であっても、誉れある戦士の血は流れていた。
「あの者は我らマオキンの子とし、我らの元で戦士として育て上げる。我らの一員としてしまえば、問題は無かろう」
「しかし、あの少年がZDRの環境に耐えられるかどうか……」
「マオキンの遺伝子を移植して生体調整を施せばよい。サムス・アランという前例がある以上、不可能ではないだろう」
族長であるレイヴンビークの元には様々な情報が入ってくるのだが、その中にはソウハ族によって保護されたサムスという少女の情報もあった。
「あの少年にマオキンの……私の全てを叩き込む。それが族長である私の決定だ。それに異を唱える者は許さない。それが誰であれだ」
「はっ、マオキンに栄光あれ!」
それから、レイヴンビークはハジメを養子として育成を開始した。パワードスーツはレイヴンが設計し、訓練は彼が主導して直々に行うという徹底ぶりである。
「我が息子よ、そろそろ戻ってこい。夕餉の時間だ、異論は認めん」
「は〜い!」
元気の良い返事をして駆け寄ってくるハジメの姿がレイヴンの目に映る。育成を始めて数年、彼はハジメのことを本当の息子として扱うようになっていた。
当初は最強の戦士を育成するという野心から始まったものだが、今ではハジメに対する愛情すら芽生えている程であり、育成もハジメのことを第一に考えている。これは、レイヴンにとっても想定外だった。
(家族とは良いものだ。まさか、ハジメを愛おしく思うようになるとは……)
ハジメを息子としてからというもの、レイヴンは以前より丸くなった。もちろん、族長としての威厳がなくなったわけではないが、その変化は周囲からも感じ取れていた。
そして、二人が出会ってから十一年と数ヶ月が経過した頃。レイヴンが落ち着きを無くす事態が起こった。
「ハジメからの定時連絡が途絶えただと?」
ハジメは地球に来てから定期的にZDRに向けて通信を送っており、それで生存報告をしていたのだが、ある時からそれが途絶えていた。
それは、ハジメが異世界トータスへと召喚されてしまったからである。だが、何が起こったのかマオキン族には把握する術がなかった。常に冷静なレイヴンビークも、これには狼狽えた。
レイヴンは平然を装っているつもりであるが、同じ場所を何度も歩いて往復したり出入り口に頭をぶつける様子が見られ、明らかに普通ではない。
「我が息子の身に何が……ハジメが簡単にくたばることはないだろうが、仕方があるまい。私はこれから地球へと赴き、様子を確認する。親衛隊は私に同行せよ」
この事態を受け、レイヴンは即座に地球行きを決定する。赤いパワードスーツに身を包んだ親衛隊の鳥人兵士を集め、遠征の準備を始めていると……
「族長、地球からの救難信号を受信いたしました。発信元はハジメ様の所有するデバイスです」
「なんと……準備を急がせろ。さもなければ私が単独で地球に向かうぞ」
レイヴンは少しでも早く地球に向かいたかった。何なら単体で突入しようとするくらいであり、ハジメの緊急事態に慌てていた。やがて、親衛隊の準備も終わったためレイヴンは地球行きのスターシップへと乗り込んだ。
地球に向かった先で、彼は公安の服部という人間から知らされることとなる。ハジメが謎の行方不明事件に巻き込まれ、その姿を消してしまったということを。
「南雲さんは、このデバイスを私に託しました。もしも自身に何かが起こった場合、迷わずスイッチを押して救難信号を発信してほしいと」
公安の服部はとある山間部にてレイヴンビークと対面していた。周囲には物々しい赤いパワードスーツが控えており、端から見たら圧迫面接だ。
目の前には三メートル近くある体躯の鳥人がおり、彼は見下ろされる形となっている。普通の人間なら腰を抜かしそうなものだが、何とか耐えていた。
「なるほど、そのような経緯が。教室で見つかったハジメのデバイス内の記録を参照したが、何らかの手段で連れ去られたのは間違いない」
そして、ハジメは服部に渡した以外にも複数のデバイスを教室に仕込んでいた。そこには異世界召喚される直前の瞬間が映り込んでおり、服部から知らされたことは事実なのだと、レイヴンは理解することができた。
「誘拐には高度な空間操作技術が使われている可能性が高い。捜索には我らも力を貸そう」
「それは、助かります。南雲さんから、鳥人族は銀河で最も高度な技術を持つと聞いていますので」
この日、レイヴンビークは地球を訪れた。後に南雲夫妻とも対面し、当初は捜索の協力のみだった関係は徐々に拡大し、技術提供や銀河連邦との仲介役にまで至るのであった。