その日、ハジメ達は聖教教会本山がある【神山】の麓に存在する国家、ハイリヒ王国の国王一家に謁見した。その際、イシュタルに対する国王の態度から、国王より教皇の方が立場は上であり、国家権力よりも宗教の力が強い国だとハジメは理解した。
ちなみに、国王の名はエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃はルルアリア、王女はリリアーナ、その弟である王子はランデルという。
さらに、宰相などの権力者や王国騎士団長、魔法師団長が紹介された。ハジメ達の訓練を担当する教官は王国騎士団と魔法師団から選ばれているため、この場で紹介されていた。まあ、ハジメには戦闘訓練など要らないのだが。
その後、親睦を目的とした晩餐会が開かれた。異世界の料理は地球の洋食に近いものだったが、ピンク色のソースや虹色に輝く飲み物、ギャグ漫画に出てきそうな巨大な骨付き肉などもあった。
大変美味しそうな料理が長いテーブルに並べられ、お腹が空いていたハジメとしては今すぐにでも食べたかったが、何かが盛られているのではないかと警戒していた。なお、異世界人の参加者が普通に食べていたので、すぐにハジメも料理に手をつけた。
「ハジメくん、これ美味しいね」
「あぁ、そうだな。色々と警戒していたのが馬鹿みたいだった……」
ハジメは隣に座っている香織の感想に反応しつつも、頭を押さえながら自虐的なことを言う。
晩餐会が終了した後、一人につき一部屋が与えられ、それぞれの部屋に別れた。ハジメも自室に入ると、戸締まりをした上でカバンの中から大型ハンドガンのような武器を取り出した。
「武器は無事か…」
これはブラスターという武器だ。ビームを放つ大型のハンドガンであり、ハジメがパワードスーツを着用していない時の護身用である。いつもは厳重なロックを掛けられた上でカバンの中に収納されている。召喚された際、ハジメは咄嗟にカバンを掴み取っていたのだ。
ブラスターは、以前交流のあったスターフォックスという雇われ遊撃隊のリーダーを務めている獣人型宇宙人のジェームズ・マクラウドという人物からプレゼントされたものだ。彼はかなりの腕を持つ戦闘機乗りであり、スターシップの操縦は彼に教わった部分が大きい。
そして、ハジメは胸ポケットからペンのような何かを取り出す。掴んだまま念じると、一瞬で一本の槍へと転じた。
「スピアも問題なしか」
ハジメの持つもう一つの装備、チョウゾスピアである。レイヴンビークより贈られた武器であり、頑強かつしなやかな特殊合金で作られている。並大抵の刀剣と打ち合えば、相手を逆に折ってしまうような強度である。
現在保有する装備は、ブラスターとチョウゾスピア、パワードスーツの三つだ。そのうち、ブラスターとパワードスーツについては、この世界には過ぎ足る力なので秘匿が決まっている。力を利用されないためだ。
ハジメは装備の確認を終えた後、そのままベッドで眠りについた。
翌日、訓練と座学が始まった。
最初に配られたのは、12cm×7cm の金属製の薄いプレートだった。それについて、騎士団長メルド・ロギンスが説明してくれた。
「このプレートはステータスプレートと呼ばれているアーティファクトで、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。くれぐれも無くすなよ?」
アーティファクトとは、今では再現することができない強力な魔法道具のことであり、神が地上にいた神代に作られたという。なお、その一種であるステータスプレートは大量に複製されているため、昔から世界中に普及している。
「使い方は簡単だ。プレートに刻まれている魔法陣に血を一滴垂らして登録し、“ステータスオープン”と呟くとステータスが表示される」
ハジメはそれに従い、指先に針を刺して血を少し出すと、魔法陣に擦り付ける。そして、ステータスオープンと呟くと同時にステータスが表示された。
南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1
天職:戦士/錬成師
筋力:1000
体力:920
耐性:700
敏捷:1100
魔力:200
魔耐:100
技能:槍術・棒術・短剣術・投擲術・格闘術・射撃術[+狙撃][+早撃]・気配感知・夜目・遠目・錬成・言語理解
そして、団長がステータスについて説明する。
「まず、最初に“レベル”があるだろう? それは、各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100であり、その人間の限界を示す。レベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできるぞ」
ちなみに、レベル1の平均はおよそ10である。ハジメ達のステータスは基本的にその数倍から数十倍は高いものとなっている。そのため、ハジメのステータスは異常といってもいいだろう。
レベル1…つまりまっさらな状態であるという表示を見て、ハジメは鳥人族との思い出を否定されたような気がしていた。
だが、裏を返せば自分に伸び代があるということでもある。実を言うと、ハジメは自らの能力に限界を感じており、異世界に来たことで能力を更に伸ばせることへの喜びもあった。強くなれば強くなるほど、スペースパイレーツを打ち倒せるのだから。
「次に“天職”ってのがあるだろう? それは言うなれば才能だ。末尾の“技能”と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する」
ハジメの天職は戦士と錬成師の二つだった。戦士というのは分かる。彼は鳥人族によって鍛えられた宇宙戦士であるからだ。だが、錬成師という天職には身に覚えがなかった。
「ハジメくん、私はこんな感じだったよ」
ハジメが自分のステータスを見ていると、香織がステータスプレートを見せにやって来た。
白崎香織 17歳 女 レベル:1
天職:聖女
筋力:58
体力:46
耐性:46
敏捷:48
魔力:138
魔耐:138
技能:弓術[+狙撃]・先読・回復魔法・光属性適性・高速魔力回復・言語理解
「聖女か……それと、技能の方には弓術があるが……」
「多分、私が弓道部だからかな? 他に、回復魔法とか光属性適正なんてものがあるけど、いかにも聖女って感じがするね」
香織は弓道部のメンバーである。大会でも何度か優勝経験があるため、クラスメイト達の中で最も弓の扱いが上手だと言える。
「ハジメくんのステータスは凄いね。もしかしたら、クラスの中で最強かも」
二人で話していると、メルド団長が生徒達に対してステータスプレートを提示するように求めてくる。
「お前達、ステータスプレートの内容を報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
真っ先に報告したのは光輝だった。
天之河光輝 17歳 男 レベル:1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
「おお! 流石は勇者様だ! 既に三桁じゃないか! それに、技能がこんなに沢山! これは頼もしいな」
「いや~、あはは……」
団長に称賛され、光輝は照れたように頭を掻く。レベル62である団長のステータスの平均は300前後であり、世界トップクラスの強さとなっている。光輝はレベル1の時点ですでに100であり、成長次第では団長を早い段階で追い抜くだろう。
光輝に続くようにして、クラスメイト達はステータスプレートを団長に見せていく。皆、光輝に及ばない部分が多かったが、この世界の基準では強力な戦力だった。
そして、香織がプレートを見せる。
「おぉ、聖女か! 過去の英雄が持っていたとされる天職じゃないか!」
団長によると、“聖女”は神官や治癒師系列の最上級に当たる天職であり、“勇者”と同じように過去の英雄が持っていた天職らしい。“聖女”は光属性や回復魔法の適性が高く、勇者と並んで人々の希望となっていたとのことだ。
最後に、ハジメがプレートを見せたのだが…
「こ、これは凄い!」
団長は思わず大きな声で叫んだ。先ほど彼が褒め称えた光輝の平均ステータスが100である所に、その数倍のステータスを最初から持つ者が現れたのだ。驚くのも無理はないだろう。
「非戦闘系と戦闘系の両方の天職を持っているのは珍しいな。技能を見る限りでは、各種の戦闘術に優れているようだ。これは頼りになるな!」
この瞬間、照れたようにしていた光輝の表情が凍りついた。そして、光輝の心の中ではとある感情が浮かび上がっていた。
(どうして南雲の奴が……あんなに高いステータスを持っているんだ!)
ハジメが来る前、成績優秀でスポーツ万能な光輝はあらゆる一位の座を総ナメにしていた。だが、ハジメという存在が現れたことで、彼の常勝は砕かれた。彼は、常に一位になれるとは限らなくなったのだ。
ステータスについて褒められた光輝は、これならハジメに対して優位に立てるのではないかと考えていたのだが、ステータスですらハジメに勝てない事実に、光輝は苛立った。
この苛立ちは、いつか彼を崩壊させるだろう。表面上は笑顔の仮面で隠せてもその感情は消えず、心の奥深くに刻み込まれるのだから。
この世界にはファンタジーでは定番の魔法と呼ばれる技術が存在する。
まず、亜人族を除いたこの世界の人々は体内に
ハジメ達には本来、魔力と呼ばれるエネルギーは存在しない。恐らく、トータスに召喚された際にエヒトによって何らかの形で魔力を付与されたのだろう。一種の人体改造とでも言える所業である。
魔法の発動のためには、魔力と詠唱と魔法陣の三つが必須となっている。体内の魔力を詠唱によって魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するという過程を経る。
魔力は直接操作することができないため、正しく正確に魔法陣を構築しなければ魔法を行使することはできない。
詠唱の長さに比例して流し込める魔力は多くなり、その量に比例して威力や効果も上がる。また、効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式も多くなり、魔法陣は大きくなっていく。
なお、適性を持つ者はこの式をある程度省略することができる。魔法には火・水・風・光・闇・雷・氷・土の属性系魔法と身体強化・装備強化の強化系魔法、回復魔法が存在しており、人によって適性は異なる。例えば、光輝や香織は光属性に対して高い適性を持つ。
ハジメには属性系魔法と回復魔法に対する適性は無かった。その代わり、強化系魔法に対しては適性が存在した。身体能力や防御力、攻撃の威力を上げることが可能であり、ハジメの戦闘術と組み合わせることで強力な武器となるだろう。
そういえば、魔力は直接操作できないとされているのだが、それには例外がいる。それは魔物だ。彼らは詠唱も魔法陣も使わずに固有魔法を発動しており、人間族が苦戦するのも分かる。
だが、ハジメはもう一つだけ例外を見つけてしまった。それは、ハジメの纏うパワードスーツだった。
時々、ハジメは点検のためにパワードスーツを起動させていたのだが、その際にハジメは違和感を覚えた。その違和感を調べた所、ハジメはパワードスーツを装着している状態であれば魔力を直接操作できることに気付いたのだ。
ハジメのパワードスーツにはモジュール機能が存在しており、鳥人族の装備どころか未知の装備やエネルギーに対応してスーツを強化したり、新たな機能を発現させることができる。どうやら、スーツは魔力に適応したらしい。
さらに、エーテルタンクなる装備が追加されており、一定量の魔力が常に貯蔵されるようになっている。内部の魔力を使って何かを発動するのだと思われるが、その何かは不明だ。
また、バイザーシステムに新たなものが追加された。それはエーテルバイザーといい、魔力の検知や視認、解析が可能となる視界だった。術師や魔物との戦闘において大いに役立つだろう。
そして、パワードスーツはバイオ素材の金属で構成されており、ハジメの肉体と一体化していることから身体強化魔法の効果がスーツ自体にも掛かることが判明している。そもそも、装着者の精神に応じて性能を向上させる特性があるので、相性は良かった。
異世界に来たことで、ハジメの戦闘力は確実に上がっている。鳥人族の後継者として育てられた彼は、自身の強さを求めて常に進化し続けるだろう。
エーテルバイザーは原作ハジメの魔眼石を意識してます。エーテルタンクは一回目のリメイクの際に存在を抹消してますが、復活させました。