依然として敵集団はウルの町へと近づきつつあった。仲間である空の魔物は撃墜されてしまったが、奴らにはそんなことなど関係ないのだ。
だが、遥か彼方の上空が一瞬ピカリと輝き、そこから何かが急速に接近してきている。その軌道は頭上を通過するルートだ。奴らは知らない。これから自分達の身に起こる惨劇を。
『コマンドバイザー、オンライン』
そして、ハジメは外壁上から魔物の群れを見据え、視界をとあるバイザーに切り替えると、その中央を注視してロックオンする。これはコマンドバイザーといい、スターシップに遠隔で命令を下すための装備だ。
そう、魔物に向かってきている物体の正体はハジメのスターシップである。固定武装に加えて対地攻撃武装を追加で携え、フェアベルゲンの格納庫からわざわざ出撃してきているのだ。
「そろそろか。3…2…1…」
次の瞬間、対地ミサイル群が敵集団の中央に殺到し、爆発が何度も起こって魔物を吹き飛ばしていく。
爆心地にいた魔物は木っ端微塵になり、離れていたとしても爆風を受けて肉体を損傷する。爆発の衝撃で空中に放り投げられた個体もおり、地面に落下して死に絶えていた。
さらに、ビーム砲撃がミサイルの後を追うようにして連続で着弾し、魔物を蒸発させる。スターシップの機首下に装備されたプラズマ砲による攻撃だ。
直後、銀色の機影が高速で上空を通過し、遥か彼方へと消えていく。後に、ハジメのスターシップは銀色の流星として歴史書に記されることとなる。
スターシップの攻撃から奇跡的に生き残った魔物は左右の集団に合流するのだが、軍団の両翼にも猛烈な攻撃が襲いかかってきたため、彼らの運命は察するところだ。
「ホント戦争は地獄だぜ “天灼”!」
とある映画のセリフを言いながら、幸利は雷属性の最上級魔法を使用する。右集団を囲むように六つの雷球が空中に静止し、それぞれが放電を互いに伸ばして繋がると、その中央へと巨大な雷球を作り出した。
やがて、中央の雷球が弾けて強力な電撃を撒き散らし、周囲の雷球も連鎖して弾けることで広範囲を轟音と閃光で埋め尽くす。それにより、右集団は完全に消し炭となる結果となった。
「ユキトシに負けていられぬな。竜のブレスというものを見せてやろうぞ!」
逆側の集団はティオが担当していた。“竜化”や“竜穿”は使用せずに通常状態のまま、前に突き出した両手の先から黒い極光を放つ。竜穿状態のブレスよりも威力は低いが、魔物に対してはオーバーキルもいいところである。
殲滅の黒き炎は射線上のあらゆる存在を刹那の間に消滅させ、右翼集団の後方まで貫通する。そのまま腕を右方向に水平移動させることによって薙ぎ払い、一切を消し飛ばした。
「吹き荒べ頂きの風 燃え盛れ紅蓮の奔流 “嵐焔風塵”」
さらに、ティオは魔法を行使する。魔力の消費を抑えるために敢えて詠唱し、集中力を高めて発動されたのは、火と風の複合魔法だ。巨大な炎の竜巻が敵集団へと向かい、魔物達を宙へと巻き上げてダイナミックに火葬してしまった。
初撃で先鋒はほぼ壊滅したが、それでもかなりの数の後続が控えている。味方の屍や、焼き焦げたり抉られたりしている地形を乗り越え、歩みを止めない。再び目の前が魔物軍団で埋め尽くされそうになるも、ここでユエが動いた。
「”壊劫“」
呟かれる魔法名。それは神代魔法を発動させるためのトリガーであり、ミレディ・ライセンより授けられた重力に干渉する魔法。難易度は高いものであり、魔法の天才であるユエであっても魔力の練り上げとイメージの固定にかなりの時間を要するものだ。
ユエの詠唱と同時に迫る魔物の頭上に、パイレーツを押し潰したのと同じ、渦巻く闇色の球体が出現する。しかし、以前と違うのは、その球体が形を変化させたことだ。薄く薄く引き伸ばされていく球体は奴らの頭上で正四角形となる。
やがて、太陽光を全て遮る闇色の天井は眼下の魔物目掛けて一気に落下する。彼らは何が起こったのか理解する前に体の全てを均等に押し潰され、百メートルほど陥没した地の底で大地の染みとなった。
後続の魔物達は、突然前方の地面が消えたために次々と巨大な穴の中へと落ちていく。突進の勢いを直ぐには消せなかったのと、後続が後ろから押し込んで来るためだ。そして瞬く間に、数千体の魔物が大穴に落ち、タンクから魔力を取り出したユエによる再びの魔法でプレスされ、ミルフィーユが完成した。
町の人々からすれば、大地ごと魔物が消滅したように見えるだろう。戦場に吹く風が血の臭いを町へと運んだことで吐き気がする者が続出したが、それでも人々は圧倒的な力で敵が蹂躙されていく様子に沸き立ち、町の至る所で歓声を上げた。
その後も魔法攻撃が続き、魔物軍団は町の外壁に取り付くことすらできず、一方的に蹴散らされていった。
「同志ハジメ、第二段階へ移行しよう」
「そうだな、同志ノクサス」
「まて、いつの間に仲良くなったんだ?」
現時点で残りの敵は八千から九千といったところだ。最初の数を考えると壊滅状態として評価できる被害であり、ここまでの被害を出した段階で敵の指揮官を狙った斬首作戦を実行する予定だった。戦いを早期に終わらせるためには必要である。
斬り込みメンバーは攻撃に参加していなかったハジメとノクサス、シアに幸利を加えた四人であり、ティオとユエは魔力の消耗が多いので後方待機となった。
そして、突撃を援護するためにユエが魔法を発動する
「“雷龍”」
護衛任務の時にも使った雷の龍が激しくスパークしながら暗雲より舞い降り、前線を蹂躙した。味方が吸い込まれて滅されるのを見た後続が二の足を踏んだので、ハジメが動く。
『スーパーミサイル、オンライン』
立ち止まった後続の敵集団に向けてスーパーミサイルを放ち、広範囲に拡散する爆風によって、元々乱れていた陣形に大穴が穿たれる。そこに四人は突入した。
『スペイザー、オンライン』
アームキャノンを前方へと向け、目の前の敵を排除するため、三発同時に発射されるスペイザービームをひたすら連射することで道を切り開き、突き進んでいく。
「闘争の時間だ、イグニス!」
ズバッ!
その左隣を行くのはノクサスだ。己の半身と言える魔剣イグニスに血色の魔力刃を纏わせ、擬似的に倍近くの長さにした刀身を振り回し、一撃で複数体を切り捨てる。ハジメのような殲滅力はないものの、確実に敵を屠る堅実な戦い方だ。
二人を止められる者はいない。敵はこの二人を包囲しようとするが、その後方を行く幸利とシアが暴れてそれを阻む。
「行くぜ、“竜魔転変”!」
幸利はコートを脱ぎ捨て、変成魔法を応用したオリジナル魔法を発動する。血中に含まれる竜人族の因子が活性化し、彼の姿が変わった。
頭部からは二本の角が生え、頭部以外が鱗に包まれて肉体が肥大化する。竜翼や長い尾が追加され、両腕は鋭い爪を保有した太く大きな腕へと変化した。
竜翼をはためかせて魔物に高速接近すると両腕の爪で切り裂き、尾を振ってまとめて吹き飛ばす。尾の先端は槍のように鋭いものとなっており、魔物を串刺しにして振り回す場面もあった。
高い機動力で高速移動し、その怪力に加えて鉤爪や尾による手数で攻める。それが“竜魔転変”を発動した幸利の戦闘スタイルだ。
「スクリュー◯ライバー!」
そして、幸利は両腕を前面に押し出すと全身を錐揉み回転させながら突貫する。接触した魔物を切り裂いて群れの中を突き進み、その先にいたブルタールの胴体をぶち抜いた。
「ユキトシさん、凄いですぅ!」
シアは右腕に装備した巨大な鈍器を振り回して暴れていた。これは豪腕といい、その名の通りに巨大な腕の形をしている。それをぶん回す度に魔物が肉塊と化して吹っ飛んでいた。
「ダッシュアッパーですぅ!」
オオトカゲのような魔物と一瞬で距離を詰め、豪腕で顎にアッパーを叩き込んで粉砕する。その動きはハジメのメレーカウンターに酷似しており、技を真似したらしい。
そこへ魔物が殺到して数で圧殺しようと肉壁で取り囲んでくるが、シアは独楽のように回転しながら豪腕を振るって一緒くたに吹き飛ばす。もはや竜巻のようであり、何者も寄せ付けない。
やがて、回転を止めて各個撃破に移ろうとしたシア。とりあえず一番近くの敵を潰そうと踏み込みの体勢に入ったが、次の瞬間に右後方より接近する気配に気付いた。
シアは一切慌てず、振り向き様に豪腕を動かしてカウンターを決めようとする。が、その四足歩行の魔物はそれを予期していたかのように減速して避けてしまった。
「こ、こいつらは……?」
両目で敵をハッキリと認識する。それは狼のような容姿の魔物なのだが、全身に漆黒の装甲を纏っており、バイザーの下で四つの赤い目が輝いているのが見えた。また、尻から伸びるテールにはブレードが装備されている。シアの目の前にはこれが二体いた。
(今までとは明らかに違う……)
シアは目の前の敵に違和感を覚える。漆黒で統一感があり、パーツの形状もかなり洗練されている。頭部のバイザーといい、テールブレードといい、多くの時間と資源、高度な技術を費やして生み出されたことは想像に難くない。
事前の幸利による分析では、襲来する魔物の1/3は闇属性魔法で洗脳支配された各種族のボスで、後はそれに従うだけの雑魚集団とされている。
だが、奴は洗脳支配されておらず、何処かの魔物の配下というわけではない。そして、地上ではあり得ないようなプレッシャーを放っていた。奈落にいてもおかしくないだろう。
奴らは本来、魔人族が神代魔法で強化した魔物なのだが、そこにパイレーツの技術が組み込まれている。ゼーベスを占領したことで得たチョウゾテクノロジーの恩恵である。
「先手必勝……!」
なお、この魔物が何者であろうと関係ない。シアは一頭のブレードウルフに狙いを定めて飛び込み、凄まじい速度で豪腕を振り下ろす。
だが、奴はタイミングを知っているかのように豪腕を踏み台にして跳躍し、空中で縦回転しながらテールブレードを叩きつけようとしてきた。豪腕が地面に食い込んで動けなくなる瞬間を狙ったのだ。
「くっ!」
咄嗟にフィールドウォールを張った左拳を突き出し、シアは迎撃を図る。が、その背後を影が素早く横切り、彼女の死角に回り込みながら首元へ刃を振るってくる。
「はっ!?」
ここでシアの未来視が発動。首を切り裂かれ鮮血を撒き散らす自身の姿が脳裏に現れ、シアは豪腕を格納するとジェットブーツを吹かして側宙で離脱する。
空中の二頭が激突するように見えたが、低い位置の個体がブレードの腹を相方に向け、落ちてきた相方はそれを蹴ることで方向転換。そのままシアへと向かってくる。
(こいつら、未来予知を?)
テールブレードとシアのガントレットが火花を散らす。シアは何度も二体のブレードウルフと激突するが、その度に攻撃を予期されてしまい、シアもたまに発動する未来視で危機を脱しており、互いに互いの攻撃を回避し続ける光景が広がる。
(未来予知なんて簡単に使えるはずがありません。少し、試してみましょう)
シアは再びブレードウルフに接近し、拳を振りかぶる。これでは再びタイミングを予期されてしまうかと思われた。
(重力魔法で、私の体重を……)
突き出された拳はそのまま向かっていく。ブレードウルフは既に回避を始めようとしているが、その前に頭部を殴りつけられて吹っ飛んだ。
「やっぱり、未来予知ではないですね。目に見える情報を元に予測している感じですか」
この時、シアは攻撃の直前に重力魔法で体を軽くしており、ブレードウルフの予測よりも素早く拳を叩きつけることができたのだ。奴らは“先読”という固有魔法を持っており、目に見える情報や前提知識を元に予測していた。
「タネが分かれば、こっちのもんですぅ!」
『ヒートハンド、オンライン』
シアは両腕に灼熱を宿して交戦を開始する。重力魔法による体重の変化を駆使してブレードウルフを翻弄し、一頭の喉笛を焼き切って始末してしまう。
「これで、終わりです!」
シアは生き残りにガントレットによる乱打を浴びせ、空中へと打ち上げる。それを追って彼女も跳躍し、抜き去りながら灼熱の手刀で真っ二つにした。
「あらかた片付いてきたようだ、ノクサス」
「そのようだ、同志ナグモ。魔物の一部が逃げ出しているのも確認できる」
すでにリーダー格は大半が四人によって駆逐されており、その配下だった魔物の多くは故郷たる北の山脈地帯を目指して逃亡を開始する。
「問題は、指揮官が何処にいるかだが……」
「探す必要はないだろう。どうやら、向こうから来てくれたようだ」
ノクサスがそう言った直後、ハジメは空から接近する気配を感じる。それは二人のすぐ上にやって来ると、こちらを見下ろしていた。
「おのれ、異教徒共が! 我らの計画を邪魔するとは、万死に値する!」
現れたのは機械化されたプテラノドンモドキに騎乗している髪をオールバックにした魔人族の男だ。怒り心頭な様子の彼は、魔物に命じて攻撃を開始した。
機械翼竜の口内から大砲が出現し、こちらにビームを発射してくる。二人は左右に散開し、ビームはその間を通過するだけに終わる。
「ええい、消し飛ばしてくれるわ!」
機械翼竜は大量のマイクロミサイルやボムを斉射し、二人をまとめて始末しようとする。だが、その程度でやられる二人ではない。
「同志、ここは私にお任せを!」
ハジメの前に出たノクサスは魔剣イグニスを風車のように回転させ、無数の魔力刃を飛ばして飛来物を迎撃する。そのまま敵への攻撃にも使われ、直撃はしないものの動きを封じることができた。
「そこだ」
ハジメはその隙にエネルギーを最大チャージしてスペイザービームを放つ。最大威力の三列に並んだビームは右の翼に当たり、それを切断した。
「おのれ、死なば諸共よ!」
片翼を失い、姿勢制御への支障でまともに飛べなくなった敵は、ブースターを吹かしてその犯人であるハジメに向かって突撃してくる。自爆狙いだろう。
「ノクサス、俺を踏み台に!」
「承知!」
それだけのやり取りで十分だった。剣を鞘にしまったノクサスは飛び上がり、ハジメの肩を踏み台にしてさらに高度を上げ、突っ込んでくる魔物に騎乗する魔人族に向けて一直線に進む。
「チェストォー!!!」
渾身の叫びと共に放たれた抜刀術。それは魔人族の首を容易く斬り飛ばし、痛みを感じる間もなく絶命させた。そして……
「悪く思うな」
『アイスビーム、オンライン』
残った機械翼竜が亡き主の命令そのままに突っ込んできて自爆しようとする。ハジメはそこにアイスビームを叩き込んで凍結させることで自爆を阻止し、アームキャノンの一撃で破砕した。
「我が同胞よ、安らかに眠れ……」
ノクサスは魔人族の首を回収し、瞼を閉じてあげると泣き別れた胴体に合わせて祈りを捧げた。ハジメも隣に並んで弔った後、謝罪の言葉を彼にかける。
「すまない、ノクサス。君に同族を斬らせてしまった」
「構わない。同族を斬るのも覚悟の上。この魔剣も、隠れ里を守るために何度も同族を斬ってきた経歴がある。死んだ彼のためにも、より良い世界を作らねば……」
「あぁ、そうだな……」
この時点で生き残りの魔物は全て山脈地帯に逃げ帰っており、ハジメ達の完全勝利に終わった。だが、ハジメには違和感があった。
「おかしい。パイレーツが誰一人として現れないなど、不自然だ…」
「あの軍団は全て囮だった可能性が高い。パイレーツとやらは、豊穣の女神を狙うためにすでに動き出しているのだろう」
「それは不味い、先生を守れる者が少な過ぎる。早く戻らなくてはならないな」
踵を返す二人。途中で幸利とシアと合流してウルの町へと急ぐのだが、彼らの前に振り注ぐ複数の物体があった。
「こいつは!」
振り注いできたのは、逆円錐形の金属製カプセルだった。ジェット噴射しながら地面に激突すると同時にバラバラとなり、一つにつき四体のパイレーツを展開させた。
これはダイブ・スパイクといい、パイレーツ軍の運用するドロップポッドだ。今回は小型輸送機から投下されており、上空を横切る機影も確認できた。
「そこまで俺達を町に行かせたくないと……ならば、押し通るまでだ」
「これがパイレーツとやらか。試し斬りをさせてもらうとしよう」
ハジメ達はパイレーツを突破すべく戦闘を開始する。降下してくるドロップポッドの数はさらに増えたが、怯む気は更々無かった。
ダイブ・スパイクはメトロイドプライム4でサイラックス軍(スペースパイレーツ)が使っていた奴です