メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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前作になかったシーンを追加しました


戦後のウルにて

「ごめんなさい、南雲くん! 私は身勝手なことをして迷惑をかけてしまいました。全て、先生の責任です」

 

 愛子は深々と頭を下げてハジメに謝罪した。これまでの行動や言動を省みて、大人として誤りを認める必要を感じたのだ。

 

「たしかに、今回ばかりは先生が悪い。人の悪意というものを知らなかったことで騙され、奴を取り逃がすことになってしまった。更なる犠牲者が出る可能性もある……」

 

 ハジメはいつもよりも辛辣だ。彼の愛子に対する物言いに、神殿騎士のデビッドが怒りを露にした。

 

「き、貴様! 愛子が謝っているんだぞ!」

「デビッドさん、少し静かにしていてもらえますか。私が悪いのは本当なので」

「……承知した」

 

 愛子の言葉で忠犬デビッドが黙ったので、ハジメは話を再開する。

 

「これ以上、先生を責めるつもりはない。死にかけたことで、先生も現実が分かったはずだ……」

「はい……私は悪意というものから無意識に目を背けていました。そのせいで騙されて、死にかけて、生徒に迷惑をかけて……善意だけでこの世界では生きていけないのでしょうね……」

 

 先生の精神的なダメージは深刻だ。自業自得な面もあるとはいえ、生徒に騙されて命を奪われかけたことに強いショックを受けていた。 

 

「先生、たしかに善意や優しさだけでは生きてはいけない。だが、決してそれらを捨てないでほしい。それで救われた生徒もいる」 

 

 そう言って、ハジメは優花達の方を見る。彼らが再び立ち上がれたのは、愛子が元気付けたからなのだ。皆、愛子の周りに集まってきて、彼女を励まし始めた。

 

「ありがとうございます、皆さん」

 

 励ましによって愛子は元気を取り戻す。生徒の裏切りで優しさを捨てそうになってしまったが、そこを救ったのも生徒達であった。

 

 これで言うべきことは全て言ったので、ハジメの話は終わりである。先生は大人なので、過ちを認めて反省できるのだ。

 

 ハジメ達はしばらく、ウルの町に滞在する。今回の戦いで撒き散らされたであろうフェイゾンを取り除いて除染するためであり、王国軍や神殿騎士の援軍が来る前には去る予定だ。

 

 

 

「ねえ、南雲。ちょっといい?」

 

 復旧作業の合間、優花が話しかけてきた。

 

「園部さんか、どうかしたか?」

「何もないと言ったら嘘になるんだけど……今日の夜って空いてる?」

「特に何かあるわけじゃないが……」

「そ、その……」

 

 その場に微妙な空気が流れ、会話のキャッチボールが滞る。優花は次の言葉が出てこない。

 

(まずいよ私……あんな馴れ馴れしい聞き方、まるで友達みたいじゃん!だって、相手は南雲だよ!?)

 

「園部さん、大丈夫か?落ち着いて、深呼吸してリラックスするんだ……」

「う、うん……」

 

 優花の様子が変なので、心配したハジメは彼女と目線を合わせて落ち着かせようと試みる。その効果は出たらしく、冷静に話し始めた。

 

「今日の夜……七時くらいに宿の一階に来てほしいと思ってて……個人的に南雲へお礼したいことが……」

「分かった。周囲に誰もいない方が話せることもあるだろうからな……必ず行く」

「ありがとう、南雲!それと、お腹を空かしてから来てくれると嬉しいかな……」

 

 優花はそう言うと走り去っていく。恥ずかしかったのか一心不乱に走り続けており、すぐに視界から消えた。

 

 そして、地球で言うところの夜の七時に相当する時間、ハジメは一人だけ食事を取らずに水妖精の宿の一階に足を踏み入れた。

 

 現在、魔物の襲来で人々の往来がストップしているため、宿のレストランは営業停止となっており、完全に貸し切り状態だ。そこで、優花はエプロン姿で待っていた。

 

「南雲、来てくれてありがとう。すぐに作るから座って待ってて」

「あぁ、楽しみにしてる」

 

 そして、優花は厨房に向かう。すでに下準備は済ませてあるのか、数分も経たぬ内に炒める音だけが心地よく響いてくる。

 

 優花は今回のため、オーナーであるフォスに厨房のレンタルと一人前の食材の用意をお願いしている。対価を支払うつもりだったが、彼は快く無償で提供してくれた。

 

 レストランの厨房には、代々受け継がれてきたコンロのようなアーティファクトが備えられており、地球と遜色ない設備となっている。そのため、地球にあるような料理を作ることが可能なのだ。

 

 しばらくして、優花が厨房から出てきた。その手にはトレーがあり、一人前の料理を乗せて運んでくると、目の前に置いてくれた。

 

「これは、オムライスか……美味しそうだ」

「うん、正確にはオムライスモドキだけどね」

 

 優花が作ったのはオムライスのような料理だった。作りたてで湯気が立ち昇り、載っているオムレツは鮮やかな黄色で食欲を増進させた。

 

「温かいうちに食べてね」

「では、いただきます」

 

 スプーンを差し込み、一杯ずつ切り取って食べていく。オムレツはふわとろで、チキンライスとのハーモニーが堪らない。

 

「美味い……!」

 

 食べる手は止まらない。丁寧に食べ進めていき、最終的にはお米の一粒すら残さずに完食した。

 

「ごちそうさまでした。絶品の料理だった。園部さんは、いつから料理を?」

「物心ついた時からかな。私の家はレストランをやってるから、家族が教えてくれたんだ」

「それなら納得だな」

「もしも地球に帰れたら、是非うちのレストランに食べに来てほしいな」

「約束しよう」

 

 優花の家はウィステリアという洋食屋を経営しており、かなり人気のレストランだ。優花も時折手伝いをしており、看板娘としても知られていた。

 

「南雲に絶品といってもらえて、とても嬉しいな……」

「別に俺は料理の専門家じゃないが……」

「いいの。南雲に褒めてもらえることが重要だから。南雲は命の恩人で、ヒーローだからさ……ありがとう、何度も助けてくれて」

 

 優花の顔は赤い。ハジメと一対一の時にお礼を言うのは恥ずかしかったのだろう。そして、彼女は胸の内を明かした。

 

「私、南雲がいなくなってから死ぬことに恐怖を感じてた。鍛えて強そうに振る舞うことて誤魔化していたし、友達にも打ち明けて少しは楽になったけど、心の奥底には恐怖が残ってた……」

「そうか……」

「でも、南雲が戻ってきてくれて、本当の意味で安心することができた。もう、我慢する必要はないんだって……」

「それは、悪いことをした。これまで、よく頑張ったな……」

 

 まるで、娘や弟子にやるようにハジメは優花の頭を優しく撫でてやる。すると、優花はポロポロと涙を流し、静かに泣き出してしまった。

 

「うぅ……南雲っ……」

「園部さん、泣きたいだけ泣くといい」

 

 ハジメは優花に寄り添ってやる。しばらくの間、彼女は泣き続けていた。

 

「ごめん、南雲。見苦しいところを見せて……」

「謝りたいのはこちらだ。園部さんの苦しみに気づけなかったからな。お詫びとして、あの人達について話そう……」

「そういえば、約束だったね」

 

 二人の密会は終わらない。ハジメは鳥人族や解放者について語り、それは一時間程続いた。

 

 

 

 数日後、旅立つ時が来た。ハジメ達は保護したウィルと共にフューレンに向かうため、ジャガーノートに乗り込んでいく。

 

「園部さん、良ければこれを使ってくれ」

 

 ハジメは最後に乗り込む前、優花にアイテムを渡した。それは、ハウリア族も装備するスマートディスクだった。

 

「これは、少し前に作ったスマートディスクという武器で、投げて使うものだ。投術師の園部なら使いこなせると思ってな」

「こんなもの、もらっちゃっていいの?」

「あぁ、大丈夫だ。量産してあるからな。パイレーツに致命傷を与えられる威力があるから、持っていてくれ」

「ありがとう、南雲。大切に使うよ」

 

 そして、ハジメは愛子の方を向く。

 

「先生、檜山のことは必ず殺します。もう、慈悲をかける意味はない」

「どうか、彼を止めてください。クラスメイトを殺させてしまうことは心苦しいですが、これ以上に罪が増える前に……」

「あぁ、奴を終わらせる」

 

 それだけ言い残し、ハジメはタラップに足をかけてジャガーノートに乗り込んでいく。すぐさまエンジンが始動し、走り去った。

 

「では、我らはこの辺りで」

「ユキトシよ、そなたは彼らと旅を続けよ。報告だけは絶やさぬようにな」

「任せてください、ティオさん」

 

 商業都市へと戻る途中、ある場所でジャガーノートが停車し、そこからノクサスとティオだけが下車した。

 

「ここで大丈夫か?」

「あぁ、問題ない。ここならば人は来ないからな。空間魔法を使っても目立たないはずだ。同志ハジメのことは里に報告させてもらう。良い返事を期待してくれ」

「あぁ、頼む。今後のためにも…」

 

 握手を交わした後、ハジメは再びジャガーノートを動かして走り去る。ノクサスはその後ろ姿を見送ると、帰る準備を始めた。

 

「帰るとしよう」

 

 ノクサスは魔剣を使用することによって擬似的な魔力の直接操作を可能としている。空間魔法は難易度がかなり高いので、ユエのように使うことはできず、魔剣による補助が必須となっていた 

 

 魔剣を鞘に差した状態でノクサスは精神を統一し、魔法を行使すべく集中する。それから三十秒が経過した時、彼は魔法のトリガーを引いた。 

 

「“界穿”」

 

 魔剣を抜き、体の正面で時計の針のように一回転させる。その軌跡は円を描き、そのまま光り輝く転移ゲートへと変わった。空間転移魔法“界穿”である。ノクサスとティオはそれを潜り抜け、里へと帰還した。

 

 

 

 

「クソッ!クソッ!何で俺が!?」

 

 パイレーツ基地の一角で、荒ぶる人物がいた。それはハジメを前にして敗北した檜山であり、苛立ちのままに壁を殴り続けている。

 

「ヒヤマ、何をしているのです?」

 

 それを見かねたMBがやって来るが……

 

「おい、MB!もっとフェイゾンを寄越せ!あの野郎に負けたのは強化が足りなかったからだ!」

「あなたの実力では?」

「うるせえ!あいつが悪いんだ!卑怯な手を使って来やがって!」

 

 なお、本当に卑怯なのは檜山である。

 

(愚かですね……独善的で偏屈……救いようがありませんが、実験台としては完璧でしょう)

 

「あなたがそう言うのであれば、更なる強化を施しましょう。もっと人間から離れる可能性もありますがね」

「そいつはいいじゃねえか!南雲……次こそはぶち殺してやるぜ!ハッハッハッ!!」

 

 ハジメを倒す日を夢見て、檜山は高笑いする。再び奴が襲来するのも、そう遠くない話だろう。




ちなみに私はオムライスが好きです
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