メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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ホルアド帰還

 ハジメと幸利は数ヶ月ぶりにホルアドへと足を踏み入れた。

 

「ホルアド……久しぶりだな」

「そうだな、南雲。俺もだ」

 

 二人は懐かしげに目を細め、仲間を連れて町のメインストリートを進む。目的地はホルアドのギルドである。

 

「全てはここから始まった」

「あぁ。初めての実戦訓練でベヒモスと骸骨の大群に挟み撃ちされて、南雲が奈落に落ちて……今なら、ベヒモスなんて怖くないけどな」

 

 ホルアドは初めて見た王都の外であり、実戦訓練を行ったオルクス大迷宮を抱える宿場町だ。運命はここで決まったと言っても過言ではない。

 

「しかし、視線が凄いな……」

「そりゃ、美少女揃いだからな。ユエさんにシアさんがいて、おまけにミュウもいるんだ。気にならないはずがない」

「それもそうだな」

 

 一行はかなり目立っている。まるで、ランウェイを進むモデルのようなものだ。視線が集まることは珍しくないが、ここまでのものは初めてだった。

 

 やがて、冒険者ギルドのホルアド支部へと到着した。ハジメはミュウを肩車したまま金属製の重い扉を開ける。重厚な音が響き、人が入る合図となった。

 

 ハジメはここに来るのは初めてだったのだが、入った瞬間に他のギルドとの違いに気がついた。内部の冒険者達は誰も彼も目がギラついていて、ブルックのようなほのぼのした雰囲気は無い。それに加えて、かなりピリピリとした様子だったのだ。

 

 ギルドに足を踏み入れた途端に冒険者達の視線がハジメ達を捉える。美少女を引き連れて調子に乗っているガキとでも思ったのだろう、一部の冒険者は拳を握り締めながら立ち上がり、踏み出そうとしていた。

 

 しかし、ハジメが睨みを効かせた瞬間に彼らは動きを止める。本能的に喧嘩を売っては不味いと判断したのだろう。

 

「ここの支部長はいるか? フューレンのギルド支部長から手紙を預かっている。本人に直接渡してほしいとの依頼なのだが……」

 

 ハジメはカウンターの前に行くと、そこにいた受付嬢に要件を伝え、自身のステータスプレートを提示した。

 

「はい、お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼ですか?」

 

 普通、一介の冒険者が支部長クラスから依頼を受けることはありえないため、少し訝しそうな表情になる受付嬢。しかし、渡されたステータスプレートに表示されている情報を見て目を見開いた。

 

「き、金ランク?!」

 

 ちなみに、金ランクの冒険者は全体の一割程だ。金に認定された者については全てのギルド職員が把握しており、彼女も例に漏れず把握していたのだが、ハジメは金になったばかりなので知るはずもなく、思わず驚愕の声を漏らしてしまった。その声に、ギルド内の冒険者も職員も含めた全ての人が、受付嬢と同じように驚愕に目を見開いてハジメを凝視する。

 

 個人のランクも武器や戦い方と並ぶ立派な個人情報であり、それをうっかり大声で晒してしまった受付嬢は顔を青ざめさせ、もの凄い勢いで頭を下げ始めた。

 

「も、申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!」

「別にいい。こちらにも驚かせてしまった責任がある。取り敢えず、支部長に取り次ぎしてほしい」

「は、はい! 少々お待ちください!」

 

 ランクを晒されたところで別に困ることはない。最高の金ランクであれば、他の荒くれ者の冒険者に対する牽制にはなるし、フューレンで裏組織を壊滅させるなど大暴れしてきた以上、身分の秘匿など今更だからだ。ここにいる全員が金だとは誰も思わないだろう。

 

 待つこと五分後。やがて、ギルドの奥から何者かが猛ダッシュしてくる音が聞こえだした。何事か?とハジメ達が音の方を注目していると、カウンター横の通路から全身黒装束の少年が床を滑りながら飛び出てきて、盛大に転んで即座に起き上がった後、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

 

 ハジメと幸利はその人物を知っていた。

 

「「遠藤?」」

 

 

 

 

 

「南雲なのか?」

「あぁ、そうだ。久しぶりだな、遠藤」

 

 彼の名は遠藤浩介。天職は暗殺者であり、気配や痕跡を消したり、短剣や投げナイフを扱うことを得意としている。トータスに来る前から影が薄い男と呼ばれており、自動ドアが三回に一回しか反応しなかったり、何故か学校に登校していないことになっていたりと、その素質があった。

 

 最高クラスの感知能力を持つハジメですら感知できないことがある程に影が薄すぎるため、これまで描写されることすらなかった彼だが、ここに来てようやくハジメの目の前に現れることができたのだ。

 

「そっちは清水か?」

「やっぱり分かるか……」

「そりゃそうだ、俺達はオタトークを楽しんだ仲じゃないか。性癖も把握してるが、公開してやろうか?」

 

 実は、幸利と浩介には交友関係があった。遠藤の影が薄いせいで周囲は把握していなかったが、遠藤は隠れオタクであり、それなりに深い話もしていたようだ。

 

「そいつはやめてくれ」

「行方不明と聞いて心配したんだからな……」

 

 ちなみに、幸利の性癖は黒髪ポニーテールと巨乳である。

 

「遠藤、随分と慌てているように見えたが、何があった?」

「はっ?!」

 

 事情を聞いた瞬間、浩介の表情がガラリと深刻そうなものに変わる。改めてよく見てみると彼の装束はボロボロであり、大変なことがあったようだ。そして、いきなり遠藤は土下座して叫んだ。

 

「頼む、一緒に迷宮に潜ってくれ! 早くしないと皆死んじまう! 一人でも多くの戦力が必要なんだ! 健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ! 頼むよ、南雲! 清水!」

「どういうことだ? 天之河やメルド団長がいるはずだろう?」

「たしかに、二人がいれば大抵のことは大丈夫な筈だ」

 

 浩介の尋常ではない様子に、二人は困惑しながら問い返す。すると、遠藤はメルド団長の名が出た瞬間、ひどく暗い表情になって膝から崩れ落ちた。そして、押し殺したような低く澱んだ声でポツリと呟く。

 

「……んだよ」

「何だって?」

「……死んだって言ったんだ! メルド団長もアランさんも他の皆も! 迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ! 俺を逃がすために! 俺のせいで! 死んだんだ! 死んだんだよぉ!」

「そうか……あの人が……」

 

 メルド団長への評価はハジメの中でも高い方だ。その剣術の腕や指揮能力はもちろんのこと、人格面でも優れており、みんなの父親のように慕われていた。ハジメは内心、彼の冥福を祈った。

 

 王国最強の剣士である彼が敗北し、勇者一行がピンチに陥っているということは、相手は迷宮の魔物ではないだろう。おそらく、魔人族が強化した魔物か、スペースパイレーツかと思われる。

 

「一体、何があった?」

「それは……」

 

 ハジメの質問を受け、浩介は事の次第を話そうとするが、そこでしわがれた声による制止がかかる。

 

「話の続きは、奥でしてもらおうか。そっちは、俺の客らしいしな」

「あんたは?」

 

 それは、六十歳過ぎくらいのガタイのいい左目に大きな傷が入った迫力のある男だった。元は高ランク冒険者か騎士でもやっていたのだろうか。ベテランの風格があり、全身から覇気が溢れていた。

 

「冒険者ギルド、ホルアド支部長のロア・バワビスだ。イルワからの手紙は見せてもらった。とりあえず、奥に案内しよう」

 

 彼は浩介を担いで冒険者ギルドの奥へと向かう。ハジメ達もそれを追いかけ、応接室へと入った。

 

 

「なるほど、大体分かった」

 

 浩介やロアによると、勇者一行は魔人族と遭遇し、それに率いられた強力な魔物によって全滅の危機に瀕しているという。

 

 強さはウルに現れたものとそう変わらないだろう。情報では厄介な特性を持つ魔物が多く、知識にはない存在だったため、被害が広がったらしい。

 

 スペースパイレーツは確認されていないようだが、現地に来ている可能性は高い。ハジメ達が駆けつけなければ、全員が帰らぬ人となるだろう。当然、そこには香織もおり……

 

「遠藤、白崎さんはまだ無事か?」

「あ、ああ。俺が最後に見た時点では無事だ。彼女がいなきゃ俺達が無事じゃなかった。最初の襲撃で重吾も八重樫さんも死んでたと思うし……正確な援護射撃もそうだが、特に回復魔法がとんでもなかった。それに……」

「それだけ聞ければ十分だ」

 

 浩介は聞かれてもいないことも必死に話してくれた。香織は随分と活躍しているようだ。彼女が戦場に適応したことは素直には喜べないが、これは彼女の意思なのだ。否定はできない。

 

「俺の当初の目的は、白崎さんに再会することだった。俺は約束した……必ず帰ってくると」

「南雲、力を貸してくれるのか?」

「あぁ。白崎さんとの約束を果たすためにも、救出に手を貸そう。皆、俺についてきてくれるか?」

 

 ハジメは出会った仲間達の姿を一人ずつ視界に捉えながら尋ねる。彼らの返答は分かりきったものだった。

 

「私はお父様についていく。それが当たり前」

「師匠、何を今さらそんなことを」

「まあ、俺は八重樫さんを助けたいからな」

 

 満場一致である。斯くして、勇者パーティ救出ミッションを遂行することが決定した。

 

「ありがとう、南雲!これでみんなを助けられる!」

「支部長、対外的には依頼ということで頼む。報酬はいらないが、上層部の連中に無条件で助けてもらえると思われたくはない」

「おう、任された。それと、そちらのお嬢様はギルドの方で預かっておこう」

 

 流石にミュウを連れていくわけにはいかない。全員が最強格ではあるものの、非戦闘員を守りきるのは難しいからだ。ロアはその辺りも汲んでくれた。

 

「ミュウ、お留守番も修行だ。良い子で待っていなさい」

「分かったの!ミュウはお師匠の帰りを待ってるの!」

 

 

 やがて、ハジメ達はオルクス大迷宮の第一階層へと移る。ここから先は浩介の案内で進むのだが、その前にハジメにはすることがあった。

 

『バリアスーツ起動中…』

 

 ハジメは息をするようにパワードスーツを装着し、ユエとシアも専用のバトルスーツを展開する。もはや見慣れた光景なのだが、浩介だけは初めて見る形となり……

 

「な、な、何じゃそりゃぁぁぁぁっ!? 滅茶苦茶カッコいいじゃねえか!!! 何処で手に入れたんだ!?」

「話は後だ。行くぞ」

 

 浩介の声が迷宮に響き渡る。だが、それに答えていられる程の時間はないため、ハジメ達はすぐに走り出す。

 

 そのスピードはかなり早く、高ステータスのクラスメイトであっても追従するのは困難だろう。俊敏に優れている浩介も驚きを隠せていなかった。

 

「遠藤、皆がいるのは九十階層で間違いないんだな?」

「あぁ、そうだ!でも、七十階層までの転移魔法陣は壊してしまった!あの時は必死で……!」

 

 案内役の浩介は幸利に背負われている。彼によると、七十層からのみ起動できる、三十層と繋がる転移魔法陣があったらしいのだが、追っ手を振り切るために破壊してしまったそうだ。

 

 そのため、勇者パーティのいる九十階層まで行くには時間がかかってしまう。助けが間に合わないかもしれないと思った遠藤は、自分の行動を後悔していた。

 

「遠藤、破壊するという判断は間違っていない。そうしなければ、お前は俺達に助けを求めることすらできなかっただろう」

「南雲の言う通りだ。遠藤、君は最大限に力を尽くした。後は俺達に任せろ」

「南雲……!清水……!」

 

 やがて、ハジメ達はとある階層で足を止める。そこの壁には、青白く輝く美しい大きなクリスタル、グランツ鉱石が埋まっていた。

 

「おい、ここって……まさか、最初の訓練で檜山の奴が転移トラップを発動させた……」

 

 ここは二十階層の一番奥である。ベヒモスのいる六十五階層まで直通の魔法陣が存在しており、トラップになっていた。ハジメは敢えてトラップに飛び込み、ショートカットするつもりだった。

 

「このトラップを利用し、俺達は一気に六十五階層まで飛ぶ。すぐに戦闘になるだろうが、大船に乗ったつもりでいるといい」

「ちょ、この人数でベヒモスと骸骨軍団に挑む気か!?待って、止まれ!止まって!」

「南雲を信じろ。信じれば救われる。多分、きっと、Maybe……」

 

 これから、ベヒモスとトラウムソルジャーに挟み撃ちされるという地獄にわざわざ突っ込むことを知り、浩介は制止しようとするも、時すでに遅し。

 

「行くぞ」

「待って、うぁああああっ!?!?」

 

 ハジメの左手がグランツ鉱石に触れ、辺り一帯が閃光に包まれる。次の瞬間に現れたのは、あの時と同じ光景であった。

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