メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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蹂躙

『アイスビーム、オンライン』

 

「ふっ!」

 

 ハジメが初手で繰り出したのは、アイスビームの三連射だった。三方向に放たれたビームは透明な何かに直撃すると、何もなかった空間に三つの氷像を出現させた。

 

「サーモバイザーを使うまでもない」

 

 目の前の氷像は、獅子の頭部に竜のような手足と鋭い爪、蛇の頭部を備えた尻尾、鷲の翼を持っている。

 

 この魔物はキメラといい、透明化能力を持っているのだが、少し動くだけで空間が揺らいでしまう程度であり、気配もダダ漏れなのでハジメからしたら隠れていないも同然だった。

 

 気配感知により、透明化したキメラが辺り一帯に潜んでいることが分かっている。ハジメは三つの氷像を回し蹴りでまとめて粉砕すると、虚空へビームを二連射した。

 

ドガッ! ドガッ! 

 

 二発のビームが飛んでいき、目標を違わず問答無用に貫く。すると、空間が一瞬揺らいで頭部が吹き飛んだ二体のキメラが現れ、僅かな停滞のあとぐらりと揺れて地面に崩れ落ちた。

 

 ハジメはその後も発砲を続け、隠れているつもりのキメラを片っ端から殺戮していく。クラスメイトの側にも奴らは潜んでおり、救出対象を傷つけないように精密な射撃をお見舞いする。 

 

 これはもはや戦いですらない。一方的な狩猟と同じであり、クラスメイト達を脅かしていたキメラは撃たれるだけの七面鳥と化していた。 

 

「ははっ、透明化が意味を成さないとはね……」

 

 透明化して敵を翻弄する作戦が通用しないと理解した魔人族は、取り敢えず数で取り囲んで物量で圧倒する戦法に切り替え、とにかく魔物を突撃させていく。

 

 ハジメの背後に黒猫のような魔物が忍び寄り、鋭い何本もの触手を突き刺そうと伸ばしてくるが、振り向き様の風爪で触手が切り刻まれ、次の瞬間に頭蓋を撃ち抜かれる。

 

 そんなハジメの左右から同時に襲い来るのは、四つ目の狼。ウルにいたブレードウルフの素体であり、先読み能力もこの時点から存在するのだが、それが追い付かない程の早撃ちによって僅かコンマ一秒の間に両方とも始末された。

 

 そこへブルタールが突っ込んできて岩石のメイスを振り下ろすのだが、ハジメは跳躍して奴の頭上に飛び乗り、至近距離からチャージビームを放って致命の一撃をお見舞いしてやる。

 

 着地した直後、ブルタールの後ろに隠れていたキメラが飛び出して噛みついてくるが、ハジメはアームキャノンを振り下ろして頭部をトマトのように弾けさせ、即座に死体へと変えた。

 

 魔物は次々と迫ってくるが、ハジメはビームを高速で連射し、近接攻撃で叩き潰し、死体を量産していく。こうして作られたのは、血肉で彩られた鮮やかな絨毯だった。

 

 次の獲物を探していると、「キュワァアア!」という奇怪な音が発生する。ハジメがそちらを向くと、六本足の亀であるアブソドが口を大きく開いており、その口の中には純白の光が輝きながら猛烈な勢いで圧縮されているところだった。

 

 ハジメは知らないが、それはメルド団長が発動させようとしていた“最後の忠誠”に蓄えられていた膨大な魔力である。それを圧縮し、威力を高めた上で放とうしているのだ。 

 

 次の瞬間、ハジメを標的として膨大な魔力が砲撃となって発射される。避けることは簡単だが、後ろには香織をはじめとした生存者がいる。射線上の地面を抉り飛ばしながら迫る死の光への対応は決まっていた。 

 

『ライトニングアーマー、オンライン』

 

 それは、地に根を生やした大樹の如く。あらゆる攻撃を無効化する電撃のフォースフィールドを身に纏い、強力な砲撃が迫っているにも拘わらず、どっしりと構えて不動の意思を示す。 

 

 魔力の砲撃が直撃した瞬間、凄まじい轟音が響き渡り、発生した衝撃波によって迷宮が揺れる。天井が、壁が、地面がひび割れ、土煙に辺りが包まれる。

 

 周囲から見えているのは魔力の砲撃と、緑色の雷鎧を纏う人影のみ。やがて、アブソドの蓄えていた魔力が底を尽き、砲撃が終わると同時に何も見えなくなった。 

 

「やったか!?」

 

 魔人族の発言に皆が思った。それは生存フラグというものではないかと。案の定、直後にそれは回収される。土煙を切り裂いて一発の光弾が飛び出し、彼女の右頬を掠ったのだ。

 

 右頬に酷い火傷を負い、後ろへ倒れこむ魔人族。その右肩には白い羽毛と肉片が混じった何かがべっとりと付着していた。

 

 その正体は、彼女の右肩に乗っていた白い鴉のような魔物だったものである。固有魔法によって一定範囲内の味方を大幅に回復させることができ、勇者パーティを苦戦させた原因の一つとなっている。

 

 そして、土煙の中から無傷のハジメが現れる。浩介からの情報で敵戦力のことは把握しており、白鴉を撃ち抜いたのも回復を阻止するためだった。

 

「あんた、パイレーツの連中が言っていた最重要抹殺目標だね?」

「どうやら、そうらしい」

 

 ハジメはそう返答しながらも、アブソドをロックオンしてノーマルミサイルを発射する。それは開け放たれていた口内に音速で突き刺さり、奴を一撃で粉砕した。

 

「真正面からじゃ勝てないわけだ……でも、まだやりようはあるよ。お前達、他の奴らを狙いな!」

 

 魔人族の指示で、魔物達はハジメを避けて生存者を狙う方向にシフトする。人質にすることで強力な戦力であるハジメを押さえ込むつもりだ。

 

 しかし、そんなことは想定済みであり、ハジメが慌てることはない。何故なら、援軍がこの場に到着するからだ。

 

 最初に狙われたのは、香織と雫である。数体の黒猫が一斉に触手を放ち、彼女達を串刺しにしようとする。 

 

 歯噛みしながら半ばから折れた剣を構えようとする雫だったが、その前に人影が割り込む。大剣を携えたその人は、迫る触手の群れを一撃で斬り払ってしまった。

 

 ボトボトと地面に落ちていく触手だったもの。彼女達が見たのは、赤いロングコートを羽織った白髪の青年の姿だった。その正体は幸利である。

 

「よお、久しぶりだな。八重樫さん」

「し、清水くん!?」

 

 容姿は変わっているが、雫は彼の正体が幸利であることに気がついた。

 

「無事…ではなさそうだな。八重樫さん、ここは任せてくれ。必ず守る」

「ええ……こんなときに戦えないのは悔しいけれど、お願いするわ」

 

 幸利はリベリオンファングを地面に突き刺すと、愛銃リバース&リベンジをホルスターから引き抜き、迫り来る黒猫やキメラを迎撃する。

 

 二挺拳銃の高速連射で大量の弾丸を撒き散らす幸利を前にして、魔物達は近づくことすら叶わずにその身を砕かれて死に絶えていく。

 

 相手が透明になっていようが、狙いづらい小さい目標だろうが、幸利には関係ない。高速かつ正確無比な射撃を叩き込み、沈黙させるだけだ。

 

 一方、後方に固まっているクラスメイト達にも例外なく敵は襲いかかっていた。無防備な味方を守るため、鈴が結界を展開しようとするも、魔力の欠乏で上手く出せず、ふらついてしまう。

 

 万事休すかと思われたが、いきなり飛び込んできたウサミミの少女が敵を殴り付け、蹴り付けて敵を迎撃し、たった一人で追い払ってくれた。

 

「みんな!! 助けを呼んできたぞ!!」

 

 そして、シアに担がれている浩介がクラスメイト達に叫ぶ。その言葉に反応して、状況をあまり飲み込めていなかった光輝達がようやく我を取り戻した。

 

 そこへ敵が再び押し寄せてくる。先ほどよりも増えており、シアでも完全に抑えきれるか分からないのが正直なところ。だが、彼女には頼れる友人がいた。

 

「シア、ここは任せて」

 

 それはユエだ。最後に姿を現したユエは敵集団を睥睨する。そして、ただ一言、魔法のトリガーを引いた。

 

「“蒼龍”」

 

 その瞬間、ユエ達の頭上に直径一メートル程の青白い球体が発生した。それは、炎系の魔法を扱うものなら知っている最上級魔法“蒼天”であるのだが、それを詠唱もせずにノータイムで発動など尋常ではない。それを目の前で見せられたので、特に後衛組は呆然と頭上の蒼く燃え盛る太陽を仰ぎ見るしかなかった。

 

 だが、驚くにはまだ早い。何故なら、蒼き太陽がうねりながら形を変え、大蛇となって敵に襲いかかって一瞬で消滅させてしまったからだ。

 

 やがて、大蛇は全長三十メートル程の蒼く燃え盛る東洋龍にまで成長する。ユエの蒼龍はとぐろを巻いて生存者を守り、鎌首をもたげると敵に向けてその顎門をガバッっと開く。

 

ゴァアアアアア!!!

 

 咆哮と共に魔物達は浮かび上がり、口内に次々と吸い込まれると焼却されていく。“蒼龍”は火属性最上級魔法“蒼天”と重力魔法の複合魔法となっており、ユエのオリジナルだ。強制的に引き寄せた敵を灰すら残らない程に焼き尽くすという、恐ろしい魔法である。

 

 負けじとシアも大暴れし、その圧倒的なフィジカルを以て魔物を蹴散らしていく。鉄拳の一撃でブルタールを破裂させ、美しい曲線を描く蹴りでキメラの頭部を吹っ飛ばし、高速で迫る黒猫の触手を掴み取ると、地面に叩きつけて肉片へと変貌させた。

 

「ホントに……なんなのさ」

 

 力なく、そんなことを呟いたのは魔人族の女だ。いかなる策を練ろうとも、圧倒的な力によってひっくり返されるという理不尽。戦略が戦術に負けるという事態に、彼女の胸中は諦観の念に侵食されていた。

 

「何なんだ……彼らは何者なんだ!? 最初に出てきた彼は一体!?」

 

 光輝が呟く。自分達を苦しめてきた敵が、謎の集団によって歯牙にもかけず駆逐されている。最初に現れたパワードスーツに対しては特に理解が追い付かず、ハジメであることに気づいていなかった。

 

 その疑問に対する答えをもたらしてくれたのは、先に逃がし、けれど自らの意志で戻ってきた仲間、遠藤浩介だ。

 

「はは、信じられないだろうけど……あいつは南雲だよ」

「「「「「「は?」」」」」」

 

 その言葉に、光輝達が一斉に間の抜けた声を出す。正体を本人から明かされた雫ですら混乱していたのだ。光輝達が簡単に信じられるはずがない。

 

「だから、南雲、南雲ハジメだよ。あの日、橋から落ちた南雲だ。生き延びて、あんな装備を手に入れ、強い仲間とチームを組んで帰ってきたんだよ!」

「南雲って、え?南雲が生きていたのか?」

 

 光輝が驚愕の声を漏らす。だが、ハジメは最高戦力であるという共通認識がクラスメイト達にはあり、目の前の無双ぶりを見せられては否定できなかった。

 

(あの力があれば、俺だって……)

 

 そして、光輝は思ってしまった。檜山と同じく、パワードスーツがあれば自分も強い力を手にいれることができ、勇者としての威厳を示せるのではないかと。そんなことを思いつつ、彼は戦いを眺めていた。

 

 やがて、戦いはターニングポイントを迎える。魔人族が率いている魔物がついに全滅し、残りは指揮官だけとなったのだ。

 

「お前に残された選択肢は三つだ。このまま死ぬまで戦うか、降伏するか、撤退するか。撤退するならば、見逃してもいい」

「降伏したところで、異種族に対する扱いなんて決まっているだろうに……それに、撤退したところで帰る場所なんて……」

 

 ハジメの提案に対して、魔人族の女は戦って死ぬつもりのようだ。人間族に捕まれば何をされるか分からない上、帰ったところで殺されるのが目に見えているからだ。

 

「人間族ではなく、俺達に降伏すればいい。俺達は複数の種族の集まりだ。迫害されるような種族もいるし、お前と同じ魔人族も所属している。悪いようにはしない」

「それでも、あたしには戦士としての矜持があるのさ。戦って死ぬことを選ぶよ」

 

 彼女はいざというときのために温存していた魔法をハジメに向けて放とうとする。だが、それが放たれることはなかった。

 

 何故なら、乱入者がいたからだ。彼女の背後にある空間が歪んで数体のパイレーツが現れ、それに続いて巨大な体躯を持つ影が降り立った。

 

ズシン……!

 

 地響きを鳴らして着地したのは、通常のパイレーツを巨大化させたような個体だ。カブトムシや武将の甲冑を思わせる容姿であり、見上げる程の巨体を誇っていた。

 

「上位種……といったところか」

 

 ハジメの考察は正しかった。奴はジェネラルパイレーツといい、トータスにおけるパイレーツを構成する昆虫系種族の支配種なのだ。

 

 全身は通常個体よりも堅固な甲殻で守られ、左腕には大型シールド、右腕には長大なブレードを装備し、肩にはプラズマ砲を載せていた。頭部にはトレードマークの長い一本角があり、特徴的だ。

 

「随分と遅かったね……こっちの戦力は全滅しちまったよ」

 

 現れたパイレーツの姿を見て、魔人族の女は魔法の発動を中断すると彼らの方へと向かう。奴らは彼女の援軍として現れたらしい。

 

「しかし、こんなに巨大な個体がいるとはねえ。その辺の魔物よりも強そうじゃないか」

 

 彼女は無警戒にジェネラルパイレーツへと接近し、頼もしそうにその巨躯を見上げる。しかし、奴は無慈悲にもシールドを彼女に向けて振り下ろした。

 

「は?……」

 

 それが最後の言葉だった。愛する恋人の名を呼ぶことすらできず、グシャッという生々しい音を立てて一瞬で叩き潰されたのだ。痛みを感じる前に死ねたことが唯一の救いだろう。

 

 唐突に訪れた無惨な結末に空気が凍り付く。誰も言葉を発することはなく、何人かは吐きそうになっている。いくら敵であっても、人らしくない死に方をされるのは望んでいなかった。

 

「なるほど、彼女は用済みだったということか。この畜生共が……」

 

 そして、パイレーツの卑劣な行いにハジメは怒りを顕にする。奴らからすれば魔人族などいつでも切り捨てられる存在であり、彼女は最初から捨て駒だったのだ。

 

「こいつらを片付ける。全員を下がらせてくれ。そこで倒れているメルド団長もだ」

 

 ハジメはたった一人、パイレーツへと向かっていく。それを止められる者はおらず、戦いの第二ラウンドが始まった。




ジェネラルパイレーツの見た目はメトロイドプライムのコンセプトアートにいるエリートパイレーツを想定してます。昆虫系種族なのはプライム4のアベラックスの影響ですね
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