翌日の早朝、ハジメ一行は出発することになった。ミュウを無事に送り届けるという任務があり、長居はできないからだ。
宿の一室から出てきたハジメと香織は、共に仲間との集合地点へと向かう。
「ハジメくん、この宝物庫は便利だね。全部の荷物が仕舞えちゃったよ」
「解放者が残してくれた魔法のお陰だ。一人は生きているから、後で会うのもいいかもしれない」
ハジメは香織に量産型“宝物庫”をプレゼントしている。彼女の荷物は結構あったが、量産型であっても全て収納できた。
そして、集合地点には見送りのクラスメイトが既に何人か来ていた。
「やあ、南雲くん。香織ちゃんと一緒に行くんだってね?」
「中村さん…」
見送りに来たクラスメイトの一人は、眼鏡をかけた黒髪ボブの美人だった。以前、ハジメによって救われた中村恵里である。
「しかし、南雲くんが生きていてよかったよ。香織ちゃんも限界が近かったみたいだし、僕だって恩人の安否を心配してたさ」
「恩人か……そこまでのことをしたつもりはないのだが」
「それ、本気で言ってるの?本当に君はヒーローみたいだよ。アイツじゃなくて、君が勇者だったらよかったんだけどね……」
恵里は光輝のことが嫌いである。自分が凶行に走ってしまった原因の一つが彼であり、彼を手に入れようとしていた頃の自分を嫌悪していた。
そして、自分を止めてくれたハジメには恩義を感じており、光輝とハジメの間でいざこざがあった際には、ハジメを擁護する場面があった。
「そういえば恵里ちゃん、降霊術の練習を頑張ってたよね。そのお陰で私も助けられたし」
「香織ちゃんが頑張っていたからね。それに、南雲くんに救われた命だからさ」
「降霊術か……極めれば霊を実体化できると聞いたが、そこまでできるのか?」
恵里は霊を実体化させる術を使えるのだが、ハジメのその瞬間を見たことがない。そこで、恵里は実演してくれた。
「見せてあげるよ」
すると、恵里の肩に鳥の魔物の亡霊が現れる。それは、魔人族の女が使役していたものと同じ姿をしていた。
「これは、俺が吹っ飛ばした魔物か?」
「実は魂だけ回収して使役していたんだ。回復役として使えるかと思ってね」
降霊術で実体化させた霊は生前の技術や魔法をある程度だが再現できる。鍛錬次第ではその再現度も上がるため、この白鴉の霊を回復役の代替にすることも可能だろう。
「これを極めれば、香織ちゃんが抜けても大丈夫。だからさ、心置きなくハジメくんと行ってきて。幸せになりなよ」
「ありがとう、恵里ちゃん」
次のクラスメイトは男子だった。
「なあ、南雲。本当に行っちまうんだな」
それは、あの遠藤浩介だ。
ハジメの救援が間に合ったのは影の薄い彼のおかげで、今回のMVPは彼といって過言ではない。
「そうだ。俺達には使命があるからな」
「本当に凄えよ、南雲は……もはや何かの主人公だろ」
「遠藤……お前も更に強くなれる素質がある。今すぐには難しいが、俺が育てた戦士達の所に連れて行ってもいい」
「それは本当か?俺、その時を待ってるよ」
ハジメは浩介の中に強くなれる素質を見出だしていた。影の薄さを自由自在にコントロールできるようになれば、ハジメですら苦戦するような戦士となれるだろうし、気配を遮断できるハウリアとの交流は必要だろう。
「そうだ、試作していた武器に丁度いいものがある。遠藤、使ってくれるか?」
「南雲が作った武器か……是非使わせてくれ」
最後に、ハジメはハウリアも装備しているガントレットを浩介に与えた。なお、パワードスーツ展開機能はオミットされている。
「何だこれ?ブレードが仕込まれてる?」
これはハウリアのリストブレードを暗殺向けにしたもので、手首の裏から一本のブレードを出現させられるようになっている。
「清水はア◯シンブレードと呼んでいたが、装着者の意思に応じて手首の裏に格納してあるブレードを飛び出させることが可能だ」
「おお、これなら武器を持っていることが分かりにくいな。ありがとう、南雲!」
後に浩介はバトルスーツ等の様々な装備を与えられ、帰還後にはハジメの右腕として活躍することになるのだが、それはまた別の話だ。
「雫ちゃん……私、このパーティから抜けていいのかな……やっぱり、迷惑だよね」
「香織……そんなことはないわ。後のことは私達に任せなさい。私は貴方の幸せを願ってるから」
当然、見送りには雫もいる。パーティの中核である自分が抜けることに罪悪感を覚えた香織を宥め、親友として背中を押してあげていた。
「雫ちゃん、ありがとう。そのうち、雫ちゃんの所に戻ってきて、元気な姿を見せるからね」
「行ってらっしゃい、香織……」
二人は抱き締め合う。これが今生の別れというわけではないが、離れた場所へと旅立つのだ。しばらくの間、二人はそのままだった。
そして、ハジメ達はジャガーノートに乗り込んで出発する。土煙を巻き上げながら走り去っていく乗り物が見えなくなるまで、クラスメイト三人は視線をその方向に向けていた。
「ハジメくんから話は聞いていると思うけど……白崎香織です。これからよろしくお願いします」
走行中のジャガーノート車内にて、香織はハジメの仲間達と交流していた。これから旅に同行するのだから、当然のことだ。
「私はシアです! 師匠から香織さんのことはよく聞いてますけど、想像通りの綺麗な人でした!」
「て、照れるね……シアさんはハジメくんの弟子なんだよね。ハジメくんについてどう思う?」
シアによる直球の発言を受けて赤面しながらも、香織は彼女に対して彼女の師匠であるハジメの印象を尋ねた。
「そうですね……師匠は優しいですよ。それに、とても格好いいんです。初めて会って助けられた時なんか、英雄とはこういう人なんだろうなと思いましたし」
それは、ライセン大峡谷でシアがパイレーツに追いかけられていた時のこと。帝国兵や魔物によって家族を失いそうになり、助けを求めに行こうとしたらパイレーツと出くわしてしまったのだ。そこで現れたのがハジメであり、敵を蹴散らして彼女を救ってくれた。
「ふふっ、本当にあの時の師匠は格好良かったです……!」
「だよね、ハジメくんって格好いいよね! 私も助けてもらった時、そう思ったよ」
「ですよね、香織さん!」
シアと香織はハジメの格好良さで意気投合する。同じく絶体絶命の危機から助けてもらった者同士、通じ合うものがあったのだ。
やがて、イヴやミュウの自己紹介も終わる。満を持してユエが自己紹介する番が来た。
「私はユエ……よろしく、香織お母様」
「え、えっと、不束者ですが立派なお母さんになれるように……が、頑張ります!」
「ふふっ、お父様から聞いていた通りの人……」
香織は急にユエからお母様と呼ばれてテンパってしまう。そもそも、彼女は地球の基準では未成年なのだ。お母さんという存在になることなんて想像したこともなかった。
「ねえ、ユエちゃん。私、もっとユエちゃんのことを知りたいな」
「ん、私もお母様のことをもっと知りたい」
二人はハジメ経由でお互いのことを知っているだけであり、直接話すのはこれが初めてである。又聞きだけでは本当に理解したとはいえず、家族になるためには交流が必要だった。
しばらく、二人だけでの会話が続く。又聞きだけでは知り得ないことが多く、二人の会話はかなり弾んでいた。
「へえ、ユエちゃんは魔法の天才なんだね。あの時の青い龍みたいな魔法も凄かったし、私にはあんなことできないよ」
「でも、お母様みたいに回復魔法はあまり得意じゃない。今度、使い方を教えてほしい」
「うん、いいよ。その代わり、効率のいい魔力の使い方とか教えてほしいな」
「ん、約束……」
二人の交流は良好なものだった。互いに互いの得意なことを教えるという約束をし、取り敢えず仲良くなることはできたようだ。
新たな仲間を迎え入れ、一行は進む。遥か彼方の目的地を目指し、大砂漠を越えた冒険が始まろうとしていた。彼らの旅は、まだ終わらない。
ちなみに海底遺跡突入前後までは書き終えてます