メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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※今回の話にはいないはずのティオがいるというミスにpixiv版の感想により気付きました。すぐに修整の対応します(2026.3.9)


ASSEMBLE
大砂漠と遭難者


 グリューエン大砂漠は赤銅色の世界だった。砂の色も勿論だが、微細な砂が風によって巻き上げられ、大地どころか大気を赤銅色に染め上げているのだ。

 

 また、大小様々な砂丘が無数に存在しており、その表面は風に煽られて常に波立っている。常に同じ地形であることはなく、生きているといっても過言ではない。

 

 砂の大地が太陽の熱を余さず溜め込み、強烈な熱気を放っている。外気温は四十度越えであり、常に舞う砂や悪路であることを合わせて、旅の道としては最悪だ。

 

 しかし、そんな大砂漠をたった一台で駆け抜ける六輪ビークルの姿があった。砂埃を後方に吐き出しながら力強い走りを見せている。どんな悪路であろうが、ハジメ達には関係なかった。

 

「前に来たときとぜんぜん違うの! とっても涼しいし、目も痛くないの! お師匠はすごいの!」

「そうだね~。私もこんな快適な旅ができるなんて思ってなかったよ」

 

 香織の膝の上に抱えられるようにして座るミュウが、誘拐されて通った時との違いに興奮したように万歳して、ハジメにキラキラした眼差しを送る。

 

 海人族のミュウにとって、冷暖房もない馬車で砂漠を横断するのは過酷なものだっただろう。実際、乗り合わせた子供達の中には死者も出ており、彼女が衰弱死しなかったのは奇跡だ。

 

 ジャガーノートは冷暖房完備である。そもそも、火山活動が活発な灼熱の惑星や氷に覆われた氷点下の惑星であっても活動できるように造られており、高度な断熱性能も備えているのだ。

 

 ハジメ達は文明の利器の力で砂漠を余裕で進む。これも全て、鳥人族が残してくれたテクノロジーのおかげである。代わり映えのない景色が過ぎ去っていくのだが、やがて変化が起きた。

 

「あれは……皆、三時方向を見てくれ」

 

 ハジメは何かに気づく。言われるがままに全員が右側を見ると、大きな砂丘の向こう側に、いわゆるサンドワームと呼ばれる存在が相当数集まっていた。砂丘の頂上からは無数の頭が見える。

 

 サンドワームの体長は二十メートルから百メートルある。この砂漠にのみ生息し、普段は地中を潜行していて、上を通った哀れな獲物を大口を開けて無慈悲にも飲み込んでしまう。砂漠の犠牲者の多くは奴らによるものだ。

 

「砂丘の向こう側には運のない奴がいるんだろうな。まったく、恐ろしいぜ」

「なんか、動きがおかしくないですか?一ヶ所の周囲を旋回しているような気がします。師匠はどう思いますか?」

 

 サンドワームなど別に珍しい存在でも何でもないのだが、目の前の群れは異常だった。サンドワームに襲われている者がいるとして、何故かサンドワームがそれに襲いかからずに、様子を伺うようにして周囲を旋回しているからだ。

 

「そうだな……獲物を食べるのを躊躇しているように思える……そう思わせる程の何かがあるのかもしれないが……」

「そういえば、ティオさんが言っていたが……サンドワームは悪食らしい。それなら、獲物を前にして躊躇うことはないはずだ」

 

 長生きなティオの知識は深い。以前から何度も里を出て調査していただけあって、その知識の範囲は広いものだ。幸利は彼女に聞かされた話を思い出していた。

 

「ん、異常事態が起きてる?」

「砂漠で何かが起きている可能性がある……寄り道にはなるが、この件は調査した方がよさそうだ。皆、異議はないか?」

 

 ハジメの問いかけに全員が無言で頷く。経験上、こういった不自然な出来事は大きな異常事態に紐付いているもの。皆、調査の必要性を感じていた。

 

「香織、もしかすると危険を伴う人命救助になるかもしれない。その時は頼めるか?」

「もちろん。私に任せて!ハジメくんについていくと決めた以上、危険くらいは承知だよ」

 

 香織の覚悟はガチガチに固まっている。ハジメへの思いだけでここまで生存し、ハジメの過去を聞いても彼についていくと決めた女だ。面構えが違う。

 

『警告、地中より接近する反応を検知。緊急回避を実施します』

 

「どこかに掴まれ!」

 

 自動操縦してくれているイヴが警告する。どうやら、サンドワームが迫っているらしい。各々が車内の様々な場所を掴んで衝撃に備えるのだが、香織とユエはハジメにしがみついていた。

 

 直後、ジャガーノートが急加速した。自動操縦で右に左に車体が蛇行し、ハジメ達は衝撃に襲われる。そして、S字を描いているタイヤ跡の真下からサンドワームが次々と飛び出してきた。

 

 サンドワームは全て五十メートル級だ。地上にその身体の殆どを晒した彼らは、今度は重力に従ってジャガーノートの頭上から襲いかかってくるが……

 

『パワービームタレット、起動……』

 

 獲物を押し潰そうと三体がかりで迫りくるサンドワームを襲ったのは、ジャガーノートの車体に搭載されたビーム砲の群。昔の戦艦のように濃密な対空砲火が打ち上げられ、敵をあっという間に蜂の巣にしてしまった。

 

 サンドワーム三体分の真っ赤な血肉がシャワーのようにジャガーノートへ降り注いでくるが、その前に離脱する。幼いミュウへの配慮のためだ。

 

 そして、ハジメ達に気づいたのか砂丘の向こう側にいるサンドワーム達が動き出す。一斉にジャガーノートの方へ向かってくるが、ここでハジメが動く。

 

「俺が行く。砂丘の向こう側も確認してくる」

 

 ハジメはジャガーノートの上に出ると、バリアスーツを展開して屋根から飛び降り、砂丘の上へと一気に駆け抜ける。そこでハジメが見たのは、地中の浅いところを移動している奴らの群れであり、微妙に砂が盛り上がっているので場所は把握できた。

 

『スーパーミサイル、オンライン』

 

 チャージビームを最大まで溜め、そこに五発のミサイルを組み合わせるコンボにより、最強の威力を持つスーパーミサイルを準備する。

 

(そこだ……!)

 

 スーパーミサイルが射出され、盛り上がって進んでくる砂地に突っ込んで姿が見えなくなる。直後、強烈な爆風と閃光が砂地から飛び出し、砂埃と共に焼き焦げたサンドワーム達の肉片が撒き散らされた。

 

 このスーパーミサイルの一撃でサンドワームは一網打尽にされたといってもいいだろう。まだ隠れている個体もいるかもしれないが、ハジメの敵ではない。

 

「巻き込まれてはいないようだな……」

 

 ハジメの視線の先には白い服を着た人らしき何かが倒れているのが見える。砂丘に登った時点で気づいており、それを巻き込まないように調整してスーパーミサイルを放ったが、それでも少し心配だった。

 

 ハジメは倒れている人の所まで駆けつけた。何体かのサンドワームが奇襲を仕掛けてくるが、その尽くが早撃ちで始末される。さらに、後方から飛び出てきた百メートル級個体の顎を掴んで引摺り出し、地面に叩き付けて口内にアームキャノンを突っ込むと……

 

『アイスビーム、オンライン』

 

 超低温のチャージアイスビームがサンドワームの体内に解き放たれ、百メートルはある身体が一瞬で凍りつく。そして、アームキャノンによる殴打で砕け散った。

 

「要救助者発見」

 

 目の前にはゆったりとした白い衣服に身を包み、外套に付いているフードで顔を隠した誰かが倒れている。ハジメの背後にジャガーノートが停車し、降りて来た香織がその人物の容態を診てくれた。

 

「これって……」

 

 フードを取りあらわになった男の顔は、まだ若い二十歳半ばくらいの青年なのだが、その状態が問題だった。苦しそうな顔に大量の汗が浮かび、呼吸が荒くて脈も速い。かなりの高熱であり、血管が浮かび上がり、目や鼻からは出血が見られている。

 

「ただの熱中症や風邪というわけではなさそうだが……」

「ハジメ君、彼の状態が分かったよ。魔力が異常に活性化しているみたい。原因は飲んだ水に含まれていた何かとしか……」

 

 香織は“浸透看破”という診察用の魔法で容態を調べてくれた。それによると、彼は毒物らしきものが混入した水を接種し、それによって魔力暴走を起こしており、外へ排出できないまま体内の圧力が高まっているらしい。このままでは、内臓や血管が破裂して死に至るだろう。

 

「天恵よ、ここに回帰を求める “万天”」

 

 早速、香織は状態異常を解除する中級回復魔法を発動して彼の魔力暴走を食い止めようとするが……

 

「殆ど効果がない……どうして? 浄化しきれないなんて……それほど溶け込んでいるということ?」

 

 進行を遅らせても完治させることは難しいようだ。こうしている間にも青年は苦しそうにしており、鼻血が止まらない。そこで、香織は応急措置を採る。

 

「光の恩寵を以て宣言する。ここは聖域にして我が領域。全ての魔は我が意に降れ “廻聖”」

 

 香織が使ったのは、自身の魔力や一定範囲内にいる人の魔力を別の人に譲渡する上級回復魔法だ。他人から魔力を吸い出すのは難易度が高いのだが、彼女はそれを難なくこなしていく。努力の賜物である。

 

 体内の圧力を下げるためには魔力を体外に出さなければならない。体外に排出できない状態になっていたが、上級魔法によるドレインであれば排出は可能だと判断したのだ。

 

 青年から吸い出した魔力は全て、歩く魔力タンクと化しているハジメのパワードスーツに移されていく。やがて、青年の容態が安定してきたため、傷ついた血管や内臓の回復に移行した。

 

「うっ……女神? そうか、あの世か……」

 

 そして、青年は目を覚ます。自身を診てくれている香織を女神だと勘違いし、あの世にいるのだと思っているようだ。まあ、香織が女神なのは間違いではない。

 

「安心しろ、まだこの世だ」

「う、うわっ!?」

 

 が、パワードスーツを装備したハジメが青年を覗き込んだ結果、一瞬で現実に引き戻されることになった。

 

 自分を見下ろす謎の人物といい、その背後にある大きな物体といい、不可思議な状況に混乱していた青年だが、香織から事情を聞くと落ち着いてくれた。

 

「その鎧……まるで、最近発掘された像によく似て……いや、そんなことはどうでもいい……どうか、アンカジ公国に力を貸してほしい! 我が祖国が滅亡の危機に瀕しているのです!」

 

 そして、ハジメのパワードスーツに何やら見覚えがあったようだが、自分の目的を思い出したのか、ハジメ達に必死に訴えてきた。

 

「アンカジ公国だと?たしか、グリューエン大砂漠最大のオアシスに位置していたな、以前は立ち寄らなかったが……」

 

 ハジメはこの砂漠に訪れたことがあるが、スターシップだったので空を飛んで火山へ直行しており、オアシスには行かなかったのだ。

 

「詳しく事情を聞かせてほしい。オアシスで何が起こっているのか……君は何者なのか……」

 

 アンカジ公国が滅亡の危機に瀕していると聞いて、無視できるはずがない。この青年のように多くの人々が苦しんでいる可能性があるのだ。ハジメは彼から事情を聞くことにした。

 

 

 

「だいたい分かった」

 

 ハジメ達が救助した青年の正体は、アンカジ公国の領主であるランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子、ビィズ・フォウワード・ゼンゲンであった。

 

 アンカジはエリセンから内陸部へと海産物を運送する際、その鮮度を落とさないようにするための要所であり、食料供給という王国の生命線を握っている。そこを任される程なのだから、アンカジの領主は信頼の厚い大貴族である。

 

 彼によると、四日前からアンカジにて原因不明の高熱を出して倒れる人が続出しており、総人口二十七万人のうち三千人近くが意識不明、二万人が症状を訴えている状態だ。医療施設の対応能力はパンクしてしまい、全ての公共施設を解放して医療関係者総出で治療と原因究明に当たったが、香織と同じく進行を遅らせることは何とか出来ても完治させる事は出来なかったという。

 

 次々と患者は増加し、医療関係者の中からも倒れる者が続出した。さらにはこの事態が発生してから二日でついに死者が出てしまう。人々が絶望する中、偶然にも飲み水に魔力の暴走を促す毒素が含まれていることが判明する。オアシスを調査したところ、その全体が毒素に汚染されており、今回の事態の原因だったのだ。

 

 オアシスは生命線なのでその警備、維持、管理は厳重に厳重を重ねてある。そのため、オアシスの警備を全て潜り抜けて毒素を流し込むなんて不可能に近い。だが、実際にオアシスは汚染されているのだ。そして、既に汚染された水を飲んで感染してしまった患者を救う手立てがないことは事実である。

 

 だが、静因石があれば救えるかもしれない。グリューエン大火山で少量を採掘できる鉱石であり、魔力の活性を鎮める効果を持っている。ハジメもその存在は知っており、迷宮に挑んだ際に少しだけサンプルを採取していた。

 

 なお、グリューエン大火山で静因石を採掘して帰ってこられるような実力の冒険者は全て倒れてしまっている。生半可な冒険者では砂嵐を突破して辿り着くことすら不可能だ。そのため、王国へ救援要請を出すことは不可欠であり、彼が派遣されたのだが……

 

「あろうことか、私は道中で症状が出て倒れてしまった。すでに感染していたのだろうな。おそらく、発症までには個人差があるのだろう。救援は一刻を争うという状況に動揺していたようだ。万全を期して静因石を服用しておくべきだった。今、こうしている間にも、アンカジの民は命を落としていっているというのに……情けない!」

 

 彼は力の入らない体に、それでもあらん限りの力を込めて拳を己の膝に叩きつける。アンカジ公国の次期領主は責任感が強く、民のことを第一に考えている人物のようだ。当時は護衛もいたらしいが、サンドワームに襲われ全滅したというから、そのことも相まって悔しくてならないのだろう。

 

「……君達に、いや、貴殿達にアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。どうか、私に力を貸して欲しい」

 

 ビィズは最大限の深さで頭を下げる。領主代理であり、次期領主でもある彼が簡単に頭を下げるべきではなく、彼自身も理解しているだろうが、背に腹は代えられなかったのだ。

 

 全員の視線がハジメに向く。皆、決断はハジメに任せる意向のようだし、どのような決断をするか分かりきっていた。

 

「分かった。依頼を受けよう」

 

 即答だ。多くの人々が苦しむのを無視して、迷宮の攻略に向かうなんて選択肢はない。最終的に世界が救われても、人々が救われていなければ意味はないのだ。

 

 ハジメ達の最初の行動は、全力でアンカジ公国へと急行することだ。ビィズは王国から救援を呼び、大量の水を要請するために高速の乗り物で王国へ向かいたいと主張したが、その必要はない。

 

 別に水を輸送しなくとも、魔法を使えば大気中の水分を集めることで水は確保できる。なお、この世界の常識的に考えて普通の術師では何万人もの人々を潤すのは不可能に近いが、こちらには魔法の天才のユエがいる。改めて王国に救援要請をしに行くくらいの時間は十分に稼げるはずである。

 

 その辺りを掻い摘んで説明すると、最初は信じられないといった風のビィズだったが、今の状態では王国に辿り着けるか怪しいところだ。神の使徒として、聖女として名の知れている香織が説得したことでアンカジへと戻ることを了承してくれた。

 

 サンプルとして持っていた静因石を粉状にして服用させ、香織の回復魔法をかけると、ビィズは全快にはいかないものの、行動が可能なまでに回復する。ハジメ達は彼を連れて移動を開始した。

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