「ありがとう、貴殿らのおかげでアンカジは救われるだろう。領主として心より感謝を申し上げる」
ランズィはビィズや配下と共にハジメに対して深く頭を下げる。帰還後、ハジメは採取した静因石をアンカジに全て提供し、錬成で粉末状に加工していた。
香織が全力を尽くして治療に当たってくれたお陰で新たな死者はまだ出ていない。そこにハジメより提供された粉末状の治療薬が投与されたことで、大勢の患者が命を救われた。
オアシスの汚染が完全に無くなるにはかなりの時間がかかりそうだが、ユエが用意した巨大な貯水池と大量の水があるし、既に王国へ救援要請を出しているそうなので、時間が解決してくれるだろう。
アンカジを滅亡の危機から救ったハジメ達は救国の英雄として扱われ、人々からの強い支持を集めている。ランズィもそれに報いるだけの報酬を払う構えだ。
「貴殿らに対してどのように報いればよいだろうか……報酬はいくらでも弾もう。何なりと申し付けていただいても構わない」
「特に報酬を求めるつもりはないが……」
ハジメは報酬を要求しなかった。アンカジ公国は病が蔓延した影響で懐事情が苦しいからだ。元より、これは善意による行動であり、報酬を求めるつもりは最初からなかったのだ。
「だが、救国の英雄に対して何もしないのは我が国の名が廃る。上流階級専用の高級宿があるのだが、それを数日の間だけ貸し切りにしよう」
「では、お言葉に甘えて」
そして、ハジメ達は高級宿に宿泊する権利を得た。休息も兼ねて数日間はアンカジへと滞在し、次の目的地へと向かうことになる。
「ハジメ殿、あなたに見せたいものがあるのです」
「見せたいもの?」
ランズィとの話が終わった後、ビィズがそんなことを話す。どうやら、ハジメに見せたいものがあるらしい。
「ええ、未知の物体なのですが、ハジメ殿ならば何か分かるかと思いまして……」
「なるほど……見せてほしい」
ハジメはビィズに連れられて宮殿のとある区画へとやって来る。なお、彼の頼みでパワードスーツの状態になっている。
「ここは我が国の宝物庫になります。本来なら限られた人物しか入れないのですが、今回は特別です」
売れば一生働かずに過ごせるような宝物の数々を横目に、二人は宝物庫の中を奥へと進んでいく。
「ハジメ殿、これです」
「これは……」
そこに鎮座していたのは、頭部と腕部が完全に欠落している鳥人族だった。肩が丸いので辛うじて判別できるレベルだ。
「最近になって発掘されたものです」
「ビィズ……発掘された当時、像の付近に何かアイテムは落ちていたか?」
「ええ、勿論。お持ちしましょう」
ビィズは何処かからアーティファクトらしきケースを持ってきてくれる。内容物は透明な結界によって保護されており、輝く光球となっていた。
『スキャンバイザー、オンライン』
ハジメはスキャニングすることで、そのアイテムの正体を知る。それは……
「ウェイブビームか……」
「ハジメ殿、知っておられるのですか?」
「この装備を強化するためのアイテムだ。まさか、こんなところでお目にかかるとはな」
「我々も調査は重ねましたが、用途すら分からずに放置しておりました……きっと、ハジメ殿に貰われた方がアイテムにとって幸せでしょう……」
ビィズはウェイブビームをハジメに引き渡した。場合によってはハジメに譲渡することはランズィも承認済みらしく、問題ないそうだ。
『ウェイブビームを獲得しました』
『ロックオンした対象を自動的にホーミングする特性を持つ、波打つような紫色のビームです。既存のビームと合成することでホーミング性能が付与されます」
その後、ハジメ達は高級宿に宿泊する。ハジメと香織は同じ部屋になっており、二人きりだった。
「ハジメくん、入るよ?」
「か、香織……その格好は……?」
ハジメは動揺する。普通ならこんな風になることはないのだが、今回は香織の服装に問題があった。
「これはね……領主さんの奥さんからプレゼントされたんだ。アンカジの伝統的なドレス衣装なんだって」
それは、へそが見える程に丈が短い短袖のブラウスに、ボリュームのある長いスカートであり、地球のベリーダンスで着るような服装だった。
これまで見てきた香織の服装は、神官のようなデザインで露出の少ないものであったのだが、それとは打って変わって、かなり露出が増えた状態だ。
「どう?似合ってるかな?」
香織はそう言って華麗に一回転する。スカートが花のように広がって美しく、いつもなら隠されていた透き通るような素肌や小さなへそが晒されており、かなり眩しく扇情的だ。
「綺麗だ。だが、目のやり場に困るな」
露出の多い服装ならシアで見慣れているが、これまで清楚で通ってきているような香織が目の前で扇情的な服装をしているのは刺激が強すぎたのだ。
「へえ、私に興奮してくれているんだね。私、嬉しいな……」
ハジメも男だ。宇宙にいた頃は異性に関心を持ったことはなく、姉弟子のサムスを異性として見ることもなかったのだが、生物の本能からは逃れられない。
「ハジメくん、目のやり場なんて考えなくていいからね。私は、ハジメくんに幸せになってほしいの」
香織はハジメの過去を聞いたときから、彼を幸せにしてあげたいと考えていた。平和に過ごせなかったハジメの境遇を知り、彼のためなら何でもしてあげる覚悟はあった。
「ハジメくんに何人お嫁さんがいてもいいし、結婚したら双子でも三つ子でも産むよ。どんな格好だってするし……」
「香織……俺のことを大切に思ってくれているのは分かった。だが、君の意思も大切にしてほしい」
「本来に、ハジメくんは優しいね」
一方、ハジメは香織に無理をさせるつもりはなかった。彼女が望まないことをさせてしまえば、それはならず者と変わらないからだ。
(別に、何人のお嫁さんがいても、私は一向に構わないけどね)
やがて、二人はベッドの上に並んで座る。
「ハジメくんがいない間、患者さん達の命を預かるという責任の重さに押し潰されそうだったの。でも、帰ってくると信じていたから頑張れた」
「俺も同じだ。タイムリミットに間に合わないかもしれないという不安もあった。だが、香織が待ってくれていると信じるだけで戦えた」
「ふふっ、お互いに信じていたんだね」
互いを信じること。それだけでハジメと香織は不安を乗り越えて頑張ることができた。二人は恋人であると同時に相棒でもあり、夫婦同然なのだ。
「ねえ、この部屋には風呂がついているみたいだけど、一緒に入らない?」
「風呂……か。香織がいいなら俺も入るが、本当にいいのか?」
「大丈夫。少し恥ずかしいけど、タオルは巻いておくから」
そして、二人は風呂へと移動する。R18指定のハプニングが色々と起こり、香織によって性的に襲われるなど、この日の夜は忘れられないものになったとか。
一方その頃、王都では……
「……正式に、南雲くんと清水くんが異端者認定を受けました」
「!? それは!……どういうことですか? いえ、何となく予想は出来ますが……それは余りに浅慮な決定では?」
ウルより帰還した愛子は、王宮の自室にて雫と情報交換していた。そこで愛子が伝えたのは、ハジメ達が異端認定されたという衝撃的な事実だった。
「私もそう思いました。強大な力を危険視するのは分かりますが、重要な拠点であるウルの町を救った上に“豊穣の女神”と“女神の剣”の名声があるにも拘らず、私の抗議も取り合ってもらえなかったのです……」
数万の魔物を殲滅する力をハジメ達が持っており、敵対の可能性があることを危険視することは当然だろう。だが、だからといって直ちに異端認定をするなんて浅慮が過ぎるというものだ。
あの力が自分達に向けば痛い目に遭うことが王国や教会の上層部に理解できないはずがない。しかし、愛子がウルでの出来事を王国に報告したその場で認定が下されたという。
「何かおかしいですね……先生の名声は王都にまで広がっています。先生の抗議を無視して異端認定するなんて、先生を信じている人々を敵に回すようなものですよ?」
「それどころか、“豊穣の女神”を否定するに等しい行為です。抗議を無視できないはずなのに、強硬に決定を下したんです。思えば、イシュタルさんは兎も角……陛下達の様子が少し変でした。まるで、何かに操られているみたいに……」
そして、愛子はハジメから聞いた世界の真実を雫へと語る決意を固めた。王国の人間の様子が変だったのは神による洗脳なのではないかとハジメの話から踏んでおり、早く話す必要を感じたのだ。
「八重樫さん、南雲くんが私だけに話してくれたことがあります」
「話……ですか?」
「はい。教会が祀る神様の事と、南雲くん達の旅の目的です。証拠は何もない話ですが……とても大事な話なので、今晩……いえ、夕方、全員が揃ったら先生からお話したいと思います」
「それは……いえ、分かりました。なんなら今から全員招集しますか?」
「いえ、あまり教会側には知られたくない話なので、皆が集まる夕食の席で話したいと思います。久しぶりに生徒達と水入らずで、といえば私達だけで話せるでしょう」
「なるほど……分かりました。では、夕食の時に……」
その後、愛子と雫は夕食でまた会う約束をして別れた。しかし、愛子が夕食に現れることはなかった。
「はじめまして、畑山愛子。あなたを迎えに来ました」
しばらくして、夕食に向かうために廊下を歩く愛子の前に現れたのは銀髪の修道女。その声は無機質な冷たさのある声であり、愛子は背筋を震わせた。
「えっと、はじめまして。迎えに来たというのは……これから生徒達と夕食なのですが」
「いいえ、あなたの行き先は本山です」
「えっ?」
問い返す愛子だったが、彼女に選択肢は最初から与えられていなかった。
「あなたがこれからしようとしていることを、主は不都合だと感じております。そのため、あなたには一時的に退場していただきます」
その修道女は風のような素早さで距離を詰め、愛子の鳩尾に拳を叩き込む。彼女の目の前は真っ暗となり、意識が闇に沈んでいった。
ウェイブビームは今作にて、プライム版から電気属性だけ抜いて誘導性能だけを残したものになりました