メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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今回から海底遺跡に入ります


メルジーネ海底遺跡

 結局、悪食の襲来というアクシデントによって海底遺跡への挑戦は翌日に延期となった。

 

「そろそろか……」

 

 この日もまた、日が沈むのを見届ける。太陽と入れ替わるように月が輝き始めたので、大火山攻略の証であるペンダントを取り出して月光に翳してみる。

 

 ペンダントには、サークル内に女性がランタンを掲げている姿がデザインされており、ランタンの部分だけがくり抜かれていて、穴あきになっているのが確認できる。 

 

 すると、ペンダントに変化が起きた。

 

「わぁ、ランタンに光が溜まっていきますぅ。綺麗ですねぇ」

「不思議だね。穴が空いているのに……」

 

 ペンダントのランタンには、底の方から光が溜まっていく。その光景にシアと香織は見惚れる。光の水位は徐々に上昇し、やがて穴の空いた部分が完全に満たされた。

 

「ん。ミレディとは大違い」

「どれだけヤバい奴なんだよ、ミレディは……」

「性格が悪いのは間違いないじゃろうな」

 

 ミレディに対して低評価するユエ。目の前のペンダントは全体が輝いており、ランタンから一直線に光を放って海底へと伸ばしていた。随分と粋な演出である。

 

「ふむ。この場所でなければならないというわけじゃな……」

「あぁ、そのようだ。これに従うとしよう」

 

 ハジメ達は潜水艇に乗り込み、月光の導きに従って潜航する。装備されたライトと一筋の光の明るさを頼りに深度を下げていく。

 

 やがて、潜水艇は海底の岸壁地帯へとやって来る。昼間にも探索した場所で、その時には何もなかったのだが、接近した瞬間にペンダントの光が海底の岩石の一点に当たり、地震のような振動と共に岸壁の一部が真っ二つに割れ、扉のように開いた。 

 

「ここが入口か……」 

 

 真っ二つに割れた岸壁の奥には真っ暗な道が続いている。進むことを躊躇いたくなる光景だが、ここが遺跡の入口であることは間違いなく、真っ暗な中に突入する以外に選択肢はない。

 

「俺は外に出て警戒する。清水、操縦はイヴに任せているが、いざという時は頼む」

「あぁ、任せてくれよ」

「ハジメくん、気を付けてね」

 

 コックピットを幸利に任せ、ハジメは外部と船内を隔てている部屋へと入る。すると、内部へと注水が開始され、完全に水で満たされた。 

 

『グラビティ機能、オンライン』

 

 水没したハジメはグラビティ機能を発動。それと同時に外部へのハッチが開放されたので、地上と遜色ない素早い動きで外へと出ると、セイルの上へと移動する。潜水艇の外側にとりついたまま、【メルジーネ海底遺跡】へと突入した。

 

『なあ、南雲。この迷宮は潜水艇か特殊なパワードスーツでもなければ侵入すら無理だと思わないか?』

 

「たしかにな。この世界の魔法を使うにしても、一流の使い手が何人も必要だからな」

 

『ん。空間魔法は必須かも』

『そうじゃな。空間を操り、水を完全に寄せ付けぬ必要があるであろう』

『それじゃあ、私みたいなただの人間には無理だね』

『脳筋の私にも無理ですぅ』

 

 薄暗い洞窟のような空間を、潜水艇のライトだけを頼りに進みながら、潜水艇やパワードスーツがない場合の侵入方法を考察する。

 

 水中で息をすることは不可能で、水圧によって自由な行動すら制限される。潜水艇を用意する時点で難しいのに、重力制御機能搭載のパワードスーツなど無理があるだろう。その気になれば、ハジメ単体でも行けるかもしれない。

 

 道なりに進んでいく中、後方から接近してくる反応があった。別に悪食ではない。船外にいるハジメが振り返ると、トビウオのような形態の敵が群れで接近してきている。翼のように広げられた鰭は刃のようになっており、相手をすれ違い様に切り裂くのだろう。

 

「俺が対処する」

 

『スペイザー、オンライン』

『サンダービーム、オンライン』 

 

 アームキャノンより飛び出したのは、電撃を纏った三本のビームだ。独自のテクノロジーにより漏電するようなことはなく、そのままトビウオモドキの群れと接触して弾けた。

 

 彼らは高電圧の電気ネットの中に飛び込んだようなものだ。彼らは高圧電流を受けて感電し、絶命すると上下逆さまの状態で流れていった。

 

 散発的に現れたトビウオモドキを始末しながら代わり映えのない景色の中を進んでいると、前方より感電死した彼らの死体が流れてくる。 

 

「まさか、この洞窟は円環状なのか?」

 

 ハジメが攻撃しない限り、トビウオモドキが感電死することはない。その死体が前方から流れてきたということは、同じ場所をグルグルと回っているということだ。

 

 この円環の中に何かしらの仕掛けがあるのだろう。周囲を注意深く観察しながら、洞窟を航行していると……

 

「これで五つ目か……」

 

 洞窟の何ヵ所かに五十センチくらいの大きさのメルジーネの紋章が刻まれている場所を発見した。五芒星の頂点の一つから中央に向かって線が伸びており、その中央に三日月のような文様がある。それが、五ヶ所に存在していた。

 

『ハジメくん、もしかしたら紋章の所にペンダントの光を灯すのかな?』

 

「香織、それだ。やってみよう」

 

 ハジメは一つ目の紋章へと近づき、ペンダントを近づけてみる。すると、ペンダントが反応してランタンから光が伸び、それを受けた紋章が輝いた。

 

 そのまま、円環を一周しながら紋章に光を灯していく。最後の五つ目の紋章にも同じくペンダントを近づけて光を灯すと、洞窟の壁が真っ二つに割れて新たな道が開かれた。

 

 奥まで進むと、真下へと潜る通路を発見する。そのまま潜水艇を進めると、突如として船体が浮遊感に包まれて一気に落下していった。

 

「皆、衝撃に備えろ!」

 

 

 

 

 

「皆、無事か?」

 

 潜水艇が落下した先は、大きな半球状の空間だった。周囲に海水はなく、空洞となっている。岩石の床に叩きつけられ、船内には激しい衝撃が伝わった。

 

「ん、大丈夫。重力魔法を使ったから、ダメージは軽減できてる」

「ユエちゃんが助けてくれたんだね。ありがとう」

「この一瞬で神代魔法を行使するとは、見事なものじゃな」

 

 水中ではなくなったのでハジメ達は潜水艇から降り、ここから徒歩移動に切り替える。

 

「師匠、上を見てください。あそこから私達は落ちてきたみたいですね」

「そのようだ。しかし、頭上にある水が降り注いでこないとはな……」

 

 天井には大穴が空いており、海水で満たされているのだが、どういうわけか一滴の水すら落ちてくる気配はない。空間魔法でも使われているのだろう。

 

「なあ、南雲。ここからが本番って感じだろうな。全てが水中じゃないことに感謝したいぜ」

「あぁ。俺だけが戦い続けるのでは意味がないからな。これで全員が戦える」

「その分、敵の数も増えそうですけどね……」

 

 半球状の空間を抜け、奥に見えていた通路に差し掛かる。そのまま進入……することはなく、何かに気づいたハジメがユエに呼び掛ける。

 

「ユエ」

「ん」

 

 直後、頭上よりレーザーの如き水流が豪雨になって襲いかかる。以前、ユエがライセンで多様していた“破断”と同じであり、人体に容易く穴を穿ち、パワードスーツにもダメージを与える程の威力だ。

 

 だが、それを察知したハジメの呼び掛けに阿吽の呼吸で応えたユエの張った結界により、完璧にガードされてしまう。もはや、奇襲が奇襲にならなかったのだ。

 

 呼び掛けの瞬間、皆同様に攻撃を察しており、突然の攻撃に対して動揺はない。ただ、一人だけを除いて……

 

「きゃあ!?」

 

 突然の激しい攻撃に悲鳴を上げ、よろめいてしまう香織。ハジメが咄嗟に腰に手を回して支えたことで転倒は免れた。

 

「香織、大丈夫か?」

「お母さま、怪我はない?」

「あはは……少し油断してたみたい。気合いを入れていかなきゃだめだね……よし!」

 

 ハジメとユエに心配される香織だが、自分は大丈夫だというような振る舞いをする。頬を軽く叩き、気合いを入れ直していた。しかし、彼女の内心は……

 

(情けないところを見せちゃった……今までだったら、こんなことは無かったのに……)

 

 これまで、香織は勇者パーティの一員として第一線で戦い続けていた。回復魔法や結界魔法、光属性魔法によって仲間達を支援し、自らも聖弓を携えて幾多の戦闘を乗り越えてきた。

 

 自分は申し分ない程の実力を持っている。そのように自負していた香織だったが、それはオルクスでハジメと再会した頃から揺らぎ始めていた。

 

 そして、今はユエの魔法技能の高さに揺さぶられている。訓練に訓練を重ねて本職である結界師にも劣らない程のレベルに達していたが、ユエには敵わないことを改めて思い知らされた。

 

(私、足手まといになってる……ここに私がいる意味なんてあるのかな……このままじゃ、ハジメ君の隣にいられないよ……)

 

 香織の心を支配しているのは劣等感。勇者パーティの中核を担っていた自分が、今は単なる同行者に成り下がっており、何もできていないのだから。

 

(私の存在意義って……)

 

 彼女は苦悩する。自問自答を繰り返し、その度に劣等感が強くなる負のスパイラルに陥っていく。意識が明々後日の方向へ行き、挙動不審になっていた。

 

「香織、どうした?」

「えっ? あ、ううん。何でもないよ」

「なら、いいのだが……」

 

 そんな様子の香織を見てハジメが声をかけるが、彼女は誤魔化すように無理矢理に笑顔を浮かべる。ハジメも何か察していたが、彼女は何かの試練と戦っているのだろうと思い、しばらく見守ることにした。

 

(ありがとう、ハジメくん……私を心配してくれて。これは私の試練だから、配慮して見守ってくれているんだね)

 

 自身に蔓延る劣等感との戦いが彼女に課せられた試練。香織は、ハジメが試練と戦う自分に配慮して見守るだけに留めてくれていることに気付き、感謝していた。

 

 二人のやり取りの間にも、先ほどの攻撃は続いている。ユエの結界は健在であり、防いでいる間にティオが繰り出した火炎によって天井が焼き払われると、原因が落ちてきた。

 

 それは、フジツボのような存在だった。それが目の前にいくつも転がっている。体に空いている穴からレーザーのような水流を吹き出すのだ。

 

 なお、水中生物が元になっているので高温にはかなり弱く、ティオの放った火属性魔法“螺炎”によって焼き払われてしまった。

 

 フジツボモドキの排除を終えると、ハジメ達は、奥の通路へと歩みを進める。通路は先程の部屋よりも低くなっており、膝くらいまで海水で満たされていた。

 

 海水をザバザバとかき分けながら歩く。水圧によって歩きにくいフィールドであるが、ハジメはグラビティ機能によって無効化している。他のメンバーは歩きにくそうだが、仕方ないだろう。

 

「ん……水没しそう」

「ユエ、肩車でもするか?」

「大丈夫。浮遊すればいい」

 

 身長が低く、ユエは海水に浸かってしまう部分が大きい。ハジメは担ぎ上げてやろうとしたが、彼女は重力魔法で浮遊することで解決した。

 

「ねえ、ハジメくん。次に何か来たら私にやらせてくれないかな?」

「あぁ。別に構わない」

 

 香織がそう言った次の瞬間、襲撃が始まる。水中より勢いよく飛び出し、飛来したのは高速回転する手裏剣のような複数の何かだ。

 

 香織は聖弓を素早く連射してライトアローで全てを撃墜する。体を貫かれ、水面に浮かんできたのはヒトデ的な奴だった。

 

「腕も上がっているみたいだな、香織」

「私だって、訓練はしてきたからね」

 

 その後も戦闘は続く。横穴からウツボのような奴が飛び出てきたり、カニ軍団が現れたり、ヒレが刃となった空飛ぶエイが体当たりしてきたりと、水棲系のオンパレードである。そして今は、針を散弾のように飛ばしてくる巨大なウニと対峙している。

 

「師匠、私がやります!」

 

 巨大ウニに向けて飛び出したのはシアだ。身体強化で水圧を強引に無効化し、降り注ぐ針の雨をフィールドウォールで凌ぎつつ、その鉄拳を叩き込んで一撃で粉砕した。

 

 そして、彼らは通路の最奥に到達する。そこに佇んでいたのは、巨大なタコだった。なお、足は八本ではなく二倍の十六本で、その全てが金属に覆われて硬化していることが確認できた。

 

 巨大タコはハジメ達の姿を視認すると、半数の金属足を動かして通路を完全に塞いでしまう。巣穴を塞いで卵を守る母タコのようにも見えなくない。

 

 巨大タコは硬化した足による殴打を繰り出してくる。まるで大砲のような一撃であり、同時に飛び出したシアの鉄拳と激突し、強烈な衝撃が撒き散らされる。咄嗟にユエが結界を張らなければ、ハジメ達も余波に襲われていただろう。

 

 目の前では殴打の応酬が繰り広げられている。八本の金属足が絶え間なく動かされ、シアの拳とぶつかり合う。無数の衝撃の花が咲き、その余波により天井や壁から無数の破片が飛び散っていた。

 

 無論、手数は相手の方が四倍であるため、シアも苦しそうだ。そこで、ハジメが援護に入る。

 

「援護するぞ、シア」

 

 シアを狙う金属足に向けてミサイルを叩き込み、彼女へと向かう殴打を減らしていく。それにより、奴の本体へと攻撃する隙が生まれ……

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

 殴打を掻い潜り、シアは拳を振りかぶる。瞬時にガントレットからブースターが展開され、高速の鉄拳が本体に打ち込まれた。

 

 人体から出してはいけないような衝撃音が響き渡る。普通に考えたら、吹き飛ばされるか内臓が衝撃でグシャグシャになりそうなものだが……

 

「この感触……衝撃を吸収した?」

 

 なお、巨大タコは健在である。危険を感じたシアがパンチの反動で離脱し、フィールドウォールによる防御体勢に入った直後、巨大タコが赤黒い光を纏い、八本の足から爆発するような衝撃が放たれた。

 

「ぬぅううっですぅ!」

 

 シアは下半身に渾身の力を込めて衝撃に耐えようとするが、ガードごと吹き飛ばされてしまう。

 

「南雲、こいつは吸収した衝撃を自身の殴打に乗せて放てるようだぞ」

「なるほど……シアが吹き飛ばされたのも納得だ。シアの渾身の一撃と同じ威力が返ってくるということだな」

「その通りだ、南雲。こいつは、物理特化タイプの天敵というわけだ。同様の理由でミサイルも意味がないだろうな」

「やはり、この迷宮は魔法の使用が前提のようじゃな」

 

 メルジーネ海底遺跡は、これでもかと魔力を使わせようとする構造になっている。入り口を発見する段階では酸素の供給や水を阻む結界の展開、水中で襲ってくる敵の迎撃など、生半可な魔力量では突破は不可能だ。

 

 今度の巨大タコは、物理攻撃をほぼ無効化するような能力を持っている。そのため、ここを突破するためには強力な魔法による攻撃が必須だった。

 

「ユエさん、お願いします!」

「ん……任せて。空間ごと斬る」

 

 ユエは魔力を練り上げ、目を閉じて発動する魔法のイメージを徐々にハッキリとしたものに昇華させていく。空間魔法の使用はユエにも難しく、準備に時間を要するのだ。

 

 そして、ユエは開眼する。

 

「“斬羅”」

 

 その瞬間、巨大タコのいる空間に無数の一線が引かれ、割れた鏡のように亀裂が走る。線が通った場所を境界面として空間がずれ、その空間ごと奴の巨体が血を吹き出しながらバラバラに切り刻まれた。

 

 空間魔法“斬羅”は空間に亀裂を入れてずらすことによって、防御を無視して問答無用に空間ごと切り裂く魔法である。いくら強靭な肉体であろうと、世界で最も頑強な装甲であろうと、空間がずれてしまっては無意味である。

 

「ミンチより酷いぜ……」

 

 そんな惨状の中を通り抜け、一行は先へと進んだ。

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