その後、物理耐性のある敵を魔法やビームで蹴散らしながら進んでいくと、通路を塞いでいる水の壁に行き当たった。
潜水艇が通れる程の水壁だったため、そのまま乗り込んで水壁の向こう側へと向かう。水中洞窟を航行していると、前方に巨大な球体状の水中空間が見えてきた。
そこに佇んでいたのは、黒一色の潜水艇だった。サイズは潜水艇よりも少し小さいのだが、明らかにアーティファクトや攻撃魔法の魔法陣で武装している。戦闘用なのは間違いなく、魔装潜闘艇とでも呼称すべきだろう。
「潜水艇では分が悪い。ここは、水中に最も適応している俺が行こう」
「ハジメくん、気をつけてね……」
潜水艇を球体状水中空間の入り口まで下げると、グラビティ機能を発動したハジメが侵入する。ある程度の距離まで接近すると、魔装潜闘艇は役目を果たすべく起動すると、突進を仕掛けてくる。
船首にはドリルが出現しており、ハジメを貫こうとしているのだろう。その進路から外れるように横へ飛んで避け、振り向き様に魔装潜闘艇の背後へと攻撃を行う。
『シーカーミサイル、オンライン』
無防備な魔装潜闘艇の背後へと迫る五発の小型ミサイル。そのまま直撃しそうに見えたが、突如としてその軌道が滅茶苦茶となり、あらぬ方向へと行って自爆してしまった。見れば、奴の周囲には激流が発生している。
(水流を操って無力化したのか……ミサイルが効かないのであれば、ビームで……)
『スペイザー、オンライン』
『ウェイブビーム、オンライン』
『サンダービーム、オンライン』
魔装潜闘艇より放たれた光属性の砲撃を飛び退いて回避しつつ、三種類のビームを合成し、エネルギーを最大までチャージして放つ。
ハジメがアームキャノンから発射したのは、感電させる効果を持ち、三発が同時に発射される誘導性能付きのビームだ。
それぞれが別々の軌道を描いて魔装潜闘艇へと迫り、完璧に誘導されて着弾しようとする。避けきれないのは一目瞭然だ。潜水艇側からもそれは見えていた。
『あれは食らいたくないぜ。魔装潜闘艇も御愁傷様だな』
『ん。でも、あれが簡単にやられるとは思えない』
『あぁ!? 転移で避けられました!!』
しかし、三発のビームは目標を見失ってしまう。魔装潜闘艇が空間魔法による転移を発動し、その場から完全に消えてしまったからだ。次に奴が現れた場所は……
『ハジメくん、後ろ!』
魔装潜闘艇は忽然とハジメの背後を取ると、船体に装備された複数の魔法陣を同時に起動し、空間を埋め尽くすような無数の雷光をお見舞いしてきた。
「ちっ!」
ハジメは回避に専念する。雷光と雷光の間の狭い隙間をすり抜け、時にはモーフボールも使用していくのだが、反応が僅かに遅れたことにより被弾を許してしまった。
「ぐうぅぅっ!!」
なお、ハジメは被弾しながらも咄嗟にサンダービームを放っており、攻撃中に転移は不可能なのか転移にインターバルがあるのか不明だが、直撃した魔装潜闘艇を感電させ、動きを止めることに成功した。
『ノーマルミサイル、オンライン』
動きが止まった魔装潜闘艇にミサイルを連発する。爆発と衝撃が奴を襲い、船体に亀裂が入り、表面の魔法陣やアーティファクトが吹き飛んでいく。
このまま、魔装潜闘艇に止めを刺すこともできそうだが、その前に感電の影響から復活してしまう。転移の魔法陣は内部で守られているのか、転移で逃げられてしまった。さらに……
(再生しただと!?)
魔装潜闘艇が転移した先で夕焼け色のような輝きを帯びたかと思えば、ミサイルによって受けた損傷が修復される。
(自己修復とは異なるようだが……)
ハジメのパワードスーツにも再生する機能はあるが、ここまで一瞬で完了するようなものではなく、時間をかけて徐々に修復するものだ。しかし、目の前の魔装潜闘艇はそれとは全く異なる。一瞬で修復が完了した上、時間が巻き戻ったかのように元通りの姿になっている。
『文字通りの再生じゃな……』
『もしかすると、ここの神代魔法は再生に関する魔法?』
『ユエさん、もしもそうならばハルツェナ樹海の大樹を再生できるかもしれませんよ!』
戦いは仕切り直しだ。ハジメが飛び道具を放ち、魔装潜闘艇が転移で躱して有利な位置から攻撃する。それを避けたハジメによる反撃が船体を傷つけるが、瞬く間に再生されてしまった。
その繰り返しにより、戦闘時間は長引いている。互角ではあるものの、先に限界が来るのはミサイルの弾数と生物であるが故の体力の限界が存在するハジメだろう。そんな時、香織がとあることに気づいた。
『あれ、壁が光ってない?』
『ん。本当だ』
『たしかに、夕焼け色に光ってるな』
水中空間の最奥の壁に鮮やかな夕焼けのような輝きが生まれている。魔装潜闘艇が再生する時の光と同じである。よく見ると巨大なメルジーネの紋章があり、その紋章の半分が夕焼け色の魔力光で埋まっていた。
『おや、光る部分が増えたようじゃな』
『どうやら、時間経過で増えるみたいですね』
魔装潜闘艇による攻撃を一定時間耐えることによって突破する試練のようだ。現在のハジメでは倒しきれる性能ではなく、生き残ることが重要らしい。こうしている間にも、紋章の輝いている部分は増えていっている。その面積は八割に及んでおり、もう少しの辛抱だ。
「なるほど、時間経過か……」
『ウェイブビーム、オンライン』
これまで通りにホーミング性能のあるビームを放ち、魔装潜闘艇が転移で回避する。ハジメはノールックでアームキャノンを後方に向け、瞬時にサンダービームへ変更して何もいない場所に撃ち込む。
すると、ビームが向かった先に転移した魔装潜闘艇が出現し、奴は見事にサンダービームの直撃を受けて停止した。
これまでの戦闘で転移した魔装潜闘艇がハジメの背後に現れやすいことが分かっている。そのため、ハジメは奴が転移した瞬間に後方へとビームを撃ったのだ。
『スーパーミサイル、オンライン』
感電して動けない魔装潜闘艇に向けて、最上級攻撃魔法にも匹敵する威力のスーパーミサイルを放つ。その直撃を受けて奴が衝撃波に包み込まれたのと、紋章の全体が輝いたのは同時だった。
「終わったのか?」
やがて、大爆発の中から出てきたのは、この試練の中で最も大きな損傷を受けたボロボロの魔装潜闘艇だ。頑丈であった船体には大穴が穿たれ、亀裂も全体に入っており、内部はかなり浸水しているようだ。大半の魔法陣もダメージを受けて使用不可である。
過酷な水中という環境で魔装潜闘艇の猛攻から生き残り、一定時間経過する。それがこの試練の内容だ。すでに試練は突破した判定であり、魔装潜闘艇がハジメに対して抵抗する様子は見られず、それを認めるかのように輝く紋章の壁がゴゴゴッと四分割に開いて道が開かれる。
「これで、終わったか……」
やがて、魔装潜闘艇は夕焼け色の光を帯び、損傷を完全に修復する。空間魔法でゲートを開くと、挨拶でもしているみたいに一瞬強く輝き、そのまま突入して何処かへと消えた。そして、彼と入れ替わるようにゲートから光り輝くアイテムが飛び出してきた。
「これは……」
『エーテルアビリティ:ビームバーストを獲得しました』
『装着者の魔力を消費し、ビームウェポンの攻撃力と速射性を強化するアビリティです。アイスビームを除いた全ての攻撃用ビームを統合し、特性を継承します』
『その威力は凄まじく、高い耐久力の敵も容易に殲滅可能です。制限時間は二十五秒ですが、更に魔力を消費することで時間を伸ばすこともできます』
試練を制したハジメは、新たな能力を入手した。このエーテルアビリティならば多数との戦いだけではなく、神の使徒や進化体メトロイドに対する有効な対抗手段となるだろう。
試練の突破後、ハジメ達は巨大な紋章の奥へと進んだ。その先にあった水中トンネルはそこまで長くなく、しばらくして潜水艇が海面に浮上できる程の空間に出る。
潜水艇が浮上した先は海賊が根城とする入り江のようになっており、そこから上陸して陸路を進む。一本道のトンネルを抜けた先には……
「道が三つに分岐しているな……」
「ん、それぞれ奥に転移魔法陣がある」
「ここから先はバラバラになるってことですね」
選択肢は二つある。一つの魔法陣に全員で入るか、それぞれ二人ずつ分かれて三つの魔法陣に入るかだ。
「南雲、もしかすると一つだけが正しい道の可能性があるぜ」
「ならば、確実に探索するためにも我らを三つに分ける必要もあるじゃろう」
そして、ハジメ達が選んだのはチームを三つに分けてそれぞれの魔法陣に突入することだった。
「六人に対して三つの道……何だか、私達が六人で来るのを分かっていたみたいだね」
「エルダーバードには未来予知をする能力がある。どのような存在が挑むのか、大まかに予知できたのだろう」
今回のチーム分けは、ハジメと香織、ユエとシア、幸利とティオだ。魔法を得意とする者を平等に分散させた、バランスの良い編成だ。最も能力が低い香織については、最高戦力のハジメを付けているので問題ない。
「お母様、気をつけてね……」
「うん、ユエちゃんもね」
「ユエ、俺の心配は?」
「お父様は大丈夫そうだから。心配がいらない程に強いことは当たり前」
「それはそれで寂しいな……」
「なら、私は心配しますよ。ハジメさん、気をつけて行ってきてくださいね」
「あぁ、シアも頑張れよ」
最後の会話をした後、ハジメと香織、ユエとシアのチームはそれぞれの魔法陣に入って消えていく。残っている幸利とティオは……
「ユキトシよ、我らはいつも通りじゃな」
「だが、俺は姐さんと組むのが一番安心する」
「それは嬉しいことじゃ。では、我らも参るとしよう」
これで、全員がそれぞれの魔法陣に飛び込んだ。ここから先、ハジメ達が遭遇するのは過去の記憶……彼らはトータスで起きた惨劇を体験することになる。
ハジメと香織が転移した先は砂浜だった。水平線が何処までも続いており、ここが海底遺跡の中とは思えないような景色である。
二人で砂浜を歩き、奥に見える密林に向かう。密林にはまるで道のように木々がない部分があり、導かれているようだ。
「ハジメくん、私達だけで行動するのって久しぶりだね」
「あぁ、そうだな。地球にいたときが最後だったかもしれない。あの時は海に行ったな」
「たしか、私をナンパしてきた男の人達を撃退してくれたよね」
二人で出掛けた思い出を語りつつ、密林のトンネルへと踏み込む。全く敵が現れないので会話が弾み、やがて出口にたどり着く。
目の前に広がっていたのは、岩石地帯とそこに横たわっている大量の朽ちた帆船だった。サイズは最低でも百メートルで、遠くにある一番大きな船に関しては三百メートルはあるように見える。
「船の墓場、なのかな……」
「戦闘で損傷を受けているようだ。墓場というのも間違いではないだろう」
二人が船の墓場のちょうど真ん中に差し掛かり、そこにある船の甲板に登った時、変化が起こる。
うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
「何だ!?」
「ハジメくん、周りが!」
突然、聞こえてきた大勢の人間の雄叫び。それと同時に周囲の風景がぐにゃりと歪み、次の瞬間にハジメ達は大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。
「これは、一体……?」