メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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幻影のリドリー

「香織と分断されたか……何とかして合流しなくては……」

 

 そうはいいつつも、ハジメは船倉内にて幾度も襲撃を受けていた。それも、達人クラスの腕前をもつ戦士達の亡霊である。 

 

 例えば、騎士のような男が凄まじい剣技を繰り出してきたりする。それを見切ってアームキャノンで剣を弾き、魔力混合ビームを直撃させて消し去った。

 

 しばらく亡霊軍団の襲撃を凌ぎつつ、船倉の奥へと進入する。そこで、ハジメは探していた大切な人を目撃した。 

 

「香織!?」

 

 船倉には鳥籠のような檻があり、そこに香織が眠った状態で収容されていた。罠の可能性もあるのでアームキャノンを向けながらも近づこうとするのだが、そこで変化が起きた。

 

 香織の入った檻の背後に一対の眼光が現れ、その主が実体化し始める。最初にドラゴンか翼竜のような輪郭が浮かび上がり、青白くぼんやりと輝く肉体が顕現した。その姿はまるで……

 

「り、リドリー……」

 

 数々の惑星を焼き払って大量殺戮を行い、サムスの両親や戦士グレイヴォイスを死に至らしめた悪魔、残虐非道なスペースパイレーツの指揮官リドリーそのものだった。

 

(何故、こいつが!?奴を知っているのは俺のみ……いや、俺の記憶を読んだのか?あり得ない話ではない……)

 

 幻影のリドリー、ファントムリドリーはハジメの記憶を読み取った迷宮が生み出したものだ。挑戦者が深層心理で恐怖を感じているものを幻影として出現させるのだが、記憶が大元なのでバイアスが掛かっていたりする。

 

 実際、奴はオリジナルよりも大型化しており、デザインもより禍々しさが強調されている。ハジメの深層心理にある恐怖が具現化された結果だった。

 

 ファントムリドリーを前にしたハジメは足がすくむ。大切な者達を目の前で奪った最悪の存在に対して、恐怖が存在しないわけがないのだ。

 

 そして、ハジメの脳内にフラッシュバックしたのは、ゼーベスが陥落した時の光景だ。燃え盛るゼーベスの中枢部に、殺害されて倒れ伏す大勢の鳥人族。ボロボロにされたサムスに、リドリーの鋭い尾に貫かれたグレイヴォイスの姿が浮かんできた。

 

 大勢のパイレーツに囲まれて多勢に無勢だったところを何とか突破し、辿り着いた中枢部にはそのような光景が広がり、パイレーツのリドリーと裏切り者のマザーブレインが待ち構えていたのだ。

 

 ハジメはサムスと共に立ち向かったが、連戦と決して少なくないダメージで消耗していた上、あのパイレーツを束ねているだけあってリドリーは強かった。結局、根性で立ち上がったグレイが殿を務めて犠牲となり、二人は逃げるしかなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 本物ではないとはいえ、生きた心地がしない。ハジメの心拍数が上昇し、息は荒くなっている。抑え込んではいるが、これ以上精神が乱されたらパワードスーツの維持も危うい程だ。

 

「ギィャャァォォォッ!!!」

 

 ファントムリドリーが咆哮する。同時に空間がガラスのように割れて闘技場のような場所に変わり、香織の姿も消えた。

 

 咆哮でハジメは硬直してしまい、その隙に距離を詰めてきたファントムリドリーの掴みかかりに対する反応が遅れ、奴の手中に収まることになった。

 

「がぁぁぁっ!?」

 

 奴は記憶にある通りのリドリーそのもので、その攻撃は残虐性が剥き出しになっている。ハジメを引きずるようにして激しく地面に擦り付け、スーツから盛大に火花を飛び散らせた。

 

 そのまま、ハジメは飛翔したリドリーによって壁面にも執拗に擦り付けられることになり、大ダメージを受けた末に地面に勢いよく叩きつけられた。

 

「く、クソッ……!」

 

 大ダメージを受けたスーツ表面からスパークを散らし、激しく揺さぶられたことでふらつきながらも、ハジメは立ち上がる。バイザー越しに奴を見上げる両目には、闘志が籠もっていた。

 

 もはや、あの時の自分とは違う。これまでハジメは三つもの大迷宮を攻略し、パイレーツや魔物の大軍との戦いを乗り越えてきた。守りたい大切な人もいる。だからこそ、目の前の奴を倒してそれを証明しようというのだ。

 

「お前を倒し、香織を取り戻す。恐怖に打ち勝ち、この試練を突破してみせる」

 

 ハジメはアームキャノンを奴に向ける。自分の内面にある恐怖に打ち勝つための戦いが始まった。

 

 

「ギィャャァォォォッ!!!」

 

 最初に襲いかかってきたのは、空中からの鋭利なブレード状の尻尾による連続刺突だ。人体は勿論のこと、戦車すら貫くような威力の攻撃に対し、センスムーブを繰り返して既のところで回避していく。

 

 さらに、火炎弾を連続で口から吐き出してくるが、横に倒れ込むようにモーフボールになって回避。その状態のままエネルギーをチャージすると高速回転して急加速し、素早い動きで火炎弾の雨を掻い潜る。

 

 これはブーストボールといい、モーフボールのアビリティに内蔵されている機能だ。モーフボール状態のままで高速移動が可能となり、回避したり体当たり攻撃する手段としても優秀である。

 

 攻撃が終わった後、ハジメは素早くモーフボールから元の姿に戻ると、空中のリドリーに向けて反撃のビームを撃ち放つ。

 

『アイスビーム、オンライン』

『スペイザー、オンライン』

 

 凍結効果のあるビームが何度か直撃したことによりファントムリドリーの身体が氷に包まれ、完全凍結とまではいかないが翼の動きを阻害されたことで地面へと落下した。

 

 地上戦だ。奴の火炎放射を飛び退いて回避すると、接近して連続で引っ掻きを繰り出してきたので、跳躍して奴を飛び越えながらチャージビームを頭上からお見舞いしてやる。

 

「ギィャャァ!!」

 

 背後に着地すると同時に振り向くと、リドリーの鋭い尻尾の先端が至近距離まで勢いよく迫っており、咄嗟にアームキャノンで弾く。続けて振るわれた豪腕を弾き返すと奴が蹌踉めいたので反撃に転じた。

 

『ビームバースト、オンライン』

 

 ミサイルを数発撃ち込み、胸部に至近距離から強力なビームの嵐を浴びせる。これにより更に怯んだので奴の身体に取り付き、その長い首を起点にぐるりと回り込む形で頭部に接近。ヘッドロックを仕掛けると口内にアームキャノンを突っ込んでミサイルをご馳走した。

 

「どうだ、ミサイルの味は?」

「ギャァッ!?」

 

 やがて、翼に付着した氷が融けたのか再び翼をはためかせ、リドリーが空を舞う。今度は口内にプラズマを長めにチャージし、エネルギー弾を降らせてきた。

 

 それは地面に着弾すると爆炎を放射状に広げ、地面全体を覆い尽くすほどだ。それを飛び上がって回避し、着地すると戦いは仕切り直しだ。尻尾による刺突と火炎弾が再び迫り、同様の方法で切り抜ける。

 

 ファントムリドリーは刺突と火炎弾に加え、何度か急降下攻撃を仕掛けてくるが、すでに奴の動きは見切っている。ハジメはその全てを潜り抜けつつ、チャージビームで反撃していた。

 

 さらに、奴は尻尾を地面に突き立てたままハジメの頭上まで瞬間的に素早く動き、硬い先端が火花を飛び散らせて地面を裂きながら、ハジメをも切り裂かんと迫る。

 

 ハジメはそれをセンスムーブで回避し、即座に向き直るとシーカーミサイルを空中のリドリーに向けて発射した。

 

『シーカーミサイル、オンライン』

 

 リドリーが勢いよく羽ばたいて空高く舞い上がり、その後を五発の小型ミサイルが追っていく。奴はこの空間の外周をグルグルと旋回しながら加速し、瞬く間に音速を超えてソニックブームを引き起こした。

 

 自ら発生させた衝撃波で全てのミサイルを叩き落としたリドリーは、そのスピードのままに最大威力の急降下攻撃を敢行。その質量と勢いでハジメを押しつぶそうというのだ。

 

『フラッシュシフト、オンライン』

 

 が、ハジメは光を纏った高速移動でそれを避け、リドリーの視界から消える。潰した感触が無かったため、奴は再び空に舞って獲物を探していると、尻尾の先端に妙な感覚があった。

 

「俺はここだ」

 

 見れば、尻尾の先端にハジメがぶら下がっていた。ハジメはフラッシュシフトでリドリーの背後に回り込み、密かに掴んでいたのだ。

 

 堪らず奴はハジメを振り落とそうと尻尾を振り回すが、その勢いを利用して同じ高度まで上がり、スラスターを吹かして胴体に取り付くと、至近距離からのビームバーストだ。

 

 しばらくビームの嵐の照射を続けたハジメは離脱し、落下しながらもリドリーの姿を見据え、アームキャノンを向けている。その先端からは緑色の弾頭が頭を覗かせており……

 

「くらえ」

 

 直後、スーパーミサイルを発射。着弾すると強烈な爆風がリドリーを飲み込む。それを見届けたハジメが華麗に着地すると、少し遅れて爆風の中から落下してきたリドリーが無様に地面に叩きつけられた。

 

「終わりにしようか」

 

『サンダービーム、オンライン』

 

 一発目、サンダービーム。高電圧のビームを浴びせられたリドリーは感電して苦しみ、動きが鈍くなる。

 

『アイスビーム、オンライン』

『スペイザー、オンライン』

 

 二発目、アイススペイザービーム。超低温のエネルギーを照射されて凍結し、身動きが封じられる。

 

『ハイパーモード、オンライン』

 

 そして、最後はハイパーモードを発動するとアームキャノンにエネルギーをチャージしながらリドリーへと急接近し……

 

「うぉぉぉぉ!!!」

 

 突き上げるようにしてアームキャノンを奴の口内に突っ込み、強化されたチャージビームの威力を解放する。それが、奴へのトドメとなった。

 

「恐怖とはおさらばだ」

「ギィャャァァァァ!?!?」

 

 悲鳴が響き、奴は消滅する。同時に空間は先ほどの船倉に戻り、目の前には香織が倒れて眠っていた。

 

「香織……起きるんだ」

 

 眠り続ける香織に、ハジメは優しい声色で声をかける。

 

「う、ううん……はっ! ハジメくん!?」

「そうだ、俺だ。大丈夫か?」

「わ、私ね、怖い怪物に襲われて……」

「あれなら倒した。とはいっても、少々しくじってしまったが……」

「あ、ハジメくんのパワードスーツが……」

 

 ハジメのパワードスーツはボロボロだ。かなり痛々しい様相で、かなりのダメージを受けたことが素人目にも分かる程である。

 

「ハジメくんをここまで痛めつけるなんて、あれは何だったの?」

「あれはリドリーだ。とはいっても、俺の記憶から具現化された幻影のようだったが……」

「それって、ハジメくんの言っていた……」

 

 ハジメは、過去を話す過程でリドリーの話もしていた。極悪非道の限りを尽くす悪魔であり、倒さなくてはならない敵だと説明したのだ。

 

「あんなのに立ち向かえるなんて、ハジメくんは凄いよ。私なんて気絶しちゃったから」

「そんなことはない。奴が現れたとき、俺は恐れから硬直してしまった。その結果がこのダメージだ」

「それでも、あれを倒して私を助け出してくれた。ありがとう、ハジメくん」

「あぁ」

 

 二人は寄り添い、しばらくその場から動かなかった。

 

 

 

 

 

 そこは、周囲を海水で囲まれた神殿であった。その中央の祭壇らしき場所には精緻で複雑な魔法陣が描かれている。神殿からは四方に通路が伸びており、その先にも魔法陣が存在する。

 

 その四つの魔法陣の内の一つが輝き、そこからハジメと香織の姿が現れた。

 

「これで攻略に成功したようだな。おそらく、あの魔法陣がゴールだろう」

「私もついに、神代魔法を?」

 

 すると、他の二つの魔法陣も同じく輝き、ユエとシアのペア、ティオと幸利のペアが現れた。どうやら、向こうも何とかなったらしい。中央の神殿で合流し、話を聞いてみると…… 

 

「そうか、そちらも同じように……」

 

 ハジメ達が凄惨な光景を見せられたのと同じく、彼らも幻影空間に入り込んでいたとのことだ。

 

 例えば、ユエとシアが遭遇したのは魔人族による侵攻を受けている人間族の都市だった。当然、両者から襲われて返り討ちにしたが…… 

 

 その争いの発端は、和平を望まず魔人族を根絶やしにしようとした教会の高位司祭の陰謀だ。あろうことか人間族の村を自ら焼き払い、それを魔人族の仕業として戦争を始めたのだ。

 

 しかし、結果的に魔人族によって返り討ちにされ、王都まで攻め入られるという事態となってしまう。その際、追い詰められた司祭は神に生贄を捧げて助力を得るため、女子供を集めて大聖堂で虐殺したのだとか。

 

「私は大丈夫だったけど、シアがヤバかった」

「その、吐いてしまいまして……すいません、耐えられませんでした……」

「そうか、それでもよく頑張ったな」

「えへへ、やっぱりハジメさんは優しいですね」

 

 ハジメはシアの頭を撫でる。耐えられなかったとはいえ、ここまで来れたのだ。褒めない理由はない。

 

「ところで、ティオさん達の方は?」

「あれは酷いものであった……」

「あぁ、あれは……」

 

 ティオと幸利が見せられたのは、全世界から攻め入られて竜人族が滅びていく様であった。多くの竜人族が討ち取られ、戦利品として鱗や爪を剥がれていくのだ。その中には、ティオの両親の姿も……

 

「今思えば、あれは邪神の仕業だったのであろうな。目障りな我らを消し去るため、竜人族に対して敵意を持つように洗脳したとしか考えられぬ」

「そうだろうな。俺が見た王様も、和平を願っていたはずが豹変し、式典で異種族を騙し討ちしていた……」 

 

 悪辣な神の介入により、一度は勝ち取ったはずの平和が瞬く間に崩壊していったこと。それをこの迷宮は伝えたかったのだろう。 

 

 そして、全員で魔法陣に足を踏み入れる。脳内を精査されて記憶を読み取られるのだが、今回は他の者の記憶が流れ込んできて、追体験させられることになった。

 

 ようやく記憶の確認が終わり、無事に全員攻略者と認められたようである。ハジメ達の脳内に新たな神代魔法が刻み込まれていった。 

 

「そうか、ようやくこの魔法か……」

「……見つけた、“再生の力”」

 

 思い出すのは、【ハルツィナ樹海】の大樹の下にあった石版の文言。先に進むには“再生の力”が必要とのことだが、それは海の果てにあったらしい。

 

「ハジメくん……私、ようやく神代魔法を手に入れたよ!」

「やったな。香織、本当によく頑張った。これは君自身で勝ち取ったものだ。誇っていい」

「ふふっ、ありがとうハジメくん……」

 

 そして、魔法陣の輝きが薄くなっていくと同時に、床から直方体がせり出てきた。それは淡く輝いたかと思うと、次の瞬間には立体映像が映し出された。 

 

 それは、白いゆったりとしたワンピースのような服装の、エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳を持っている女性であり、解放者の一人メイル・メルジーネと名乗った。

 

「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」 

 

 オスカーと同じような話をした後、そう締め括った彼女は再び淡い光となって霧散した。直後、直方体があった場所にメルジーネの紋章が掘られたコインが置かれていた。

 

 それを宝物庫に収納した直後、神殿を囲む水面の一部が巻いて凹んでいき、そこから何かがせり上がってくる。まるで水面下の秘密基地から航空機が発進するシーンのように。 

 

「あれは、あの時の?」

 

 それは、魔装潜闘艇であった。あれに乗って迷宮から出るようになっているのだろう。早速乗り込み、操作盤に触れて魔力の直接操作で起動させる。

 

 そのまま天井が開いて大量の水が流れ込み、神殿も水没した後、魔装潜闘艇は自動操縦で海底遺跡から離脱した。




本作においては、ブーストボールはモーフボールに標準で搭載された機能として扱います
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