メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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今回はユエ、シア、ノクサスSideの話です


王都戦線異常あり

 結界の消失と魔人族の襲来という前代未聞の事態に、王都は大混乱に陥っていた。

 

 人々は家を飛び出して砕け散った大結界の残滓を呆然と眺め、嫌でも現実を受け入れさせられる。王都の治安部隊が家から出ないように怒鳴るが、あまり効果はないようだ。すでに一部は王都から脱出を図り、また王宮に避難しようとする人々もいるなど、ごった返していた。

 

 突然の事態を受けて王宮も混乱しており、人々に対して効果的な対応ができていない。最後の結界が残っている間に軍備を整えているようだが、何年も襲撃を受けてこなかったためにかなり遅れている。

 

パキャァアアン!!

 

 しかし、時間切れだ。ついに最後の大結界が崩壊し、魔人族の軍勢と神代魔法の産物である強力な魔物が外壁に押し寄せてきたのだ。

 

 石造りの外壁もかなりの強度を持つが、大結界と比べたら粘土のようなものだ。あの大結界ですら短時間で破られている以上、長くは保たないことは分かりきっていた。

 

 魔人族が複数人で発動した上級魔法が外壁を抉り、魔物の突進や振り下ろしたメイスが衝撃を撒き散らして粉砕していく。その頭上では灰竜や黒鷲のような飛行する魔物が飛び交い、王都上空へ自由に侵入していた。

 

 その様子を、城下町の外壁寄りの地区にある時計塔の天辺から眺める者が三人いた。ユエとシア、ノクサスであり、すでに完全武装している。

 

「こちらノクサス、王都の大結界が全て破られた。そちらの状況は?」

 

『先程の音は三枚目が割れる音じゃったか。こちらはアイコ殿を発見している。神山の制圧はナグモ殿に任せ、彼女を護送する予定じゃ』

 

「第一目標は完了か。後は、ナグモ殿やユキトシの同胞と王族だけか……さて、我らも動くとしよう」

 

 ノクサスは王宮と神山の方面を一瞥した後、再び外壁の方を見る。その一部はすでに破られており、魔物が侵入して王国兵士を蹂躙していた。

 

「ん、フリードは半殺しにする」

「ところでユエさん、フリードがどんな奴だか分かっているんですか?」

「ユキトシから聞いたくらいで、よく知らない。とにかく偉そうなのを狙う」

「魔人族の皆さんご愁傷様ですぅ……」

 

 これから理不尽にもユエの力を味わうことになる魔人族に合掌するシア。この世界で最強の魔法使いを前にして、彼らはどこまで粘れるだろうか?

 

 と、その時、時計塔の天辺にいる三人の姿に気が付いた魔物が急降下してくる。体長三、四メートル程の黒い鷲のような魔物で、三体で挟み撃ちするつもりのようだ。

 

クェエエエエエ!!

 

 そんな雄叫びを上げて迫ってきた黒鷲だが、慌てる者は一人もいない。ノクサスは血色の斬撃を飛ばし、ユエは無数の風刃を振り注がせ、シアはガントレットの新たな機能を解放した。

 

『サンダーハンド、オンライン』

 

 その瞬間、シアのガントレットから矢のように電撃が発射される。それは黒鷲を貫いて感電死させ、近くで斬り刻まれたばかりの仲間の後を追わせた。

 

 サンダーハンドは電撃を操る腕だ。使用時には表面に電撃が走るようになり、主に飛び道具として運用される想定である。エリセンへの滞在中、ハジメはサンダービームを解析してガントレットに搭載したのだ。

 

 黒鷲がやられたことで三人の存在に気づいた飛行型の魔物達が周囲を旋回する。その三分の一には魔人族が騎乗しており、警戒してこちらの様子を見ていたようだ。

 

 そして、その相手が青年と小柄な少女、兎人族と分かると、大した敵戦力ではないと馬鹿にしたように鼻を鳴らして詠唱を開始した。だが、彼らはそれを後悔することになる。

 

「“幻影剣・投影”……!」

 

 ノクサスが鞘に収めたままのイグニスに意識を集中させると、周囲に血色の半透明な剣が幾つも現れ、三人を守るように円陣を組んで旋回する。その剣先は常に外側へと向けられていた。

 

 これは幻影剣といい、魔剣イグニスが魔力で創り出した自分自身のレプリカ達だ。攻守共に優秀な武装であり、血色の魔力刃よりも精密性に優れていた。

 

「行け、幻影剣よ!」

 

 幻影剣が牙を剥く。静止して狙いが定められた直後、周囲を旋回している魔人族と魔物を狙って高速で射出された。

 

「何だこれは……ぐあっ!?」

 

 次の瞬間、魔人族達と騎乗している魔物の双方に幻影剣が突き刺さり、彼らの心臓を貫いて絶命させる。威力は魔力刃に劣ってしまうが、正確に急所を撃ち抜く超精密な一撃だった。

 

 まだ反撃は終わらない。先ほど絶命した魔人族の更に外側に控えていた連中が間髪入れずに突撃を開始するのだが……

 

「ん、“雷龍”」

 

 今度は、全身に雷を迸らせる龍が出現して雷の如き咆哮を上げ、突撃してきた魔人族と灰竜を食い散らかしていく。飲み込まれれば最後であり、一時の抵抗すら許されずに引き寄せられて消し炭になるのだ。

 

 そのあり得ない光景を見て呆然としてしまったのは、時計塔周辺に幾人かの仲間を残して先行していた魔人族達だ。あの地獄から逃げてきた同胞が助けを求めて手を伸ばしてくるが、その背後から飛来した絶対零度の砲弾(アイススプレッダー)により凍てつき、騎乗していた灰竜ごと落下して砕け散った。

 

 無残な死を迎えた同胞の姿に、彼らは追撃を警戒する。しかし、敵は外壁方面を主に意識を向けており、襲ってきた者に対してのみ反撃している様子であり、自分達のことなど眼中にないようだった。

 

 三人の目的は救出作戦の妨害を阻止することにあるのだが、積極的に敵全体とやり合うつもりはない。やられたらやりかえす程度であり、特にユエはフリードを標的に定めていたのだから。

 

 しかし、それが魔人族をキレさせた。戦友を木っ端微塵にしておきながら、路傍の石を蹴り飛ばした程度の認識しかされていないことに、戦士として、または一人の魔人族としての矜持を踏みにじられたと感じたのだ。直後、彼らを支配したのは激情だった。

 

「貴様等ぁーーーー!!」

「うぉおおおお!!」

「死ねぇーー!!」

 

 怒りに駆られながらも、彼らは完璧に陣形を整えて連携し、四方と上方から包囲して一斉に魔法を放つ。これを凌ぐ手段は無いかのように思われた。

 

「……彼我の実力差くらい、本能で悟れ」

 

 だが、それは三人を雷龍がとぐろを巻いて包み込んで保護したことで完全に防がれる。開かれた大顎から発された重力場が敵を吸い込み、同胞の後を追わせた。

 

 その隙に生存者が三人で貫通性に優れた上級魔法の詠唱を始める。しかし、ユエの巧みな操作で開いた雷龍の一部から飛び出してきたシアが砲弾のように向かってきた。

 

 咄嗟に、近くにいた魔人族が、詠唱の邪魔をさせてなるものかと、ほとんど無詠唱かと思う速度で完成させた初級魔法の火炎弾を無数に放った。

 

 しかし、シアは慌てない。彼女が虚空を蹴ったかと思えばそこに力場が現れ、それを繰り返すことで空中を不規則に駆け抜けて回避し、詠唱中の魔人族三人を目掛けて手刀を交差させた状態で至近距離まで迫る。

 

「はぁぁぁっ!!!」

 

 手刀にはバチバチと電撃が纏われており、シアは交差した手刀を開いてクロスチョップを放つ。それと同時に激しいスパークが発生し、電撃の刃で彼らの上半身をまとめて切断すると共に、騎乗していた魔物を感電死させた。

 

 最後に、シアは再び力場を蹴って舞い上がり、火炎弾を撃ってきた魔人族に向けて氷結の拳を一発だけ叩き込む。その肉体は凍結しながらも同時に食い込んだ拳により砕かれていき、バラバラにされた。

 

 敵を始末した後、力場の上に立ったシアは肩を回して筋肉をほぐしながら周囲を見渡す。先ほどから使っていた力場は、彼女のジェットブーツに付与された空間魔法によるものだ。これにより、シアは空中を地上のように駆け抜けることが可能になったのだ。

 

「向こうも終わったみたいですね」

 

 ユエとノクサスが敵を全滅させたのを見て、シアは彼らと合流して時計塔の上へと降り立つ。そして、お互いにフリードらしき人物を目撃していないことを知り、すでに神山に向かったのではないかと心配になった、その時……

 

「ッ!?二人とも!」

「んっ」

「我にお任せを」

 

 シアが警告を発すると同時に、彼女とユエは時計塔から退避する。直後、何もない空間に楕円形の膜が出来たかと思うと、そこから特大の極光が迸った。その目の前にはノクサスが佇み、迫り来る極光に向けて魔剣を一閃する。

 

 ノクサスは血色の魔力刃を纏った長大な魔剣の一撃で、真正面から極光を斬り伏せる。魔力を断つ特殊な力により縦に真っ二つにし、誰にも当たることはなく遥か彼方へと向かわせた。

 

「未来予知の類か、忌々しい……だが、魔剣イグニスがこんな場所に有ることの方が重要だ。我らが探し求めたものなのだからな……貴様、何者だ?」

 

 そして、光の膜から現れたのはフリードと相棒の白竜であり、数百人単位の魔人族も集まってくる。彼は時計塔の上にいるノクサスを真っ直ぐに見つめ、彼の魔剣に注目していた。どうやら、魔剣イグニスを知っているらしい。

 

「いいだろう。ここで名乗らせてもらう」

 

 対するノクサスは、認識阻害のイヤリングをフリードの目の前で外す。肌は浅黒くなり、耳は先端が尖り、魔人族の姿になった。それを見て、フリード達にどよめきが走る。

 

「なっ……魔人族だと!?」

「我が名はノクサス・ダストール。ダストール氏族の末裔にして、魔剣イグニスの継承者である!」

 

 その名を聞いたフリードは少し考える素振りを見せた後、何かを思い出したのか口を開く。

 

「そうか、あの戒律に厳しい一族の末裔か。あの古臭い連中は先祖が討ち滅ぼしたとばかり思っていたのだがな……それが例の魔剣を背負って現れるとは、またとない機会だ……貴様の首と魔剣をいただいてやる」

「違う、お前の相手はこの私」

「っ!?誰だお前は!?」

 

 ノクサスを標的に定めたフリードだったが、何処かから放たれた緋槍が彼のすぐ横を通り抜け、そこにいた部下が焼死する。飛来した方向を見れば、そこには金髪で黒いドレスを纏った赤い目の少女がいた。

 

「私はユエ……ハジメお父様の愛娘。お父様に傷を付けたフリードとかいう愚か者はお前?」

「ほう、あの者の家族か。その言いようでは、奴は生きているようだな。貴様の首を奴の下に持っていくのもよいかもしれぬ。その不遜な言動、後悔することになるぞ」

「殺れるものなら殺ってみて」

「ですぅ!」

 

 ユエとシアの言葉が合図になったかのように、三人の周囲にいる魔物と魔人族、フリードの白竜が一斉に魔法や極光を放ってくる。その中にはいつの間にか来ていた地上部隊の姿もあり、四方と上下の全てから包囲されている状態だ。

 

 四十人以上の魔人族と百体以上の魔物の織り成す攻撃の嵐により、視界が埋め尽くされる。何処を見ても敵がいるのだが、三人はそんな状況下でも慌てる素振りを見せなかった。

 

「“界穿”」

 

 ユエが神代魔法のトリガーを引く。

 

 直後、二つの光り輝くゲートが飛来する白竜の極光の前に重なるようにして出現した。フリードは訝しそうに眉を潜める。あんな座標にゲートをつなげては、直ぐにもう一つのゲートから出てきて直撃するだけだろうと。

 

 しかし、それはフリードの基準を前提とした考えだ。彼はまだゲートを一対までしか展開することが不可能であり、目の前の少女も同様だと思っていた。

 

 三人の姿は眼前のゲートの中へと消え、もう一つのゲートに極光が吸い込まれようとしているのだが、ここでフリードは気が付いた。重なる二枚のゲートはそれぞれが別のゲートに接続されており、思い違いだったということを。

 

「しまっ、回避せよ!」

 

 フリードは先入観から、いつの間にか背後に展開されていたゲートに気づくのが遅れた。部下達に警告を発するが、部下達は極光の餌食となってしまった。

 

「おのれ、私に部下を殺させたな。……まさか同時発動出来るとは……どうやら、貴様の実力を見くびっていたらしい……」

 

 回避が間に合い、命からがらのフリードは瞳に憤怒を浮かべ、同時に自分には不可能なゲートの二対同時発動という至難の業を平然と成功させたユエに畏怖にも似た念を抱く。詠唱も魔法陣もなしに発動したようであり、その正体が気になるが今は三人の姿を探さなければならない。

 

「フリード様! あそこにっ!」

 

 フリードの部下の一人が外壁の上を指差す。そこにはユエとシア、ノクサスの三人がおり、ユエはフリード達に右手の甲を向けると、指をクイクイと曲げる仕草をして挑発した。

 

 挑発を受け、魔人族達は怒り心頭である。たった三人にしてやられて多くの同胞を失った彼らとしては看過できない挑発であり、自分達を優れた種族だと自負するプライドが許さなかったのだ。それは、フリードも例外ではない。

 

「総員、聞け!地上部隊はそのまま進軍せよ!私はあの金髪を殺る!お前達は兎人族と裏切り者を殺るのだ!奴らを分断して連携は取らせるな!我らを挑発した報いを受けさせてやれ!」

「「「「「了解!!!」」」」」

 

 フリードの率いる空中機動部隊は城壁上にいる三人に向けて突撃を開始する。王都上空にて激しい戦いが始まろうとしていた。

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