メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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神山

(誰か……助けて……)

 

 薄暗く肌寒い部屋の中で、畑山愛子は震えていた。手首には魔力封じのブレスレットがつけられて全く魔法が使えず、物理的な力でも鋼鉄の扉を開くことはできない。窓には格子が嵌められ、出口はどこにもなかった。

 

 愛子がここに連れてこられて、何日が経過しただろうか。ここは高い塔の天辺に位置する牢獄であり、ここは標高八千メートルの神山であるため、仮に出られたとしても、監視を掻い潜った上に身一つで過酷な高山から脱出することは不可能だ。

 

 地球の刑務所がマシに思えるような酷く簡素な造りの牢獄。鋼鉄造りの六畳一間で、木製のベッドにイス、小さな机、そしてむき出しのトイレが見受けられ、愛子はベッドの上にいた。

 

「生徒達が心配です……こうして監禁されている間に何かされていたら……」

 

 現在進行系で酷い目に遭っているというのに、愛子は愛する生徒達のことを心配している。何処までも彼女は教師の鑑なのだ。

 

「助けに来てくれる人なんて……」

 

 こうして何もない部屋で監禁されて、出来る事と言えば考えることだけ。これからどうなってしまうのだろうかという不安と、無力な自分への怒り、自分のことなど助けてくれる人などいないという絶望……その全てが彼女を支配した。

 

「ふむ……よもや、そなたがこのような場所で監禁されていようとは……」

「え?」

 

 だが、聞き覚えのある声と共に鋼鉄の扉がぶち破られ、愛子は思考の海から浮上する。

 

「アイコ殿、ご無事で何よりじゃ」

「ティオさん、でしたよね?」

 

 救出に現れたのは、ハジメや幸利ではなくティオだった。ウルの町で一度会った程度ではあるが、幸利の恩人ということで記憶に残っていた。

 

「どうして、ここに?」

「そなたが攫われるのをリリアーナ王女が目撃し、我らに助けを求めたのじゃ。ナグモ殿やユキトシもきておるぞ」

「南雲くんと清水くんが……」

 

 ティオは、愛子の手首に付けられた魔力封じのブレスレットを目にも留まらぬ速さの一太刀で切り裂いて解放してやる。

 

「愛子殿の救出には妾とナグモ殿の二人で来た。別行動でそなたを探していたのじゃが、どうやら妾が先だったようじゃな」

 

 そして、ティオは愛子発見の報告をハジメに入れる。人質を発見した以上はハジメが隠密行動を取る必要はなく、直後に神山の何処かから爆発音が聞こえてきた。

 

「ナグモ殿がドンパチ始めたようじゃな。では、妾達も脱出しようではないか……おや?」

 

 その時、ティオは遠くから何かが砕けるような音が僅かに響き、僅かに大気が震えたのを感じ取る。明らかにハジメの起こした音ではなく、すでに同じ音を二度聞いている。仲間からの連絡で彼女は事態を把握した。

 

「不味いことが起こった。王都を守る大結界が破られ、魔人族の大軍が攻め寄せているようじゃ」

「そんな……そんなことって……」

 

 それはそうだろう。王都を侵略できる戦力を密かに移動させるなどまず不可能であるし、王都を覆う大結界も並大抵の攻撃では揺るぎもしないほど頑強なのだ。その二つの至難をあっさりクリアしたなんて、そう簡単に信じられるものではない。

 

「ここに長居するのは危険じゃ。そなたの教え子らの場所まで連れてゆく」

 

 ティオに片腕で抱えられ、愛子は素っ頓狂な声を出しながらも彼女の首元に手を回す。そして、その顔に見惚れてしまっていた。

 

(何て素敵な方なんでしょうか……)

 

 しかし、愛子がそんなことを思っていられたのは、ここまでだった。

 

「しっかりと掴まっておれ……っ!?」

「ひゃあ!?」

 

 ティオは自身に向けられた殺気を感じ取り、ぶち破った鋼鉄の扉から外へと飛び出して竜翼を広げる。直後、先程までいた部屋の辺りが銀色の閃光によって吹き飛ばされた。

 

「気づかれましたか」

「来るとは思っていたが、このタイミングで来るとは嫌らしい奴じゃな、神の尖兵よ」

「フィーアトと申します。貴方はイレギュラーではありませんが、ここで排除します」

 

 それはフィーアトと名乗る使徒だった。彼女は双大剣を呼び出すと、距離を詰めてティオを斬り裂こうと迫る。ティオは剣でそれを弾き、奴と距離を取った。

 

「この小娘は大事な人質ではなかったのかえ?」

「もしも死ねば不幸だったということです。主は彼女が殉教者になることを望んでいます」

 

 フィーアトが翼をはためかせて銀羽を大量に飛ばしてくるので、人間体のまま薙ぎ払うようにブレスを放ってまとめて消し飛ばす。

 

「あなた方は私の姉妹達を三人倒したそうですが、同じ手が二度と通じるとは思わないことです。足手まといを抱えたまま、いつまで凌げるでしょうか?」

「やれるものならやってみるがよい!」

 

 フィーアトとティオは何度も交錯して斬り結ぶ。その度に愛子は激しい衝撃でシェイクされ、魔力以外は一般人程度のステータスしかない彼女には過酷であり、ぐったりとしていた。

 

「愛子殿……くっ!」

 

 愛子のことを案ずるティオだが、そんなことをしている余裕はあまりなく、攻撃を凌ぐので精一杯だ。そのため、短期決戦を図ることにした。

 

「仕方あるまい。“竜穿”!」

 

 ティオは“竜穿”を発動して全ステータスを最大限に上昇させ、フィーアトへと猛攻を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 一方その頃、ハジメは神山にある防御設備を片っ端から破壊しながら進撃していた。司祭や騎士が襲ってくるが、向けられた殺意には相応の武力で応えていた。

 

 なお、生身の人間に対してハジメが本気でやれば原形を留めないレベルになるので武装や威力を制限している。ハジメが通った後には死体か設備の残骸しか残っていない程だ。

 

「見つけたぞ、異端者め!死ぬがいい!」

 

 そんな中、ハジメの目の前に数人の神殿騎士が現れて素早く隊列を組む。かなりの精鋭のようであり、一斉に詠唱を始めた。

 

「「「「「万翔羽ばたき、天へと至れ “天翔閃”!!」」」」」

 

 同時に放たれた光の斬撃が同時にハジメへと殺到し、土煙でその姿が見えなくなる。騎士達は一斉に歓声を上げた。

 

「やったか!?」

「はははっ!これが神に楯突いた愚か者の末路である!」

「エヒト様、見ておられますか!?神敵を今ここに討伐しましたぞ!」

 

 しかし、ハジメはそう簡単にやられてしまうような存在ではない。煙が晴れると赤く変色したライトニングアーマーに包まれた彼の姿が現れた。

 

「な、何だと!?」

「お返しだ」

 

 ハジメは左手にライトニングアーマーを集束させ、掌を神殿騎士の隊列へと翳す。すると、そこからダメージを変換した衝撃波が解き放たれ、彼らを吹き飛ばした。

 

 それを受けた神殿騎士は強烈な衝撃波を一身に受け、全身の骨を砕かれる。内蔵にも損傷を受け、放置していれば死を待つだけだろう。

 

「悪く思うな」

 

 神山にいる騎士や司祭の様子は何処か変だった。目が血走っており、ハジメを発見すると絶叫して神の名を叫びながら突撃してきて、狂気を振りまいている。彼らは逃げることすらしなかった。

 

 まるで海底遺跡で見た幻影の兵士達と同じであり、デビッド達ですら理性的に見える程だ。おそらく、彼らは真の神の使徒によって洗脳されていると思われる。ある意味、彼らも被害者だ。

 

 ここまで狂気に堕ちた彼らを救う術はなく、殺す以外の選択肢はない。ハジメはやむを得ず、彼らを攻撃して命を奪った。彼としても、苦渋の決断だった。

 

 狂信者と化した連中からの襲撃を尽く壊滅させ、ハジメは神山の中枢に足を踏み入れる。が、その頭上から火炎弾が振り注いできた。それを避け、見上げてみれば奴はいた。

 

「メトロイド……イメチェンでもしたか?」

 

 それは以前に山脈地帯で戦ったゼータメトロイドだったのだが、明らかに全身が肥大化しており、全身が赤みがかっている。進化直前なのだろう。地面に降りてきた直後、奴の肉体がパキパキと音を立て始め、新たな姿となったメトロイドがそれを突き破って出現する。

 

「オメガにまでなったか……」

 

 それは、SR388系メトロイドの最終進化形、オメガメトロイドそのものだった。基本的にフォルムはゼータと同じだが、四肢は以前よりも更に強靭で太いものに変わり、大型化している。完全に二足歩行となっており、怪獣のようなフォルムだった。

 

「グオォォォォォッ!!!」

 

 トータスメトロイドオメガが吠え、胸部にある弱点のコアが甲殻に包み込まれる。弱点を完全に保護するように進化したのだ。

 

 直後に迫り来るのは、某怪獣王を彷彿とさせる強烈な熱線だ。横っ飛びして回避したハジメの横を通過し、神山の麓にあった監視塔を木っ端微塵にしてしまった。

 

 オメガは何度も熱線を放ち、神山を滅茶苦茶に破壊していく。パイレーツとしては神山がどうなろうが関係ないらしい。たった今、ここは蹂躙されるだけの場所となった。

 

「グォォォ!!」

 

 テールアタックを飛び退いて回避し、コアを覆う甲殻にミサイルを叩きつける。が、その程度では傷を付けることすらできない。最終進化形だけあって、防御力は相当なものだ。

 

『ビームバースト、オンライン』

 

 腕の二連撃を掻い潜り、大火力の連射を同じ箇所にお見舞いする。多少の効果はあったのか胸部の甲殻にヒビが入り始めたが、至近距離から熱線が放たれたので距離を取り、ビームバーストを再開した。

 

「本当にタフな奴だ」

 

 オメガが尻尾を振り回し、豪腕を振るい、熱線を放つ度に神山が蹂躙される。ミサイルやチャージビームで断続的に攻撃を受けても奴が止まることはなく、闘争本能のままに大暴れしている。

 

 ビームバーストは魔力の追加で制限時間を伸ばすことができるが、無駄に使わないように制限時間である二十五秒ピッタリで停止しており、少しのインターバルを挟んで次のタンクの魔力を投入した。

 

『ビームバースト、オンライン』

 

 再び、オメガの胸部に大火力を投射する。腕を宙返りで避け、着地直後もそれを続行する。ヒビは更に大きくなり、制限時間の到来と共に甲殻が吹き飛んでコアが剥き出しとなった。

 

 オメガは少し怯むが、反撃の噛みつきを繰り出してきた。それをメレーカウンターで迎撃し、間髪入れずに生成したスーパーミサイルを無防備なコアに叩きつける。

 

 爆風を受けて仰向けに転倒したオメガに追随し、コアの上に飛び乗ってミサイルの連撃を食らわせてやる。奴の爪がそこに迫るのを跳躍して回避し、着地と同時に空中で用意したスーパーミサイルをコアに叩きつけた。

 

「グォォォ!?」

 

 かなりのダメージがオメガに入ったようだが、それでも奴は再び起き上がる。コアを覆う甲殻も復活したのだが、奴の変化は止まらない。

 

バキッ!!バキバキッ!!バサァッ!!

 

 オメガの背中を突き破り、そこから現れたのはドラゴンのような巨大な翼だった。再び、メトロイドは空を飛べるようになったようだ。

  

「そう来たか」

「グオォォォォォッ!!!」

 

 オメガは大きな翼で雄大に羽ばたき、宙を舞ってホバリングすると熱線で地上を薙ぎ払う。地面にはマグマのように真っ赤なラインが刻まれ、何処かの尖塔が真っ二つにされた。

 

 さらに、翼を速く動かして電撃の混じった暴風を発生させ、ハジメの動きを封じる。オメガは急降下すると強靭な前脚で地上のハジメを捕らえ、そのまま遥か高空へと上昇していった。

 

「くっ、これでは……」

 

 ハジメは力強く握られているので身動きを取れず、高度だけが上がっていく現状だ。オメガの翼の付け根からはアフターバーナーのように炎が噴き出し、瞬く間に神山の地面から引き離された。

 

 現在の高度は地表からおよそ二十キロメートルで、今も上昇中だ。下には雲が見え、地球基準なら成層圏に達しているだろう。

 

(自由に動けない空中で仕留める算段か……)

 

 直後、オメガは下方向に放り投げたハジメを狙って熱線を放ってくる。咄嗟に身を翻して自身の軌道を変えていなければ直撃だっただろう。

 

「あまり多用はしたくはないが……」

 

『ハイパーモード、オンライン』

 

 ここで、ハジメは切り札を使う。エーテルタンクにも限りがあるので残しておきたかったが、やむを得ない。

 

『チャージビーム、アップグレード』

『ハイパービーム、オンライン』

 

 ブースター噴射で二射目を回避しつつ、神の使徒をも屠ったハイパービームを発射する。それは掠った胸部の甲殻を蒸発させ、加えて片翼を吹っ飛ばして飛行能力を喪失させた。

 

「グオォォォォォッ!?!?」

 

 片翼となったオメガは自由落下を始める。それをハイパーモードが継続している間にブースターを噴射して追いかけ、強化されたパワーで蹴りつけて落下を加速させる。

 

 無論、奴もやられっぱなしではない。熱線で迎撃してくるのでそれを掻い潜り、ハジメは胴体に飛び乗ってコアへ強化されたミサイルを連射する。

 

『ハイパーモード、オフライン』

 

「地獄への片道切符をプレゼントだ」

 

 至近距離からスーパーミサイルをぶちかますと、オメガに組み付いて数十キロを一気に落下していく。ブースターを噴射して更に加速し、彼らは流星となって神山の中枢区画に突っ込んだ。




前の話でシアが見た落下物の正体はハジメとオメガメトロイドだったというオチです
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