メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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フリードがフルボッコにされます


ユエvsフリード

 王都外上空にて対峙していたのは、ユエとフリードであった。ユエは重力魔法により浮遊し、数機のクロスビットを侍らせており、フリードは白竜に騎乗し百体を越える灰竜の真っ只中にいる。

 

「敵戦力の分断は戦いの定石だ。孤立無援のようだが、降参するなら命だけは助けてやってもいい」

 

 現在、ユエには前衛となる仲間がおらず、対するフリードは魔物の軍勢を従えていることから、形勢が不利なのは一目瞭然だ。彼女は風魔法を使っている気配もなく浮遊し、その周囲にいる謎の十字架にも疑問を覚えながらも、フリードは孤立無援の彼女に揺さぶりをかけようとした。

 

「ん、孤立無援でも構わない。ここなら周囲を気にせずに全力でお前を潰せる。死にたくなければ逃げたら?」

「何だと?」

 

 しかし、ユエが動揺することはない。それどころか、戦力差にも関わらず王都への被害を気にせずに全力でフリードを叩けることに喜びすら感じている様子だ。

 

「お前のような小娘を前にして、背を向けて逃げろと……随分と舐められたものだな。だが、その反骨精神……私は気に入ったぞ」

 

 フリードは自らの種族こそが優れていると自負していて、当然ながら他種族の女に興味を持つことはまずない。しかし、そんな自分を見下してきたユエの態度が、その美貌もあって興味を持たせるに至った。

 

「どうだ、こちらに来ないか?他種族の女といえど悪いようにはしない。無詠唱の技に、おそらくだが私の知らぬ神代魔法もある……アルヴ様も受け入れてくれるだろう」

「私は神を信じない。本当に私が信じているのはただ一人、ハジメお父様だけ」

「そうか……それは残念だ。ならば、力尽くで我が物にするまでのこと。後悔するがいい」

「違う、後悔するのはお前の方」

 

 その瞬間、ユエを中心に極寒の竜巻が発生して地上から遥か高空までを繋ぎ、周辺を絶対零度の空間に変えて灰竜の多くを凍結させる。灰竜達は地面に落下し、その身が砕け散ることになった。

 

 これは、風属性中級魔法の“嵐帝”と氷属性最上級魔法の“氷獄”を組み合わせた複合魔法によるもので、竜巻を超低音にして絶対零度の冷風により凍てつかせる技だ。

 

「一度に二十体以上も……くっ、掃射せよ!」

 

 二十体以上も落としたとはいえ、まだ百体以上の灰竜が控えている。フリードの号令で散開すると、凍結しない距離まで離れた上で竜巻を包囲し、四方八方から極光を放った。

 

 夜の闇を引き裂いて、数百の極光が竜巻内部のユエへと殺到。絶対零度のブリザードを様々な方向から容赦なくぶち抜く。

 

 熱と衝撃でその形を保てなくなった竜巻は宙に溶けるように消滅し、中から現れたのは極光を受けて傷ついたユエではなく、十字架に加えて前後左右に黒く渦巻く衛星を従えた無傷のユエだった。

 

「掃射を続行せよ!」

 

 そこに間髪入れずにフリードが再び攻撃を命じ、小さなターゲットに極光の集中砲火が始まるが、その多くは衛星の片割れに吸い込まれるか、明後日の方向に軌道を捻じ曲げられ、ユエに当たることはない。

 

 ユエの周囲を公転する二つの衛星の正体は、それぞれ“禍天”と“絶禍”という重力魔法で生み出された重力球だ。前者は重力を捻じ曲げ、後者はブラックホールのように超重力であらゆる攻撃を吸い込んでくれる、頼れる守護衛星となっていた。

 

「ブレスが効かぬなら、直接叩くまで!行け、我が軍勢よ!」

 

 飛び道具は通用しない。そう判断したフリードは即座に作戦を変更する。配下の灰竜達は素早く忠実に従い、五十体規模の個体が鋭い牙と爪を以て目の前の小さな少女を引き裂こうと襲いかかる。

 

 しかし、複数の黒い十字架が灰竜達の頭上に音もなくスッと移動し、回転して一番長い部分の先端を下にいる目標に向ける。何をするつもりなのかとフリードが疑問に思った直後、答え合わせの時間となった。

 

 直後、浮遊する黒き墓標クロスビットの先端から一筋の閃光が発射され、頭上から灰竜を撃ち抜いて撃墜していく。ターゲットを変更しながらの射撃が続き、約二十体が落とされる。それでも尚、残りの灰竜が四方八方からユエを八つ裂きにせんと迫るが、問題はない。

 

「“魔闘術・空裂”」

 

 開眼したユエが一回転しながら腕を振るうと無数の光る細い線が周囲を薙ぎ払い、その軌跡に沿って灰竜達がバラバラに切断された。魔力の糸に空間魔法を組み合わせた、簡易版の“斬羅”といってもいい技だ。

 

 あくまでも魔力の糸が届く範囲までであるため、あまり遠くには効果を発揮できないが、威力は“斬羅”とそう変わらない。発動までのスピードは間違いなく早いので、不用意に近づけば防御不可の切断攻撃の餌食となるだろう。

 

「なんという技量だ。この化け物め……ならば、地上からも挟み撃ちに……」

 

 フリードは王都に侵入していた魔物の群れを差し向け、同時に灰竜による掃射を再開する。空と地上からの挟み撃ちで、ユエの対応能力を飽和させる目的だった。

 

 クロスビットで反撃しながらも、白竜と灰竜の極光を重力球で防ぎつつ、“絶禍”に溜め込んだ極光を解放して空の敵を牽制。追加で“雷龍”を召喚して地上の魔物を襲わせる。

 

 しかし、“雷龍”の対策はされていた。魔物を殲滅しようとする雷龍の前に、オルクス大迷宮で魔人族の女が連れていたアブソドを巨大化させた個体が立ち塞がり、以前より強化された魔力を吸い取る能力で雷龍を食い始めたのだ。

 

 なお、複数の属性の魔法を同時に食らうことは不可能であり、まだ吸われていない重力魔法により浮かされ、少しずつ雷で灼かれている。だが、二体目のアブソドが参戦したことで形勢が逆転し、雷龍は消失してしまった。

 

 オルクス大迷宮でも見た能力だが、アブソドの体内に貯蔵された魔力は増幅した上で撃ち返すことが可能だ。直後、二体のアブソドはそれぞれ強力な魔力の砲撃を発射してきた。

 

 公転する重力球のキャパシティは上空からの攻撃で手一杯であるため、ユエは咄嗟に自身の重力を操作して上空へ“落ちる”ことで回避した。

 

「鬱陶しい」

「残念だが、ウルの戦いにおける報告で奇怪な雷魔法を使うことは把握している。あれがいる限り、お前の魔法は封じたも同然だ」

 

 フリードはユエを追い詰めるべく、極光の集中砲火を一層激しいものとし、地上からは高速移動する数体の黒豹が跳躍し、虚空を連続で蹴ることで迫って来た。

 

 当然ながらクロスビットによる迎撃が待っているが、黒豹の動きは俊敏だ。不規則な動きでビームと重力球を掻い潜ってユエに鋭い爪を振るい、一部の個体はクロスビットに飛び掛って動きを封じた。

 

 風を纏った爪がバトルスーツに傷を付け、守られていない顔面にも迫って頬に切創を刻む。美しい金髪も半ばからバッサリと切り落とされるが、ユエは動じない。

 

 現在、ユエは目を閉じて魔法の構築に集中している状態であり、それと引き換えにクロスビットや重力球の操作は精細を欠くものであった。それ故に手傷を負うことになったが、彼女の体質がそれを解決する。

 

 ユエの“自動再生”が発動した。瞬く間に頬の切創は塞がり、髪は元の長さに戻り、バトルスーツの傷も何事も無かったかのように元通りに。スーツは彼女の一部となっているので、その効果が及ぶのだ。

 

「それも、神代の魔法か?一体、いくつ習得しているというのだ!ええい、血が出るなら殺せるはずだ!治癒が間に合わぬ程に攻め立てよ!」

 

 それは間違った推測である。なお、自動再生の起源はおそらく再生魔法にあると思われるため、その点では正解かもしれない。フリードは魔物に全力攻撃を命じると、神代魔法の詠唱を開始した。

 

 だが、ここでユエの魔法が完成する。閃光と咆哮の吹き荒れる空間に可憐な声が響き、その名を告げた。

 

「“五天龍”」

 

 直後、王都の夜天に顕現したのは五体の魔龍だった。それぞれ、五つの属性魔法と重力魔法が複合した龍となっており、ユエの全力だ。なお、全集中しているので重力球もクロスビットも使用不可である。

 

 雷龍、嵐龍、氷龍、石龍、蒼龍の五体が揃い、彼らは凄まじい咆哮を上げて大気を震わせ、魔物達を威圧。魔物は及び腰になり、フリードも理解が追いつかずに口をポカンと開く醜態を晒した。

 

 だが、それは致命的な隙だ。五体の龍による蹂躙が開始された。

 

 五天龍の前に二体のアブソドが立ち塞がるが、一体が食われている間にもう一体が襲いかかるコンビネーションで瞬く間に殲滅され、他の魔物を守る存在は消えた。

 

 そこからは蹂躙だ。雷龍と嵐龍が電撃と風の刃で災厄をもたらし、蒼龍が地面ごと魔物を融解させていく。氷龍と石龍は灰竜達に襲いかかり、凍結と石化で次々と地面に落下させていた。

 

 フリードは力の差を悟った。彼女を我が物にしようという傲慢な先ほどの自身の言葉を恥じると、中断していた魔法の詠唱を再開し、出し惜しみ無しの全力で放つことにした。

 

「……揺れる揺れる世界の理 巨人の鉄槌 竜王の咆哮 万軍の足踏 いずれも世界を満たさない 鳴動を喚び 悲鳴を齎すは ただ神の溜息! それは神の嘆き! 汝 絶望と共に砕かれよ! “震天”!」

 

 周囲一帯の空間が激しく鳴動する。ユエは、フリードがどのような魔法を使うのか自らの知識から即座に理解し、五天龍すらも引っ込めて防御態勢に入る。

 

「ん、クロスビット!」

 

 六体のクロスビットがユエの周囲に集結し、それぞれを起点として彼女を包み込む正八面体の結界を展開する。この結界は空間魔法によるもので、内部に別空間を作り出して切り離すという最強クラスの結界だった。

 

 周辺一体の空間が収縮したかと思えば、大爆発が発生して壮絶な衝撃波が撒き散らされる。それはフリードと白竜以外の一切合切を木っ端微塵にし、大地を粉砕した。これは“震天”という空間魔法で、空間ごと全てを破砕する衝撃を放つものだ。

 

「何とか間に合った」

 

 クロスビットに付与された空間魔法が無ければ、流石のユエでも危なかっただろう。そして、ユエ自身の高い空間魔法への適性と巧みな魔力操作技能により、生存率が上がったといってもいい。

 

 本来なら空間を固定する空間魔法の出番だが、ハジメ製装備により使わずに済んだため、ユエは完全に無傷な上に消費魔力も抑えることができた。

 

 そこに、結界を解除したユエの死角から強襲する大きな存在があった。

 

「耐えるとわかっていたぞ! 少女の姿をした化け物よ!」

 

 ユエの背後に開いたゲートより飛び出したフリードの騎乗する白竜が極光を放ってきた。右に落ちることで回避するも、その顎門に食いつかれてしまった。

 

「捕まえたぞ!この距離なら防げないはずだ!」

 

 ユエの肩に食らいついた白竜の口内では魔力のチャージが始まっており、ゼロ距離から極光をお見舞いしてやるつもりなのだろう。フリードも勝利を確信した表情だ。しかし、ユエの方が一枚上手だった。

 

「それで私に勝ったつもり?」

「なっ……がぁっ!?」

 

 次の瞬間、フリードと白竜に無数の糸が絡みつき、彼らの全身を締め上げる。それらは肉体に食い込んで少しずつ切り裂いていき、一人と一頭に苦悶の声を上げさせた。もはや拷問である。

 

「ぐっ、身体が裂けていく……こ、このままでは……バラバラにっ……」

「お前の苦しむ姿が見たかった。お母様との約束で本当は半殺しの予定だったけど、このまま死ね」

 

 本当なら灰竜をバラバラにした“空裂”を使えば手っ取り早く殺せるのだが、ユエは敢えて通常の糸でフリードと白竜の肉体を切り裂きにかかり、じわじわと痛めつけている。

 

 糸が表皮を切り裂き、フリードの四肢と首、白竜の全身から血が僅かに沸き出す。その様子をユエは特等席から何処か楽しそうに眺めていた。どうやら、ユエにはドSな部分があったらしい。

 

「これで終わり」

 

 しかし、フリードの悪運は強かった。突然、地上から怒涛の攻撃魔法が放たれたことで、ユエが回避を行い、拘束を解かれて解放されたのだ。

 

「フリード様! 一度お引き下さい!」

「我らが時間を稼ぎます!」

 

 それは、地上部隊の魔人族達だ。フリードの窮地を察して駆けつけ、ボロボロにされたフリードを目にして怒りを顕にすると、彼を逃がすために不利な戦いに挑む。

 

 ユエの意識が地上に向いた隙に、フリードは血を滝のように垂れ流しながらゲートを開いて飛び込む。地上部隊の奮戦でユエの追撃は僅かに遅れ、標的を逃がしてしまった。

 

「逃げられた……ん、邪魔な連中」

 

 その後、ユエは八つ当たりのように空間魔法“震天”を放ち、魔人族の地上部隊を周辺一帯と共に爆砕した。ユエとフリードの対決は彼女の圧勝だったが、始末できなかったことに苛立ちを覚えるのであった。

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