メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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覚醒の竜魔人

 

(こいつは、ヤバいかもしれないな……)

 

 王都上空にて、ヌルと名乗る金色の使徒と対峙していた幸利の本能は、絶えず警鐘を鳴らしていた。奴はこの前に雪原で戦った使徒よりも強力なプレッシャーを放出しているのだ。

 

(このただならぬ気配だ、おそらく魔力量は俺よりもあるはず……)

 

 幸利は相手の強さを推測する。魔力量とステータスは密接に関連しているため、全ステータスが通常の幸利よりも上なのは間違いなかった。そのため、幸利は最初から“竜魔転変”の手札を切ることにした。

 

「残念だが、お前と空中散歩している時間はない。速攻で終わらせよう」

「そのような口を叩けるのも今のうちです」

「行くぞ、“竜魔転変”!」

 

 幸利は半竜人となると竜翼を広げ、ヌルに急接近する。そのスピードは変成魔法の入手以前とは比べものにならない程であり、そのままクローを振るって叩きつけようとする。だが……

 

ガキンッ!

 

 人外のパワーとスピードで振るわれたはずのクローは、ヌルの双大剣により容易く弾かれてしまう。攻撃を届かせようと絶え間なく繰り出すが、完全に対処されてしまっている。

 

 それどころか、ヌルの双大剣とぶつかり合ったクローにはヒビが入っており、強度の面でも負けていることが分かる。なお、通常の使徒相手であれば双大剣と問題なく斬り結べるレベルだ。

 

「チッ、ただ単に金ピカになっているわけではないということか……」

「その程度ですか、イレギュラー。では、こちらから行きます」

 

 金羽が舞い、神速といってもいいスピードでヌルは急速に距離を詰めてくる。双大剣による剣撃の嵐もまた神速であり、幸利は防戦一方だ。

 

 何度も打ち合う度にクローのヒビが広がり、破片すら飛び散るようになる。幸利も明らかに押されており、一度も前進できていない。後退してばかりだ。

 

(このままじゃヤバいぞ。だったら……!)

 

「“竜魔転変・疾走”!」

 

 幸利は疾走形態へと変化し、瞬時にヌルの双大剣の射程から逃れる。金色の分解砲撃や分解羽すら余裕で回避し、目にも留まらぬ速さで彼女へと迫る。

 

 心掛けるのはヒットアンドアウェイだ。疾走形態なので数秒の間に何度もそれを行い、双大剣との接触を避けながら手数を重視して攻め立て、確実に彼女の肉体を切り裂いていた。

 

「よし、こいつなら!」

「と、思っていられるとでも?」

 

 しかし、高速で動き回る幸利の背後にヌルが現れ、動きに追従してくる。彼女の最高速度は幸利の疾走形態と同等かそれ以上のようだ。

 

「おいおい、マジかよ!?くっ!」

 

 戦法を崩され、幸利は追い詰められる。幸利と同等の速度かつ格上のパワーがある相手では疾走形態の利点を活かすことは不可能であり、防御力が低いので致命傷を受けるリスクがあった。

 

「これじゃヤバいぞ……!」

 

 激しいドッグファイトの最中、ヌルの双大剣が幸利を完全に捉えて振るわれる。回避は不可能なタイミングなのだが、彼の形態は一つではない。

 

「“竜魔転変・重装”!」

 

 幸利は重装形態へと変化し、重厚な甲殻を備えた両腕をクロスして双大剣に備える。この姿ならば使徒の分解でびくともしない。そう思われた。

 

 しかし、叩きつけられた刃を甲殻で受け止められることはなく、逆に金色の双大剣が甲殻を深々と切り裂いてしまう。無惨にも傷が刻まれ、甲殻の破片が飛び散り、腕本体に激痛が走った。

 

「ぐぅっ!?嘘、だろ!?」

 

 幸利の驚きは当然だ。フリードの操る白竜の極光を真正面から受けても平然としていられた両腕のシールドが初めて損傷したのだから。

 

「まさか、攻撃力も速度も俺以上ってところか……このスター状態野郎め」

「私は主により、通常の上級個体よりも強化を施されています。ええ、通常の貴方の数倍はあるでしょう」

「なるほどなぁ……だが、やりようはある!」

 

 幸利は再生魔法で損傷を修復すると、疾走形態でヌルに接近する。同等の速度で追従されてしまうため、出力を上げることで奴のスピードを上回り、そのまま奴の懐に飛び込みつつ……

 

「“重装”!」

 

 疾走形態の最高速度のままで腕を突き出し、瞬時に重装形態へとチェンジして最大級のパワーを乗せたクローの一撃を食らわせる。

 

 相手は自身のそれぞれの形態に匹敵する能力を持っている。そのため、幸利は二形態の高速切替を駆使して対抗することにしたのだ。

 

 疾走形態で接近と回避、重装形態で攻撃を行い、反撃を受ける前に疾走形態になって離脱する。幸利はヒットアンドアウェイを再開し、優位に戦いを進めているように見えた。

 

 重い一撃が幾度となく繰り出され、ヌルの身体に傷を付けていく。耐久力の強化はあまり重視されていなかったのか、出力を上げた重装形態の攻撃は通用していた。

 

「やはり、報告にあった通りの強さ……ここで貴方には退場していたださきます……“禁域解放”」

 

 ここで、ヌルは“禁域解放”のカードを切った。金色の輝きがまるで太陽のように増し、これまで以上の速度で幸利の一撃を避けると、神速の刃で斬りつけた。

 

「やべっ!?」

 

 もはや、回避は不可能だった。少しでもダメージを抑えるため、幸利は重装形態を維持した上で身体強化を全身に強固に施し、バイタルパートの収まった胴体の強化を重視する。そのまま、受傷に備えた。

 

「ぐあぁぁぁっ!?」

「これで、終わりです」

 

 嵐の如き連撃で全身を守る甲殻がズタズタに切り裂かれ、特に深い傷を負った胸部から血が噴き出す。強化した防御すら破られてしまい、身体変化が解けた幸利は、地面へと落下していった。

 

(クソ……俺はこんなところで終わるのか?このままじゃ、八重樫さん達が危ない……)

 

 このまま、地面に激突すれば幸利でも死は免れない。幸利は危険地帯に残してきた雫達のことを思い、何としても再び舞い上がろうとしたが、身体に力が入らない。

 

(走馬灯まで見えてきた……そういえば、異世界に来るまではあまり良い思い出は多くなかったな……)

 

 そのまま、幸利は走馬灯に映る過去の記憶を思い起こしながら、自由落下していくのであった。

 

 

 

 清水幸利は筋金入りの隠れオタクであった。内向的な性格で大人しかったことが原因なのか中学校で虐められ、不登校になったことが始まりであり、引きこもる中で創作物の類に手を出すのは当然の帰結だった。

 

 それから何年か経過した幸利の部屋は、オタクグッズで埋め尽くされた。壁には美少女のポスターが張り付けられ、本棚にライトノベルや漫画、薄い本が立ち並ぶだけではなく、収納し切れないグッズがタワーを作るほどだ。

 

 オタクグッズが増えていく様を親は心配していたが、そんなことは気にせずにサブカルにのめり込み、異世界もののWeb小説を読んでは夢想する毎日に満足していたし、オタクトークの出来るたった一人の友人と楽しむこともあった。

 

 しかし、兄や弟はオタクグッズの山が煩わしいと思っているのか、次第にそれを態度や言葉で直接的に伝えるようになってきたため、居心地が悪くなった幸利は居場所がないと感じ、友人の家に行くことが増えた。

 

 その友人は遠藤浩介である。あまりオタク趣味を周囲に出してこなかった幸利だったが、SNSで知り合った人物と会ってみたところ、同じクラスの男子だったのだ。

 

 なお、浩介はあまりにも影が薄いので二人で遊んでいる姿はあまり家族にも見られておらず、家族からその存在を認知されたのも最近のことだ。

 

(遠藤……アイツは良い奴だった)

 

 幸利は彼に感謝している。彼のおかげで自分は一人ではないことを理解し、家での居心地が悪くなった幸利に居場所をくれたのだから。それからは病的にオタクカルチャーにのめり込むこともなくなり、家族との仲も改善を見せていた。

 

 そして、異世界に来てからは関わる人が増えた。その一人は南雲ハジメであり、檜山から暴行を受けた際に助けてもらった。その彼と偶然に再会した時は驚いたもので、今に至るまで行動を共にするとは予想していなかった。

 

(南雲……イジメから直接的に助けてくれたのは南雲だけだ……お前に会えて良かった)

 

 もう一人は八重樫雫だ。転移する前から好意を持っていたが、高嶺の花のような存在なので関わることはなかった。そんな彼女との仲は恋人にまでなっている程だが……今、それは引き裂かれようとしている。

 

(俺は、二度と八重樫さんに会えないのか……いや、そんな運命なんて御免だ。こんなところで、終わってたまるかよ!まだ、やれることはあるはずだ!)

 

 次の瞬間、幸利は目を覚ます。かなり落下してきたのか、地面に激突するまでそう時間は残されていないだろう。

 

「一か八か、やってやる……」

 

 幸利の脳内には、ヌルに逆転できる可能性のある手段が浮かんできている。それは竜血の力を最大に引き出すという、“竜魔転変”の最終奥義といってもいい技だ。

 

 その使用により、全ステータスを竜穿状態のティオ以上に引き出すことが可能なのだが、負担はかなり高いものになっており、まだ練度が足りていないという判断で封印していた技である。

 

 しかし、今はすへこべ言っている場合ではない。幸利はその使用に踏み切り、目を閉じて自身の内側に意識を集中させ……

 

「いくぜ、“真・竜魔転変”!!」

 

 開眼と同時に魔法名を唱え、幸利の全身が激しい光に包まれる。そのまま王都の一角に落ちてしまうが、直後に空へと舞い上がってきた。

 

「うぉぉぉぉ!!!!」

 

 次の瞬間、それが現れた。全身が鱗に覆われた、竜をそのまま人型にしたかのような異形の竜魔人だ。その頭部はもはや人間のものではなく、完全に竜のものになっている。

 

 全身は深紅に染め上げられ、ロングコートを羽織っているかのようなシルエットが特徴的だ。これまで通りに背中からは竜翼を、腰からは竜尾を展開し、比較的細身になったものの、引き締まった筋肉は高度な柔軟性と剛性を兼ね備え、これまで以上のステータスを発揮するものだ。

 

 ドラゴンヘッドの眼光は鋭く、前腕部には刃のような攻撃的なデザインの鰭が出現するなど、全体的に鋭い印象を受ける。彼の纏っているオーラからして、人間の面影は全く感じられない。

 

 異形の竜魔人と化した幸利は空高く舞い上がり、金色に輝く天使の前に再び姿を現した。

 

「まさか、復活するとは想定外でした。ですが、姿が変わったところで私に勝てるとでも?」

「あぁ、勝てる。リベンジマッチの時間だ」

 

 幸利は竜翼をはためかせ、瞬時に距離を詰めると爪を振るう。その速度は疾走形態の数十倍に匹敵し、ほぼ瞬間移動といってもいい。

 

「くっ!」

 

 予想だにしない速度の攻撃を前にして、ヌルの反応は僅かに遅れた。咄嗟に双大剣を交差させてクローによる刺突を受け止めるが……

 

バキンッ!!

 

「なっ!?」

 

 二本の双大剣はガラスのように砕け散った。たった一発、たった一発の攻撃で。対するクローの方は傷一つ付いておらず、これまでが嘘のようだ。

 

 追撃を避けるべく、双大剣だったものを放り投げたヌルは高速移動して距離を取るが、すでにその背後に回り込まれてしまっていた。

 

 目にも留まらぬ速度のヒットアンドアウェイを受け、彼女の肉体は切り裂かれ、抉られていく。至近距離から分解砲撃を直撃させて引き離すも、それすらも効いていない様子だ。

 

「ガアァァァァァ!!!」

 

 分解砲撃や多数の分解羽が幸利に襲いかかるも、彼は竜のような咆哮を上げると強力なブレスを口から放って消し飛ばす。単純な威力なら竜化したティオのブレスにも劣らないだろう。

 

 発射されたブレスはヌルの放つ飛び道具の一切合切を消し飛ばし、そのままヌルを飲み込む。彼女は直前に分解防御を発動していたが、おそらく無意味だろう。

 

 直後、ブレスの中からボロボロになって血を流すヌルの姿が現れる。ブレスの強力なエネルギーは分解防御を真正面から貫いており、致命傷に近い傷を負わせたのだ。

 

「こほっ……イレギュラー、やはり……貴方は危険です……排除……排除します」

 

 ヌルは“禁域解放”を再び発動し、最後の攻撃を仕掛けてくる。常人では到達不可能な神速に至り、血を噴き出しながらも徒手空拳で幸利に挑む。

 

「特攻か……なら、それに応えてやる。せめてもの手向けだ」

 

 幸利は相手に合わせ、クローではなく拳を握りしめて真正面から接近していく。やがて、両者の距離は縮まり、互いに拳を突きだした。

 

「かはっ……」

 

 直後、勝負はついた。僅かに先に放たれた幸利の拳がヌルの腹部に直撃し、風穴を空けている。対する彼女の拳は幸利の頭部の横を通り抜け、空振りに終わってしまった。

 

「はぁ、勝ったな……うっ、そろそろ限界だ。変身が……保たない……」

 

 “真・竜魔転変”が解け、肉体に負担が一気に襲いかかってくる。幸利はふらつきながらも、愛する大切な人の元へと戻っていった。

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