メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

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終結

 王都で戦いが繰り広げられている一方、王宮内には凄惨な光景が広がっていた。近衛兵や文官が血の沼に沈み、豪奢な服装をした者達が惨殺死体となって吊るされているのだ。

 

「グギャギャ!!」「ギャギャ!」

 

 それを為したのは王宮に侵入してきたパイレーツの小部隊である。幸利らを妨害してきた連中以外にも投入されていたのだ。豪奢な服装の死体は国王や宰相、重臣達である。記録には残されていないが、彼らは最期まで神に救いを求めながら息絶えたらしい。

 

 パイレーツ達はそれらを囲み、彼らには意味も分からない言葉で狂ったように喚いていた最期の瞬間を思い出し、嘲笑っていた。しかし、そんな彼らの背後で蠢いていたのは、僅かに輪郭が揺蕩うのみの半透明な人型で……

 

「ギヤァッ!?」

 

 突然、背後から突き出された刃で串刺しにされ、パイレーツの悲鳴が響く。それを受けて仲間も周囲を警戒するが、赤いレーザー光の照射を受けた直後にエネルギー弾で頭部を吹き飛ばされた。

 

 目に見えない脅威に襲われ、生き残りのパイレーツ達は闇雲にブレードを振り回すも、それは決して延命にはならない。一人、また一人と倒れていき、全滅した。

 

「国王及び宰相、重臣達の死亡を確認。依頼にあった王妃と王子の姿はなしか……」

 

 やがて、半透明な人型が揺れ動いたかと思えば実体化する。それはウサミミの形状をしたパーツが頭部から出ている無骨なパワードスーツであり、ヘルメットを外すとウサミミの初老の男……ハウリア族のカムの顔が出てきた。

 

「しかし、本当に酷い光景だ……」

「そうですね、族長……」

「皆、救出対象の命が危ないかもしれない。早急に捜し出し、保護しよう」

 

 王族の救出のために投入されたハウリアの精鋭部隊を率いているのはカムだった。初老でありながら、彼はハウリア最強クラスの戦士なのだ。

 

 

「母上……私達はどうなってしまうのでしょうか……」

「ランデル……気を強く持つのです。きっと、リリアーナが助けを呼んで……」

 

 そして、王宮内のとある一室にて、クローゼットに隠れている男女がいた。ハイリヒ王国の王子であるランデルと母親で王妃のルルアリアである。二人は襲撃から命からがらで逃げ出し、何とか隠れたのだ。

 

 先の見えぬ状況に二人は怯え、震えながらもリリアーナが助けを呼んでくれると信じて耐え忍んでいる。二人は決して見つからないように息を潜めていたが……

 

バキィッ!!

 

「グギャァ!!!」

 

 突然、クローゼットの扉が破壊されてしまう。地獄をもたらした恐ろしい怪物が複数体、こちらを覗いており、その一体がブレードを容赦なく振り下ろしてきた。

 

「母上っ!」

「ランデル……!」

 

 ルルアリアは咄嗟にランデルを抱きしめ、息子を庇った。彼女は息子を守るためにその身を投げ出し、背中を斬られる激痛が来るのを待つ。

 

 しかし、その時は来ない。

 

ドォォン!!

 

「ギャッ!?」

 

 パイレーツの横っ面に一発の銃弾が叩き込まれ、脳髄を撒き散らしながらブレードを振り下ろす姿勢のままで横方向に吹っ飛んでいく。

 

『大当たり……!』

『いいぞ、パル。このまま制圧するぞ!』

 

 さらに、光学迷彩を起動したハウリア部隊が室内に突入し、白兵戦でパイレーツを屠っていく。リストブレードを装備した者、スマートディスクを近接武器として使う者、スピアを使う者もおり、武装は多様だ。

 

「ルームクリア」

「クリア」

「……クリア」

「敵影なしだよ」

 

 そして、安全を確保した彼らは救出対象へと接近する。なお、半透明な何かが近づいてくるようにしか見えないため、かなり怯えられた。

 

「どうか、ランデルの命だけは……!」

「ご安心を、我々は貴方達を救出しに来た。リリアーナ王女の依頼だ」

「……リリアーナが?」

「姉上……」

 

 こうして、王族の救出任務は完了した。ハウリア部隊は唯一の生存者である二人を護衛し、依頼者の元へと向かうのであった。 

 

 

 

 

 

 檜山を始末したハジメが広場に戻ってくると、香織が待っていた。

 

「ハジメくん!良かった、無事だったんだね」

「あぁ、何とかな。檜山は始末できたが、あまりにも犠牲が多すぎた……」

「そう……だね……」

 

 二人が目を向けた先には檜山の凶行で犠牲となった五人の遺体が転がっており、その付近で何人ものクラスメイト達が泣き崩れている。彼らは急に友人を失ったのだ。無理もない。

 

「ごめんなさい……」

 

 そこには愛子の姿もある。彼女は立ち尽くし、懺悔の言葉を漏らす。必ず守ると意気込んでいた生徒を失い、生きて日本へ連れて帰ることが果たせなかったこと、これを引き起こした生徒を止められなかったこと……その全てが彼女に重くのしかかっていた。

 

「私があの時、南雲くんを止めていなければ……みんなは……」

「アイコよ、あれは仕方のないことじゃ」

 

 愛子はウルにおける自分の失敗を責めた。あそこで騙されて檜山を庇ったことで取り逃し、今回の事件が起こってしまったのだと。それを、年長者のティオが慰めていた。

 

「ハジメくん……生き返らせることはできないけれど、せめて再生魔法で綺麗にしてあげたいな……」

「あぁ。痛々しいままでは可哀想だからな」

 

 行動不能にするためとはいえ、結果的に死体を損傷させたのはハジメだ。蜂の巣となった騎士や兵士達の死体といい、彼としても心苦しいところがあった。

 

 そんな中、別のところで諍いの声が聞こえてくる。声的に男同士であり、そこに目を向けてみると……

 

「待つんだ光輝!お前が死んだって何も変わらないんだぜ!」

「離してくれ、龍太郎!!俺は……俺は!メルドさんを……!!」

 

 それは龍太郎と光輝だ。足元には聖剣が転がっており、光輝は首を切って死のうとしたのだろう。龍太郎によって羽交い締めにされていた。

 

「コウキさん……」

 

 リリアーナが思わず声を漏らす。それ程、今の光輝の様子は痛々しいものだ。彼女もまた、大勢の騎士や兵士が犠牲となったことに心を痛めている一人だ。

 

「香織、あいつは……」

「天之河くんは……メルド団長を真っ二つにしてしまって……」

「そうか……すでに死んでいたとはいえ、それは辛いだろうな……」

 

 こればかりはハジメも同情した。光輝には敵愾心を向けられたり非難されたこともあったが、彼はあくまでも平和な世界の住人だ。自分の手で恩人を真っ二つに切り裂き、それが死体であっても彼からすれば人殺しをしたようなもので、耐えられるものではない。

 

「俺は人殺しなんだ!死なせてくれ!」

「光輝!やめろ!」

 

 光輝は暴れ続けている。ここまで追い込まれている光輝の姿を見るのは初めてで、クラスメイト達もどのように言葉をかけていいか分からない。そんな様子に見かねたハジメは、光輝に近づくと語りかけた。

 

「天之河、お前はまだ誰一人も殺してはいない」

「そんなことは分かってる!でも、でも……俺はこの手でメルドさんを……!」

「だとしても、お前が死んで何が変わる?メルド団長から何を学んだ?彼の献身を無駄にするつもりか?」

 

 そして、ハジメは語る。ここで光輝が死んでしまえば、メルドから教わってきた指揮も戦術も、剣術も永遠に失われ、本当の意味でメルドは死んでしまうのだと。

 

 ハジメも今に至るまでに様々な人物から学んできた身だ。その多くはゼーベスで死んでしまったが、ハジメに受け継がれることによって彼らは生きている。

 

「天之河……たとえ大切なものを失ったとしても、犠牲を無駄にしないために進み続けるしかない。お前はメルド団長から託されたんだ」

「メルドさんから……託された?」

「そうだ。俺にも、とある人々から託されたものがある。俺は彼らのことを決して忘れない……」

 

 ハジメは家族同然の人々を失ってもなお、進み続けてきた。彼らを未来に連れて行くため、思想や技術を継承するため、使命を果たすため……全てを次に繋ぐために彼は走るのだ。

 

「メルドさん、俺は……生きる」

 

 光輝は覚悟を決めた表情になる。その両眼には生気が宿り、色々と吹っ切れたようだ。そんな彼を見て、ハジメは拾い上げた聖剣を渡した。

 

(良かった……けれど、ハジメくんの闇は思っていたよりも深い……でも、私にできることがきっとあるはず……)

 

 光輝の様子を見て、香織は安堵した。ハジメのことを悪く言われて憤怒したこともあったが、彼女の持つ生来の優しさがこうさせた。

 

 同時に、香織はハジメの抱えている闇の深さを知り、何かできることはないかと考える。彼に辛い過去があり、使命を受け継いでいることは知っていた。しかし、思っていた以上に彼は使命という名の呪縛に囚われていたのだ。

 

「ねえ、ハジメく…」

 

 香織がハジメに声をかけようとするが、言い切ることはできなかった。何故なら、ハジメの頭上から複数の極光が襲い掛かったからだ。

 

「っ!?」

 

 ハジメは咄嗟に発動したウインドクロウで迎撃し、極光を切り裂く。そのおかげで誰にも当たることはなかったが、直後に空から白竜に騎乗したフリードが降りてきた。

 

「……そこまでだ、鳥人族の後継者。大切な同胞達と王都の民達を、これ以上失いたくなければ大人しくすることだ」

 

 フリードは降伏を促した。現在、王都の周囲にある複数の転移ゲートから増援が到着しつつあり、空中部隊は全滅したが少なくない地上戦力が王都内に入っている。そして、広場は魔物に包囲されていた。

 

 フリードが人質作戦を選んだのは当然だ。ハジメ達と本気でやり合えば甚大な被害が出ることを理解しており、ユエに八つ裂き寸前にされたことで敵わないと悟った故の苦肉の策である。

 

「それで勝ったつもりか、フリード」

「少なくとも、貴様らが勝利することはありえない。ハッタリ程度で我々が動じるものか」

「そうだな。勝利はできない。だが、負けないことはできる」

 

 すると、ハジメは視線を王都の外にある転移ゲートの方へと向け、アームキャノンを操作する。その動作に嫌な予感がしたフリードは妨害を試みるが、香織の放ったライトアローによって回避を余儀なくされ、発動を許してしまった。

 

ズドォォォォン!!!!

 

 直後、王都の外から爆発が一瞬だが夜天の闇に太陽のような輝きが浮かび上がり、煙がモクモクと立ち昇る。爆発は他の場所でも発生しており、フリードはその地点に何があるのか知っていた。

 

「貴様、転移用の魔法陣を!!」

 

 フリードは怒りをあらわにする。彼の持つ通信用のアーティファクトからは、ゲートから出てきたばかりの部隊やその周辺の部隊に甚大な被害が出たことが報告されていた。おそらく、向こう側にも被害は出ているだろう。

 

「一体、何をしたのだ!?」

「答える理由はない。それよりも、いいのか?転移用の魔法陣は一個しか残っていないぞ。撤退なら今のうちだ」

 

 ちなみに、これはスターシップからのミサイルによる空爆だ。かなり高高度から投下しているため、フリードもそれには気づいていない。さらに、魔人族が撤退できるように一個だけ破壊していなかった。退路を断たれたことで死兵になられても困るからだ。

 

「ぐぬぬ……勝利を目の前にして撤退とは屈辱的だ……この借りは必ず返すっ……貴様だけは、我が神の名にかけて、必ず滅ぼす!」

 

 そして、フリードは怨嗟の籠もった捨て台詞を吐くとゲートを展開してその奥へと消え、上空に光の魔弾が三発上がって撤退命令が出る。全部隊が撤退を開始し、残されたただ一つのゲートに大慌てで飛び込んでいった。

 

「……終わったか」

「……ん、お父様。フリードは?」

 

 直後、ユエが物凄い勢いで上空から降りてくる。どうやら、フリードを追ってきたらしい。

 

「たった今、逃げたところだ」

「ん、それは残念。もう少しで八つ裂きにできるところだった」

「ハジメさぁぁぁん!!!!ご無事ですかぁぁ!?!?」

 

 さらに、シアが大急ぎで空を駆けてきて、ハジメに飛びつく。パワードスーツを装着していなければ、大怪我確定の勢いである。

 

「ユエ、シア、よくやった。おかけで先生を助け出すことができた」

「でも、やっぱりフリードだけは心残り」

「あわよくば私も一発入れてやりかったですね」

 

 広場には各地に散っていた仲間達が集まってきており、恵里や優花、浩介が友人や先生と再会して抱き合っている。そして、家族と再会する者達もいた。

 

「リリアーナ!」

「姉上!」

 

 それはルルアリアとランデルだ。ハウリア族が見守る中、二人はリリアーナに駆け寄っていく。

 

「母上……ランデル……」

 

 この三人が生き残った唯一の王族だ。三人は涙ながらに抱き合っていて、互いの無事を喜んでいる。国王を初めとした重鎮達が亡くなったため、今後は彼らが王国を引っ張るのだろう。

 

 その様子を見届けた後、ハジメは香織の方へと振り返る。

 

「香織、頼めるか?」

「うん、任せて……“絶象”」

 

 香織を中心に光の波が広がっていく。伝播した再生の光は広場を完全に包み込み、白昼のように一気に明るくなった。

 

「どうか、安らかに……」

 

 この瞬間、広場に転がっていた遺体が衣類も含めて修復され、命までは戻らないものの綺麗な状態になる。できれば、最後は安らかな表情でいてもらいたい。そんな願いを込めて香織は再生魔法を発動していた。

 

「君達のことは決して忘れない……」

 

 そして、ハジメは黙祷を捧げる。その両隣にはユエとシアがおり、彼に倣って二人も黙祷した。

 

「そういえば、清水は?」

「それなんだけど、あそこにいるよ。雫ちゃんと寄り添ったまま、一緒に気絶してるみたい……」

「……お似合いだな」

 

 こうして、王都における戦いは終わった。此度の出来事で心身に傷を負った者も多い。しかし、それでも人は生きなければならない。それが、生き残った者の責務なのだから。

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