メトロイドトータス〜鳥人族の後継者〜   作:ウエストモール

98 / 98
今回はこれまでで一番短いです


幕間:半竜人とサムライガール

「……清水くん、これは返すわ」

 

 雫がそんなことを言いながら愛刀を幸利に差し出したのは、王都の戦いが終わった翌日のことだった。

 

「八重樫さん、理由は大体想像できるが……教えてくれてもいいか?」

「私が力不足だからよ。私はクラスメイトを助けられなかった……」

 

 雫の脳裏に鮮明に浮かび上がるのは、目の前でクラスメイトが殺害され、檜山の傀儡となって起き上がってきた瞬間だ。

 

「あの時、私が動けていればクラスメイトを助けられたかもしれない……でも、私は生き残ってしまった……」

「八重樫さん……」

 

 彼女はサバイバーズ・ギルトに陥っていた。あの時、彼女が動けなかったのは仕方ない部分が多いのだが、自身の判断ミスで負傷し、まんまと罠に掛かったことでクラスメイトが死んだ。それが罪悪感となって重くのしかかっているのだ。

 

「だが、仮に動けても八重樫さんが死んでいたかもしれない」

「私が……私が死んでいればよかったのよ……私一人の命と引き換えにクラスメイトさえ助かれば……貧乏くじを引くのは私だけで……」

 

 力強く握った拳から血が滴る。雫は例え自分が死んだとしても、それで多くを救えるならそれでいいと思っていた。彼女はこれまで貧乏くじを引き続け、今も自己犠牲に囚われ続けている。

 

「……本当は剣術なんてやりたくなかった。道着や竹刀じゃなくて、可愛いお洋服やお人形が欲しかった……光輝のせいで他の女子から虐められて……光輝に言っても何も解決しなくて……私は……」

 

 やがて、雫は自分の弱みを吐いた。これまで彼女が我慢してきた、その全てが溢れ出す。彼女の精神は今回の出来事で決壊寸前だったのだが、幸利に後悔を語ったことがきっかけとなった。勝手に彼女の口が動き、それを止める術を彼女自身は持っていない。そして、雫の脳裏には過去の記憶が浮かび上がる。

 

 彼女の苦しみの発端は四歳の頃だ。八重樫流の師範である祖父が戯れに幼い雫に竹刀を持たせたところ、彼女は才能を発揮した……いや、してしまった。祖父は喜び、流されるようにして剣術の世界に足を踏み入れ、稽古が生活の一部となった。祖父も父も、道場の皆も凄いと褒めてくれたが……

 

 光輝が家に入門してきた時、“雫ちゃんも俺が守ってあげるよ”と言われ、彼なら自分を女の子にしてくれる、守ってくれる、甘えさせてくれると思った。だが、いつも竹刀を振り、稽古のために髪は短く、服装は地味で、女の子らしい話題にも付いていけない彼女が、人気者の彼の近くにいることを周囲の女子達は許さなかった。当然、虐められた。

 

 これは小学生時代の苦い記憶だ。虐められたことについて光輝に相談したこともあった。だが、女子同士のドロドロとした人間関係を知らぬ彼は「きっと悪気はない」だとか「話せば分かる」だとか言い、その女子達と話し合いに行くという悪手に出てしまい、より巧妙な手口で虐められるようになってしまった。

 

 全てが苦痛だった。褒めてくれる家族や門下生達のこともあって剣術を捨てることはできず、光輝に相談しても状況は悪化するだけ。彼が悪意を持っていないことは分かっているため、完全に距離を取ることなんてできなかった。

 

「家族の期待を裏切るのが怖くて、剣術を辞められなかった……光輝が原因で苦しくても、悪意なんて持たない幼馴染を突き放せなかった……結局、私は優柔不断で中途半端だったのよ……!」

 

 感情が昂り、ついに雫は泣いてしまう。凛としていて、大人びた雰囲気の彼女が周囲に見せることはなかった姿で、まるで幼い子供のようだ。

 

「辛かったな……大丈夫だ、俺だけは八重樫さんの味方だ。どんな君でも受け入れる。可愛い服だって買ってやる……」

「ありがとう、清水くん……」

 

 雫を優しく抱き締める。幸利の胸に雫は顔を埋めて泣き続け、しばらくすると疲れてしまったのか、スヤスヤと眠ってしまった。

 

 

「ごめんなさい、あんなにみっともない姿を見せて……」

「いいさ。珍しい姿を見れてよかった」

「もう、清水くんったら……」

 

 雫は頬をプクッと膨らませる。普段とのギャップからとても可愛らしい姿で、幸利も表情を緩ませた。

 

「清水くん、私は我慢することを辞めたわ。辛かったら貴方にたくさん甘えて、もう少し頑張ってみようと思うわ」

 

 雫は色々と吐き出して吹っ切れたようだ。我慢するのではなく発散することを覚え、幸利に甘える気満々である。

 

「では、プリンセス。後で俺とデートでも如何かな?」

「……それは嬉しいお誘いね。お代は全部奢ってもらうつもりだから、覚悟しておきなさいよ?」

「お、お手柔らかに……」

 

 後日、二人は王都でデートした。王都では復興に向けて商業が以前よりも盛んに行われており、値段も上がっていたので幸利の出費がかさむ結果となったが、雫のためなので後悔はなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ありふれない天の鎖の投影魔術師は世界最強(作者:小説大工の源三)(原作:ありふれた職業で世界最強)

南陽高校3年の天野士郎はいつも通りの日常を過ごしていた。しかし突然その日常は崩れ去る。▼日常に戻るため、使える物はなんだって使う!そう決意し異世界で過ごしていく!▼タグは後で増やしていきます。▼↓作者のTwitterです▼https://mobile.twitter.com/@Nove_Gensan▼入り切らないタグ▼ダンボール戦機


総合評価:1331/評価:6.1/連載:125話/更新日時:2025年12月20日(土) 22:15 小説情報

デンジとレゼは砕けない(作者:Nキング)(原作:チェンソーマン)

これは、浜辺で別れた後再び出会える筈のなかったデンジとレゼが、数奇な『運命』によって通りかかった『黄金の精神』を持つ二人によって助けられたことで紡がれる『人間讃歌』の物語。▼チェンソーマン×ジョジョの奇妙な冒険第四部のクロスオーバーです。▼Pixivにも同じ内容とタイトルで投稿しています。▼よろしくお願いします。


総合評価:59/評価:-.--/連載:11話/更新日時:2026年05月16日(土) 16:03 小説情報

Re.ありふれない錬成師で最高最善の魔王、世界最強を超越する(作者:天元突破クローズエボルハザード)(原作:ありふれた職業で世界最強)

以前、書いておりました「ありふれない錬成師は最高最善の魔王の力で世界最強を超越する」のリメイク版になります。▼何故、こうなったかと言いますと、前作にオリジナル要素をこれでもかと詰め込み過ぎてしまったせいで、これからの展開を文章で表せなくなってしまったからです。▼一応、プロット自体は考えてはいましたが、これを文章で表せる自信が今の自分にはありません。▼なので、…


総合評価:383/評価:6.62/連載:118話/更新日時:2026年07月05日(日) 09:00 小説情報

捕食者系魔法少女(作者:バショウ科バショウ属)(オリジナル現代/冒険・バトル)

「捕食するのも、苗床にするのも、お前たちだけの特権と誰が言った?」▼※書籍版第3巻発売中!▼※コミカライズ版第3巻発売中!▼※マルチ投稿中。


総合評価:53774/評価:9.1/連載:104話/更新日時:2026年07月06日(月) 21:30 小説情報

サトシ君(転生者)の目指せ、ポケモンマスター!!(作者:DestinyImpulse)(原作:ポケットモンスター)

▼ 転生したのはオリ主でもモブでもなく紛れもなく主人公。▼ 定期的に世界を救わなくてはならない大役を背負いながらも、ポケモンとの出会いと冒険に胸を躍らせる。▼ ▼「通りすがりのポケモントレーナーだ、覚えておけ!ピカチュウ、君に決めた!!」▼「ピカチュウ!!」▼ コレはアニポケ主人公のサトシに転生した少年が、時にポケモンと絆を深め、時に女の子とのフラグを作り、…


総合評価:7728/評価:8.62/連載:60話/更新日時:2026年07月03日(金) 19:35 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>