響け!八幡~北宇治での青春ラブコメはまちがっているのか?~   作:碧河 蒼空

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あがた祭り

 あがた祭りは毎年6月5日から翌日未明まで行われる、宇治を代表する祭事の一つである。深夜には沿道の灯火を全て消し、暗闇の中で梵天渡御という儀式を行うことから暗夜の奇祭と呼ばれ、江戸時代より商売繁盛や縁結びが願われてきた。

 そう、縁結びが願われてきたのである。

 

「OKです葉月ちゃん」

 

 加藤の前髪を整えて、川島による最終チェックが完了した。

 

「本当?変じゃない?」

「超可愛いです」

「はい!すごく素敵です!」

 

 落ち着かない様子で自身の姿を確認する加藤に川島と小町が太鼓判を押す。

 

「私服でスカート履くのほぼ初めてなんどけど••••••」

 

 ピンクのシャツの裾からは臍がチラつき、制服よりも短いスカートが健康的な腿を大胆に曝している。前髪を飾る、青い花がほどこされたヘアピンも学校では見たことがなかった。

 俺は加藤の私服を見たことがないが、加藤の仕草から察するに、彼女にとって今日の格好はだいぶ背伸びをしているのだろう。

 

 三人を眺めていると足元から手を引っ張られる。足元に視線を向けると、ずっと俺の右足にしがみついる琥珀ちゃんが俺を見上げていた。

 

「はーちゃん、お祭り」

 

 先程から待ちぼうけを食らっている琥珀ちゃんはいい加減しびれを切らしたようで、早くお祭りに向かうよう催促している。その瞳には屋台への期待が満ち溢れていた。

 

「早く行きたいか~」

 

 加藤が琥珀ちゃんと目線を合わせるためにしゃがむと、その顔をじっと見つめる。

 

「••••••やっぱ緑だ。凄い再現率」

「よく言われます」

 

 感心するように呟く加藤に川島は嬉しそうに答えて琥珀ちゃんの横に顔を並べた。

 

 祭りということで川島姉妹は浴衣姿だ。川島のは深縹の生地にハートや音符が描かれた現代的な柄で、琥珀ちゃんは黄色に梅模様があしらわれていた。

 

 琥珀ちゃんは川島と本当によく似ている。成長したらまんま川島になるんじゃないかとさえ思うほどに。

 

 俺は小町を見た。

 

「ん?お兄ちゃんどしたの?」

「いや、小町が俺に似なくて本当よかったと思ってな」

「それ自分で言っちゃうかね••••••まあ、小町も捻くれることもなく、目も死ななくて良かったよ」

 

 ••••••小町ちゃん、俺から言い出したことだけど、実際に肯定されるとお兄ちゃん普通に傷付くからね。

 

「じゃあ、緑達は行きますね••••••ねえ、葉月ちゃん。、今日めちゃくちゃ可愛いですよ。ねっ、琥珀」

「ちょーかわいい」

 

 川島から同意を求められた琥珀ちゃんはおそらく川島の真似をしているだけだろう。

 

「そ?」

「比企谷君もそう思いますよね?」

 

 こういう時に俺に話を振らないで欲しいんだが••••••。既に川島と琥珀ちゃん、小町の三人が褒めているのだから、ここに集まっている4人の過半数の支持は得ている。故に俺の意見なんて必要ないはずだ。

 

「••••••まあ、似合ってんじゃねぇの?知らんけど」

「サンキュー••••••じゃあ私はここで」

 

 加藤は少し照れた様にはにかむと、俺達に別れを告げた

 

 歩き出してから暫くして振り返ると、加藤の元には俺等と同世代の男子が居た。そんな加藤を俺は冷めた目で見る。

 

 聞いた話だと、加藤は今日あの男子に告白するらしい。何でもサンライズフェスティバルの日、トラックへ楽器を運んでいる際、重いチューバを担いでいた加藤にあの男子が颯爽と手を貸してくれたそうだ。それが切っ掛けだという。

 

 いや、チョロすぎるだろ••••••。

 

 まるで愚かだった過去の俺を見ているようで、内臓の裏側を撫でられるような不快感が込み上げてきた。

 

「はーちゃん?」

 

 川島に抱き上げられて目線が近くなっていた琥珀ちゃんが俺の顔を覗き込んでいる。

 

「どうした?」

「はーちゃん怖い顔してた••••••」

 

 いかんいかん。琥珀ちゃんを怖がらせてしまったかもしれない。

 

「何でもないよ。琥珀ちゃんはお祭りで何が欲しい?」

「わたあめ」

「よーし、はーちゃんがプリキュアのわたあめを買ってやろう」

 

 俺は加藤の恋路を意識から振り払い、琥珀ちゃんに作り笑いを振り撒くのだった。

 

 

 

 

 

 

 さて、どうして真のぼっちである俺に同級生女子とのお祭りというリア充イベントが舞い込んで来たかというと、話は前日の事である。

 

 リビングでラノベを読んでいた俺に、小町があがた祭りへ行こうと誘ってきた。俺にわざわざ人混みの中へ行き、割高な食い物や遊戯を楽しむ趣向など持ち合わせている訳もないのだが、兄として可愛い妹の誘いを断るわけにもいかない。

 そして今日の放課後。一度荷物を置きに家に帰ってから小町と宇治駅にやってくると、そこには加藤と、加藤の身なりを整える川島、そして俺を見付けるなり足にしがみついてきた琥珀ちゃんの三人が居た。小町が当たり前のように合流したことから、元よりこうなる事は決まっていたのだろう。

 

 小町と川島が並んで楽しそうに歩いている少し後ろを俺と琥珀ちゃんが着いていく。琥珀ちゃんは俺に抱えられながらわたあめを夢中で頬張っている。

 

「あれ?緑に比企谷じゃん」

 

 出店を眺めながら歩いていた俺達に声を掛けたのは低温パートの中川先輩。その横には俺もよく知る先輩の同行者の姿もあった。

 

「お疲れ様です。夏紀先輩、優子先輩、友恵先輩」

 

 川島が先輩方に挨拶をする。夏紀先輩と一緒に居るのはトランペットパートの吉川先輩と加部先輩である。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん。こちらの方々は?」

 

 いつの間にか俺の横にやって来た小町が俺の袖を引っ張って問う。

 

「吹部の先輩だよ」

 

 先輩達の事を小町に説明してやると、吉川先輩がこちらをまじまじと見ていた。

 

「この子が目に入れても痛くない妹ちゃん?」

「ちょっとお兄ちゃん、外で何言ってんのさ~」

 

 俺が返事する前に、小町は文句を言いつつも、言葉とは裏腹にニコニコしながら俺の肩をバシバシ叩く。

 

「ほんと仲良いんだ。兄妹だけあって髪質がそっくりね」

 

 少し驚いた。

 吉川先輩の言う通り、跳ねやクセが付き易く動きのある柔らかな質感という点は俺と小町の数少ない共通点であるのだが、これを他人に言われたのは初めてだった。

 

「兄がお世話になってます。妹の小町です」

「私は吉川優子。むしろお世話になってるのはこっちよ。特にこの二人は、ね」

「比企谷にユーフォを教わってる中川夏紀よ」

「こっちはトランペットを教わってる加部友恵だよ!よろしくっ」

「むむっ。小町はお兄ちゃんにトランペット教わってます!」

 

 なにを張り合ってんだ、この子は。

 

「ほら、琥珀。お姉さん達にこんばんはは?」

 

 川島が俺に抱えられている琥珀ちゃんに先輩達へ挨拶するよう促す。琥珀ちゃんは俺の服をギュッと掴んで先輩達を見た。

 

「••••••こんばんは」

 

 ••••••琥珀ちゃんまじエンジェル。おっと、吉川先輩の台詞が移ったぞ。

 

「やばっ、可愛いっ。こっちはサファイアちゃんの妹?まるで生き写しじゃん。二人とも家族同伴って、もしや二人は既に家族公認の仲とか!?」

「加部先輩が考えてる様な仲でない事は確かです」

 

 確かに俺が入院してる間に川島家とは家族ぐるみの仲になっていたが、決して俺達が家族公認の仲になっている訳ではない。

 

「はーちゃん、りんご飴」

 

 琥珀ちゃんは少し離れた所にある屋台を指差して言った。

 

「琥珀、ご飯も食べないと。あと、そろそろ自分で歩こ」

 

 川島が琥珀ちゃんを嗜める。確かに俺達は祭りに来て琥珀ちゃんのわたあめしか買っていなかった。

 

「あっ、じゃあ小町が琥珀ちゃんとりんご飴を買いに行きます。緑さんはお兄ちゃんと適当にごはん見繕ってください」

「分かりました。では、先輩方、失礼します」

 

 川島がゆったりと会釈をする。浴衣姿でのその所作は川島をいつにも増しておしとやかに見せていた。頭が下がったことで露になる項に思わず目が吸い寄せれるようになるのを俺は何とか堪える。

 

「うん。また明日ね」

 

 中川先輩が手を挙げ、吉川先輩と加部先輩も笑顔で手を振って別れる。

 

「お兄ちゃんはしっかり緑さんをエスコートするんだよ」

「あーはいはい」

 

 俺は適当に返事をすると琥珀ちゃんをゆっくりと降ろした。小町達に背を向け、川島と共に歩き出した。




今回は台詞多めにしてみました。
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