響け!八幡~北宇治での青春ラブコメはまちがっているのか?~   作:碧河 蒼空

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至高のジャンクフード

 祭りの喧騒を掻き分け、俺と川島は歩く。数多の音が混じり合う中、隣を彼女が刻む下駄のカラコロという音が鮮明に俺の耳に届いていた。人波の中ということもあり、それほどまでに隣を歩く川島との距離は近かった。

 中学までの俺であればさぞこいつの事を意識していたであろう。

 

「比企谷君は食べたいものありますか?」

「俺は適当に見て回りながら決めるわ。小町が焼きそば食べたいっつーからそこは回らせてくれ」

「分かりました。緑も焼きそば食べたいです。お祭りで食べる焼きそばは何割にも増して美味しく感じます」

「それは分かる」

 

 鉄板で油と具材が踊る音、香ばしいソースの匂い、鉄板を叩くヘラの小気味良いリズム、肌に感じる熱、そしてダイナミックに調理されるパフォーマンス。あらゆる五感に訴えてくる刺激が焼きそばという単なるソース味の麺を至高のジャンクフードへと昇華させる。期待値のインフレーション。つまり、エンターテイメントは食べる前から既に始まっているのだ。

 

「あっ、たこ焼きですよ。行きましょう!」

 

 ••••••さっきまで焼きそばの話をしていたはずなのだが、川島はたこ焼きの屋台に突撃していった。

 

「すみません。たこ焼きと箸巻きを下さい」

 

 おい川島さんや、あなた焼きそばも食べたいんじゃ無いんですかね?ソース味の粉物これで三つなんだが。

 

 その後もフランクフルトや唐揚げなどを川島は買っていった。彼女の胃袋のキャパシティはどうなってるんだ。

 

 俺の手に下がるビニール袋からは川島の買った料理の重さがずっしりと伝わってくる。少し前に“ご飯は別腹”と言ってはいたが、彼女は俺の想像以上に食いしん坊らしい。

 

「ありがとうございます」

 

 屋台で買った品物を俺が受け取る度に川島はお礼を言う。何ともまめな奴だ事。

 

「食い物はこの辺にしといた方が良いんじゃないか?」

「そうですね。みんなで食べようと思って、ついつい沢山買ってしまいました」

「お前と琥珀ちゃんで食べるんじゃないのか?」

 

 とは言っても琥珀ちゃんくらいの年齢の子が食べる量などたかが知れている。ほぼほぼ川島が処理するもんとばかり思っていた。

 

「美味しいものを食べると幸せな気分になりませんか?みんなで食べればその幸せを共有できます。誰かが幸せになれば私もまたちょっぴり幸せになれます。琥珀と小町ちゃん、そして比企谷君に私。みんなで幸せになって幸せスパイラルです!」

 

 何ともまあお手軽な永久機関だこった。世の中が皆、川島のような高潔な人間なら平和なのだろう。

 

 そろそろ小町達と再び合流する為に歩きだそうとした所で、見知った顔が少し離れた場所からこちらを観察している事に気付いた。

 思わず顔をしかめたであろう俺と目が合うなり、その相手は俺にグーサインを送ってくる。

 

「どうしました?」

 

 背後の視線に気付いていない川島にその存在を教えてやると、彼女は「あっ」と声を上げ、その人、正確にはその人達の方へ近付いて行った。

 

「あすか先輩、晴香先輩、香織先輩、お疲れ様です」

 

 件の人物とは田中先輩である。彼女は吹部の同級生である小笠原先輩と中世古先輩の二人と一緒に居た。小笠原先輩は田中先輩の横でやってしまったと言わんばかりに額に手を当てた。

 

「二人ともデートかしらん?」

「もうっ、あすか!邪魔しちゃ駄目でしょ」

「えー、だって今更じゃん?」

 

 なるほど。先輩方は俺達がデートしていると勘違いしてる訳か。もはや今更と冷やかしてくる田中先輩に、常識人故に申し訳なさそうな小笠原先輩。ニコニコしながら二人を見守る中世古先輩の考えは読めない。

 

「俺等そんなんじゃ無いんで」

「またまた~。二人で祭りに行っちゃうような仲なんでしょ?」

「こらっ、後輩にダル絡みしないの」

 

 小笠原先輩が田中先輩のストッパーになってくれているのはこの生徒指導において数少ない救いだ。

 というか、どうして田中先輩が副部長なんて大任を仰せつかっているのだろうか?演奏技術はあるものの、他人を振り回すわ、部内の騒動に我関せずだわ。およそ組織のナンバー2に向いてるとは思えない。トップがこの小笠原先輩というまともな人であることは吹部にとっても、手伝わされている俺にとっても最大の僥倖と言えた。

 

「••••••?どうかした?」

 

 俺の視線に気付いた小笠原先輩が不思議そうに首を傾げる。

 

「小笠原先輩が部長でほんと良かったと再認識していた所です」

「えっ?な、何よ急に」

 

 俺の言葉に小笠原先輩が目に見えて動揺した。

 

「先輩が部長じゃなかったら、この部活はきっと修羅場になってますよ」

「そう?••••••あ、ありがとう」

 

 小笠原先輩は顔を上気させ、所在なげに俯いた。

 

「あれれ~?晴香ってばもしかして照れてる?」

「香織、うるさいっ!」

 

 中世古先輩が小笠原先輩の顔を覗き込んでからかう。

そこから始まった先輩達の仲睦まじいやり取りを俺は眺める。

 

「んで、実際の所どうなの?」

 

 ああ、いけない。田中先輩から小笠原先輩というストッパーが外れてしまった。

 

「お互い妹同伴ですよ。何なら俺等を集めたのが俺の妹ですから」

「ふ~ん。サファイア川島は比企谷の事どう思ってるの?」

「緑です!比企谷君は大切なお友達ですよ!」

「••••••何だ、つまんないの」

 

 俺達の関係がただの健全な友人だと判明した途端、田中先輩の興味は一気に失せた様子。

 

「それでは妹が待っているので。川島、行こうぜ」

「はい。それでは先輩方、失礼します」

「そっ。比企谷は初めてのあがた祭り楽しみなよ」

 

 俺と川島は料理の冷めぬ内に妹達の元へと向かった。




 小笠原晴香は可愛い。異論は認めない。
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