響け!八幡~北宇治での青春ラブコメはまちがっているのか?~   作:碧河 蒼空

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時代

 無事に小町達と合流を果たした俺達はようやく座れる場所を見付けて食事にありつくことが出来た。

 ここにたどり着くまでに琥珀ちゃんの要望で宝石すくいやヨーヨー釣りになどに興じた。食べる場所を探していようとも、一方通行の制限がなされるあがた祭において“後で”は通用しない。気になる屋台を見付けたら即決するのが鉄則だ。

 戦利品を抱える琥珀ちゃんは相変わらず無表情ながらも、その瞳は心なしか輝いているように見える。

 

 食事を終えた俺達は腹ごなしも兼ねて祭の散策を再開した。祭は俺達が来たときよりも賑わいを増しており、油断をすると人の波に飲まれ、同行者の事を視認することすら叶わなくなる程の盛況っぷりだ。つまり、何を言いたいかというと••••••。

 

 ••••••はぐれてしまった。

 

 周囲には小町や川島姉妹の姿は見あたらず、完全に孤立してしまったという事実を重い知らされる。

 

 こんな時、むやみやたらに歩き回るのは二次災害の元だ。俺は一度人混みから逃れるために、宇治川方面へと舵を切った。

 

 平等院を越えると人も疎らになる。小町達と合流するためであれば、ここまで祭の外縁に外れる必要はなかったはずだが、自ずと足は止まること無かった。俺は無意識の内に人酔いという名の人間過多に中られていたのかもしれない。

 

 歩きながら通話アプリや電話を発信するが、小町が応答がない。

 

 俺は見知った、というかついさっきも目にした人物を見付け、足を止めた。

 

「••••••よう」

 

 ベンチに座っていたそいつは俺を見上げる。こいつは加藤と一緒に居るはずの男だ。

 

「比企谷?」

「辛気臭い顔してんな。何かあったのか?」

「••••••大丈夫だ。人に話す事でも無いしな」

 

 そいつは俺から目を逸らし、視線を正面に戻した。その先には暗い宇治川の流れがあるだけ。

 

「そうなのか?俺が中学でフラれた時は、翌日には学年中に知れ渡ってたけどな」

「••••••っ!?お前、知ってんだろ」

 

 そいつは眉間に皺を寄せて俺を睨んだ。図星を突かれた自白のような反応だ。

 

「俺が聞いてんのは、加藤のやつが今日加藤が誰かに告白するってだけだ。たまたま駅前でお前と一緒に居るのは見たけどな」

「そっか••••••比企谷は加藤と仲良かったよな。俺の事を責めないのか?」

「別にお前は悪くないだろ」

「そうか••••••」

 

 それっきりこいつは黙り込む。

 この様子だと加藤の玉砕は確定か。

 

「余計なお世話かもしれんが、お前が罪悪感を感じる必要なんか無いからな」

 

 多分だが、こいつは下心から女の子の重い荷物を肩代わりした訳じゃない。

 それは無自覚故に罪深く、しかし純度だけは高く尊いものだったはずだ。

 ただ、加藤にとって真実が残酷だっただけなのだから。

 

 俺は一方的にそう言うと、この場を離れた。後ろから何か聞こえてきたが、俺は足を止めない。小町達と合流すべく、その声を意識の外へ追いやった。

 

『お兄ちゃんも宇治橋に来て!』

 

 小町はそれだけ言うと通話が切れた。折り返し掛け直しても繋がらない。

 何が何だか分からないが、小町の声音からは切迫した状況にあることは感じられた。

 俺は駆け足で宇治橋へと向かう。もしも小町が不逞のやからにに襲われていたりなんかしていたら、直ぐにでも駆けつけてやらねばならない。

 

 小町に手を出す不届き者がいようものなら、そいつには生まれてきたことを後悔させてやらなきゃならない。そう心に決め、足に力を入れた。

 すると間も無く、宇治橋へと着いたのだが••••••。

 

 肩で息をする俺が目にしたのは、涙を流す加藤と、彼女を包容する小町と川島姉妹だった。

 振られた悲しみで泣いている加藤を三人が慰めているといった所か?

 

 とりあえず、四人の周囲に不審者が居ないことに安堵しつつ、加藤が泣き止むのを待った。彼女を慰めるのは俺なんかよりも川島が適任だろう。そう思っての事だったのだ。決して女子同士の作り上げるATフィールドを前に日和った訳ではない。

 

 だと言うのに、加藤が泣き止んでから合流した俺に対し、小町は冷徹に言い放った。

 

 「お兄ちゃんは葉月さんのお願いを一つ聞くこと!」

 

 曰く、泣いている女子を前にして見てるだけだった罪。小町は俺が既に到着していたことに気付いていたようだ。理不尽この上ない。

 

「これだからごみいちゃんなんだよ」

 

 ご立腹な小町を前に、俺は条件を飲むしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 祭の翌日の昼休み。俺達は音楽準備室にいた。

 

「何でお前らまで居るんだよ」

「あら?何か問題あるの?」

 

 加藤のお願いは俺にユーフォを演奏させることだった。中川先輩の時と同じ様にここで演奏することにした訳だが、何故か加藤以外にも川島と黄前、そしてこいつトランペットの高坂が椅子を並べて俺の前に座っている。

 

「久美子から面白そうな話を聞いたから、折角だし、私も貴方の演奏を聞こうと思ったのよ」

 

 あの場に居合わせた川島。その川島か加藤のどちらかから黄前に伝わって、そして黄前から高坂に伝わったって事か。

 

「それに、吹部の部員である私が()()()()ここに居たっておかしくないでしょ?代わりに正式な部員じゃない貴方が備品を使っているのを見なかったことにしてあげるわ」

 

 ••••••こいつさては性格悪いな。

 

 俺は溜め息を吐いて椅子に座ると、ユーフォを構える。

 

「えへへ。緑や夏紀先輩に、比企谷がユーフォ上手いって聞いてはいたけど、実際に見るのは初めてだから、何か新鮮だな」

 

 何がそんなに楽しいんだか、加藤は期待に満ちた目でこっちを見てくる。 加藤だけでなく、女子四人の視線が俺に集まっていた。••••••やりづらい。

 

 大きく息を吸って、ユーフォに吹き込む。

 

 曲は中島みゆきの“時代”。

 今、涙が枯れるほどの悲しみの中にいても、それは永遠ではない。時代が回れば今の苦しみもいつか懐かしい笑い話に変わるといつ時間の癒やしが、寄せては返す波のような雄大な円環の旋律に乗せられている。

 

 そんな時代を紡ぐ、ユーフォの柔らかく厚みのある音が加藤を包んだ。

 

 底抜けに明るいこいつの事だ。今日はたとえ倒れたとしても、そう遠くない日にまた歩き出すだろう。

 

 知らんけど。

 

 そして、曲は回る。

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